- 更新日 : 2025年11月25日
創業融資が返せない場合はどうする?6つのリスクや対処法を解説
創業融資の返済が困難になった場合、何よりも先に融資を受けた金融機関へ相談することが最善の策です。放置してしまうと、延滞損害金の発生や信用情報への悪影響、最悪の場合は資産の差し押さえといった深刻な事態につながりかねません。
事業を始めたばかりの経営者にとって、資金繰りの悩みはつきものですが、「創業融資が返せない」という状況は、迅速かつ誠実な対応が求められます。
この記事では、返済が困難になった場合の具体的な対処法、考えられるリスク、そして絶対に避けるべき行動についてくわしく解説します。
目次
創業融資が返せないとどうなる?起こりうるリスク
創業融資の返済が滞ると、金融機関からの督促や遅延損害金の発生に始まり、最終的には資産の差し押さえといった法的措置に至る可能性があります。これは、返済の遅延が契約違反にあたり、金融機関が債権を回収するための正当な権利を行使するためです。早期の対応がいかに大切かがわかるでしょう。
1. 金融機関からの督促と遅延損害金の発生
返済が遅れると、まず金融機関から電話や書面による支払いの督促が始まります。同時に、契約に基づいた遅延損害金が発生し、返済総額は日を追うごとに増加していきます。遅延損害金の利率は通常の貸付利率よりも高く設定されていることがほとんどで、負担はさらに重くなるでしょう。
2. 信用情報機関への登録(ブラックリスト)
例えば、CICの場合、返済の滞納が返済日より一定期間(61日以上または3ヵ月以上))続くと、その情報が信用情報機関に「異動」として登録されます。これは、いわゆる「ブラックリストに載る」状態であり、今後の新たな借入やクレジットカードの作成が極めて困難になります。創業期は追加の資金調達が必要になる場面も多いため、これは事業にとって大きな障害となりえます。
3. 残高の一括返済を求められる
多くの融資契約(金銭消費貸借契約)には「期限の利益の喪失」に関する条項が含まれています。これは、返済が滞った場合に、分割で返済する権利を失い、借入金の残高全額、未払利息、遅延損害金を直ちに一括で返済するよう求められることが一般的です。一括返済は事実上不可能なケースが多く、事態をさらに深刻化させます。
4. 保証協会による代位弁済
信用保証協会の保証付き融資の場合、返済が不能になると保証協会があなたに代わって金融機関へ残債を返済します。これを「代位弁済」と呼びます。ただし、これであなたの返済義務がなくなるわけではありません。代位弁済後は、請求元が金融機関から信用保証協会に変わり、今後は保証協会より返済を求められることになります。
5. 連帯保証人への請求
経営者自身が連帯保証人になっている場合が多いですが、もし他に連帯保証人がいれば、その人へ返済の請求がいくことになります。連帯保証人は、主債務者と同等の返済義務を負うため、個人の資産にまで影響を及ぼすことになり、人間関係にも深刻な影響を与えかねません。
6. 法的措置(訴訟・差し押さえ)
督促に応じず返済が継続的に行われない場合、金融機関や保証協会は、訴訟のほか、より簡易な支払督促手続を選択することがあります。いずれも最終的に判決・和解調書・仮執行宣言付支払督促などの「債務名義」を得ると、これに基づき民事執行(強制執行)の申立てが可能になります。こうなると、資金繰りや事業運営に重大な支障が生じます。
創業融資の返済が苦しいときの対処法は?
創業融資の返済が苦しいときは、まず融資元の金融機関に相談し、返済条件の見直し(リスケジュール)など複数の選択肢を交渉しましょう。金融機関も事業者の倒産を望んでいるわけではなく、誠実に相談すれば返済計画の変更に柔軟に応じてもらえるケースがあるためです。自社だけで解決が難しい場合は、公的機関や専門家への相談も視野に入れましょう。
STEP1:融資元の金融機関へすぐに相談する
返済が遅れそうだとわかった時点で、ただちに融資を受けている金融機関の担当者に連絡し、正直に状況を説明することが最も重要です。返済が苦しくなってからではなく、その兆候が見え始めた段階で相談するのが理想的です。誠実な姿勢で相談することで、金融機関側も企業の状況を理解し、協力的な姿勢で対応してくれるでしょう。
日本政策金融公庫の場合、担当支店で返済に関する相談を受け付けています。
参照:予約相談(お借入またはご返済に関するご相談)【国民生活事業】|日本政策金融公庫
STEP2:状況に応じた複数の選択肢を検討する
返済が厳しくなった場合に取れる手段は一つではありません。「リスケジュール(条件変更)」「追加融資」「借り換え」のいずれもが、資金繰り改善の有効な選択肢となり得ます。それぞれの特性を理解し、事業の状況に最も適した方法を選びましょう。
返済条件の見直し(リスケジュール)
既存の返済計画を金融機関との合意のもとで見直し、返済負担を軽くする方法です。
主な内容は、返済期間の延長、一定期間の元金据置(利息のみ支払い)、月々の返済額引き下げなどです。実施には、経営改善計画書・資金繰り表・決算書等を提出し、将来の収益改善見通しを示す必要があります。これは「延命策」ではなく、再建に向けた一時的措置として位置づけられます。
追加融資
リスケジュールと並行して、運転資金や再建のための追加融資を受けるケースもあります。
既存融資が延滞状態でも、具体的な改善計画と実行意志があれば、協議の余地が残る場合もあります。資金繰りを再構成する上で、既存債務の見直しと追加融資を一体的に設計することも可能です。
借り換え
現在の融資を、金利や返済期間の条件がより有利な新しい融資に切り替える方法です。
ただし、延滞や信用情報への異動登録があると審査は厳格化するため、借り換えを検討するなら延滞前に相談することが鍵です。
これらの3つの方策は、事業の状況や信用状態に応じて併用・段階的実施が可能です。
大切なのは、「資金繰り表に基づいて現実的な返済能力を示し、信頼を損なわない形で再建方針を共有する」ことです。
STEP3:公的機関や外部の専門家に相談する
金融機関との交渉がうまくいかない場合や、自社だけでの経営改善が難しい場合は、第三者の力を借りることも有効です。
- 中小企業活性化協議会:
各都道府県に設置されている公的な支援機関で、経営改善や事業再生に関する相談を無料で行えます。金融機関との交渉の間に立って調整役を担ってくれることもあります。 - 税理士・中小企業診断士:
顧問税理士がいる場合は、まず相談してみましょう。客観的な視点から資金繰りの見直しや経営改善計画の策定をサポートしてくれます。 - 弁護士:
返済が深刻な状況に陥り、法的な整理も視野に入れなければならない段階では、弁護士への相談が必要です。
創業融資の「返済不要」は誤解?
日本政策金融公庫の創業融資を含め、いかなる融資も原則として「返済不要」になることはありません。「無担保・無保証」であっても、借入はあくまで金銭消費貸借契約(民法第587条)に基づく債務であり、契約上の返済義務が発生します。したがって、廃業や事業不振といった経営上の理由だけでは返済義務が免除されることはありません。
融資の返済義務が消滅するのは、法的な手続(破産・民事再生・任意整理など)を経て債務が免除または減額された場合、または債権者が正式に債権放棄を行った場合に限られます。
これらはいずれも例外的な措置であり、「創業融資だから返さなくてもよい」「無担保・無保証だから返済義務はない」という理解は誤りです。
日本政策金融公庫の融資に返済免除はあるか?
結論として、日本政策金融公庫の融資に自己都合による返済免除制度はありません。融資は借金であり、契約どおりに返済するのが大原則です。
ただし、例外的に「極めて限定された状況下」で返済条件の緩和、または借入債務の整理が検討されるケースがあるようです。たとえば、自然災害・感染症の大規模拡大・指定地域の経済ショックなど、事業者自身の責任とは言えない外部要因に起因する場合です。ですが、これはあくまでも条件付き・例外的な措置であり、一般的な業績悪化・廃業・自己都合による理由では免除が認められると考えるのは誤りです。
無担保・無保証の融資なら返済しなくてよい?
日本政策金融公庫の「新規開業資金」や「スタートアップ支援資金」などの一部では、無担保・無保証で利用できる場合があります。
しかし、これはあくまで担保提供や第三者保証を求めないという意味であり、借入人本人の返済義務がなくなるわけではありません。「無担保・無保証だから返さなくてもよい」という理解は誤りです。
- 法人の場合:
法人が融資を受けた場合、返済義務の主体は法人そのものです。無担保・無保証の融資であれば、代表者個人が連帯保証人になっていない限り、会社が破産して法人格が消滅すれば、原則として代表者個人に返済義務は及びません。 - 個人事業主の場合:
個人事業主が借り入れた資金は、事業用であっても個人の債務として扱われます。したがって、事業を廃業したとしても返済義務はなくならず、個人としての返済を続ける必要があります。返済が困難な場合は、任意整理・個人再生・自己破産などの債務整理手続によって法的に処理することになります。
たとえ法人であっても、会社の資産を処分してできる限り返済に充てることが求められます。また、個人事業主であれば事業をやめても返済義務は継続します。「無担保・無保証」は保証人や担保がないだけで、債務が消えるわけではないという点を正しく理解しておくことが重要です。
廃業した場合の返済はどうなる?
事業の継続が困難になり、廃業を選択した場合でも、融資の返済義務は原則として残ります。融資は「金銭消費貸借契約」に基づく債務であり、廃業という経営上の判断だけで返済義務が消滅することはありません。まずは融資を受けた金融機関(日本政策金融公庫など)に廃業の事実を速やかに連絡し、今後の返済方法について相談しましょう。
返済できない場合の最終手段「債務整理」とは?
どうしても返済が難しい場合には、任意整理・民事再生(個人は「個人再生」)・自己破産といった手続きが選択肢になります。いずれも債務を法的・私的に調整して生活・事業の再建を図る制度で、方法ごとに効果や要件、デメリットが異なります。判断は弁護士等の専門家と事前に相談したうえで進めるのが原則です。
債務整理の主な種類
債務整理には、主に以下の3つの方法があります。事業の状況や負債額に応じて、最適な方法を選択します。
| 債務整理の種類 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 任意整理 | 裁判所を使わず、債権者と直接交渉して将来利息のカットや分割条件を協議する方法 | 手続は比較的シンプルで、対象とする債務を選べる一方、元本の大幅減額は原則期待しにくい |
| 民事再生(個人再生) | 裁判所に申し立て、再生計画に基づいて大幅に減額された債務を原則3~5年で分割返済する方法 | 個人の場合は「個人再生」として運用され、住宅資金特別条項などにより住宅を維持しつつ再生できる可能性あり |
| 自己破産 | 裁判所に申し立て、一定の財産を換価・配当する代わりに、原則として残債務の支払義務を免除(免責)してもらう方法 | 個人は免責許可が前提。手続き中は一部の資格・職業に一時的制限がかかる点に注意。法人は「免責」という概念はなく、清算を経て法人格が消滅することで債務も消える仕組み |
債務整理が事業に与える影響
債務整理を行うと、信用情報に事故情報としてCIC、JICCには概ね5年、KSCでは7年など期間により登録期間が異なります。その登録期間中は新規借入が極めて困難です。事業を継続しながら債務整理を行う(特に民事再生)ことも可能ですが、取引先からの信用低下など、事業運営には大きな困難がともないます。一方で、法人の破産手続きは原則として事業停止、清算の流れとなり、同一法人での継続は困難です。
創業融資の返済で絶対にやってはいけないこと
創業融資の返済が困難なときに絶対にやってはいけないことは、「金融機関からの連絡を無視する」「違法な金融業者から借り入れる」「事実と異なる説明をする」などになります。これらの行動は、金融機関との信頼関係や交渉の余地をなくすだけでなく、事態をさらに深刻化させる原因になります。
返済が苦しい状況に追い込まれると、冷静な判断が難しくなることがありますが、このような行動は絶対に避けましょう。
金融機関からの連絡を無視する
金融機関からの電話や郵便物を無視し続けるのは最悪の対応です。誠実な対話の機会を自ら放棄することになり、金融機関側の心証を著しく悪化させます。その結果、リスケジュールなどの柔軟な対応は期待できなくなり、早い段階で法的措置に移行されるリスクが高まります。
違法な金融業者(闇金)から借り入れる
返済のための借り増し(いわゆる自転車操業)は危険で、無登録業者(闇金)は厳禁です。貸金業登録のない業者からは借りないのが原則で、違法高金利や過酷な取立てにより状況は急速に悪化します。どうしても資金繰り対策が必要なら、公的制度や正規の金融機関のメニューを検討してください。
事実と異なる説明をする
金融機関との交渉の場で、状況をよく見せようと売上を過大に報告したり、資金の使い道について嘘をついたりしてはいけません。決算書などの資料と照らし合わせれば、虚偽の説明はすぐに発覚します。一度でも嘘がばれると、信頼関係は完全に崩壊し、その後のいかなる交渉も不可能になるでしょう。
創業融資が返せなくなったら、まずは金融機関へ相談を
創業融資の返済が困難になったとき、最も大切なのは一人で抱え込まず、できるだけ早く融資元の金融機関に正直に相談することです。誠実な対応を心がけることで、返済条件の見直し(リスケジュール)など、事業を立て直すための道が開けるかもしれません。
返済を放置すれば、延滞損害金や資産の差し押さえなど、事態は深刻化する一方です。もし金融機関との交渉が難しい場合は、中小企業活性化協議会や弁護士といった専門家の力を借りることも検討しましょう。正しい知識と迅速な行動で、危機的な状況を乗り越えていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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