- 更新日 : 2025年10月21日
法人登記の更正や抹消とは?ケースや必要手続き、費用を解説
法人登記を申請した後で、「役員の名前の漢字を誤った」「住所の番地が違っていた」などのミスに気づいた場合は、内容に応じて、誤記等を直す「更正登記」、登記自体を消す「抹消登記」で対応します。ここでは、よく似た「変更登記」との違いから、ケース別の手続き・必要書類・費用をわかりやすく解説します。
法人登記の訂正方法とは?変更・更正・抹消の違い
法人の登記内容を直す手続きには「変更」「更正」「抹消」があり、状況に応じて使い分けます。これは、後から発生した事実の変化なのか、当初からあった誤りなのかによって、法的な意味合いが異なるためです。
事実の変化が変更、当初からの間違いが更正や抹消
法人登記の訂正について、変更や更正、抹消の3つの手続きの大きな違いは、その原因が「登記した後に発生した事実」なのか、「登記した当初から存在した間違い」なのかという点です。
たとえば、取締役の鈴木さんが結婚して田中さんになった場合は、登記した後に事実が変わったので変更登記となります。一方、もともと田中さんだったのに、申請のタイプミスで鈴木さんと登記してしまった場合は、当初から間違いがあったので更正登記となるでしょう。
変更・更正・抹消の手続きの使い分け
ここでは、「変更登記」「更正登記」「抹消登記」の3つについて、それぞれの目的や原因、具体例を解説します。
変更登記
項目 | 内容 |
---|---|
目的 | 登記事項の更新 |
原因 | 登記した後に、事実が変化した |
具体例 |
|
登録免許税 | 1万円~9万円(登記事由により変わる) 役員変更=1万円〔資本金1億円超は3万円〕、商号変更=3万円、本店移転=3万円/管轄外は計6万円、新株予約権の発行=9万円など |
更正登記
項目 | 内容 |
---|---|
目的 | 登記事項の当初からの錯誤・遺漏の部分的な訂正 |
原因 | 登記を申請した当初から、誤記や脱字があった(錯誤) |
具体例 |
|
登録免許税 | 2万円 |
抹消登記
項目 | 内容 |
---|---|
目的 | 登記事項の抹消(削除) |
原因 | 登記された事項そのものが、法的に無効だった |
具体例 |
|
登録免許税 | 2万円 |
法人登記の更正とは?
更正登記とは、登記内容の一部に誤記などの間違いがあった場合に、その部分だけを訂正する手続きです。登記全体を消すわけではないため、比較的軽微なミスを修正する際に用いられます。
注意点として、更正登記を行っても、元の間違った登記が消えるわけではなく、訂正したという履歴が登記記録上に残ります。
更正登記が必要になる具体例
更正登記は、登記事項と、それを証明する添付書類(株主総会議事録など)の内容が食い違っている場合に必要となるでしょう。
- 役員の氏名・住所の誤記:「渡邊」を「渡辺」と間違えた、住所の番地が違っていたなど。
- 日付の間違い:役員の就任年月日を間違えて登記したなど。
更正登記の手続きと必要書類
更正登記を申請するには、「更正登記申請書」と、間違いがあったことを証明する書類が必要です。 たとえば、役員の氏名を間違えた場合は、正しい氏名が記載されている「株主総会議事録」や「就任承諾書」などを提出します。実務上の運用は管轄登記所に確認しましょう。
- 更正登記申請書:
法務局のウェブサイトでひな形を入手できます。 - 錯誤又は遺漏があることを証する書面:
間違いの内容を証明する書類です。正しい氏名が記載されている「株主総会議事録」や「就任承諾書」の原本など。 - 委任状:司法書士に手続きを依頼する場合に必要です。
更正登記にかかる費用(登録免許税)
更正登記を申請する際にかかる登録免許税は、1件につき2万円となっています。
参照:No.7191 登録免許税の税額表|国税庁
参照:株式会社更正登記申請書|法務省
法人登記の抹消とは?
抹消登記とは、登記された事項自体に無効・不存在などの根本的な瑕疵(無効原因)がある場合に、その登記全体を消す手続きです。単なる表記ミス等を直す更正登記と異なり、原因となる事実がそもそも存在しなかった、法的に成立していなかったと評価できるときに用います。
抹消の対象となる「無効の原因」とは?
商業登記の実務では、次のような場合が典型です。
- 原因事実の不存在:任期が満了していない役員を、誤って重任(再任)として登記してしまった。
- 決議等の欠缺・無効:株主総会の決議を経ていない人物を、誤って取締役に選任されたものとして登記してしまった。
- 根本的手続きの瑕疵:会社設立の手続きに根本的な不備があり、そもそも会社が成立していなかった。
これらは、登記の原因となるべき事実(任期満了や選任決議など)が存在しないにもかかわらず、登記がされてしまったケースといえるでしょう。
抹消登記の手続きと必要書類
抹消登記を申請するには、「抹消登記申請書」と、登記が無効である原因を客観的に証明する書類が必要です。たとえば、任期満了前に誤って重任登記をした場合は、正しい任期がわかる「定款」や、過去の「株主総会議事録」などが該当します。決議が無効であった場合は、その事実を説明する書面などが必要になるでしょう。
- 抹消登記申請書:
どのような登記を抹消するのかを明記します。 - 登記の無効原因を証する書面:
なぜその登記が無効なのかを客観的に証明する書類です。定款や株主総会議事録など - 利害関係人の承諾書:
登記を抹消することで不利益を受ける第三者(利害関係人)がいる場合は、その人の承諾書が必要になることがあります。 - 委任状:
司法書士に手続きを依頼する場合に必要です。
抹消登記にかかる費用(登録免許税)
抹消登記を申請する際にかかる登録免許税も、更正登記と同様に1件につき2万円です。
間違えた法人登記を放置するリスクとは?
登記の間違いは、単なるタイプミスでは済みません。それを放置すると、融資や許認可の申請、重要な契約の場面で、思わぬ不利益につながるおそれがあります。
金融機関の融資審査で問題になる
金融機関は、融資の審査の際に必ず登記事項証明書を取得し、内容を確認します。もし、代表取締役の住所が現在のものと異なっていたり、そもそも登記されている情報に誤りがあったりすると、本人確認ができず、審査が中断してしまう可能性があります。
許認可の申請や更新ができない
建設業や飲食業など、事業を行うために許認可が必要な業種は多くあります。これらの許認可を申請・更新する際には、登記事項証明書の提出が求められます。もし、登記されている事業目的と、申請する許認可の内容が一致していなければ、手続きが進められません。
取引先からの信用を失う
大口の取引を開始する際などには、相手企業が信用調査のために登記事項証明書を確認することがあります。その際に、情報が古かったり、誤りがあったりすると、「管理ができていない会社」という印象を与え、信用を損なうことにもなりかねません。
M&Aや事業承継の際に支障が出る
M&A(企業の合併・買収)や事業承継の際には、専門家による詳細な法務調査(デューデリジェンス)が行われます。この過程で登記の誤りが発覚すると、是正のために多くの時間と手間がかかり、最悪の場合、交渉が破談になる原因となることもあります。
法人登記の抹消・更正でよくある質問
ここでは、登記の訂正手続きに関して、多くの人が抱く疑問についてQ&A形式で回答します。
抹消された登記を元に戻す「回復登記」とは?
何らかの理由で登記が不当に抹消されてしまった場合に、その登記を元通りに復活させるための手続きが「回復登記」です。たとえば、手続きの誤りで、まだ存在するはずの支店の登記が抹消されてしまった、といったケースで利用されます。利害関係人の承諾が必要など、手続きは複雑になります。
自分で手続きできる?司法書士に頼むべき?
更正・抹消登記は、ご自身で手続きすることもできます。しかし、なぜその登記が誤り・無効なのかを法的に証明する必要があるため、変更登記よりも専門的な知識が求められます。添付する証明書類の判断なども難しいため、不安な場合は、登記の専門家である司法書士に相談するのが確実な方法といえるでしょう。
法人登記の間違いは速やかに修正しよう
法人登記の内容に間違いを見つけた場合、その内容に応じて「更正登記」または「抹消登記」という方法で修正しなくてはなりません。登記情報は会社の信用力の基礎となるため、誤りを放置すると、融資や取引の際に不利益を被るおそれがあります。
この記事で解説した「変更」「更正」「抹消」の違いを理解し、ご自身の状況に合った手続きを、速やかに行いましょう。もし判断に迷う場合は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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