- 作成日 : 2025年9月16日
贈与税は節税できる?非課税枠・特例制度・申告方法を解説
贈与税は、個人間で財産を無償で受け渡した際に課される税金ですが、適切な制度を活用することで大幅に節税することが可能です。近年は相続税との一体課税が進み、制度の見直しも行われているため、最新の非課税特例や申告要件を正確に理解することが重要です。
本記事では、代表的な贈与税の非課税制度や注意点、申告の手順を解説します。
目次
贈与税とは
贈与税とは、個人が他の個人から財産(現金、不動産、有価証券など)を無償で受け取った場合に課される国税です。贈与を受けた人(受贈者)が納税義務を負い、その年の1月1日から12月31日までの贈与額の合計が基礎控除額(年間110万円)を超えると課税対象になります。税率は超過額に応じて10%から55%の累進課税となっており、高額な贈与ほど税負担が重くなる仕組みです。
この制度は、資産家が生前に財産を分散させて相続税の負担を回避するのを防ぐ目的で設けられています。贈与税は「個人間」の財産移転に限って適用され、法人からの贈与は贈与税ではなく所得税の課税対象となります。正しい知識のもとで制度を活用すれば、贈与税の負担を軽減しつつ、円滑な資産承継を実現できます。
節税策①:年間110万円までの贈与は非課税にできる
贈与税には基礎控除として「年間110万円の非課税枠」が設けられています。適切に活用すれば贈与税の負担を抑えつつ、計画的に資産を移転することが可能です。相続税対策としても有効ですが、2024年の制度改正により一定の制限が加えられました。
毎年の贈与は110万円まで非課税
贈与税の基礎控除により、1月1日から12月31日までの1年間で受けた贈与の合計が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。また、この範囲内であれば贈与税の申告も不要です。たとえば、親や祖父母が子や孫に毎年110万円ずつ贈与を行えば、贈与税を負担することなく資産を移転することができ、長期的には相続財産の圧縮にもつながります。
2024年からは加算期間が延長
2024年1月1日以降の贈与については、相続財産に加算される期間が、これまでの『死亡前3年以内』から『死亡前7年以内』に延長されました。これにより、亡くなる直前だけでなく、より長期間の贈与が相続税の計算に含まれる可能性があります。ただし、4〜7年以内の贈与については累計100万円までの加算免除という特例もあります。
今後は、110万円非課税枠を利用した贈与は、7年以上の長期スパンで計画的に行う必要があります。また、贈与の実態を証明するため、贈与契約書の作成や通帳・振込記録の保管も忘れずに行いましょう。
節税策②:相続時精算課税制度を利用して高額財産を移転する
高額な贈与を非課税で行いたい場合、「相続時精算課税制度」を活用する選択肢があります。2024年の改正により利便性が向上し、長期的な資産移転や相続対策の一手として注目されています。
2,500万円まで非課税で贈与できる
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫へ贈与する際に選択できる制度で、累計2,500万円までの贈与が非課税となります。2024年以降はこれに加えて年間110万円までの基礎控除が新設され、少額贈与にも対応しやすくなりました。2,500万円を超えた分については一律20%の贈与税が課税されます。
将来の相続税計算に影響する点に注意
この制度の特徴は、生前に贈与した財産も最終的には相続財産に合算して相続税を計算する点です。つまり、贈与時点では贈与税を抑えつつも、相続時にトータルの税額を精算する仕組みです。節税になるかどうかは相続税の税率や財産構成によって異なります。
また、一度この制度を選ぶと同じ贈与者からの贈与は暦年課税(年間110万円控除)の方式には戻れないため、制度選択は慎重に行いましょう。住宅購入資金など、まとまった資金を早期に移転したい場合に有効な制度です。
節税策③:夫婦間で居住用不動産を贈与する
長年連れ添った夫婦間で自宅不動産やその購入資金を贈与する場合、「贈与税の配偶者控除」という特例が使えます。適用されれば、通常の基礎控除110万円に加えて2,000万円までが非課税となるため、贈与税をかけずに高額な不動産を配偶者に移転することが可能です。
配偶者控除が適用される条件
この制度を使うためには、法律上の婚姻期間が20年以上であること、贈与財産が国内の居住用不動産またはその購入資金であること、贈与を受けた翌年3月15日までに居住し、その後も引き続き住む見込みであることが求められます。また、この特例は同一の配偶者間では生涯に一度しか使えません。
申告手続きと証明書類
非課税適用には贈与税の申告が必要です。婚姻期間や住宅の要件を確認できる戸籍謄本や登記事項証明書、住民票などを添付して申告書を提出します。配偶者に自宅を遺したいと考える場合などに有効ですが、相続時の「配偶者の相続税軽減(最大1億6,000万円)」との使い分けを意識し、時期や目的に応じた判断が大切です。
節税策④:住宅取得資金の贈与非課税枠を活用する
親や祖父母が子や孫に住宅購入資金を援助する場合、「住宅取得等資金の贈与税非課税の特例」を活用すれば、一定額まで贈与税がかからずに資金を移転できます。2022年1月から2026年12月までの贈与が対象です。
最大1,000万円まで非課税にできる
この特例では、省エネ等住宅を購入する場合は最大1,000万円、それ以外の住宅でも500万円までが非課税となります。省エネ等住宅とは、断熱性や耐震性、バリアフリー性などが一定基準を満たす住宅を指します。資金援助を受ける人は贈与年の1月1日時点で18歳以上かつ所得2,000万円以下である必要があります。
適用の条件と申告手続き
非課税の適用には贈与税の申告が必要です。住宅の契約書や登記事項証明書、性能証明書などの添付書類を準備し、贈与を受けた翌年3月15日までに手続きを行います。また、過去にこの特例を利用している場合は、その分の非課税枠が差し引かれる点にも注意が必要です。
この制度は若年世代の住宅取得支援を目的とした時限措置であり、2026年末で終了予定です。制度を活用すれば贈与税を負担せずに多額の資金を渡すことができ、結果として親世代の相続税対策にも役立ちます。利用を検討している場合は、制度変更も踏まえて早めに準備を進めましょう。
節税策⑤:教育資金の一括贈与非課税制度を使う
祖父母や親が子・孫の教育費を一括で支援する場合、「教育資金の一括贈与に係る非課税措置」を活用することで、最大1,500万円まで贈与税をかけずに渡すことが可能です。制度は2026年3月末までの時限措置として実施されています。
最大1,500万円まで非課税で贈与できる
この制度では、信託銀行や証券会社などで専用口座を開設し、教育資金として資金を預け入れます。対象となるのは30歳未満の受贈者で、前年の所得が1,000万円以下であることが条件です。対象となる支出は、学校の入学金・授業料はもちろん、習い事や留学費用など幅広い教育関連費用が含まれます。ただし、非課税枠1,500万円のうち、学習塾やスポーツ教室といった学校等以外への支払いに充てられるのは500万円までという上限があります。
利用条件と注意点
非課税の適用を受けるには、「教育資金非課税申告書」を金融機関経由で税務署に提出し、支出時には領収書などを提出して払い出す形式が必要です。30歳になった時点で未使用の残額や、贈与者が死亡した時点で残高がある場合には、その金額に対して贈与税または相続税が課税されます。
この制度は、将来の教育費を早めに確保したい家庭にとって有効な手段であり、資産の早期移転による相続税対策にもつながります。ただし、用途が限定されているため、金額は計画的に設定し、必要な手続きを忘れずに行うことが重要です。
その他の贈与税が非課税となるケース
贈与税の非課税制度は多岐にわたり、特定の目的や状況に応じて利用できるケースがあります。以下にその他の例を紹介します。
障害者への贈与信託や社交上の贈答
特定の障害者の生活費等に充てるための贈与には、「特定障害者に対する贈与税の非課税」制度が利用できます。信託銀行等と「特定贈与信託」契約を結ぶ方法が一般的ですが、信託は必須ではなく、所定の要件を満たせば非課税が適用されます。
この場合、特別障害者には最大6,000万円、それ以外は3,000万円まで贈与税が非課税になります。贈与時には所定の申告書を税務署に提出する必要があります。
また、結婚祝いや香典、見舞金、お歳暮など、社交上の贈答も、常識的な金額であれば贈与税の対象外とされています。ただし、明らかに高額な贈答品や現金は課税の可能性があるため注意が必要です。
法人から個人、事業承継の特例
贈与税は個人間の贈与に課税されるため、法人から個人への財産移転は贈与税ではなく所得税の対象となります。たとえば親が自社株を会社を介して子に移転する場合は、所得税や配当として課税されるケースもありますが、計画的に行えば贈与税を避けることが可能な場合もあります。
さらに、中小企業の事業承継には「事業承継税制」があり、非上場株式の贈与について、贈与税の納税が猶予される制度があります。後継者が経営を継続すれば、最終的に贈与税が免除される仕組みです。2027年までの期間限定で利用できる制度のため、該当する事業者は早めの検討が求められます。専門家と連携しながら適用要件を確認し、節税に役立てましょう。
贈与税申告の方法と注意点
贈与税の非課税特例を正しく活用するには、制度内容だけでなく申告手続きへの理解も欠かせません。非課税となる場合でも申告が必要なケースは多く、誤解や手続きミスによって多額の贈与税が発生する可能性もあります。ここでは、贈与税申告の方法と注意点を確認しておきましょう。
贈与税の申告時期と手続きの流れ
贈与税の申告は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間に行います。年間110万円を超える贈与を受けた場合、または相続時精算課税制度などの特例を利用して110万円を超える贈与を受けた場合は、原則として受贈者(贈与を受けた人)が税務署へ申告し、納税を行います。
申告書には、その年に受け取った贈与財産の内容、評価額、控除の適用状況、税額計算などを記入します。紙の申告書で提出するほか、国税庁のe-Taxシステムを使ってオンライン申告も可能です。
2024年以降の新ルール
近年の税制改正により、生前贈与と相続の一体課税が進められています。2024年以降は、被相続人が死亡する前の3年以内の贈与に加え、4~7年前の贈与も相続財産に加算されるようになりました。このうち、4〜7年以内の贈与については累計100万円までの加算免除がありますが、それを超える部分は相続税の課税対象となります。
そのため、「非課税枠内の贈与だから安全」と考えていた過去の贈与も、相続のタイミングによっては課税対象に含まれる可能性があるため注意が必要です。贈与を節税に活かすには、7年以上前からの計画的な実行と、記録・申告の徹底がこれまで以上に求められます。
非課税特例でも申告が必要なケースに注意
贈与税が発生しない特例制度を利用する場合でも、贈与税の申告が必要なものがほとんどです。たとえば、配偶者控除、住宅取得資金の贈与、相続時精算課税制度などは、税額がゼロでも所定の申告書と添付書類を提出しなければ特例が適用されません。
教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与については、金融機関を通じた非課税申告書の提出で済みますが、贈与資金の使用状況については後日報告が必要です。不備があると特例が認められず、課税対象とされる可能性があるため、事前に手続きの流れを確認しておきましょう。
贈与契約書など証拠の保管も忘れずに
贈与税申告の信頼性を高めるためには、贈与契約書や送金記録などの証拠資料を準備しておくことが重要です。特に相続税対策として生前贈与を行っている場合は、税務署から「形式上の贈与ではないか」と指摘されるリスクもあるため、書面で贈与の合意を明記しておく必要があります。
贈与契約書には、贈与者と受贈者の氏名、贈与日、贈与内容、評価額、贈与の意思表示が明確に記載されている必要があります。現金の場合は振込明細や通帳コピー、不動産の場合は登記事項証明書なども併せて保存しておくと安心です。
贈与税の非課税制度を使って賢く節税しよう
贈与税には、多様な非課税制度や特例が整備されており、それぞれの条件を正しく理解し、適切に活用することで、大きな節税効果が期待できます。ただし、非課税制度であっても申告が必要なケースが多く、手続きの漏れや書類不備は思わぬ課税リスクにつながります。制度を上手に使いこなすためには、長期的な視点で計画的に贈与を行い、記録をきちんと残しておくことが不可欠です。必要に応じて専門家に相談し、家族にとって最適な節税戦略を実現していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
沖縄県で会社設立する方法3選を徹底比較!安い方法は?
沖縄県での会社設立をはじめ、日本で株式会社や合同会社を設立する際は、主に【①無料の会社設立サービスを利用して自分で進める、②専門家である税理士や司法書士に依頼する、または③法務局のサイトを参照しながら自分で手続きを行う】という3つの主な方法…
詳しくみるFXで会社設立する方法とは?節税対策など法人化のメリットも解説!
FXで会社を設立するためには、株式会社設立や合同会社設立などの方法があります。法人化することで、経費による節税対策ができる点や損益通算できる点などがメリットです。 ただし、法人化すると口座のお金を自由に使えない点に気をつけなければなりません…
詳しくみる新橋で会社設立する時に必見!支援情報まとめ
新橋での会社設立をはじめ、日本で株式会社や合同会社を設立する際は、主に【①無料の会社設立サービスを利用して自分で進める、②専門家である税理士や司法書士に依頼する、または③法務局のサイトを参照しながら自分で手続きを行う】という3つの主な方法が…
詳しくみる不動産業の許認可・資格は?開業の費用や申請方法、不許可の対応
新たに不動産業の開業を目指す方にとって気になるのが、許認可の必要性と要件、難易度、開業にかかる費用です。 不動産業の開業には「宅地建物取引業」の免許が必要ということは知られています。本記事では宅地建物取引業の免許の詳細に加え、不動産業開業に…
詳しくみる製造業の定款の書き方!事業目的の記載例・テンプレート
製造業はもちろん、株式会社を設立するためには定款が必要です。しかし、定款に記載する事項や事業目的などで、悩んでいる方も多いことでしょう。 定款には記載すべき事項が決められており、正しく記載しないと効力を発揮しません。今回の記事では定款の内容…
詳しくみる立川で会社設立する流れ・設立費用を安くする方法!
立川での会社設立をはじめ、日本で株式会社や合同会社を設立する際は、主に【①無料の会社設立サービスを利用して自分で進める、②専門家である税理士や司法書士に依頼する、または③法務局のサイトを参照しながら自分で手続きを行う】という3つの主な方法が…
詳しくみる