• 更新日 : 2025年11月25日

介護タクシーの開業に許認可は必要?資格や免許の届出、手続きを解説

介護タクシーの開業には、国土交通省の地域運輸局から「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)」の許認可を得る必要があります。この許認可を得るためには、第二種運転免許などの人的要件、営業所や車両といった設備要件、そして事業を運営するための資金要件の3つをすべて満たさなくてはなりません。

本記事では、複雑な介護タクシーの許認可手続きについて、必要な資格や具体的な流れ、失敗しないための注意点まで、項目ごとにわかりやすく解説していきます。

介護タクシー事業を始めるにはどんな許認可が必要?

介護タクシー事業を始めるためには、国土交通省(地域運輸局)が管轄する「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)」の許可を取得しなければなりません。これは、道路運送法に基づき、要介護者や身体障がい者など、一人で公共交通機関を利用することが難しい方を対象とした輸送サービスを行うための営業許可です。

一般的なタクシー事業との違い

通常のタクシー事業(一般乗用旅客自動車運送事業)と異なり、介護タクシーの許認可は輸送対象者を限定することで、一部の基準が緩和されています。しかし、その分、利用者の安全を確保するための専門的な設備や資格が求められます。許可なく営業を行った場合、法律により罰せられるため、開業前には必ず正規の手続きをふまえて許認可を取得しましょう。

介護保険の適用を受ける場合

介護タクシーで介護保険を適用したサービス(通院等乗降介助)を提供する場合は、運送事業の許可以外に、別途、都道府県や市町村から訪問介護事業所としての指定を受ける必要があります。これにより、運賃だけでなく、乗降介助にかかる費用を介護保険で請求(給付)できるようになります。

参照:タクシー事業を始めるには|関東運輸局

介護タクシーの許認可申請に必須の人的要件とは?

介護タクシーの許認可を得るには、事業を適切に運営できる人材を確保していることを証明する「人的要件」を満たす必要があります。主に運転者、運行管理者、整備管理者が該当し、それぞれが法令で定められた資格や経験を有していなければなりません。

運転者に求められる免許と資格

介護タクシーのドライバーは、乗客を有償で運送するため、普通自動車第二種運転免許が必須です。第一種免許では営業行為(運賃を受け取る運送)は認められていないため、注意しましょう。

また、介護保険を適用する「介護保険タクシー」として運営する場合には、以下のいずれかの介護・福祉関連資格を持つ運転者を配置する必要があります。

  • 介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)
  • 介護福祉士
  • 実務者研修
  • 介護職員基礎研修
  • 訪問介護員養成研修1級・2級課程修了者
  • 看護師
  • 准看護師

介護保険を適用しない「福祉タクシー」の場合、これらの資格は必須ではありません。しかし、利用者の安全な乗降介助や信頼性の向上のために「ケア輸送サービス従事者研修」や「ユニバーサルドライバー研修」などを修了していることが推奨されます。

事業運営に必要な管理者

事業用自動車の安全な運行を管理するため、以下の管理者を選任する必要があります。ただし、事業規模(車両台数)によっては、特定の条件を満たすことで外部委託や兼務が認められる場合もあります。

役職主な役割必要な資格・要件(例)
運行管理者ドライバーの乗務割作成、休憩・睡眠施設の保守管理、安全指導など
  • 運行管理者資格者証の保有
  • 一定の実務経験者
整備管理者事業用車両の点検・整備、車庫の管理など
  • 自動車整備士技能検定3級以上
  • 2年以上の実務経験と研修修了

特に整備管理者については、事業で使用する車両が4台以下の場合は、外部委託や自己管理が認められるケースが多く、必ずしも有資格者を置く必要はありません。しかし、車両台数が5台以上になると、整備管理者の選任が義務付けられます。

一人で開業する場合、運行管理者の資格要件を満たせば、運転者と運行管理者の兼務が可能です。

設備や車両にはどのような要件がある?

人的要件とあわせて、事業を運営するための物理的な環境である「設備要件」も満たさなくてはなりません。主に、営業所、車庫、そして介護輸送に適した車両の3点が審査の対象です。

営業所・休憩仮眠施設

事業の拠点となる営業所を確保する必要があります。自己所有または1年以上の使用権限を持つ賃貸物件であることが求められます。また、建築基準法や都市計画法などの関係法令に違反していないことが条件です。ドライバーが適切に休息をとれるよう、営業所または車庫に隣接する形で、適切な広さを持つ休憩・仮眠施設も必要となります。

車庫の要件

原則として営業所に併設していることが求められますが、併設できない場合は営業所から直線距離で2km以内にあることが条件です。車庫の広さは、車両の前後左右に50cm以上の余裕をもって駐車できるスペースが必要です。

2024年の要件緩和について

これまで車庫の広さに関する基準は厳格でしたが、2024年の要件緩和により、車両の円滑な出入りに支障がないと認められる場合には、50cmの余裕がない場合でも許可が得られるようになりました。これにより、都市部などでの車庫確保のハードルが少し下がったといえるでしょう。

車両の要件

介護タクシーとして使用する車両は、利用者の安全な乗降を助けるための特別な構造や設備を備えている必要があります。具体的には、以下のいずれかの条件を満たす福祉車両を用意しなければなりません。

  • 車いすやストレッチャーのまま乗降できるスロープまたはリフト
  • 回転シート、リフトアップシートなど、乗降を容易にするための特殊な座席

セダン型の一般車両は、原則として介護タクシー事業には使えません。

介護タクシーの許認可や事業の資金はどれくらい?

許認可の申請時には、事業を安定して継続できるだけの資金力があることを証明する「資金要件」を満たす必要があります。具体的には、事業開始に要する資金(所要資金)の50%以上を自己資金でまかなえることが一つの基準です。

事業開始に必要な資金の内訳

所要資金には、主に以下のような費用が含まれます。これらの費用を積み上げて総額を算出し、その50%以上の自己資金(預貯金など)があることを証明します。

費用の種類具体的な内容
車両費福祉車両の購入費、またはリース料(数ヶ月分)、改造費(スロープ・リフト等)
設備費営業所や車庫の賃借料、整備費、什器・備品購入費
人件費役員報酬、従業員給与(数ヶ月分)
各種保険料自動車損害賠償責任保険(自賠責)、任意保険料
その他登録免許税、広告宣伝費、ガソリン代などの運転資金

金融機関からの融資も資金計画に含められますが、申請時点で融資の内定を得ていることがわかる書類(融資承認通知書や見込証明書など)の提出が求められる場合があります。

介護タクシーの許認可取得までの手続きと流れは?

介護タクシーの許認可を取得するまでの手続きは、複数のステップをふむ必要があり、標準的な処理期間は申請から2〜3ヶ月程度かかります。書類に不備があるとさらに時間がかかるため、計画的に進めることが大切です。

STEP1:要件の確認と準備

まず、これまで解説してきた人的・設備・資金の各要件を自社(個人事業主)が満たしているかを確認します。要件を満たせない場合は、この段階で準備を整えます。

たとえば、営業所の賃貸借契約書で使用目的が「事業用」として適切か、使用権原(原則1年以上)を満たしているか、車庫の広さが車両に対して十分な余裕を確保できるか、自己資金が所要資金の50%以上あることを通帳コピーなどで明確に証明できるかなど、一つひとつを書類ベースでチェックしましょう。

STEP2:申請書類の作成

次に、運輸支局へ提出するための申請書類一式を作成します。主な書類は以下のとおりですが、自治体によって追加の書類が求められる場合もあります。

  • 事業計画書
  • 事業収支見積書(資金計画書)
  • 営業所や車庫、休憩仮眠施設の案内図、見取図、平面図
  • 不動産の登記簿謄本または賃貸借契約書の写し
  • 車両の見積書または車検証の写し
  • 役員または個人事業主の履歴書、戸籍抄本(個人の場合)、役員名簿・登記簿謄本(法人の場合)
  • 預金残高証明書(自己資金の証明)
  • 社会保険・労働保険等の加入状況を示す書類

特に事業計画書や事業収支見積書(資金計画書)は、審査において事業の継続性・収益性・実現可能性を判断する重要な書類です。なぜこの事業を始めるのか、どのような利用者層をターゲットにするのか、どのように収益を上げていくのかを具体的に、かつ矛盾なく記述する必要があります。書類作成は専門知識が求められるため、多くの事業者が行政書士などの専門家に依頼して、不備のない申請を目指します。

STEP3:運輸支局への申請

営業所を管轄する地方運輸局または運輸支局へ、作成した申請書類一式を提出します。例えば、営業所が東京都にあれば関東運輸局、大阪府にあれば近畿運輸局が申請先です。

事前に管轄の運輸支局を国土交通省のウェブサイトなどで確認し、必要に応じて電話でアポイントを取っておくと、当日の手続きがスムーズに進みます。

参照:地方支分部局|国土交通省

STEP4:審査

申請書類が受理されると、地方運輸局(または運輸支局)による本審査が始まります。審査官は、提出された書類の内容が法令の要件を満たしているか、事業計画に無理がないか、資金計画は妥当かなどを細かくチェックします。審査の過程で書類に不備が見つかったり、内容に不明な点があったりした場合は、電話や書面で補正の指示があります。この指示に迅速かつ的確に対応することが、許可までの期間を短縮する鍵となります。

STEP5:法令試験(関東地方など)

関東運輸局など一部の地域では、申請者が法人の役員または個人事業主(代表者)である場合、道路運送法などの関連法令に関する「法令試験」に合格する必要があります。試験は通常、申請月の翌月以降に実施され、択一式(マークシート方式)で出題されます。出題範囲は広く、一夜漬けでの合格は難しいため、過去問題集などを活用して計画的に学習を進める必要があります。

STEP6:許可証の交付

約2〜3ヶ月の審査期間と、該当地域での法令試験合格を経て、すべての要件を満たしていると判断されると、運輸局から「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)」の許可証が交付されます。この許可証の交付をもって、ようやく介護タクシー事業を行う法的な資格(営業許可)を得たことになります。ただし、すぐに営業を開始できるわけではなく、この後にも重要な手続きが残っています。

STEP7:登録免許税の納付と事業開始準備

許可証の交付時に、登録免許税として3万円を国に納付します。その後、許可日から6ヶ月以内に事業を開始するための最終準備を整えなければなりません。この期間内に準備が完了しない場合、許可が取り消される可能性もあるため注意が必要です。

  • 車両の登録変更(緑ナンバー取得):
    福祉車両を管轄の運輸支局に持ち込み、自家用(白ナンバー)から事業用(緑ナンバー)へと登録を変更します。
  • 運賃・料金の認可申請:
    事業計画で定めた運賃や介助料金を正式に運輸支局へ届け出て、認可を受けます。
  • 任意保険の加入:
    対人・対物賠償が無制限であることはもちろん、乗客への補償も手厚い事業用の任意保険に加入します。
  • 運行管理体制の整備:
    アルコール検知器の設置、乗務記録簿(日報)や点呼簿の整備など、法令に基づいた安全管理体制を構築します。

これらの手続きをすべて完了して初めて、利用者を乗せて営業を開始できます。開業予定日に遅れが出ないよう、許可証交付前からスケジュール管理を行うことが重要です。

参照:一般乗用旅客自動車運送事業について(福祉輸送事業限定)|国土交通省 北陸信越運輸局
参照:経営許可申請書作成の手引き(福祉輸送事業限定)|国土交通省 関東運輸局

介護タクシーは許認可を取れば一人でも開業できる?

定められた許可要件(人的・設備・資金)をすべて満たせば、介護タクシーは、個人事業主として一人で開業することも可能です。実際に、多くの事業者が小規模・個人で地域に密着したサービスを提供しています。

ただし、一人ですべての役割を担うことになるため、クリアすべき課題や注意点を事前に理解しておく必要があります。

一人開業でクリアすべき課題

法人を設立せず、個人で開業する場合でも、許認可の基準が緩和されるわけではありません。特に、事業運営に必須となる管理者(運行管理者・整備管理者)の要件をどう満たすかがポイントになります。

一人開業では、基本的に運転者、運行管理者、整備管理者の三役を一人でこなすことになり、適切に外部委託するなどの対応が求められます。特に運行管理者は、一定の車両台数(4台以下)であれば、特定の研修を受けることで資格者証がなくても選任可能になる場合がありますが、地域の運輸局によって要件が異なるため事前の確認が不可欠です。

  • 運転者:
    乗客を有償で運送するための普通自動車第二種運転免許と、必要に応じた介護関連資格は必須です。
  • 運行管理者:
    車両が4台以下の場合、運行管理者資格者証を持っていなくても、代表者自身が特定の研修を修了することで運行管理者に選任されることが可能です。ただし、この規定は地域や時期によって異なるため、必ず管轄の運輸支局へ事前に確認しましょう。
  • 整備管理者:
    こちらも車両が4台以下であれば、有資格者を選任せず、外部の整備工場に点検・整備を委託する形で要件を満たせます。

適切に外部委託するなどの対応も可能です。ただし、運行管理者や整備管理者の外部委託・兼務の可否、研修修了による代替要件の扱いなどは、地域の運輸局によって要件が異なる場合があります。

そのため、申請前に必ず営業所所在地を管轄する運輸支局へ確認し、最新の基準や必要書類、認められる範囲を明確にしておくことが重要です。

介護タクシー開業で失敗しないために

介護タクシーの開業後に、利用者数が想定より伸びず事業が行き詰まるケースも少なくありません。失敗を防ぐためには、次のポイントを意識して準備を進めましょう。

緻密な事業計画と収支の予測を立てる

介護タクシーに必要な許認可のためだけでなく、実際に事業を運営していくための収支計画を具体的に立てましょう。特に、地域の需要(高齢者人口、介護施設の数、競合事業者の有無)をリサーチすることが重要です。

「1日に何件の利用があれば採算が取れるのか」「車両の維持費(ガソリン代、保険料、車検費用・リース料など)は月々いくらかかるのか」といった具体的な数字を算出し、開業後数ヶ月は赤字になる可能性もふまえた計画を立てましょう。

集客の仕組みづくり

介護タクシーを開業しても、利用者がいなければ事業は成り立ちません。地域のケアマネージャーや介護支援専門員、病院のソーシャルワーカー、介護施設の担当者など、介護サービス利用者と日常的に接する専門職への営業活動を行いましょう。こうした関係者は、通院や外出支援が必要な高齢者に介護タクシーを紹介する立場にあるため、信頼関係の構築が最も効果的な集客手段になります。

あわせて、地域住民向けの広報活動も欠かせません。ウェブサイトやSNS、チラシ作成などを通じ、どのような人が、どのような想いでサービスを提供するのか発信することで、利用者や家族に安心感を与え、口コミや紹介につながる信頼を築けます。

余裕を持った資金繰り

介護タクシーの開業当初は、利用者の確保までに時間がかかるため、収入が不安定になりがちです。車両購入費や営業所の初期費用だけでなく、少なくとも3ヶ月から半年分の運転資金(生活費を含む)を手元に確保しておきましょう。

また、国や地方自治体は、創業者や介護・福祉分野の事業者を対象とした、様々な助成金や補助金制度を用意しています。開業を決意した段階で、どのような公的支援が利用できるかを調べておきましょう。

介護タクシーの許認可は計画的な準備を

介護タクシー事業の許認可を得るには、第二種運転免許をはじめとする人的要件、営業所や車庫、福祉車両といった設備要件、そして事業計画を裏付ける資金要件をすべてクリアする必要があります。

手続きは複雑で、申請から許可が下りるまで通常2〜3ヶ月を要するため、開業を目指すのであれば、一つひとつのステップを計画的に、かつ着実に進めることが必要でしょう。

介護タクシーの許認可に関する相談先は、内容によって異なります。事業許可の要件や申請方法といった内容は、管轄の運輸支局へ、介護保険の利用については、お住まいの都道府県や市区町村にある介護保険担当課が窓口になります。

また、車両購入の資金計画や経営の相談は、日本政策金融公庫や地域の商工会議所になるでしょう。

加えて、許認可申請の書類作成や法令要件の確認など、手続きをスムーズに進めたい場合は、専門家である行政書士に相談するのも有効な手段です。


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