- 作成日 : 2025年8月19日
合同会社でも資金調達はできる!融資・補助金・出資の活用法を解説
合同会社は、少人数での設立が可能で、運営の自由度が高い会社形態として注目されています。株式会社に比べて設立費用や管理コストを抑えられる一方、資金調達の面では制約があることも否定できません。
それでも、公的融資や補助金、クラウドファンディングなどを組み合わせれば、合同会社でも着実に資金を調達することが可能です。本記事では、合同会社が直面しやすい資金調達の課題と解決策をケース別に解説し、事業ステージに応じた資金調達方法を紹介します。
目次
合同会社とは
合同会社は2006年の会社法改正で導入された新しい会社形態です。設立や運営の自由度が高く、小規模事業者やスタートアップに選ばれています。ここでは、株式会社との違いにも触れながら、合同会社について解説します。
合同会社の仕組み
合同会社(LLC*)は、出資者全員が会社の経営に参加できる「社員(構成員)」となる形態です。一人一議決権を原則として意思決定がなされますが、定款において出資額比例議決など自由に変更することも可能で、運営の柔軟性が特徴です。また、利益配分については出資比率が原則ですが、定款で自由に変更可能です。法人格を有し、社会的には株式会社と同様にビジネス活動が行えます。
*LLC:Limited Liability Company(アメリカのLLCとは制度が異なり、課税方法などにおいて違いがあります。区別して記載する場合には「Japanise LLC」などと記載します。)
株式会社との違い
株式会社は「株主」と「取締役」が分かれており、株主が出資し、取締役が経営を行います。株式の発行が可能で資金調達の幅も広いのが特徴です。一方、合同会社では株式を発行できず、出資者が経営に直接関与するため、外部投資家からの資金調達には限界があります。ただし、設立費用が低く、決算公告義務がないなど、コスト面でのメリットがあります。また、実務上においては、合同会社は知名度・信用度で株式会社に劣る場合があると言えます。
合同会社の資金調達の特徴と課題を克服する方法
合同会社は少人数・低コストで設立できる柔軟な会社形態ですが、資金調達の面では株式会社と比べていくつかのハードルがあります。ここでは、よくある課題とそれに対する解決策をセットで解説します。
株式発行による大規模調達ができない
合同会社は株式会社と異なり、株式を発行できません。このため、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルなどから出資を募る形式の資金調達はできず、自己資金や借入、補助金などの間接的な手段に頼ることになります。
解決策
資金が必要になったタイミングで、株式会社への組織変更を検討するのが一つの方法です。実際、創業時は合同会社でスモールスタートし、事業が拡大するタイミングで、資金調達の選択肢を広げるために株式会社へ組織変更するケースが見られます。また、株式によらない資金調達手段として、クラウドファンディングや社債(私募債)を活用する方法もあります。これらは必ずしも株式会社である必要はなく、知名度や共感性のある事業であれば合同会社でも実行可能です。
また、組織変更までせずに、少人数私募債や社債型クラウドファンディングという解決方法も考えられます。
信用力が低く融資に不利になりやすい
合同会社は株式会社に比べて設立の歴史が浅く、社会的認知度も限定的と言えます。そのため、銀行などの金融機関から見た信用力が低く、設立間もない段階では融資審査において不利になるケースがあります。
解決策
小規模企業向けの政府系融資制度を活用するのが有効です。たとえば、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」などの創業融資は、法人格の種類にかかわらず、事業計画と経営者の資質が評価されるため、合同会社でも利用しやすい制度です。あわせて、定期的な財務報告の整備や、商工会・認定支援機関などの第三者からの推薦状を用意することで、信用力の補強にもつながります。
また、創業時から事業実績を着実に積み重ねることが中長期的な信用力向上の基本です。納税や支払いを滞りなくこなし、取引先との関係を継続的に維持することが、金融機関や公的機関からの信頼を高める要素になります。
担保や保証が求められる場面が多い
合同会社は比較的規模が小さく、固定資産を多く保有していないことも多いため、金融機関からの融資にあたっては担保や経営者個人の連帯保証を求められることがあります。2023年のガイドライン改正により、金融機関には個人保証を避ける努力義務が課されましたが、現実には財務基盤の弱い合同会社には保証が求められる例も少なくありません。
解決策
信用保証協会の保証付き融資を活用することが有効です。保証協会が信用リスクの一部を引き受けることで、金融機関側も融資しやすくなり、保証人の負担を軽減できます。また、保証を不要とする制度融資(無保証人型)や無担保融資枠のある金融機関を選ぶなど、制度面での選択肢を積極的に活用することもポイントです。
さらに、決算書の健全性を確保し、自己資本比率を高めるよう日頃から経営管理を行うことで、将来的に担保不要の融資枠が広がる可能性もあります。
2023年の経営者保証ガイドライン改正より従来の経営者保証より拡大していることも追い風となっています。
合同会社で資金調達が必要となるケースと適した手段
合同会社は小規模で機動的に設立できる一方、資金調達の面では選択肢が限られることもあります。ここでは、資金が必要になる典型的な場面ごとに、最適な資金調達方法を紹介します。
起業・創業時:日本政策金融公庫の創業融資+補助金
設立費用自体は少額で済む合同会社ですが、開業準備や仕入れ、人件費などで想定以上に初期資金が必要になることがあります。このような創業時には、日本政策金融公庫の新創業融資制度を活用すると良いでしょう。無担保・無保証人で利用できることもあり、創業間もない企業にとって大きな資金源となります。また、たとえば東京都の「創業助成事業」(旧:地域創造的起業補助金)のような、自治体が実施する創業支援の助成金・補助金を併用すれば、返済不要の支援金で初期費用の一部をまかなうことも可能です。
日々の運転資金:少人数私募債の発行
仕入れや家賃、給与など日常的に発生する支払いに備えて、手元資金に余裕を持たせたい場面もあります。その場合、少人数私募債(社債)の発行が一つの手段です。50人未満の投資家を対象としたこの私募債は、償還期間を自由に設計でき、元本は最終返済日に一括払いとすることもできるため、初期のキャッシュフローを圧迫せず資金を確保できます。
販路拡大・広告宣伝:小規模事業者持続化補助金
事業を軌道に乗せるには、販売促進や広告宣伝が不可欠ですが、こうした活動には多額の費用がかかることもあります。この場面では、小規模事業者持続化補助金が適しています。ホームページ制作、チラシ作成、広告掲載といった経費の一部が補助され、販路開拓を支援してくれます。返済不要でありながら、申請ハードルも比較的低いため、活用しやすい制度です。ただし、補助金は事業実施後の受給であるため、日本政策金融公庫からの融資等などとの組み合わせで考えるほうがよいでしょう。
人材採用・育成:キャリアアップ助成金
優秀な人材を雇用し、スキルアップさせたい場合には、キャリアアップ助成金が役立ちます。これは厚生労働省が運営する助成金制度で、非正規雇用者の正社員化や待遇改善、教育訓練の実施などに対して一定の要件を満たす場合に資金が支給されます。人件費や研修費に活用でき、職場環境の整備と人材定着にもつながることから、事業の安定化を後押しします。
売上不振や資金難:自治体の制度融資の活用
一時的に業績が悪化し資金繰りが厳しい場合には、自治体の制度融資を検討します。制度融資は、自治体が保証関連や利子補給を支援することで、民間金融機関からの借入をしやすくする公的制度です。低金利・長期返済が特徴で、将来的に再建可能と判断された事業であれば、返済能力が一時的に低くても融資が受けられる可能性があります。通常の融資が難しい場面でこそ、制度融資の出番です。
返済リスクを抑えたい:信用保証協会+補助金併用
借入を検討する際には、「返済できなかったらどうしよう」という不安がつきまとうことがあります。そんなときには、信用保証協会の保証付き融資を利用すると安心です。この制度には、「負担金方式」と「部分保証方式」の2つの制度があり、後者においては、原則として保証協会が借入額の80%を保証する(金融機関が20%のリスクを負う「責任共有制度」)ため、金融機関のリスクが軽減されます。※負担金方式では100%保証の対象となる場合もあります。
さらに、補助金を併用すれば、借入額そのものを減らし、返済負担を抑える効果も期待できます。
合同会社の資本金・出資比率が経営に与える影響とは
合同会社は資本金1円から設立できる手軽さが魅力ですが、資本金の金額や出資比率は、金融機関や投資家からの評価に影響を及ぼします。ここでは資金調達との関係を整理し、資本金設計の考え方を解説します。
資本金の額が信用力に与える影響
合同会社は株式会社と違い、最低資本金の制限がありません。そのため、1円でも設立できますが、実際のビジネスにおいては資本金が少なすぎると信用を得にくくなるという側面があります。たとえば、金融機関からの融資審査や取引先との与信判断において、資本金額は「会社の財務基盤」や「事業継続の覚悟」を示す指標の一つと見なされます。
設立当初に金融機関へ融資を申し込む場合、自己資金の有無が重視されますが、資本金はそのまま「自己資金の証明」として扱われるため、ある程度まとまった額を設定しておくとプラスに評価されやすくなります。目安としては、事業開始後6ヶ月程度の運転資金をカバーできる額を資本金とするのが現実的です。
出資比率と意思決定の関係
合同会社の特徴として、出資者=社員(いわゆる経営参加者)となる点が挙げられます。まず、定款により誰がどの程度出資しているかによって、会社の意思決定権をを決めることが可能です。
次に、利益配分は原則として出資比率に応じて行われます。このように出資比率に基づいて資本と経営権を一致させることができるという点では合理的ですが、第三者からの出資を受け入れたい場合に柔軟性が欠けることがあります。
たとえば、ベンチャーキャピタルや個人投資家から出資を受ける場合、出資者は議決権や経営権への関与を求めることがあり、合同会社ではその調整が難しくなる可能性があります。さらに、出資を受ける=社員として迎え入れることになるため、経営権や利益分配の設計を明確に契約書で定めておかないと、将来的に意思決定が分散し調整が難しくなるリスクがあります。
そのため、複数の出資者がいる合同会社では、業務執行権や報酬の取り決め、定款の設計を慎重に行うことが重要です。将来的に追加出資を検討する場合は、株式会社への組織変更も視野に入れると、資本政策の自由度が高まり、資金調達戦略に柔軟性を持たせることができます。
合同会社がベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から出資を受けるには
合同会社は原則として株式を発行できないため、投資を受けにくいと思われがちです。しかし、契約設計や将来的な組織変更を通じて、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの資金調達も不可能ではありません。
合同会社は株式発行ができないという制約がある
合同会社は株式会社と異なり、株式という形で出資を受けることができません。そのため、投資家が株式の取得によって資本参加し、後にキャピタルゲイン(持分の売却益)を得るという典型的なベンチャー投資のモデルが適用しにくい構造となっています。
投資家の多くは、将来的な株式上場(IPO)やM&Aを見越して出資を行いますが、合同会社のままではそのような出口戦略が描きにくいため、投資先として敬遠される傾向があります。加えて、出資者が合同会社の「社員(構成員)」となることで、経営権に関与せざるを得ない点も投資家にとってリスクと捉えられることがあります。
契約ベースでの出資スキームを活用する
それでも合同会社に出資を検討するベンチャーキャピタルやエンジェル投資家が存在するのは、契約によって柔軟な対応が可能だからです。たとえば、投資家を「業務執行権のない社員」として迎え入れる方法があります。これにより、投資家は利益配分や将来的な分配金に参加しながら、経営の実務には関与せずに済みます。
また、出資契約とは別に、将来的に株式会社へ組織変更することを約束する投資契約(いわゆる転換条項付き)を結ぶ方法もあります。このスキームでは、合同会社の間は利益分配や経営アドバイスに限定した関与とし、資本政策が必要になったタイミングで株式会社化し、株式に転換する仕組みを前提とします。
このような仕組みを設計する際には、定款の見直しや投資契約書の詳細な取り決めが必要となるため、法律・会計の専門家の助言を得ることが前提となります。
株式会社への組織変更による本格的な資金調達へ
合同会社がベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から継続的に出資を受け、将来的にIPOや大型の第三者割当増資などを視野に入れるのであれば、いずれは株式会社への組織変更が求められる局面がやってきます。
株式会社であれば、投資家に対して株式の発行が可能となり、議決権の設計やストックオプションの発行など、投資スキームの柔軟性が一気に広がります。合同会社としての創業は維持コストを抑える合理的な選択ですが、出資を受けながらスケールするには、組織形態を戦略的に見直すことも重要です。
合同会社の特性を踏まえて資金調達戦略を構築しよう
合同会社は設立のしやすさや運営の柔軟さが魅力ですが、資金調達の面では独自の制約があります。株式発行による出資を受けられないことや、信用力で不利になることもありますが、補助金や制度融資、私募債、契約型出資などを適切に組み合わせることで対応可能です。また、将来の成長段階に応じて株式会社への組織変更を検討することで、より広い資金調達の選択肢が得られます。合同会社の特性を理解したうえで、自社に合った調達手段を計画的に選ぶ姿勢が、持続的な経営につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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