• 更新日 : 2025年11月25日

家賃は創業融資で払える?賃貸契約と融資のどちらが先?注意点を解説

創業融資は、事業所の家賃支払いにも利用できますが、通常は運転資金として扱われるため、申請のタイミングや資金計画が重要です。そのため、融資の申し込みと賃貸契約の順序を間違えると、審査に影響が出たり、不要な費用が発生したりする可能性があります。

この記事では、創業融資を家賃に充てる際の基本的な考え方から、事務所の賃貸契約を進める具体的な手順、審査で確認されるポイントまで、これから事業を始める方がつまずきやすい点をわかりやすく解説します。

創業融資は事務所や店舗の家賃に充てられる?

創業融資は、事業で利用する事務所や店舗の家賃に充当できます。ただし、融資の対象となるのは、事業を運営していくために必要な運転資金の一部としてです。

運転資金として認められる

金融機関は、事業所の家賃を事業継続に欠かせない経費、すなわち「運転資金」として扱います。創業直後は売上が安定しないことも多いため、数ヶ月分の家賃をあらかじめ確保しておくことは、事業の安定化につながる合理的な資金計画と判断されるでしょう。日本政策金融公庫などの創業融資では、こうした運転資金の確保を前向きに評価する傾向があります。

対象となる家賃の範囲と期間の目安

一般的に、創業融資で認められる家賃の目安は、開業後3〜6ヶ月分程度とされています。事業計画書に盛り込む際は、なぜその期間分の家賃が必要なのか、売上が安定するまでの見通しとあわせて具体的に説明する必要があります。過度に長い期間の家賃を申請すると、計画性に欠けると判断される可能性もあるため注意しましょう。

家賃は運転資金と設備資金のどちらで申請する?

毎月支払う家賃は「運転資金」として申請するのが原則です。一方で、賃貸契約時に支払う敷金や保証金などは、将来返還される可能性があるため扱いが異なります。

経常的な支払いは運転資金

運転資金とは、事業を日々回していくために必要なお金のことで、仕入れ費用や人件費、広告宣伝費、そして家賃などが含まれます。創業融資では、これらの費用をまとめて運転資金として申し込みます。

日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金においても、家賃は運転資金の対象とされています。事業開始後に必要となる資金として、数ヶ月分の家賃を見込んで申請するケースが多く、計画書にはその根拠(売上見通しや運転資金繰りの期間など)を明示することが望まれます。

参照:新規開業・スタートアップ支援資金|日本政策金融公庫

敷金・保証金など初期費用の扱い

敷金や保証金は、退去時に返還される可能性があるため、毎月の家賃とは性格が異なります。会計上は資産(差入保証金)として計上されるのが原則で、創業融資では「設備資金」として扱われることが多い項目です。ただし、金融機関によっては運転資金に含めて申請できるケースもあります。どちらで申請するか迷うときは、事前に金融機関へ確認しておくと、審査や手続きが円滑に進むでしょう。

費用項目資金使途の分類備考
家賃・賃料運転資金開業後3〜6ヶ月分が目安
礼金・仲介手数料運転資金または設備資金返還されないため経費性が高い
敷金・保証金設備資金(※金融機関や案件により運転資金として扱われる場合もあり)返還される可能性があるため資産計上

創業融資の申請と物件契約はどちらを先にすべき?

原則として、先に創業融資の申し込みを行い、審査に通る見通しが立ってから物件の賃貸借契約を結ぶのが安全な進め方です。契約を先行させると、万が一審査に落ちた場合に大きなリスクを負うことになります。

融資の申し込みを先行させるのが基本

融資審査では、事業計画の実現可能性が厳しくチェックされます。その計画の中に「事務所を借りて事業を行う」という内容が含まれている以上、物件の候補や賃貸条件がある程度具体化していることが求められます。ただし、賃貸借契約を締結していなくても、賃貸条件書や見積書などで物件の概要を示せれば審査は可能です。

そのため、「物件探しと融資相談を並行して進め、融資の申し込みを先に行う」のが理想的な流れといえるでしょう。

物件の「仮押さえ」や「融資特約」を活用する方法

良い物件は、他の事業者に先に契約されてしまうことも少なくありません。そこで、融資の審査結果を待つ間、物件を一時的に確保しておくための方法がいくつかあります。

  • 仮押さえ(申し込み):
    不動産会社や貸主に相談し、申込金などを支払って一定期間物件を確保してもらう方法です。ただし、法的な拘束力は弱い場合が多く、あくまで交渉次第です。
  • 融資特約付き契約:
    賃貸借契約書に「万が一、融資の審査に通らなかった場合には、本契約を白紙撤回し、支払った申込金などを返還する」といった融資不成立時の解除条項(停止条件)を盛り込む方法です。不動産売買の「住宅ローン特約」と同じ考え方ですが、法的に定められた制度ではなく、貸主との合意に基づく任意の特約となります。事業者にとっては融資否認リスクを抑えられる有効な手段といえるでしょう。

融資を利用して事務所を借りたい旨は、早めに不動産会社へ正直に伝えることが大切です。事情を理解してもらえれば、融資審査期間に合わせて契約日を調整したり、物件を一定期間確保してもらえるなど、柔軟に対応してもらえる場合があります。創業時は資金計画や審査スケジュールを共有し、信頼関係を築きながら進めることが、結果的にスムーズな契約につながります。

契約を先行させるリスク

もし融資の審査前に賃貸借契約を結んでしまうと、以下のようなリスクが考えられます。

  • 審査落ちのリスク:
    融資が承認されなかった場合、自己資金で高額な初期費用や家賃を支払わなければならず、資金繰りが逼迫するおそれがあります。
  • 違約金の発生:
    資金が用意できずに契約をキャンセルせざるを得ない場合、契約内容によっては、違約金の支払いや申込金の没収といった金銭的損失が発生する可能性があります。

このような事態を避けるためにも、契約は融資の審査結果や見通しを確認したうえで、慎重に進めるべきでしょう。

創業融資で家賃を申請する際のポイントは?

創業融資の審査で家賃を認めてもらうには、事業計画書の中で家賃支出の必要性と金額の妥当性を明確に説明することが求められます。物件の立地・広さ・賃料が事業内容に見合っていることを説明できれば、審査担当者の理解を得やすくなります。自己資金を十分に準備しているかどうかも、融資審査における重要な要素です。

事業計画書に家賃の必要性を明記する

事業計画書には、なぜその立地で、その広さの事務所が必要なのかを具体的に記載します。

記載例:

「当社のWeb制作事業では、クライアントとの打ち合わせや、外部パートナーとの協業のため、〇〇駅周辺の交通の便が良い立地が不可欠です。また、従業員3名が効率的に作業できるスペースとして、約〇〇㎡の広さが必要なため、月額家賃〇〇円の当物件を候補としています。創業当初の売上が安定するまでの6ヶ月間の運転資金として、家賃〇〇円を計上します。」

このように、事業内容と立地、物件のスペック、家賃金額を関連付けて説明することで、支出の合理性が明確になり説得力が増します。

家賃の妥当性を示す

周辺の家賃相場とかけ離れた高額な物件を選んでしまうと、「事業計画が甘い」「金銭感覚に問題がある」と判断され、審査に悪影響をおよぼす可能性があります。複数の物件を比較検討したうえで、事業規模や売上見込みに見合った妥当な家賃の物件を選んだことを示せると良いでしょう。物件の賃貸借契約書(案)や見積書を提出することで、計画の具体性が伝わります。

自己資金を準備しておく

創業融資では、自己資金の額も重要な審査要素です。日本政策金融公庫の以前の創業融資制度では、「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」を要件として明記していました。現在は数値基準が明文化されていませんが、一定額の自己資金を準備していることは、事業への本気度や計画性を示すものとして審査で有利に働くでしょう。

自宅兼事務所の家賃も融資の対象になる?

自宅の一部を事業用スペースとして利用する場合、その家賃の一部を「事業経費」として創業融資の対象に含めることが可能です。ただし、全額は認められず、事業で使う分を合理的に説明する必要があります。

事業使用分のみ按分して計上する

自宅兼事務所の家賃を経費として計上する場合、「家事按分(かじあんぶん)」という考え方を用います。これは、家賃や水道光熱費など、プライベートと事業の両方に関わる支出を、一定の基準で事業用とプライベート用に分け、そのうち事業にかかる部分のみを経費として扱う会計処理のことです。

合理的な按分方法の説明

按分の基準として、客観的で合理的な方法を用いる必要があります。一般的には、以下の基準が使われます。

  • 面積比で按分:自宅の総面積のうち、事業で使用しているスペースの割合で計算します。
    (例:総面積80㎡、事業用スペース20㎡の場合 → 家賃の25%を経費として計上)
  • 時間で按分:1日のうち、事業に使用している時間の割合で計算します。
    (例:1日24時間のうち8時間を事業で使用 → 家賃の1/3を経費として計上)

どちらの基準を用いる場合でも、なぜその割合になるのかを説明できる根拠資料(使用状況・間取り図・業務内容など)を準備しておくことが大切です。特に、面積や使用時間といった算出根拠を客観的に示せると、融資担当者にも説得力をもって伝えられ、審査での信頼性が高まります。

自社ビル購入のローンにも創業融資は使える?

事業用の自社ビルや事務所を購入する費用に創業融資を充てることは、不可能ではありませんが、賃貸の場合に比べてハードルは高くなります。単なる不動産投資と見なされないよう、事業としての必要性を明確に示すことが重要です。

不動産投資と見なされるリスク

金融機関は、融資した資金が事業の成長に使われることを前提としています。そのため、事業の実態がほとんどないにもかかわらず、不動産を購入して賃貸収入を得るような「不動産投資」目的の融資には極めて慎重です。自社で利用する面積がごく一部にとどまり、大半を他者へ貸し出すような計画では、事業融資ではなく不動産投資ローンとして扱われる可能性が高く、創業融資の対象外となることがあります。

「不動産賃貸業」としての申し込み

もし不動産の賃貸そのものを事業として行うのであれば、「不動産賃貸業」としての事業計画を立て、その事業に必要な資金として融資を申し込むことになります。この場合でも、創業者自身の実績や十分な自己資金、そして事業としての収益見通しが厳しく審査されることに変わりはありません。特に、初めての創業でいきなり不動産購入から始める計画は、実現性が低いと判断されることが多いのが実情です。不動産賃貸業は安定的な収益が見込める一方で、初期投資額が大きく、空室リスクや維持管理コストの負担も重いため、創業融資の対象としては慎重に扱われる分野といえるでしょう。

家賃以外に創業融資でカバーできる初期費用は?

創業時には家賃以外にもさまざまな初期費用が発生します。創業融資はこれらの費用にも幅広く活用でき、まとめて申請することで資金繰りの安定化につながります。

内装工事費や設備購入費

事務所や店舗を借りた後、事業内容にあわせて内装工事や設備導入が必要になることがあります。これらの工事費用や、事業で使用するデスク、椅子、パソコン、複合機、業務用冷蔵庫などの設備購入費は、「設備資金」として創業融資の対象になります。見積書を取得し、資金使途を具体的に明示して申請しましょう。

広告宣伝費や仕入れ費用

事業を開始したことを広く知らせるためのウェブサイト制作費、チラシやパンフレットの印刷費、広告出稿費なども運転資金として認められます。また、小売業や飲食業であれば、開業初期に必要な商品の仕入れ費用も運転資金の主要項目に含まれます。これらの費用も、根拠資料(見積書・発注書など)を添付して申請すると審査がスムーズです。

専門家への報酬など

会社設立時に発生する司法書士や行政書士への報酬、税理士との顧問契約料なども、事業の運営に必要な経費として運転資金に含めることができます。また、融資の申請や事業計画書作成を、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)や社会保険労務士に依頼した場合も、その支援に対する報酬が発生することがあり、創業融資の資金使途として認められる場合があります。

家賃は創業融資の運転資金に充当できる

創業融資を事務所や店舗の家賃に充てることは、事業開始直後の資金繰りを安定させるうえで有効な手段です。成功のポイントは、家賃を運転資金として事業計画に盛り込み、その必要性と妥当性を具体的に説明することにあります。特に、融資の申し込みを物件契約より先行させ、「融資特約」などを活用してリスクを管理する慎重な進め方が求められます。

家賃だけでなく、敷金・礼金などの初期費用やその他の経費もふまえ、専門家にも相談しながら、実現可能な資金計画を立てて円滑な事業スタートを目指しましょう。


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