• 作成日 : 2025年3月4日

個人事業主が納める税金は?会社設立とどっちが得?法人税との違いをシミュレーションで比較

個人事業主が納める主な税金に、所得税、個人住民税、個人事業税、消費税があります。法人税は法人が納める税金で、所得税と比較されやすい税金の種類です。この記事では、税金面を中心に、個人事業主と法人設立のどちらを選択するべきか詳しく解説していきます。

個人事業主が納める税金の種類

個人事業主が納める主な税金の種類として、所得税、個人住民税、個人事業税、消費税について解説します。

所得税

所得税とは、所得のある個人に課される税金のことです。所得とは、個人が得た収入金額から必要経費を差し引いた利益のことです。1月1日から12月31日までの1年間の所得金額を計算し、税務署に所得の金額と所得税額を申告します。

所得税の計算は、以下の式に従って行います。

(所得金額-所得控除額)×所得税の税率=所得税額

所得税額-税額控除=納めるべき所得税額

なお、平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間は、所得税に加え、所得税額に2.1%を乗じた復興特別所得税額も課されます。

所得税の特徴は、所得金額に応じて段階的に税率が上がっていく超過累進課税であることです。所得金額に応じて、5%から45%の所得税率が設定されています。

個人住民税

個人住民税は、市民や県民が上下水道の利用やごみ処理などの公的なサービスを受けられるよう、住民に広くサービス費用を負担してもらうために設けられている税金です。

個人住民税は、所得税のように個人の所得に対して課税される所得割と、非課税に該当する場合を除き一律に負担が求められる均等割から構成されます。所得割の税率は10%で一律です。

個人住民税の納付方法には、普通徴収特別徴収があります。普通徴収は、市町村から送られてきた納付書を利用して個人が住民税を納める方法です。特別徴収は、納税義務者が代わりに住民税を徴収して納める方法です。個人事業主の場合は、普通徴収により住民税を納付します。

個人事業税

個人事業税は、事業を営む個人に課される地方税です。事業所得や不動産所得といった事業に関連する所得がある場合に発生する可能性があります。

個人事業税の対象になるのは、法定業種の70業種です。物品販売業や保険業、不動産貸付業、製造業、畜産業、医業、弁護士業など、ほとんどの業種が法定業種に含まれます。

以下の計算式により税額が発生する場合は、個人事業税の納付が必要です。

(事業所得等-各種控除額)×法定業種別の税率=個人事業税額

各種控除額には、事業主控除といって年間290万円(1年未満の場合は月割り)の控除額が含まれます。個人事業税の納付が現実的に必要になるのは、事業所得の金額が事業主控除を超えてくる段階です。

消費税

消費税は、商品の販売やサービスの提供など、あらゆる経済取引に対して課される税金です。ただし、一時的なものを除く土地の貸付けや有価証券の譲渡、商品券の譲渡などの取引の一部は、社会政策上の観点から消費税の課税対象から除外されています。

消費税は、間接税の一種で、商品やサービスを消費する消費者が負担し、事業者が納付します。なお、流通の過程で二重三重に税金が膨れ上がってしまうことから、税金の累積を防ぐ仕入税額控除の仕組みがあります。

消費税には免税事業者の制度があり、課税売上高1,000万円以下の事業者については、納税義務が免除されています。ただし、適格請求書発行事業者として登録している場合は、納税義務の免除は適用されません。

所得税と法人税の違い

個人事業主にかかる税金で代表的なものに所得税、法人にかかる税金で代表的なものに法人税があります。所得税も法人税も所得に対して課される税金です。

ただし、所得税は個人の所得に、法人税は株式会社や協同組合などの法人の所得に課される税金点が異なります。

また、個人と法人の所得の考え方にも違いがあります。個人の所得は、個人の年間の収入から必要経費を差し引いた金額です。法人の所得は、法人が各事業年度に得た益金(会計上の収益に近い概念)から損金(会計上の費用に近い概念)を差し引いた金額を表します。

所得税には超過累進課税が適用される

法人税と所得税では、税率の仕組みも異なります。

法人の税率は、原則として一律です。例えば、株式会社や合同会社などの普通法人に該当する法人については、原則として23.2%の法人税率が適用されます。なお、法人税については軽減制度があり、一定の要件を満たす中小法人については、年間800万円までの所得に対して、税率15%または19%を適用されることになります。

一方、所得税の税率は、法人とは異なり超過累進課税です。下記のように、所得金額が上がるごとに、段階的に所得税率が上がる仕組みになっています。

課税所得金額税率
195万円以下5%
195万円超330万円以下10%
330万円超695万円以下20%
695万円超900万円以下23%
900万円超1,800万円以下33%
1,800万円超4,000万円以下40%
4,000万円超45%

出典:No.2260 所得税の税率|国税庁

個人事業主が法人化を検討するべきタイミング

個人事業主が法人化を検討すべき理由は、所得税と法人税の仕組みが異なるためです。個人事業主が法人化しないままでいると、所得金額が想定以上に伸びたタイミングで、税金の負担が法人よりも重くなる可能性があります。

法人税と所得税の税率についてはそれぞれ解説しましたが、個人事業主から法人化する場合、中小法人に該当する可能性が高いと考えられます。従って、税率19%の適用法人の要件に該当しない限り、所得800万円以下の部分については15%が適用されることになるでしょう。この場合、所得税率と法人税率が逆転するタイミングは、課税所得が330万円を超えるタイミングになります。

ただし、上記の説明は、単純に所得税率と法人税率を比較した場合の結果にすぎません。個人事業主、法人、それぞれに所得税や法人税以外の税金が発生します。また、社会保険料の負担や法人を維持するためのコストについても考慮しなければなりません。どのタイミングで法人化すべきか、現状を踏まえてシミュレーションしてもらえる専門家に相談されるのが良いでしょう。

法人化のタイミングについては、こちらの記事もご覧ください。

個人事業主が法人化すると節税効果がある?

個人事業主が法人化することで、どのくらいの節税効果が見込めるのでしょうか。今回は、所得税と法人税を比較する形で紹介します。実際は、そのほかの税金や会社設立や維持のためのコストなども考慮する必要があるため、詳細は専門家にご相談ください。

※税率については、先に紹介した法人税率や所得税率の表を用いています。

※課税所得については個人事業主と法人で計算した結果、異なる可能性がありますが、便宜上同じ課税所得だった場合で比較しています。

国税庁の所得税の速算表はこちら

【ケース1:課税所得500万円】

個人事業主:500万×20%-427,500=572,500円

法人:500万×23.2%=1,160,000円

結果:法人税のほうが587,500円多い

【ケース2:課税所得1,000万円】

個人事業主:1,000万×33%-1,536,000=1,764,000円

法人:800万×15%+(1,000万-800万円)×23.2%=1,664,000円

結果:所得税のほうが100,000円多い

個人事業主が法人化するメリットについては、こちらの記事で紹介しています。

個人事業主と会社設立ではどっちが得?

個人事業主と法人のどちらを選択して開業するべきかは、税金面だけでは十分に比較できません。どちらを選択したほうがよりメリットを得られるのでしょうか。個人事業主と法人で比較されやすいポイントを解説します。

経費として計上できる範囲

個人事業主と法人では、経費にできる範囲が異なります。

代表的なのが、事業主個人の給与と親族の給与です。法人は、代表取締役の給与のほか、役員や従業員である配偶者や親族に対する給与を経費に計上できます。一方、個人事業主については、自身への給与や賞与を給与として経費にはできません。個人事業主の場合、事業主自身の給与の概念はないためです。

また、個人事業主は、専従者として雇う15歳以上の親族や配偶者について、白色申告を選択した場合、決められた金額までしか所得から控除することが認められていません。青色申告を選択することで通常の範囲内での経費計上が認められるようになりますが、青色申告にするには税務署への事前の申請が必要です。

交際費に関しても、個人事業主と法人では違いがあります。個人事業主は交際費に計上できる金額に上限がありませんが、法人は法人税額の計算上、経費にできる金額が制限されます。

社会保険の加入義務

社会保険の加入義務についても、個人事業主と法人では異なります。

法人については、事業主が1人であっても、社会保険(健康保険および厚生年金)の加入義務が生じます。個人の負担分と会社負担分の社会保険を合わせて支払わなければなりません。

個人事業主については、社会保険の加入義務はありません。代わりに、国民健康保険や国民年金などに加入することになります。法人の場合は事業主に支払う給与によって社会保険料を調整できますが、個人事業主の国民健康保険料に関しては前年の所得が基準になるため、法人よりも負担が大きくなる可能性があります。

社会保険に関して、個人事業主と法人のどちらが良いかは、毎月の給与をどのくらいの金額に設定するかで異なってくるでしょう。

社会的信用

信用面については、個人事業主よりも法人のほうが高いとされています。

個人事業主が簡単に開業できるのに対して、法人を設立するためには法務局での登記などの手続きが必要になるためです。公的に会社の存在が証明されることや、事業主が事業を続けられなくなっても事業承継により事業を後継者に引き継ぎやすいことから、法人のほうが信用力は上回ります。信用面から、法人でないと取引をしない会社もあるため、個人事業主と企業間の取引が活発でない業種においては、法人化したほうがメリットを得やすい可能性があります。

赤字の繰越期間

赤字の繰越しについても、個人事業主と法人では違いがあります。赤字の繰越しとは、赤字が発生して所得がマイナスになったときに、将来の所得金額と相殺できる制度です。青色申告者である個人事業主は3年、法人は10年の繰越しが認められています。創業時に多額の投資が必要になる場合などは、法人のように赤字の繰越期間に余裕があるほうがメリットを得られる可能性があります。

責任範囲

事業が失敗したときの責任の範囲も、個人事業主と法人では異なります。

個人事業主は、責任の範囲が無限です。事業の赤字が続いて廃業になってしまっても、事業の借金は個人が責任を負わなくてはなりません。自己の財産を切り崩して、支払いや補償が必要になります。

法人については、会社の形態にもよるものの、株式会社や合同会社については責任範囲が有限となっています。会社の経営が悪化して倒産してしまった場合でも、会社の中で責任問題は完結し、取締役などの個人にまで責任の範囲は及ばないということです。ただし、法人であっても契約によっては事業主個人に保証の義務が生じることがあります。

赤字の場合でも発生する税金

個人事業主の場合、基本的に赤字で所得が発生していないのであれば、所得に対する税金は発生しません。

一方、法人は赤字でも税金が発生します。法人にかかる税金のうち、法人住民税を構成する均等割は、法人の所得ではなく、資本金の額や従業員の数に応じて課されるためです。赤字であっても、少なくとも年間7万円(資本金1千万円以下かつ従業員数が50人以下の場合)は納税しなければなりません。

個人事業主が法人化すべきかは個別の状況による

個人事業主が法人化すべきかどうか、税金面での比較で説明されることがあります。税金の負担も重要なポイントですが、社会的信用や責任範囲など個人事業主と法人では異なる部分もあるため、個別の状況と総合的に比較して十分に検討する必要があります。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事