• 作成日 : 2025年11月25日

【テンプレ付】役員の住所変更の法人ガイド!自分で行う手続きや費用まとめ

会社の代表権を持つ役員の住所が変更された場合は、変更の生じた日から2週間以内に、変更の日から2週間以内に法務局で法人登記の変更申請を行う必要があります。特に、代表取締役(株式会社)や代表社員(合同会社)など代表権を有する者の住所は登記事項として定められており、会社情報を正確に公示するために必須の手続きです。

この申請を怠ると、会社法第976条に基づき、代表者個人が100万円以下の過料に処される可能性があります。

なお、2024年10月1日施行の制度改正(代表取締役等住所非表示措置)により、登記事項証明書等に表示される代表者住所は市区町村名までとなりましたが、住所変更登記の申請義務そのものや、登記事項としての住所の取扱いは従前どおりです。

本記事では、役員住所変更時の法人登記について、申請が必要なケースから具体的な手続き、費用までわかりやすく解説します。

目次

なぜ役員の住所変更で法人登記が必要になるのか?

会社の代表権を持つ役員の住所変更では、変更が生じた日から2週間以内に法務局で変更登記を行う必要があります。

これは、会社の代表者情報を社会に公示し、取引の安全性を確保するためです。代表取締役(株式会社)や代表社員(合同会社)などの代表者の住所は、会社法第911条に定められた登記事項の一つであり、取引先や金融機関が会社の実在性を確認する上で重要な情報です。

住所情報は、訴訟・債権回収など法的手続きの場面でも、代表者を特定する基礎情報として機能します。このように代表者の住所を公示することは、企業の透明性と信用力を担保し、取引の安全と経済活動の円滑化を支える制度的な役割を持っています。

参照:会社法 第九百十一条 株式会社の設立の登記|e-Gov法令検索

登記が必要となる役員の住所変更のケース

登記記録の住所表示は、住民票の表示と同一性が確認できる記載となっていることが原則です。表記方法(地番・住居表示・部屋番号など)は自治体によって異なります。代表権を持つ役員が以下のような変更を行った場合は、すべて登記申請が必要です。

  • 転居にともなう住所変更
    住民票を新住所に移した場合は、新住所への変更登記が必要です。
  • 行政区画の変更や住居表示の実施
    市区町村の合併や区画整理、住居表示の実施により住所の表記のみが変わった場合でも、登記上の住所に変更が生じたものとして申請が必要です。例えば、「〇〇町1234番地」が「△△一丁目2番3号」のように変わったケースが該当します。
  • 建物名の変更や部屋番号の訂正・追加
    これらが登記記録に方書として記載されている場合に限り、変更登記が必要です。方書を登記していない場合は、当該変更のみでは登記は不要です。

こうした軽微な変更であっても、登記簿上の代表者住所は常に最新の正確な情報でなければならず、放置すると過料の対象(会社法第976条)となるおそれがあります。

住所変更の登記申請が必要な役員とは?

役員の住所変更で登記申請が必要かどうかは、その役員が「代表権を持つか」によって決まります。すべての役員の住所変更に手続きが必要なわけではありません。対象の範囲は法令・登記実務で明確に定められています。

【申請が必要】代表権を持つ役員

以下の役職にある人が住所変更をした場合は、法人登記の変更申請が必要です。

  • 株式会社:代表取締役、指名委員会等設置会社の場合は代表執行役
  • 持分会社(合同・合名・合資):代表社員、代表社員が法人のときは、その職務を行う者(職務執行者)
  • 一般社団法人・一般財団法人:代表理事(理事長)

これらの役員の住所は登記事項に含まれるため、変更が生じたら2週間以内に変更登記が必要です。

【申請が不要】代表権を持たない役員(例)

以下の役員の住所は、会社の登記事項ではないため、引越しをしても法務局での手続きは求められません。

  • 代表権のない取締役・執行役
  • 監査役
  • 会計参与
  • 会計監査人(監査法人等)

相談役や顧問の住所変更は登記が必要?

通常、相談役・顧問は登記対象の「役員」ではありません。したがって住所変更登記の対象外です。もしその肩書きの人が、取締役等として登記済みかつ代表権を有しているなら、その立場に基づき登記が必要になります。

役員の住所変更登記はいつまでに申請しないといけない?

代表権を持つ役員の住所が変更された場合、その変更が生じた日から2週間以内に変更登記を申請する必要があります。起算日は法律上「変更が生じた日」であり、実務では住民票の転入日など、客観的に確認できる日付で判断します。

期限を過ぎた場合(登記懈怠)はどうなる?

正当な理由なく2週間の期限内に申請しない「登記懈怠」になると、会社の代表者個人に対し100万円以下の過料が科される可能性があります。過料は行政罰で、刑事罰の前科はつきませんが、無用なコストとなるため、気付いた時点で速やかに申請しましょう。

法人役員の住所変更登記、手続き全体の流れ

役員の住所変更登記は、主に①必要書類の準備、②申請書の作成、③法務局への申請、④登記完了の確認という4つのステップで進めます。法務局への申請方法は、オンラインと書面(窓口・郵送)で流れが異なります。全体の流れを把握しておくと、スムーズに手続きを進められるでしょう。

STEP1:必要書類の準備

まず、登記申請に必要な書類を揃えます。原則必要なのは「変更登記申請書」のみです。代理人(司法書士等)に依頼する場合は「委任状」を追加します。登録免許税は資本金規模で決まり、役員変更は1件につき「1万円(資本金1億円以下)/3万円(1億円超)」です。なお、収入印紙で納付する書面申請の場合のみ「登録免許税納付用台紙」を用意します。

STEP2:変更登記申請書の作成

法務局サイトの商業・法人登記の申請書様式からひな形をダウンロードし、会社情報・変更内容を正確に記入します。誤りがあると補正となり、完了が遅れるため、様式・記載例に沿って作成します。

STEP3:管轄法務局への申請

書類が揃ったら、本店所在地を管轄する法務局に申請します。申請方法は、オンライン申請と書面申請(窓口持参/郵送)があります。

オンライン申請の場合の流れ

  1. 事前準備:法務省の「登記・供託オンライン申請システム(申請用総合ソフト)」を用意し、電子署名に用いる電子証明書(商業登記電子証明書/マイナンバーカードの署名用電子証明書等)を取得します。
  2. 申請データの作成・送信:ソフト上で申請書情報を作成し、電子署名を付与して送信します。
  3. 登録免許税の納付:電子納付(インターネットバンキング等)で支払います。オンライン申請でも税額は書面と同額です。
  4. 手続き完了:審査完了はシステム上で確認できます。

参照:登記・供託オンライン申請システム|法務省

書面申請(窓口持参・郵送)の場合の流れ

作成した申請書と添付書類を、紙媒体で提出する方法です。

  • 窓口持参:管轄法務局の窓口に書類一式を提出。不備があればその場で補正指示を受けられる場合があります。
  • 郵送:封筒表面に「登記申請書在中」と朱書きし、配送状況がわかるよう、簡易書留/レターパック等で送付。登記完了後の返送を希望する場合は返信用封筒+切手を同封します。

STEP4:登記完了の確認

申請後、法務局で審査が行われます。完了までの目安は数日〜2週間程度で、繁忙期や補正の有無、法務局ごとの運用で変動します。各法務局が公表する登記完了予定日を確認し、完了後は登記事項証明書を取得して内容が正しく反映されているかをチェックしましょう。

役員の住所変更登記に必要な書類一覧

役員の住所変更登記で必要になる書類は、会社の種類(株式会社/合同会社)で申請書の記載が一部異なります。ここでは、それぞれのケースと、専門家に依頼する場合について、必要な書類とポイントを解説します。

株式会社の役員(代表取締役)の住所変更

必要書類概要・記載例・様式ダウンロード
変更登記申請書役員の住所変更を申請するための書類

株式会社変更登記申請書

【記載例】会社(役員の住所変更)

登録免許税納付用台紙書面申請で印紙納付する場合に使用する
  • 提出先:会社の本店所在地を管轄する法務局

1. 変更登記申請書

株式会社変更登記申請書の記載例を参考に、「登記の事由」には「代表取締役の住所変更」と正確に記入しましょう。作成にあたっては、必ず「会社実印(法務局に登録済の代表者印)」で押印します。申請書が複数枚にわたる場合は、ページ間に会社実印で契印(けいいん)をしてください。

住民票の添付は原則として不要です。また、代表取締役の住所変更のみであれば、株主総会や取締役会の決議は不要なため、議事録の添付も必要ありません。

2. 登録免許税納付用台紙

ご自身でA4サイズの白紙を用意します。この台紙は、登録免許税を納付するためのものです。登録免許税の金額(資本金1億円以下なら1万円)に相当する収入印紙を購入し、この台紙に貼り付けます。収入印紙は郵便局や法務局内の売店で購入可能ですが、貼り付けた収入印紙には消印をしないでください。

登記申請書とあわせて、管轄の法務局に提出します。

参照:商業・法人登記の申請書様式|法務局

合同会社の役員(代表社員)の住所変更

合同会社の代表社員の住所変更も、基本的な手続きや必要書類は株式会社の場合とほぼ同じです。ただし、変更登記申請書の記載内容が一部異なります。

変更登記申請書の主な相違点

項目株式会社の場合合同会社の場合
登記の事由代表取締役の住所変更代表社員の住所変更
登記すべき事項(資格)「資格」代表取締役「資格」代表社員

申請書の様式は株式会社と同じものを利用できますが、上記の点を合同会社の内容に合わせて修正して作成しましょう。登録免許税納付用台紙の準備や提出先は株式会社の場合と同様です。

司法書士などの代理人に依頼する場合

司法書士などの専門家に依頼する場合は、上記の書類に加えて委任状が必要です。

委任状に関するポイント
  • 会社実印(法務局に届け出ている印)で押印します。代表者個人の実印や認印では受理されません。法務局届出印は、登記簿上の「会社代表者印」を指します。
  • 委任状には日付・委任の範囲・代理人の氏名を明確に記載する必要があります。
  • 書式は法定ではなく自由形式ですが、必要項目が欠けると補正の対象になります。
  • 電子申請の場合は、PDF等の電子データで添付(電子署名付与)することも可能です。
必要書類概要
委任状登記申請の手続きを司法書士に委任することを証明する書類

委任状には特定のフォーマットはありませんが、以下のように記載します。

委任状

大阪府大阪市中央区北浜〇丁目〇番〇号

司法書士 鈴木大輔

私は、上記の者を代理人と定め、次の権限を委任いたします。

1. 当会社代表取締役 佐藤 花子の住所移転(令和〇年〇月〇日  大阪府大阪市中央区南船場〇丁目〇番〇号へ移転)に伴う変更登記申請の一切の件

令和〇年〇月〇日

大阪府大阪市北区梅田〇丁目〇番〇号

株式会社ABCD物流 代表取締役 佐藤 花子 ㊞

住所変更登記にかかる費用はいくら?

登記申請には、法務局に納める「登録免許税」と、専門家に依頼した場合の「司法書士報酬」がかかります。

自分で申請する場合の費用

自分で手続きを行う場合にかかる費用は、登録免許税のみです。

  • 資本金が1億円以下の場合:10,000円
  • 資本金が1億円を超える場合:30,000円

納付方法は、申請方法によって異なります。

  • 書面申請:収入印紙を登録免許税納付用台紙に貼付して納付
  • オンライン申請:電子納付(インターネットバンキング等)で納付

このほか、法務局への交通費や郵送費などの実費がかかります。

司法書士に依頼する場合の費用

司法書士に依頼する場合は、上記の登録免許税に加えて、司法書士への報酬が発生します。

  • 司法書士報酬の相場:30,000円~50,000円程度

費用はかかりますが、申請書作成~補正対応~申請~完了確認までを任せられるため、時間と手間の削減につながります。

役員の住所変更登記でよくある疑問

ここでは、役員の住所変更登記に関して、担当者が抱きやすい疑問について解説します。

マンション名や部屋番号だけの変更でも登記は必要?

登記簿に「マンション名や部屋番号まで書いてある場合」は、それが変わったときは変更登記が必要です。一方で、登記簿に「マンション名や部屋番号までは書いていない場合」は、それらが変わっても変更登記は不要です。

賃貸物件に住んでいても手続きは同じ?

同じです。持家・賃貸の違いは登記手続きには影響しません。住所の変更が生じた日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局で変更登記を行います。

登記を長年忘れていた場合はどうすればいい?

気づいた時点ですぐに登記申請を行いましょう。数年間登記を怠っていた場合でも、手続き自体は通常どおり行えます。ただし、長期間放置していると、裁判所から過料の通知が届く可能性が高まります。手続きを先延ばしにせず、速やかに対処することが肝心です。

役員住所の登記変更後の他の手続きは?

法務局での登記変更が完了した後も、税務署や年金事務所など、関連機関への届出が必要になる場合があります。法務局での手続きだけで終わらせず、以下の手続きも漏れがないか必ず確認しましょう。

1. 税務署への届出(国税)

原則として、代表者の住所変更のみで税務署への届出は不要です。ただし、代表者変更や納税地の異動がある場合は届出対象です。

2. 都道府県税事務所・市区町村役場への届出(地方税)

自治体によって対応が異なるため、手続きの要否や必要書類は、必ず事前に管轄の自治体にご確認ください。

3. 年金事務所への届出(社会保険)

法人の場合、社会保険に関して、事業所の所在地または名称に変更があった場合に、事実の発生日から5日以内に提出する必要がありますが、代表者個人の住所変更については、届出の対象に記載はありません。

4. ハローワーク・労働基準監督署への届出(労働保険)

代表者個人の住所変更については、届出の対象に記載はありません。

5. その他の手続き

法律上の義務の有無にかかわらず、実務上、以下の連絡や手続きも忘れずに行いましょう。

  • 金融機関
    取引の内容に応じて、代表者個人の住所変更の届出が必要になる場合があります。取引金融機関に確認してみましょう。
  • 許認可を受けている官公庁
    事業に必要な許認可を受けている場合、管轄の官公庁への変更届が別途必要になるケースがあります。例えば、古物商許可では、法人役員の住所変更は変更届出の対象で、住民票等の添付が必要とされています。

役員の住所変更は、2週間以内の登記申請を忘れずに

代表取締役、代表社員をはじめとする代表権を持つ役員の住所が変更された場合、その変更が生じた日から2週間以内に変更登記を申請する必要があります。住所変更があった日から2週間以内に、必要な書類を揃えて法務局へ変更登記を申請しなくてはなりません。

手続き自体は比較的シンプルで、費用は登録免許税(1万円または3万円)がかかります。もし手続きに不安があれば、司法書士などの専門家に相談するのも一つの方法です。その場合は、司法書士報酬も必要となります。期限内に正しく手続きを完了させ、健全な会社運営を維持しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事