- 作成日 : 2025年8月19日
売掛金を資金調達に活用する方法は3種類|メリットや注意点をそれぞれ解説
事業を継続・成長させていくうえで、資金繰りの安定は欠かせません。なかでも、売掛金は将来現金化される資産でありながら、入金までのタイムラグが資金の流動性を損なう要因にもなります。そこで資金化までの時間差を解消するために注目されるのが、売掛金を活用した資金調達の手法です。
この記事では、それぞれの手法の特徴や活用のポイントを解説します。
目次
売掛金が資金調達に活用される理由とは
売掛金は、企業が商品やサービスを提供した際、代金の支払いが後日に約束されている未収金を指します。一般的に取引先に請求書を発行し、30日〜60日などの支払サイト(期日)で代金が回収されます。つまり、売掛金は将来的に現金化される見込みのある「流動資産」であり、企業の資金繰りにおいて重要な役割を果たしています。
しかし、売掛金はすぐに現金として使えるわけではなく、期日までの間に資金が必要になる場合があります。とくに創業間もない企業や中小企業にとっては、売掛金が増えるほどキャッシュフローが圧迫されることもあります。これは、売上は立っているのに資金がショートする「黒字倒産」のリスクを高める要因にさえなります。そこで注目されるのが、売掛金を「早期に資金化する」ことで、事業資金を確保する手法です。
売掛金を活用した資金調達方法は3種類
売掛金を活用した資金調達方法は主に以下の3つがあります。1つ目は、売掛債権を第三者に売却する「ファクタリング」です。取引先からの入金を待たずに資金を得られるため、緊急の資金需要にも対応できます。2つ目は、「売掛金担保融資(ABL)」です。こちらは売掛金を担保に金融機関から融資を受ける方法で、比較的低金利かつ長期的な資金調達に向いています。そして3つ目は、「約束手形の割引」です。手形決済による売掛債権を銀行に持ち込み、支払期日前に資金化する従来型の調達手段です。
これらの方法はいずれも、入金待ちの売掛金を早期に現金化するという点で共通しており、資金繰りを柔軟にする手段として活用できますが、その性質やリスク、コストは大きく異なります。
売掛金ファクタリングによる資金調達
売掛金を活用して早期に資金を確保する方法として、ファクタリングは中小企業を中心に注目されています。ここでは、ファクタリングの基本的な仕組みと、メリット・デメリット、利用に適したケースについて解説します。
ファクタリングの仕組み
ファクタリングは、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却し、売掛先の入金期日より前に資金化できる仕組みです。利用にあたってはまず、売掛債権の内容や売掛先の信用力などをもとに審査が行われ、審査通過後に債権譲渡契約を締結します。ファクタリング会社は、債権額面から所定の手数料を差し引いた金額を企業に支払い、売掛金の回収権を引き受けるという流れです。
ファクタリングには主に「2社間ファクタリング」と「3社間ファクタリング」の2つの方式が存在します。2社間は取引先に通知せずに利用できる反面、ファクタリング会社のリスクが高く手数料も高くなりがちです。一方、3社間は売掛先の同意を得る必要がありますが、リスクが低減されるため手数料は抑えられる傾向にあります。また、ノンリコース契約(償還請求権なし)であれば、万一売掛先が倒産しても、利用企業が責任を問われることはありません。
ファクタリングのメリット
ファクタリングの最も大きな利点は資金化までのスピードです。銀行融資では申請から実行まで数週間かかることもありますが、ファクタリングは必要書類が揃っていれば最短即日での資金調達が可能なケースもあります。資金繰りに困った際の即時対応手段として有効です。
さらに、ファクタリングは借入ではなく債権売却であるため、負債として貸借対照表に計上されず、信用情報にも影響しません。このため、融資枠を温存しながら資金調達が可能です。自社の信用力ではなく売掛先の信用をもとに審査されるため、赤字決算や税金滞納といった事情があっても利用できる柔軟性があります。加えて、ノンリコース契約を選択すれば、売掛先の倒産などによる回収不能リスクをファクタリング会社に移転できます。
ファクタリングの注意点
一方で、ファクタリングにはいくつかのデメリットもあります。まずコスト面で、手数料は売掛金額の数%から数十%に達することがあり、とくに2社間では割高になる傾向があります。頻繁に利用すれば、結果として利益が圧迫される恐れがあります。
また、売掛金がなければ利用できないため、調達額には上限があります。保有する売掛債権の額面以上の資金は得られません。3社間ファクタリングでは売掛先に通知や同意が必要なため、取引先に「資金繰りが厳しいのでは」と疑念を持たれる可能性もあり、信用面への影響が懸念されます。
契約内容によっては債権譲渡登記が必要となり、その場合は登記の事実が公に確認可能になるため、外部に資金調達の動きを知られるリスクもあります。登記にかかる数万円の費用負担も無視できません。
さらに、悪質な事業者による偽装ファクタリングも問題視されています。「審査不要」「即日現金化」などをうたって実際には年率換算で数百%にもなる高金利の貸付を行う違法業者も存在します。債権売却と見せかけて実質的な貸付契約となり、法的トラブルに巻き込まれる例も報告されています。
契約内容が「売買契約」ではなく「金銭消費貸借契約」になっていないか「、また実質的に高金利の貸付ではないかを慎重に確認することが大切です。「審査不要」「即日現金化」といった甘い言葉で勧誘する業者には注意し、不審な点があれば、弁護士や金融庁の相談窓口、国民生活センターなどの専門機関に相談しましょう。
ファクタリングが適しているケース
ファクタリングは、急な資金ニーズが発生した際に役立ちます。予定していた売掛先からの入金が遅れた、想定外の支払いが発生したといった場合、迅速な現金化が可能なファクタリングは有効な対応手段になります。審査も比較的柔軟で、創業間もない企業や業績が芳しくない企業でも、売掛先が安定していれば利用可能です。
また、不動産などの担保を用意できない企業や、保証人を立てられないケースにも向いています。売掛金さえあれば担保不要で資金調達が可能である点は、中小・零細企業にとって大きな魅力です。さらに、ノンリコース契約を選べば、売掛先の信用リスクからも自社を守れるため、取引先の経営状態が不安定な場合にも適しています。
ただし、調達コストを重視する場合や、資金繰りの実情を絶対に取引先に知られたくない場合は注意が必要です。そのような状況では、通知不要な2社間ファクタリングや、より低コストな資金調達方法を検討する方が望ましいこともあります。
売掛金担保融資(ABL)による資金調達
売掛金を担保として金融機関から融資を受ける方法は、「売掛債権担保融資」あるいは「ABL(Asset Based Lending)」と呼ばれ、企業が保有する売掛債権を裏付けとして資金を調達する仕組みです。これはファクタリングのように債権を売却するのではなく、担保に設定して融資を受ける点が特徴で、返済義務が発生しますが、固定資産を持たない企業でもまとまった資金調達の可能性が広がります。
売掛金担保融資の仕組み
融資を希望する企業は、売掛金の明細や売掛先の信用情報を金融機関に提出し審査を受けます。売掛債権の価値が認められれば、譲渡担保契約を結び、「動産・債権譲渡登記制度」により法務局で登記します。この登記により金融機関は第三者に対して権利を主張できる「対抗要件」を備え、他の債権者より優先的に弁済を受ける権利を確保します。
融資実行後は、売掛先からの入金を充当して返済するか、期日に一括で返済します。登記による担保設定であれば売掛先に通知せずに済み、取引先に知られず資金を得ることが可能です。さらに、2020年の民法改正(施行:2020年4月1日)により、債権譲渡禁止特約があっても原則として譲渡が有効となりました。これにより、売掛債権を担保とする資金調達の活用がより容易になっています。
売掛金担保融資のメリット
この手法の最大の魅力は、ファクタリングよりも資金コストが低い点です。融資であるため通常の金利で済み、担保があることで金利も優遇されることがあります。また、自社の信用力が乏しくても、売掛先が優良企業であれば融資が受けやすく、創業直後の企業にも適しています。通知不要で資金調達ができる点も利点であり、取引先との関係を維持したまま運転資金の確保が可能です。さらに、継続的に売掛金が発生する企業であれば、融資枠を活用して繰り返し資金調達ができ、金融機関との信用構築にもつながります。
売掛金担保融資の注意点
融資であるため、当然返済義務があり、将来の資金繰りが悪化した場合、債務不履行のリスクがあります。また、審査や登記などに時間がかかるため、即時性はありません。担保にできる売掛債権も、信用力や回収見込みなどの条件を満たす必要があり、評価額の7〜8割までしか借りられないのが一般的です。さらに、登記に伴う費用負担や、条件によっては取引先への通知が必要となるケースもあるため、事前に契約内容の確認が求められます。
売掛金担保融資が向いているケース
この方法は、急ぎではなく、計画的に資金を確保したいケースに向いています。また、取引先への通知を避けたい企業や、継続的に売掛金が発生する業態においては、運転資金を安定して調達できる手段となります。反対に、即時の資金調達が必要な場合や、返済能力に不安がある企業には適していません。
約束手形の割引による資金調達
約束手形の割引は、売掛金を早期に現金化する手法です。企業が取引先から受け取った手形(支払期日が将来の有価証券)を、銀行などの金融機関に持ち込むことで、期日前に資金を得られます。金融機関は手形の額面から割引料(利息)を差し引き、その差額を企業に支払い、期日には振出人から全額を回収します。これにより、数か月に及ぶこともある長期サイトによる資金繰りの悪化を回避できます。
手形割引の仕組み
企業が受け取った手形を金融機関に提示し、割引契約を結びます。手形の振出人の信用力や支払期日などに応じて割引率が決まり、手形額面から利息・手数料を差し引いた金額が支払われます。期日になれば金融機関が振出人から満額を受け取ります。ただし、振出人が決済不能となった場合は、自社が償還請求を受け、支払いを肩代わりする必要があります。この返済義務(遡求義務)がある点で、手形割引は担保付き融資に近い性質を持ちます。
手形割引のメリット
主なメリットは、早期の資金化が可能であることです。通常、手形の入金までに数ヶ月を要しますが、割引を利用すれば即時に資金を確保できます。また、手形は有価証券であるため、振出人が上場企業など信用力の高い取引先の手形であれば資金化しやすくなります。手形取引に慣れている業種では審査もスムーズで、銀行との取引実績があれば、短期間で対応してもらえる可能性もあります。割引料も年利2~5%と比較的低く、ファクタリングよりコストが抑えられる場合もあります。
手形割引の注意点
最も大きなリスクは、振出人の不渡りによる訴求義務(支払責任)です。振出人が決済できなければ、金融機関から償還請求を受け、自社がその金額を支払う義務を負います。また、長期サイトが慣習化している業界では、常に手形割引を繰り返すことで利息負担が積み重なり、収益を圧迫する恐れがあります。
さらに、日本政府は2026年度末を目途に約束手形・小切手の利用停止(全面的な電子化)を目指す方針を示しており、電子記録債権(でんさい)をはじめとした電子的な決済手段への移行が推奨されています。
手形割引が向いているケース
手形割引は、長期サイトの手形を受け取り、かつ早期に資金が必要なケースに適しています。例えば、材料費や外注費の支払いを控えた製造業・建設業などでは有効です。また、振出人が信用力のある企業であれば、割引率が低く、調達コストを抑えられます。一方、振出人の信用に不安がある場合や、将来的に手形を使わない方針の業界では、もはや積極的に活用すべき手法とは言えません。
手形割引は、制度の変化やリスクを理解したうえで、短期的な資金繰りの手段として上手に活用することが大切です。必要に応じて、電子記録債権(でんさい)や他の資金調達手段への移行も視野に入れるとよいでしょう。
売掛金を資金調達に活用する際のポイント
ここでは、売掛金を資金源として活かすために押さえておくべき注意点を解説します。
売掛金の信用力を正しく把握する
売掛金を使って資金調達を行う場合、その根拠となるのは売掛債権自体の信用力です。売掛先が信用不安を抱えている、支払期日が極端に先である、あるいは取引が不安定であるといった場合には、担保価値が低く評価される可能性があります。ファクタリングでも融資でも、基本的には売掛先の支払能力が審査の中心となるため、常日頃から売掛金の回収状況を把握し、債権管理の精度を高めておくことが必要です。
資金調達後の資金繰り計画を立てる
売掛金を活用した調達は、あくまで一時的に現金を先取りする手段であり、将来的には補填される資金がなくなることを意味します。ファクタリングでは、将来の入金を前倒しで得るため、次の入金期に備えた資金繰り計画を練っておかないと、資金ショートのリスクが生じます。また、融資型の場合は当然返済義務が発生するため、返済時期と資金回収スケジュールを一致させる工夫が求められます。
信頼できる金融機関・業者と契約する
資金調達の相手先を慎重に選ぶことも重要です。ファクタリングにおいては、悪質な業者による違法貸付などのトラブル事例も報告されています。契約内容が正当な債権譲渡となっているか、そして実質的に高金利の貸付に該当しないかを慎重に確認することが大切です。ファクタリング自体は貸金業ではないため、事業者は貸金業登録の必要はありません。しかし、実態が貸付けとみなされる場合は貸金業法の規制対象となり、無登録営業は違法となります。不明な点があれば、弁護士や国民生活センターなどの専門家に相談する姿勢が欠かせません。
また、銀行融資であれば自社のビジネスを理解している金融機関を活用することで、柔軟な条件交渉や今後の金融支援にもつながる可能性があります。
売掛金を活用した資金調達を上手に活用しよう
売掛金を活用した資金調達は、資金繰りを安定させるために役立つ選択肢です。ファクタリングはスピードを重視する場面に、売掛金担保融資は長期的な資金確保に、手形割引は手形取引を前提とする企業に適しています。それぞれの方法にメリットとリスクがあるため、自社の資金状況や取引環境に応じて選ぶことが大切です。あわせて、売掛債権の管理や資金繰り計画も丁寧に行い、信頼できる金融機関や専門家と連携しながら、安全で効果的に資金調達を進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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