- 作成日 : 2025年11月25日
銀行経営とは?業務内容や戦略・課題、設立をわかりやすく解説
銀行経営は、預金・融資・為替の「3大業務」を軸としつつ、デジタル化への対応や新たな収益源の確保が不可欠です。低金利の長期化や地域経済の変化により、従来のビジネスモデルだけでは立ち行かなくなっているためです。企業の経営者やバックオフィス担当者にとって、金融機関がどのような課題を抱え、どう変わろうとしているのかを理解することは、自社の資金繰りや事業戦略を考えるうえで重要な指針となるでしょう。
この記事では、銀行経営の基本から現代的な課題、そして未来に向けた戦略までをわかりやすく解説します。
目次
銀行経営の主な業務とは?
銀行の主な業務は「預金業務」「融資業務」「為替業務」の3つで、「銀行の3大業務」と呼ばれています。これらは銀行法に定められた銀行の固有業務であり、銀行経営における収益の柱です。
預金業務:資金を集める
預金業務は、個人や法人からお金を預かる仕事です。顧客は普通預金や定期預金といった形で銀行にお金を預け、銀行はそれを安全に管理します。銀行から見れば、融資の原資となる資金を集めるための大切な方法です。顧客から集めた預金は銀行にとって負債となり、これをいかに効率よく運用できるかが経営を左右します。
| 預金の種類 | 主な特徴 |
|---|---|
| 普通預金 | いつでも自由に出し入れができる |
| 定期預金 | 一定期間引き出せないが、普通預金より金利が高い |
| 当座預金 | 主に事業用で、手形や小切手の支払いに使われる |
融資業務:資金を貸し出す
融資業務は、預金業務で集めたお金を、資金を必要とする個人や法人に貸し出す仕事です。銀行は、貸し付けた資金の利息(金利)を受け取ることで収益を得ます。これが銀行の最も基本的な収益の仕組みです。貸付先の事業内容や財務状況、将来性などをさまざまな角度から審査し、適切な金利や返済期間を決めてお金を貸します。この貸し付けの判断こそ、銀行の専門性が試される部分といえるでしょう。
為替業務:資金を移動させる
為替業務は、振込や送金、口座振替など、現金を使わずに資金を動かす決済サービスのことです。これにより、顧客は遠く離れた相手への支払いや公共料金の自動引き落としなどができます。銀行はこれらの取引で発生する手数料を収益にします。国内だけでなく、輸出入に伴う国際送金も為替業務に含まれ、企業の経済活動を支える重要な社会インフラの役割も担っています。
その他の業務
3大業務のほかにも、銀行は投資信託や保険商品を販売したり、M&A(企業の合併・買収)を仲介したり、国際的な金融取引を行ったりと、幅広いサービスを手がけて収益源を増やそうとしています。
現代の銀行が直面する経営課題とは?
現代の銀行は、低金利による収益の圧迫、デジタル化への対応の遅れ、地域経済の縮小など、複数の経営課題に直面しています。日本銀行の金融政策や社会構造の変化が、従来の銀行ビジネスモデルに大きな影響を与えているからです。
慢性的な低収益性
長く続く低金利政策により、銀行の主な収益源である貸出金利と預金金利の差(利ザヤ)が縮小し、利益を出しにくい状況が続いています。お金を借りたいという需要自体もあまり伸びないなか、金融機関同士の貸し出し競争は激しく、金利の引き下げ圧力も常に存在します。このため、従来型の貸付業務に頼るだけでは、銀行が成長を続けることは難しくなっています。
デジタル化への対応
フィンテック企業の台頭や顧客ニーズの多様化により、デジタル技術を活用した業務効率化や新しいサービスの開発は急務となっています。スマートフォンアプリで取引を完結させたり、オンラインで融資を申し込めたりといった、店舗に行かない形でのサービスへの需要は高まる一方です。しかし、多くの銀行では、長年運用してきた巨大で複雑なシステムが変更の妨げとなり、スピーディーなデジタル化が進みにくいという構造的な問題があります。
ビジネスモデルの変革
従来の融資中心のスタイルから脱却し、コンサルティングや事業承継の支援など、さまざまなサービスで顧客の課題を解決する方向への転換が求められています。これは単に金融商品を販売するのではなく、顧客の事業全体を理解してその成長を手伝うことで、金利収入以外の収益(手数料など)を得ようとする考え方です。これを実現するには、行員のスキル転換や、専門知識を持つ人材の育成・確保が欠かせません。
地域経済の変化
地方の人口減少や産業構造の変化は、特に地方銀行のお金の貸し出し先に直接影響します。人口が減ると地域の企業数も減少し、銀行の主な融資先が少なくなってしまいます。さらに、人口減少を背景に預金額も伸び悩み、特に信用金庫や信用組合では預金が減り始める金融機関が増える傾向にあります 。地域に密着した金融機関として、地域経済を元気にするための戦略的な動きが、生き残りのためにも必要です。
参照:地域金融機関による地域活性化の取組と経営環境の変化|金融庁
非競争分野におけるコスト増大
サイバーセキュリティ対策やマネー・ローンダリング(資金洗浄)の防止といったリスク管理にかかる費用は、銀行の規模に関係なく増え続けています 。これらの投資は直接利益を生むわけではないため、特に経営体力の限られた小規模金融機関にとっては大きな負担です。金融当局から求められる対策のレベルも年々高まっており、専門の人材を確保することも大きな課題となっています。
課題解決に向けた銀行の経営戦略とは?
厳しい経営環境を乗り越えるため、銀行はデジタル戦略の推進、事業ポートフォリオの最適化、顧客課題解決型営業の強化といった経営戦略を進めています。収益源を多様化し、金利収入以外の付加価値を提供することで、新たな活路を見いだすことが求められています。
デジタル戦略の推進
多くの銀行では、フィンテック企業と協力や自社での技術開発を通じて、決済サービスやデジタル分野でのビジネスを広げています。具体的には、API連携という仕組みで外部のサービスと銀行システムをつなぎ、利便性の高い金融サービスを提供したり、AIを活用して融資審査の正確性やスピードを高めたりする取り組みが見られます。これにより、顧客の利便性を向上させると同時に、業務効率化の徹底を目指しています。
事業ポートフォリオの最適化
昔ながらの金融サービスだけでなく、コンサルティングや富裕層向けの資産運用サービス(ウェルスマネジメント)、事業承継の支援など、複数のサービスを組み合わせて収益源を多様化しようとする動きが活発です。これは、顧客のライフステージや企業の成長段階に応じた幅広いニーズに応えることで、より深い関係を築く狙いもあります。不動産仲介や人材紹介など、金融以外の分野に事業を広げる動きもその一環です。
顧客課題解決型営業の強化
ただ金融商品を売るのではなく、顧客である企業の経営課題を深く理解して、その解決策を提案する「課題解決型」の営業スタイルに変わりつつあります。例えば、後継者不足で悩む会社にM&Aのマッチングを提案したり、海外進出を考えている会社に現地情報の提供や提携先の紹介を行ったりと、本業そのものを支援する取り組みに力を入れています。行員には、財務分析力に加え、業界知識や課題解決の提案力といった、より高度な専門性が求められるようになっています。
経営統合・再編
特に地方銀行では、経営基盤を強化するために、他の金融機関との統合・再編が進んでいます。規模を大きくすることで、システム投資やリスク管理にかかる費用負担を軽減したり、営業エリアの重複を解消したりして、経営効率を高めています。政府も独占禁止法の特例を設けるなどで、こうした動きを後押ししています。
銀行を設立したい場合、どのような手続きが必要?
銀行を設立するには、銀行法に基づき内閣総理大臣の免許を取得しなければなりません。国民の大切な財産を預かるという仕事の公共性が高いため、非常に厳しい審査基準が設けられています。
銀行業の免許を取得するためには、主に以下の要件を満たす必要があります。
- 財産的な基礎:健全な経営ができるだけの十分な資本金(株式会社なら最低20億円)が必要です。
- 人的な構成:銀行業務に関する知識や経験を持った役員が求められます。
- 事業計画の妥当性:収支の見込みや事業の計画が、健全かつ適切でなくてはなりません。
これらの審査は金融庁が行い、すべての基準をクリアして初めて銀行として営業が許されます。近年では、楽天銀行やPayPay銀行のような新しいタイプの銀行(ネット銀行)も登場していますが、これらも同じように厳しい審査を経て設立されています。
参照:金融機関情報|金融庁
銀行の経営戦略事例は?
大手金融グループと地方銀行では、置かれている環境や目指す方向性が異なります。ここでは、それぞれの具体的な経営戦略の事例を見てみましょう。
三菱UFJフィナンシャル・グループ
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、「金融とデジタルの力で、未来を切り拓くNo.1ビジネスパートナー」というビジョンを掲げ、持続的な成長を目指しています。戦略の柱は、デジタル化とグローバル展開です。国内では、デジタルサービスを強化することで顧客との接点を広げ、業務の効率化を徹底します。海外では、特に成長が見込まれるアジア市場を中心に事業基盤を強化し、グローバルネットワークを活かしたビジネスを進めています。法人向けや富裕層向けといった得意分野をさらに伸ばしながら、国内外で収益機会を最大化する戦略です。
名古屋銀行
名古屋銀行は、2030年のビジョンとして「お客さまとともに成長する地域No.1金融グループ」を掲げています。その根幹には、銀行業の枠を超えて顧客の未来づくりに貢献する「未来創造業」というパーパス(存在意義)があります。
このビジョンを実現するため、サステナビリティ、人的資本、DX(デジタル変革)の3つを重点戦略としています。具体的には、ESG投融資の推進やCO2排出量の削減目標を設定し、持続可能な地域社会の実現を目指します。また、デジタル技術を活用した非対面サービスを強化し、行員のリスキリング(学び直し)を進めることで、業務効率化と顧客への付加価値提供の両立を図る戦略です。
参照:経営ビジョン|名古屋銀行
銀行経営を担う人材に求められるスキルや資格は?
銀行員には、高い倫理観と責任感に加え、金融知識、コミュニケーション能力、そしてデジタル技術に関するスキルが求められます。顧客の大切な資産を扱う信頼性が第一であり、かつ業務内容が多様化・高度化しているからです。
倫理観と責任感
顧客の財産を預かる立場として、法律やルールを守る(コンプライアンス)という意識と強い責任感は、すべての銀行員が持つべき基本です。
金融に関する専門知識
融資審査、資産運用、事業承継などで顧客に最適な提案を行うには、金融全般に関する深い知識が求められます。ファイナンシャル・プランナー(FP)や証券外務員、宅地建物取引士といった資格は、専門性を発揮するうえで大いに役立ちます。
顧客課題を把握するコミュニケーション能力
顧客との会話を通じて、表面的な要望だけでなく、その背景にある真の悩みや経営課題までをも理解し、解決策を提案する能力が大切です。特に法人営業では、会社の経営者と対等に話せるだけの洞察力や対話力が求められます。
今後ますます重要になるITリテラシー
金融とテクノロジーが結びついた「フィンテック」が進むなか、銀行員にも基本的なITの知識が求められます。データを分析するスキルやデジタルサービスへの理解は、これからの銀行業務における大きな強みとなるでしょう。
変化に対応し続ける銀行経営の新たな姿
銀行経営は、伝統的な3大業務を維持しながらも、デジタル化や社会構造の変化に対応するための大きな変革期を迎えています。低金利や人口減少といった厳しい課題に対しては、コンサルティング機能の強化やフィンテックとの連携など、新たな経営戦略で付加価値を創出することが求められます。こうした銀行経営の動向を理解することは、企業の経営者や担当者が自社の成長戦略や資金計画を練るうえで、有益な視点となるでしょう。
今後の銀行経営はデジタル化や顧客視点も重要
銀行経営とは、預金・融資・為替という3つの伝統的な業務を基本としつつ、現代社会の変化に対応していく活動です。低金利や人口減少、デジタル化の波といった厳しい課題に直面するなか、多くの銀行はビジネスモデルの変革を迫られています。
これからの銀行は、単にお金を貸し出すだけでなく、コンサルティングや事業承継支援といった顧客の課題に寄り添うサービスを提供することが不可欠です。この記事で解説したように、銀行経営の動向を理解することは、自社の成長戦略を考えるうえで重要な視点となるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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