• 作成日 : 2025年10月24日

住民税は1月1日に日本にいなければ払わなくていい?海外転出による節税の仕組みを解説

住民税の負担を軽減したいと考える方にとって、「1月1日に海外にいれば住民税を節税できる」という情報は魅力的に映るかもしれません。住民税はその年の元日に日本に住所があるかどうかで課税が決まるため、年内に正しく出国し住民票を抜いておけば、翌年度の住民税を合法的に回避できる可能性があります。

しかし、旅行や短期滞在では非居住者と認められないケースもあり、正確な制度理解と手続きが不可欠です。本記事では海外転出による住民税の節税方法や手続き、注意点などを解説します。

海外転出で住民税を節税できる?

海外に転出すれば住民税を払わずに済むと耳にした方もいるでしょう。住民税は「1月1日時点」で日本に住所があるかどうかによって課税が決まるため、年末までに適切に出国すれば翌年度の住民税を回避することが可能です。ただし、正確な手続きとタイミングが伴わなければ逆に課税対象となってしまうケースもあります。

以下では、節税可能な仕組みと理由を解説します。

1月1日に日本に住所がなければ住民税は課税されない

地方税法に基づき、住民税はその年の1月1日に日本国内に住所(住民登録)がある人を対象に、前年の所得に基づいて課税されます。たとえば、2024年中に所得があった場合でも、2025年1月1日時点で日本に住所がなければ、その所得に対する2025年度分の住民税は課税されません。

したがって、翌年の住民税を回避したい場合は、前年の12月31日までに出国し、かつ出国前に住民票を除票する「海外転出届」を市区町村に提出しておく必要があります。逆に言えば、2025年1月1日に出国した場合はその時点でまだ日本に住所があるとみなされ、同年の住民税の納税義務が発生してしまいます。わずか1日の出国日・住民票除票のタイミングで、住民税の納税義務が生じる年度が異なることがあります。

所得500万円の場合、約50万円の住民税を節約可能

住民税の額は所得に応じて変動しますが、2025年9月現在の標準的な課税率では、所得割が10%(都道府県民税4% + 市区町村民税6%)、均等割は自治体ごとに定額(例:5,000円前後)で課されます。

仮に前年に給与所得500万円があった場合、住民税の年間負担額は約50万円前後になるケースが一般的です。

これを、12月末までに海外に転出して1月1日時点で非居住者となることにより、翌年度の住民税が非課税となれば、50万円分の納税を正当な手続きにより節約できる計算になります。ただし、この方法は税法に基づいた合法的な「節税策」である反面、形だけの出国や短期旅行では非居住者と認められず課税される恐れもあるため注意が必要です。

海外転出で住民税非課税にするための条件は?

海外移住を通じて住民税の非課税を目指すには、海外へ出るだけでは不十分です。住民税を合法的に回避するには、税法上の「非居住者」と認定されるための条件を満たす必要があります。

「海外転出届」の提出と1月1日時点での住所不在が必須

住民税の非課税を成立させるには、出国前に市区町村へ「海外転出届」を提出し、住民票を日本から除票する必要があります。これにより、日本国内に住所を有しない「非居住者」として扱われます。

重要なのが、1月1日時点で日本に住所がない状態であることです。これが住民税の課税基準日(賦課期日)であり、その日に住民票が残っていると、たとえ翌日から海外で長期生活を始めたとしても、その年度分の住民税は課税対象となります。したがって、遅くとも前年の12月31日までに転出届を提出し、出国を完了していることが必須条件です。

滞在期間や目的が一時的と判断される場合は非課税と認められないことも

形式的に転出届を出しても、出国の目的や居住状況などの実態が重視され、単なる旅行や短期滞在と判断されると非居住者として認められない場合があります。数週間の出張や観光、数か月程度の語学留学などが「一時的な滞在」とみなされるケースでは、自治体によって住民税の課税対象とされる可能性があります。

江戸川区など一部自治体は、「出国していても、旅行などの一時的な滞在とみなされる場合は住民税を課税する」と明記しています。

参考:1月1日現在、海外へ出国中の場合の住民税の取り扱い|江戸川区

海外転出で住民税非課税にするための手続きは?

住民税を合法的に非課税にするには、海外移住の「意思」と「実態」に加えて、法律に基づいた適切な手続きを完了しておくことが不可欠です。ここでは、海外転出時に必要な手続きを解説します。

海外転出届の提出と住民票の除票手続き

住民税を非課税にする第一ステップは、「海外転出届」を市区町村役場に提出することです。この届出をもって、住民基本台帳(住民票)からの「除票」が行われ、日本国内に住所を有しない非居住者として扱われるようになります。

海外転出届の提出は、出国予定日の14日前から可能です。重要なのは、「転出届の提出=非課税」ではなく、1月1日時点で住民票が国内に存在していないことが確認できるよう、12月31日までに除票が完了していることです。そのため、年末の出国スケジュールは早めに調整し、役所の営業日も確認しておく必要があります。

転出届の手続きには、マイナンバーカードまたは本人確認書類、印鑑などが必要で、届出用紙は窓口または一部自治体の電子申請サービスで取得・提出可能です。転出先住所(海外)も求められるため、現地の居住先が決まっていない場合は、仮の滞在先でも問題ありません。

納税管理人の選任と未納住民税の精算

出国によって日本に住所がなくなる場合は、地方税法により「納税管理人」を市区町村に届け出る義務があります。納税管理人とは、本人の代わりに日本国内で税務書類の受領や納税を行う代理人であり、通常は親族や知人などを指定します。

納税管理人の届出には、所定の申請書を提出し、代理人の署名または承諾書が必要です。自治体によっては、印鑑登録証明書などを求められる場合もあります。未納分の住民税がある場合は、納税管理人が納付を代行するか、出国前に一括清算する必要があります。

会社員で特別徴収(給与天引き)されている場合は、退職時に残額を一括徴収してもらう手続きを雇用主を通じて行うことが一般的です。普通徴収(自分で納付)の場合は、納付書を受け取って支払うか、納税管理人に対応してもらうことになります。

こうした手続きを適切に行っていなければ、出国後も住民税が課され続けたり、納税通知が届かず滞納扱いとなったりする可能性があるため、確実な対応が必要です。

短期の一時帰国や帰国タイミングによる影響は?翌年以降の住民税課税を避けるために

海外転出で一度非課税となっても、帰国のタイミングによっては再び住民税の課税対象になります。1月1日の居住実態が重要な判断基準となるため、一時帰国や本格的な帰国の際にはスケジュール管理が不可欠です。以下に、課税回避のための注意点を解説します。

1月1日に日本に住所があると課税対象に戻る

住民税は毎年1月1日時点の居住地に課税されるため、たとえ海外転出届を出して非居住者となっていても、1月1日に再び日本に住所があれば、その年の住民税が課税されます。たとえば2025年12月に帰国して住民票を再登録すれば、2026年度の住民税(2025年所得分)は発生します。非課税を維持したい場合は、1月2日以降に帰国・再登録するよう調整することが重要です。

一時帰国でも住民票を再登録すると課税の可能性

年末年始に一時的に帰国する場合でも、住民票を再登録すれば形式上「居住者」となり、住民税が課される可能性があります。短期滞在であっても、転入届を提出すれば1月1日時点で日本に住所があると判断されるため、課税対象となるリスクがあります。

したがって、一時帰国中は住民票を再登録しないことが原則です。観光客や一時滞在者として滞在すれば、非居住者としての扱いが継続され、住民税の課税を回避できます。帰国を予定している場合でも、再居住を1月2日以降に設定することで、翌年度の住民税を避けることが可能です。タイミング次第で大きな差が出るため、事前の計画が欠かせません。

海外転出と所得税の関係は?住民税との違いと注意点

住民税と同様に、所得税についても海外転出により「非居住者」となることで課税対象が変わります。ただし、両者は適用基準や影響の範囲が異なるため、混同しないよう注意が必要です。

所得税の非居住者は「生活の拠点」が国外にあることが条件

所得税においても、「居住者」と「非居住者」で課税対象が大きく異なります。原則として、過去1年のうち日本に「住所」または「居所」がある人は「居住者」となり、全世界所得に対して所得税が課されます。一方、生活の本拠が国外に移り、かつ日本に継続的な居住実態がないと判断された場合は、「非居住者」として扱われ、日本国内に源泉がある所得(国内源泉所得)に限って課税されます。

住民税は1月1日時点での「住所の有無」によって一律に課税判断されますが、所得税は実態主義が強く、「どこで生活しているか」「どの程度日本に滞在しているか」といった事実関係に基づき、税務署が判断します。したがって、単に住民票を抜いたからといって、必ずしも所得税の非居住者になれるとは限らない点に注意が必要です。

所得税には「出国税」など高額資産者向けの特別制度もある

所得税においては「国外転出時課税制度(通称:出国税)」も重要です。これは、国外転出時に時価1億円以上の有価証券デリバティブ取引などを保有している場合、未実現の含み益に対して譲渡所得課税が課される制度です。

この出国税は、主に富裕層の課税逃れ対策として2015年に導入されました。国外転出により日本の税制から逃れることを防ぐため、転出時点で保有している資産が売却されたとみなされ、所得税が発生します。上場株式や未上場株、信託受益権などが対象です。

なお、税の納付は一括か、納税猶予(担保提供を条件に5年間の分割納付)を選択できます。住民税ではこうした制度は存在しませんが、所得税では資産規模に応じて特別な課税リスクが発生する点が異なります。

海外転出による税務リスクを最小限に抑えるためには、住民税と所得税それぞれの制度と判断基準を正しく理解し、必要に応じて税理士などの専門家に事前相談することが賢明です。

海外転出後の国民健康保険と年金の取り扱いは?

住民税を非課税にするために住民票を抜くと、同時に日本の社会保障制度からも外れることになります。国民健康保険」と「国民年金」は、住民票に基づいて加入資格が管理されているため、海外転出の手続きによって脱退や任意加入に変わる点に注意が必要です。

国民健康保険は自動的に脱退、医療費全額自己負担のリスクも

住民票を除票すると、国民健康保険(国保)は自動的に脱退となります。(自治体によっては別途資格喪失の手続きが必要な場合もあります。)これにより、日本国内での医療機関を受診した場合、健康保険による3割負担ではなく、医療費が全額自己負担になります。救急搬送や入院が必要な場合、費用が数十万円に達することも珍しくありません。

また、海外渡航中に発生した医療費も、原則として国保からは給付対象外となります。ただし、民間の海外旅行保険やクレジットカード付帯の保険でカバーできる場合もあるため、事前に補償内容を確認し、必要に応じて追加契約を検討すると良いでしょう。

国民年金は「任意加入」扱いに、加入継続には申請が必要

年金制度についても、住民票を抜いた非居住者は、国民年金の「強制加入被保険者」から除外されます。つまり、自動的に納付義務がなくなり、そのまま放置すれば保険料を支払わない状態となります。

ただし、老齢基礎年金を満額で受け取るには、原則として10年以上の保険料納付期間が必要です。転出後も納付を継続したい場合は、「任意加入被保険者」として年金事務所へ届け出を行い、支払いを継続することが可能です。これは将来の年金受給額を確保するうえで非常に重要な選択肢です。

海外転出によって住民税を非課税にできる一方で、医療や年金といった社会保障への影響も大きいため、節税だけでなく長期的な生活設計と併せて判断することが求められます。

節税を目的とした海外転出は計画的に

海外転出による住民税の非課税は、1月1日時点の居住状態に基づく制度的に認められた節税手段です。ただし、非課税の恩恵を受けるには、年内に出国し、住民票を正しく除票しておく必要があります。また、短期の滞在や形式的な転出では非居住者と認定されない場合もあるため、滞在実態や期間にも十分な配慮が求められます。節税だけにとらわれず、確実な手続きとリスク管理をセットで検討しましょう。


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