• 作成日 : 2025年9月16日

訪問鍼灸の開業マニュアル|手続きや儲からないと言われる理由、失敗しないポイントまとめ

訪問鍼灸での開業は、地域医療に貢献しながら自身の専門性を活かせる、やりがいのある選択肢です。超高齢社会の到来により、在宅での施術ニーズは年々高まっており、将来的な需要増加が期待されます。

この記事では、訪問鍼灸の開業マニュアルとして、必要な手続きから資金計画、そして事業成功のための集客戦略まで詳しく解説します。

訪問鍼灸のビジネスモデルと仕組み

訪問鍼灸は、施術者が患者様の自宅や介護施設へ直接出向き、鍼灸施術を提供するサービスです。主な対象者は、寝たきりや歩行困難などの理由で自力での通院が難しい方々です。

訪問鍼灸の大きな特徴は、所定の疾患であり、医師の同意があるなど、条件を満たせば健康保険適用となる場合がある点にあります。健康保険が適用されれば、、患者様は少ない自己負担で継続的な施術を受けられます。

店舗型鍼灸院との違い

店舗型とは異なり、大きな設備投資や高額な家賃が不要なため、比較的少ない初期費用で開業できるのが訪問鍼灸の大きなメリットです。また、商圏が店舗の立地に縛られず、依頼があれば広範囲での活動が可能です。

高齢化社会での訪問鍼灸の役割

日本の高齢化率は上昇傾向にあり、在宅でのケアを必要とする方の数も増加しています。訪問鍼灸は、痛みの緩和や機能回復といった身体的なアプローチだけでなく、定期的な訪問によるコミュニケーションを通じて、患者様の精神的な安心感につながることもあります。地域包括ケアシステムの一員として、医師やケアマネージャーと連携しながら在宅療養者を支える専門職として、その重要性は今後ますます高まっていくでしょう。

訪問鍼灸の開業に必要な資格と手続き

訪問鍼灸を事業として始めるには、専門家としての国家資格はもちろん、行政への届出や保険を取り扱うための手続きが不可欠です。ここでは開業に必要な資格と具体的な手続きの流れを解説します。

開業に必要な国家資格

訪問鍼灸を開業するためには、はり師、きゅう師の国家資格が必須です。これらの資格を取得していなければ、鍼灸施術を業として行うことは法律で禁じられています。あん摩マッサージ指圧師の資格も併せて持っていると、提供できるサービスの幅が広がり、より多くの患者様のニーズに応えることが可能になります。

開業に必要な届出

個人事業主として訪問鍼灸を始める場合、いくつかの届出が必要です。

  1. 保健所への届出
    施術所の所在地を管轄する保健所に「施術所開設届」を提出します。出張専門の場合は、多くの自治体で「出張業務開始届(出張届)」という別様式の届出を求めており、開業後○日以内(例:10日以内)という期限が設けられていることが一般的です。自治体ごとに扱いが異なるため、必ず事前に管轄の保健所へ確認しましょう。
  2. 税務署への届出
    事業を開始するにあたり、納税地を管轄する税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を提出します。これにより、事業の開始を税務上申告したことになります。

保険請求(療養費)のための手続き

訪問鍼灸で健康保険を取り扱うためには、地方厚生局へ受領委任の取扱いに関する申出を行う必要があります。この手続きを完了させることで、患者様に代わって施術者が保険者へ療養費を請求できるようになります。手続きには時間がかかる場合があるため、開業予定日から逆算して早めに準備を始めることが重要です。

参考:はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の施術に係る療養費の受領委任に関する申し出|関東信越厚生局

訪問鍼灸の開業に必要な資金

訪問鍼灸は店舗型に比べて低コストで開業できるとはいえ、事業を軌道に乗せるためには適切な資金計画が欠かせません。具体的にどのような費用が発生するのかを把握し、資金計画を立てましょう。

自宅開業とテナント開業の費用比較

開業形態は、大きく分けて自宅を事務所とする場合と、別途テナントを借りる場合があります。自宅開業であれば、家賃や保証金といった費用がかからないため、初期投資を大幅に抑えることが可能です。一方、テナントを借りる場合は数十万から百万円以上の初期費用が見込まれますが、プライベートと仕事の区別がつけやすい、社会的な信用を得やすいといった側面もあります。

車両や備品などの初期投資

  • 車両
    自動車やバイクの購入費またはリース代
  • 施術道具
    鍼や艾、消毒用具、タオルといった消耗品
  • 事務用品
    カルテ管理やレセプト作成のためのパソコンと専用ソフト、プリンター
  • 営業ツール
    名刺や事業内容を説明するパンフレットの作成費

規模により開業資金は異なりますが、50万円〜300万円程度になるケースもあります。

資金調達の方法と利用できる補助金・助成金

自己資金だけで不足する場合は、資金調達を検討します。日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、新規開業者および開業後おおむね7年以内が対象で、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)、設備資金は最長20年・運転資金は最長10年の返済期間(据置期間あり)が設定されています。女性・若者・シニアなどは特別利率が適用される場合があります。

また、国や地方自治体が提供する補助金や助成金も活用できます。例えば、小規模事業者持続化補助金は、販路開拓にかかる経費の一部を補助してくれます。利用できる制度は時期によって変わるため、中小企業庁の公式サイトなどで常に最新情報を確認しましょう。

訪問鍼灸の開業に必要な事業計画書

訪問鍼灸の開業を成功させるには、事業計画書が必要です。

事業計画書を作成する目的

事業計画書は、自身の事業内容や収益性を客観的に整理し、目標達成までの具体的な行動計画を明確にするために作成します。これにより、事業の方向性がブレなくなり、課題やリスクを事前に把握することができます。

事業計画書に盛り込むべき項目

  • 事業の理念と目的
    なぜ訪問鍼灸を始めるのか、どのような社会貢献をしたいのか。
  • サービス内容
    対応する症状、施術内容、料金体系、保険適用の有無など。
  • ターゲット
    主な対象者像(年齢、性別、疾患など)
  • 市場・競合分析
    活動エリア内の高齢者人口、競合となる他の治療院の状況を分析
  • 集客・営業戦略
    誰に、いつ、どのようにしてサービスを知ってもらうかの具体的な計画
  • 収支計画
    開業資金、運転資金、月々の経費、収益、利益のシミュレーション

訪問鍼灸は儲からないと言われる理由

訪問マッサージが儲からないと言われる背景には、いくつかの理由が考えられます。

  • 集客の難しさ
    特に開業初期は患者様が少なく、収入が安定しない時期が続きます。
  • 煩雑な事務作業
    保険請求の事務作業は専門的で時間がかかります。請求漏れや書類不備による差し戻しが起こると入金が遅れ、資金繰りが悪化する原因になります。
  • 非効率な移動時間
    移動時間は売上に直結しないため、効率的なスケジュール管理ができないと収益性が低下します。

訪問鍼灸の平均年収

一般的に、鍼灸師の平均年収は330万〜550万円程度で、大都市の場合は600万〜900万円程度になるケースもあるそうです。収益は施術単価と施術回数で決まります。安定して施術に入れる患者様の数をいかに増やせるかが収益を左右します。多くの患者様から信頼を得られれば、年収1000万円以上も目指せるでしょう。

訪問鍼灸の開業に失敗しないための戦略

訪問鍼灸事業を成功させる上で、施術技術と同じくらい重要なのが集客と営業です。ここでは、効果的な集客と営業の方法を具体的に見ていきましょう。

ケアマネージャーへの営業

訪問鍼灸の患者様を紹介してくれる重要な連携先が、居宅介護支援事業所に所属するケアマネージャーです。彼らは在宅療養者のケアプランを作成しており、常に利用者に適したサービスを探しています。定期的に事業所を訪問し、自身の施術方針や人柄、サービス内容を丁寧に説明して信頼関係を構築することが、安定した紹介につながります。一度の訪問で終わらせず、ニュースレターを送るなど継続的な接触を図りましょう。

WebサイトやSNSの活用

公式なWebサイトは事業の信頼性を示す名刺代わりです。サービス内容、料金体系、対応エリア、そして自身のプロフィールを分かりやすく掲載しましょう。患者様やそのご家族が、安心して問い合わせできる窓口となります。

また、FacebookやInstagramなどのSNSは、地域住民との接点を作るのに有効です。日々の活動や健康に関する情報を発信し、親近感を持ってもらうことで、潜在的な顧客層へアプローチできます。

訪問鍼灸の開業を成功させましょう

訪問鍼灸の独立開業に成功するには、資格取得後の行政手続きや保険請求の仕組みを正しく理解し、綿密な資金計画を立てることが最初のステップです。

そして、儲からないという不安を払拭するには、失敗事例から学び、開業後の収入が安定するまでの運転資金をしっかり確保しておく必要があります。

最も重要なのは、ケアマネージャーへの営業やブログでの情報発信といった、地道で継続的な集客活動です。これらの準備と戦略的な行動が、あなたの訪問鍼灸事業を成功へと導きます。情熱と計画性を持って、地域に必要とされる専門家としての一歩を踏み出してください。


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