- 更新日 : 2025年11月25日
開業や会社設立時の資金調達、融資の割合は?借入と自己資金のバランスを解説
会社設立や新たな事業のスタートに資金調達は不可欠ですが、その大部分は融資や借入によってまかなわれています。2024年度の調査では、開業時の資金調達総額のうち「金融機関等からの借り入れ」が平均で65.2%を占めています。自己資金も全体の約24.5%を構成していますが、事業の成否は借入をいかにうまく活用し、管理するかにかかっているといえるでしょう。
本記事では、データをもとに、なぜ融資が中心となるのか、その平均額や内訳、そして借入を成功させるためのポイントを詳しく解説します。
目次
開業時の資金調達、融資の割合は?
開業時の資金調達額の平均は1,197万円で、そのうち「金融機関等からの借り入れ」が65.2%、「自己資金」が24.5%を占めており、この2つで全体の約9割に達します。近年は開業費用の少額化やコンパクトな事業形態が目立っており、現代の起業の実態がうかがえます。
資金調達の内訳は借入が3分の2を占める
資金調達の内訳を金額で見ると、「金融機関等からの借り入れ」は平均780万円、「自己資金」は平均293万円となっています。親族や知人からの支援も一部見られますが、大部分は公的・民間金融機関からの融資と、自身で準備した資金で構成されています。
▼ 資金調達先の割合
| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 金融機関等からの借り入れ | 65.2% |
| 自己資金 | 24.5% |
| その他(配偶者・親・兄弟・親戚、友人・知人等など) | 10.3% |
開業費用は4割以上が500万円未満でスタート
日本政策金融公庫の「2024年度新規開業実態調査」によると、2024年度の開業費用は平均で985万円、中央値は580万円でした。しかし「250万円未満」が20.1%、「250万~500万円未満」が21.0%と、合わせて4割以上の起業家が500万円未満の費用で事業を始めています。小規模なスタートアップが主流であることがわかります。
この背景には、ITツールの普及により大規模な設備投資なしに始められるビジネスが増えたことや、従業員を多く抱えずにスモールスタートを切る傾向が強まっていることが考えられます。実際に、開業時の平均従業者数(経営者本人を含む)は2.9人と、2年連続で3人を下回りました。
▼ 開業費用(2024年度)
| 開業費用 | 割合 |
|---|---|
| 250万円未満 | 20.1% |
| 250万~500万円未満 | 21.0% |
| 500万~1,000万円未満 | 30.7% |
| 1,000万~2,000万円未満 | 18.8% |
| 2,000万円以上 | 9.4% |
起業家の平均年齢は43.6歳、ミドル層が中心
開業者の平均年齢は43.6歳と上昇傾向にあり、キャリアを積んだミドル層が起業の主役であることがわかります。年齢別では「40歳代」が37.4%と最も多く、次いで「30歳代」が28.6%です。
また、開業者の97.9%が何らかの勤務経験を持っており、そのうち83.1%は開業する事業と同じ業種での勤務経験(斯業経験)があり、豊富な実務経験を武器に独立するケースが多いといえるでしょう。
さらに、女性の割合が過去最高の25.5%になるなど、起業家の多様化も進んでいます。
開業時の課題は資金繰りと販路開拓
多くの起業家が直面する課題として最も多いのは「資金繰り、資金調達」で、開業時には59.2%もの人が課題と感じています。次に多いのが「顧客・販路の開拓」(48.1%)です。
これらの課題は開業後も続き、現在苦労していることとしても「顧客・販路の開拓」(47.7%)と「資金繰り、資金調達」(37.0%)が上位を占めています。
どのような資金調達方法があるのか?
企業の資金調達方法は、大きく「デットファイナンス(負債)」と「エクイティファイナンス(資本)」、そして「アセットファイナンス」の3つに分類されます。中小企業の開業時には、返済義務のあるデットファイナンス、特に金融機関からの融資が一般的です。
デットファイナンス(負債)
金融機関からの融資や社債の発行など、返済義務を負う資金調達方法です。日本政策金融公庫や民間銀行からの借入、信用保証協会の保証付き融資などが代表的です。経営への干渉を受けにくいメリットがありますが、返済義務や利息の負担が発生します。
- メリット:経営の自由度を保ちやすい
- デメリット:返済義務と利息負担がある
エクイティファイナンス(資本)
新株発行などによって第三者から出資を募り、返済義務のない資金を調達する方法です。ベンチャーキャピタルからの出資やエンジェル投資家からの資金提供がこれに該当します。自己資本比率が高まり、財務基盤が安定する一方、出資者に経営権の一部を渡すことになり、経営判断に影響をおよぼす可能性があります。
- メリット:返済義務がなく、資金繰りが安定しやすい
- デメリット:経営権の一部を譲渡する必要がある
アセットファイナンス
企業が保有する資産(売掛債権、不動産、在庫など)を担保にしたり、売却したりして現金化する方法です。代表的な手法に、売掛債権を売却して早期に資金化する「ファクタリング」があります。審査が比較的速く、借入ではないためバランスシートを圧迫しない点が特長です。
融資における自己資金の割合はなぜ重要?
融資審査において自己資金の割合は、事業への熱意や計画性を測る指標とされます。一般的に、創業資金総額の2〜3割程度の自己資金を用意することが、融資を受けるうえでの一つの目安といわれています。自己資金が潤沢であれば、その分だけ借入額を減らせるため、返済負担も軽くなります。
自己資金が評価される理由
自己資金を十分に準備していることは、金融機関から高く評価される傾向にあります。これは、以下の点から事業の成功確度が高いと判断されやすいためです。
- 事業への熱意・本気度:
長い期間をかけて資金を準備した事実は、事業に対する真剣な姿勢の証明になります。 - 計画性:
開業に向けて計画的に準備を進めてきた証しと見なされ、事業計画全体の信頼性が高まります。 - 返済能力への信頼:
自己資金が多いほど借入額を抑えられ、月々の返済負担が軽くなるため、貸し手側の未回収リスクが低減します。
日本政策金融公庫の融資制度では
例えば、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」では、融資制度の要件として自己資金の具体的な割合が明記されているわけではありません。しかし、実務上の審査では、事業計画の妥当性とともに、開業に向けた準備状況として自己資金の額やその貯蓄過程が重要な評価材料となります。
自己資金が少ない場合やゼロの場合でも申請は可能ですが、その分だけ審査のハードルは高くなります。融資額が抑えられたり、事業計画の実現性や収益性をより厳しく確認されたりするケースもあります。十分な自己資金は、審査を円滑に進めるための大きな強みといえるでしょう。
創業融資を成功させるための3つのポイント
創業融資を成功させ、事業をスムーズに立ち上げるためには、計画的な準備が不可欠です。特に「自己資金」「公的融資制度の活用」「事業計画書(創業計画書)」の3点が重要なポイントになります。
1. 十分な自己資金を貯める
自己資金は事業への熱意と計画性の証明です。融資を受けやすくするためにも、目標とする開業費用の2〜3割を目安に、計画的に準備を進めましょう。例えば、事業用の口座を別途開設し、毎月一定額を積み立てるなど、具体的な行動履歴として示すことができれば、金融機関からの信頼はさらに高まります。
2. 公的融資制度を積極的に活用する
日本政策金融公庫や地方自治体の制度融資など、創業者を支援するための公的な融資制度は、民間金融機関に比べて低金利かつ無担保・無保証人で利用できる場合が多く、返済期間も長めに設定されています。実績がない創業期において、これらの制度は非常に心強い資金調達手段です。まずは相談窓口に足を運び、自社の事業に適した制度がないか情報収集を行いましょう。
3. 具体的な事業計画書を作成する
事業のビジョン、市場分析、収支計画、自己資金と借入割合などを盛り込んだ、説得力のある事業計画書(創業計画書)を作成しましょう。特に、売上予測や費用計画には具体的な根拠(見積書、市場データなど)を添えることが求められます。なぜその事業が成功するのか、どのようにして借入金を返済していくのかを、第三者が客観的に納得できる形で示すことが大切です。
事業の安定は適切な借入と自己資金の割合から
本記事では、2024年度の調査データをもとに、会社設立時の資金調達の割合や方法について解説しました。開業時の資金調達は、平均して借入が約65%、自己資金が約25%という構成であり、このバランスは融資審査やその後の事業の安定性に大きく関わります。
創業融資を成功させるには、十分な自己資金の準備、公的融資制度の活用、そして精緻な事業計画書の作成が欠かせません。これらの点をふまえ、計画的に準備を進めることが、安定した事業運営につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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