• 作成日 : 2025年9月9日

株式会社のペーパーカンパニーを設立するには?目的から設立手順、注意点まで解説

ペーパーカンパニーの設立を考えるとき、特に株式会社という形態に関心を持つ方も多いでしょう。ペーパーカンパニーとは、法人登記のみ存在し、事業実態がない会社を指します。設立自体は合法ですが、租税回避や詐欺目的など違法な目的で利用されると法的責任を問われる可能性があります。

この記事では、ペーパーカンパニーの定義から、株式会社を設立するメリット・デメリット、具体的な設立手順、そして注意すべき違法性や維持コストについて解説します。

そもそもペーパーカンパニーとは?

ペーパーカンパニーとは、法人としての登記はされているものの、事業活動の実態がない会社を指します。

その名前の通り、書類上だけに存在する会社であることから、このように呼ばれています。事務所や従業員が存在せず、営業活動、生産、販売といった具体的な事業を行っていないのが特徴です。ただし、法人格そのものは法的に有効に存在しています。

株式会社でペーパーカンパニーを設立する理由は?

ペーパーカンパニーを設立する際には、合同会社など他の形態も選べますが、なぜ株式会社が選ばれやすいのでしょうか。

株式会社で設立する主な目的

節税対策、資産管理、新規事業の準備など、合法的かつ多様な目的のために株式会社が活用されることがあります。個人で事業や資産を持つよりも、法人格である株式会社を利用する方が税制面や信用面で有利になることが多いからです。

  • 節税対策
    所得税は累進税率で高所得ほど税率が上がる傾向がありますが、法人税は基本的に23.2%(比例課税)で、軽減税率が中小企業に適用される場合もあります。
  • 資産管理・事業承継
    所有資産を法人に移すことで、管理効率化が期待できるほか、相続時の財産評価方法に応じて節税を検討できる場合もあります。
  • 新規事業の準備
    本格的な事業開始前に、許認可の先行取得や、Webサイトのドメイン確保、商談の際の窓口として、先に会社を設立しておくケースです。
  • M&Aや事業再編
    企業の買収(M&A)や組織再編の際に、一時的な資金の受け皿(SPC:特別目的会社)として設立されることがあります。
  • ブランディング・信用確保
    副業やフリーランス活動において、個人名ではなく「株式会社」の肩書で契約することで、対外的な信用度を高める目的で利用されることもあります。

合同会社など他の会社形態との違い

株式会社は、他の会社形態と比較して社会的な信用度が高く、資金調達や外部との取引において有利であるため選ばれやすい傾向があります。

設立費用は合同会社より高くなりますが、その分、株式発行による資金調達が可能で、知名度の高さからビジネスを進めやすいというメリットがあります。

比較項目株式会社合同会社
社会的信用度・知名度高いやや低い
設立費用(最低額)約20万円〜約6万円〜
意思決定株主総会原則として全社員の一致
利益配分出資比率に応じる定款で自由に決定可能
資金調達方法株式発行、融資、社債など多様融資、社員からの出資が中心
役員の任期原則2年(最長10年まで伸長可)なし

株式会社のペーパーカンパニー設立は違法?

ペーパーカンパニーを設立すること自体は違法ではありません。ただし、設立後の利用目的によっては違法となる可能性もあります。

ペーパーカンパニー設立が違法となるケース

問題となるのは会社の存在そのものではなく、その目的と使われ方です。

  • 脱税・租税回避
    実態のない取引を装って架空の経費を計上したり、タックスヘイブン(租税回避地)に設立したペーパーカンパニーを利用して不当に税金の支払いを免れたりする行為は、所得税法違反や法人税法違反に問われます。
  • 詐欺行為
    実在する企業を装って架空請求を行ったり、投資詐欺の資金振込先にしたりするなど、他人を欺いて財産をだまし取るための隠れ蓑として利用するケースです。
  • マネーロンダリング(資金洗浄)
    犯罪によって得た収益を、ペーパーカンパニーを経由した正当な取引に見せかけることで、資金の出所をわからなくする行為です。これは犯罪収益移転防止法で厳しく禁じられています。
  • 許認可の不正取得
    本来であれば事業実態が必要な許認可(建設業許可など)を不正に取得し、その権利を転売するような行為も違法です。

違法性が疑われた場合の罰則

犯罪への利用が発覚した場合、税務調査、口座凍結、そして刑事罰といった極めて厳しいペナルティが科されます。

安易な考えで不正行為に加担すると、社会的信用を失うだけでなく、人生を大きく左右する事態に発展しかねません。具体的には、重加算税を含む多額の追徴課税、銀行口座の凍結や強制解約、悪質な場合は代表者の逮捕や実刑判決に至る可能性があります。

株式会社のペーパーカンパニーを設立する手順は?

ペーパーカンパニーの設立手続きは、通常の株式会社設立の流れと基本的に同じです。ここでは、その手順をステップごとに解説します。

1. 会社の基本事項を決定する

まず、商号(会社名)、事業目的、本店所在地、資本金額、発起人、役員構成といった会社の骨格となる情報を決定します。事業目的には、将来的に行う可能性のある事業も幅広く記載しておくことが一般的です。本店所在地は、バーチャルオフィスや自宅の住所で登記することも可能です。

2. 定款の作成と認証

会社の基本ルールを定めた定款を作成し、公証役場で認証を受けます。定款には、ステップ1.で決めた基本事項を記載します。株式会社の場合、この定款認証が必須の手続きです。専門家である司法書士に作成を依頼することもできます。

3. 資本金の払い込み

発起人個人の銀行口座に、定款で定めた資本金を払い込みます。払い込みが完了したら、その通帳のコピー(表紙、1ページ目、振込記録があるページ)をとり、払い込みがあったことを証明する払込証明書を作成します。この時点ではまだ法人口座は開設できません。

4. 登記申請書類の作成

法務局へ提出するための一連の登記申請書類を準備します。主に以下の書類が必要です。

  • 登記申請書
  • 登録免許税納付用台紙(収入印紙を貼付)
  • 定款
  • 発起人の決定書
  • 役員の就任承諾書
  • 印鑑証明書
  • 払込証明書
  • 印鑑届書 など

5. 法務局へ登記申請

すべての書類が揃ったら、本店所在地を管轄する法務局に登記申請を行います。申請方法には、法務局の窓口に直接提出する方法、郵送する方法、オンラインで申請する方法があります。申請日が会社の設立日となります。

6. 設立後の諸手続き

登記が完了したら、税務署や都道府県税事務所、市町村役場へ法人の設立届を提出します。また、従業員を雇用する場合は年金事務所や労働基準監督署への届出も必要になりますが、ペーパーカンパニーの場合は不要なことが多いでしょう。

株式会社のペーパーカンパニーを運営する上での注意点は?

会社を設立した後は、事業活動がなくても法人として存続させるための義務と費用が発生します。

事業実態がなくても維持コストがかかる

たとえ売上がゼロであっても、法人住民税の均等割や税理士への報酬など、最低限の維持コストが発生します。

法人住民税の均等割は、資本金の額や従業員数に応じて課税される税金で、赤字でも支払う義務があります。また、毎年の決算申告を税理士に依頼する場合は、その費用も発生します。

法人口座の開設ハードルが高い

事業実態が明確でないペーパーカンパニーは、金融機関からの信用を得にくく、法人口座の開設が非常に難しいという現実があります。

近年、マネーロンダリング対策が強化されているため、事業実態や法人の事業目的が不透明な場合、口座開設に慎重になる傾向があります。固定電話の有無、事務所の状況、具体的な事業計画などを厳しく審査されるため、バーチャルオフィスだけでは開設を断られるケースも少なくありません。

長期間放置するとみなし解散のリスクがある

株式会社は、最後の登記が行われた日から12年を経過し、所定の公告・通知後に反応がなければ、法務局によって「みなし解散」とされる制度があります。

役員の任期は最長10年であり、少なくとも10年に一度は役員変更の登記が必要です。これを怠ると、事業を再開したいときに会社がなくなっている、という事態になりかねません。

休眠会社の手続きも選択肢の一つ

長期間、会社を動かす予定がない場合は、税務署などに異動届出書を提出して休眠会社にすることもできます。

休眠会社として所定の手続きを行えば、自治体によっては法人住民税の均等割が免除・減額される場合があります。ただし、休眠中も役員変更登記の義務は残りますし、事業を再開する際には再度届出が必要です。

株式会社のペーパーカンパニーを有効に活用するために

ペーパーカンパニーの設立自体は合法であり、節税や資産管理など正当な目的で株式会社の形態を活用することには多くの長所があります。重要なのは、その存在が違法行為として利用されないようにすることです。

設立は比較的簡単に行えますが、事業実態がなくても維持費用や法的な義務は発生します。安易な考えで設立するのではなく、明確な目的を持ち、運営にかかる費用やリスクを十分に理解した上で、必要であれば司法書士や税理士などの専門家のアドバイスも参考にしながら計画的に活用することが成功につながります。


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