- 作成日 : 2025年9月16日
韓国の法人登記ガイド|日本人が起業する手続きや費用から改正商法の注意点まで解説
韓国への事業展開を考える際、最初の大きな一歩が現地法人の設立です。手続きが複雑で、言語や法律の違いから戸惑うことも少なくありません。韓国で起業したい、あるいは事業を拡大したいけれど、法人登記の手続きが分からず悩んでいる方もいるでしょう。
この記事では、韓国で法人を設立し、事業を円滑に開始するために必要な情報を詳しく説明します。会社形態の種類から、設立手続きの具体的な流れ、必要書類、そして発生する費用まで、全体像を明らかにします。ぜひ参考にしてください。
目次
韓国における会社形態の種類
韓国商法では、会社の形態は株式会社/有限会社/有限責任会社/合名会社/合資会社の5類型に限定されています。外国企業の進出では、とくに株式会社と有限責任会社がよく選ばれます。現地法人ではない進出形態として支店と駐在員事務所があります。
現地法人
外国会社の営業所
- 韓国支店
日本の本社と同一法人格のまま韓国で営業活動を行います。支店の債務・責任は本社が負担します。裁判所登記と税務署での事業者登録が前提です。 - 駐在員事務所
非営業活動に限定され、市場調査・連絡・品質管理等のみ実施可能です。裁判所での登記は不要で、税務署から事業者登録番号に相当する固有のコード(税務識別番号)が付与されます。本格的な事業展開の前に、韓国市場を調査する段階で設置されることが多いです。
韓国での法人登記手続きの流れ
韓国で株式会社を設立する場合の一般的な手続きの流れを説明します。各段階で準備すべきことや期間の目安を把握しておきましょう。全体として、準備期間を含めると1ヶ月から2ヶ月程度を見込むのが一般的です。
1. 基本事項の決定
法人登記申請に先立ち、会社の基本事項を決定します。
商号(IROSで同一・類似の有無を確認)、本店所在地、事業目的(許認可の要否も確認)、役員体制・資本金を決めます。商法上の最低資本金は原則なしですが、外国投資としての優遇等を見据えるなら1億ウォン以上の投資が基準です。取締役は非居住者でも可ですが、口座開設や各種実務の円滑化のため韓国内居住者の関与を置く運用が一般的です。
2. 外国投資申告
投資者本人または代理人が、KOTRAまたは指定外国為替銀行で外国投資申告を行います。
3. 投資資金の送金
申告が受理された後、申告内容に沿って投資資金(資本金)を韓国へ送金します。外国通貨購入・預入証明書は、後続の事業者登録やFIC登録で必要になります。
4. 定款の作成・設立書類の準備
定款・発起人関連書類・取締役就任承諾書などを準備します。発起設立かつ資本金10億ウォン未満などの小規模会社には定款公証の免除などの特則がありますが、銀行が公証済みの写し提出を求める実務もあるため、要件と実務の双方を確認して進めます。日本で作成した書類はアポスティーユ/領事認証や翻訳が必要な場合があります。
5. 法人設立登記の申請
本店所在地を管轄する裁判所登記所で登記申請します。登記完了まで通常2〜3営業日が目安です。
6. 事業者登録
登記後、事業開始日から20日以内に所轄税務署で事業者登録を行います。多くのケースで設立登記の通知と同時申請が可能です。賃貸借契約書等の提出が求められます。
7. 外国人投資企業登録
払込完了から60日以内に、外国投資申告を行った機関(銀行またはKOTRA)で外国人投資企業登録を行います。登録証は利益送金やD-8(投資)ビザ申請時にも使用します。
8. 法人口座の開設
登記簿謄本・法人印鑑証明・事業者登録証等を用意し、銀行で正式な法人口座を開設します。求められる書類は銀行により異なるため事前に確認しましょう。
韓国での法人登記に必要な書類
必要書類は、投資家が法人か個人かによって異なります。ここでは、日本の法人が韓国に株式会社を設立する一般的なケースを想定しています。
- 法人の履歴事項全部証明書
- 法人印の印鑑証明書
- 代表取締役の印鑑証明書およびパスポートコピー
- 委任状 など
- 法人設立登記申請書
- 公証済みの定款
- 株式引受証、株式発行事項同意書
- 創立総会議事録
- 取締役会議事録
- 役員の就任承諾書(印鑑証明書を添付)
- 印鑑届出書
- 資本金の払込みを証明する銀行の残高証明書
- 会社実印の届出・印鑑カード申請
- 登録免許税納付確認書 など
これらの書類は全て韓国語で作成するか、公式な翻訳文を添付する必要があります。
韓国での法人登記にかかる費用
法人設立にかかる費用は、資本金の額や依頼する専門家の範囲によって変動します。主な費用の内訳は以下の通りです。
- 登録免許税
資本金の 0.4% が基本。ただし、ソウル特別市・仁川・京畿道の「過密抑制圏域」では3倍の1.2%が適用されます。資本金が大きいほど金額も増えるため、設立コストの中で最も比重が大きくなります。 - 地方教育税
登録免許税の20%が課税されます。 - 定款認証手数料
資本金の額によって変動しますが、一般的に数万ウォンから数十万ウォンが必要です。ただし、資本金10億ウォン未満の発起設立の場合は公証が免除されます。 - 国民住宅債券購入費用
法人登記時には、一定割合の国民住宅債券を購入する義務があります。実務上は購入後すぐに割引売却できるため、実際の負担は割引損に相当する額(数万~数十万ウォン程度)にとどまります。 - 専門家への代行手数料
法務士(司法書士に相当)、行政書士、会計士などへの依頼費用です。手続きの複雑さや依頼内容によって大きく異なり、数十万ウォンから数百万ウォンが目安となります。 - 翻訳・公証費用
日本で発行された書類の韓国語翻訳や公証にかかる実費です。
資本金1億ウォンでソウル市内に株式会社を設立する場合、税金や公証費用などの実費だけで約150万ウォンから200万ウォン程度、専門家への手数料を含めると合計で300万ウォンから500万ウォン以上を見込んでおくと良いでしょう。
韓国での法人登記手続きにおける注意点
韓国での法人登記を円滑に進めるためには、いくつかの点を事前に理解しておくことが大切です。
役員の居住要件
韓国商法は、取締役・代表取締役に国籍・居住要件を課していません。非居住の外国人でも就任可能です。実務ガイドや国際機関の資料でも、「居住要件なし」が明記されています。
銀行口座開設、税務・各種届出のやり取りの円滑化のため、韓国内居住者(役員・代理人)を関与させると手続きがスムーズです。法的義務ではありませんが、銀行側の内部ルールや連絡手段の都合でローカル担当者の指定を求められることがあります。
許認可が必要な事業
建設業、旅行業、食品製造業など、特定の事業を行うには、法人設立登記とは別に、管轄官庁からの許認可を取得する必要があります。事業目的を決定する段階で、自社の事業が許認可の対象かどうかを必ず確認してください。
専門家の選定
韓国の会社法や税法、外国人投資に関する法令は頻繁に改正されます。また、手続きには専門的な知識が求められます。現地の法律や実務に精通した法務士(日本の司法書士に相当)・弁護士・会計士と連携すると、登記・税務・外資登録(FIC)までの一連の手続きが確実・迅速です。日本語でのコミュニケーションが可能かどうかも、選定の際の重要な判断材料です。
韓国で法人登記手続きが完了した後の注意点
法人登記はゴールではなく、事業運営のスタートです。登記完了後も、法令を遵守した企業活動が求められます。特に近年の法改正には注意が必要です。
税務申告と社会保険の手続き
事業開始日から20日以内に、所轄税務署で事業者登録を行います。電子申請も可能です。登録後は、付加価値税・法人税等の定期申告義務が生じます。従業員を雇用する場合は、国民年金・健康保険・雇用保険・労災保険のいわゆる「4大保険」の適用事業所手続きを行います。実務では設立直後に労務担当(社労士相当)や会計事務所と連携して一括で進めるケースが一般的です。
2025年7月施行の改正韓国商法
2025年7月、韓国商法に重要な改正がありました。取締役の忠実義務の対象が、従来の「会社」から「会社および株主」へと拡大された点です。これにより、取締役会は少数株主を含む株主全体の利益配慮をより明確に求められます。今後は、取締役会の審議・記録・情報提供など手続の公正性を担保する社内運用の見直しが望まれます。
この改正は、企業の透明性を高める目的があり、今後の会社経営において意識すべき重要な変更点です。
韓国の法人登記情報を検索する方法
韓国では、大韓民国法院のインターネット登記所を通じて、誰でも法人の登記情報を検索可能です。会社名や法人登録番号で検索することで、その法人の登記簿謄本を閲覧・取得できます。これにより、取引先の代表者や資本金、会社の目的などを確認でき、安全な取引の助けとなります。
韓国での法人登記を成功に導くために
韓国での法人登記は、事業成功の土台を築く重要な手続きです。会社形態の選択から始まり、一連の行政手続きを正確に進める必要があります。特に、外国人による投資には特有の申告や登録が求められるため、事前の情報収集と周到な準備が欠かせません。
本記事で解説した手続きの流れ、必要書類、費用を参考に、自社の韓国進出計画を具体化してください。手続きの複雑さや言語の壁を考慮すると、韓国の法務・税務に詳しい専門家の支援を得ることが、スムーズな事業開始への確実な道筋となるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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