• 作成日 : 2025年6月20日

営業所の法人登記は必要?支店との違いや不要なケース、自分で届出する場合の注意点も

営業所(支店)を設置する際、避けて通れないのが法人登記の問題です。そもそも自社の営業所に登記は必要なのか、登記することでどんなメリットやデメリットがあるのか、手続きはどう進めれば良いのか、費用はどれくらいかかるのか。

この記事では、営業所の法人登記の基本から、登記が不要なケース、手続きの流れ、費用、さらには登記後の注意点まで詳しくご紹介します。

営業所の法人登記とは

会社の事業規模が拡大し、本店とは別の拠点で継続的に営業活動を行う場合、「営業所」の設置を検討することがあります。そして、この営業所が法的に認められ、公示されるためには「法人登記」が必要となるケースがあります。ここでは、まず営業所の定義と法人登記の基本について解説します。

営業所の定義

一般的に「営業所」という言葉は広い意味で使われますが、会社法における「支店」と同義で扱われることが多く、登記が必要となるのはこの「支店」に該当する場合です。

支店とは、本店とは独立して営業活動を行い、独自の判断で契約締結などを行える権限を持つ拠点を指します。支店長などの代表者が置かれ、ある程度の独立した意思決定が可能です。支店に該当しない拠点は、法的な意味での「営業所(支店)」とはみなされず、原則として登記の必要はありません。

「営業所」という名称であっても、その場所における業務実態が会社法上の「支店」に該当するかどうかが登記の要否を判断する上で重要になります。

営業所の法人登記が必要な理由

新たに設置する営業所が会社法上の「支店」に該当する場合、会社法に基づき、本店所在地を管轄する法務局において登記することが義務付けられています(会社法第911条3項15号、第915条1項)。この登記を行うことで、以下のような目的が果たされます。

  • 取引の安全性の確保
    営業所の存在や権限の範囲が公示されることで、取引先はその営業所と安心して取引を行うことができます。
  • 責任の明確化
    営業所における法律行為の責任の所在が明確になります。
  • 社会的信用の向上
    登記されていることで、しっかりとした組織体制を持つ企業であるという印象を与え、社会的信用が高まります。

登記を怠った場合、過料の制裁を受ける可能性があるため注意が必要です(会社法第976条1項)。

営業所の法人登記を検討すべきケース

以下のような場合、営業所(支店)の設置と法人登記を検討しましょう。

  • 特定地域での本格的な事業展開と顧客獲得を目指す場合。
  • 現地での迅速な意思決定や契約締結が必要な場合。
  • 業務上、営業所ごとの許認可が必要な場合(建設業、宅建業など)。
  • 地方金融機関との取引を円滑に進めたい場合。

自社の事業戦略に基づき、営業所設置と登記の必要性を判断してください。

営業所の法人登記が不要なケース

全ての「営業所」が登記を必要とするわけではありません。登記が法的に不要なのは、拠点が会社法上の「支店」の実態を持たない場合です。

連絡事務所、情報収集拠点、単なる作業場所や倉庫など、独立した営業活動や契約締結権限を持たない拠点は本店に従属し、独自の意思決定権限が限定的なため、通常は支店とみなされません。

営業所の法人登記をしない場合のリスク

一方で、実質的に支店としての機能(独自の営業活動、契約締結権限など)を持つにもかかわらず、その登記を怠った場合、以下のリスクが生じます。

  • 過料の制裁
    会社法第976条1項に基づき、代表者個人が100万円以下の過料に処せられる可能性があります。
  • 社会的信用の低下
    取引先が登記事項証明書で支店の存在を確認できないため、不信感を抱かれたり、重要な取引を見送られたりする可能性があります。
  • 法律行為の効力の問題
    支店名義で行った契約の効力について、後日争いが生じるリスクも否定できません。
  • 許認可の問題
    業種によっては、支店登記が許認可の前提条件となっている場合があり、無許可営業とみなされるリスクがあります。

営業所が会社法上の支店の定義を満たしているか慎重に判断し、該当する場合は速やかに登記しましょう。不明な点は専門家にご相談ください。

営業所の法人登記をするメリット

営業所(支店)の法人登記は、事業展開において多くのメリットをもたらします。

社会的信用の向上

登記簿に営業所の情報が記載されることで、取引先や顧客からの信頼性が高まります。特に新規取引先の開拓において有利に働くことがあります。また、独自の財務諸表を作成できるため、地方銀行・信用金庫・信用組合など地域の金融機関からの評価向上にも繋がり、融資審査などで好影響を与える可能性があります。

営業活動の円滑化

営業所名義での契約締結や銀行口座の開設が可能となり、地域に根ざしたスピーディーな営業活動が展開できます。また、許認可が必要な事業の場合、営業所単位で許認可を取得できるケースがあります。

人材採用の促進

その地域に正規の拠点があることを示すことで、地元の人材を採用しやすくなります。通勤の利便性などもアピールポイントになります。

権限委譲による意思決定の迅速化

支店長などに一定の権限を委譲することで、本店を通さずに迅速な意思決定が可能となり、ビジネスチャンスを逃しにくくなります。

節税効果の可能性

法人住民税の均等割は、資本金等の額や従業員数に応じて課税されますが、自治体によっては営業所(支店)があることで、本店とは別に均等割が課税されるものの、全体の税負担が軽減されるケースもごく稀にあります。ただし、基本的には負担増になることが多い点に注意が必要です。税務の専門家である税理士に相談することをおすすめします。

営業所の法人登記をするデメリット

一方で、いくつかのデメリットや負担も伴います。

コストの増加

  • 登記費用:営業所(支店)設置登記には登録免許税(1箇所につき6万円)がかかります。司法書士に依頼する場合は別途手数料も発生します。
  • ランニングコスト:事務所家賃、光熱費、通信費、人件費など、営業所維持のための固定費が増加します。
  • 法人住民税の均等割:本店とは別に、営業所が所在する自治体にも法人住民税の均等割(最低でも年間7万円程度)を納付する必要があります。

管理業務の増加

営業所の経理処理、勤怠管理、契約管理など、本社側の管理業務が増加し、負担が大きくなる可能性があります。内部統制の観点からも、適切な管理体制の構築が求められます。

登記手続きの手間

営業所の設置、移転、廃止などの際には、その都度登記申請手続きが必要となり、費用と手間がかかります。

責任範囲の明確化とリスク管理

営業所でのトラブルや不祥事が会社全体の信用問題に発展するリスクがあります。支店長の権限濫用などを防ぐためのガバナンス体制を整えることが重要です。

これらのメリット・デメリットを比較検討し、自社の財務的体力や事業戦略に照らし合わせて、営業所登記の是非を判断しましょう。

営業所の法人登記手続きの流れと必要書類

営業所の法人登記(支店設置登記)は、法務局に対して申請を行います。ここでは、一般的な手続きの流れと必要となる書類について解説します。

営業所(支店)設置の決定機関

営業所(支店)をどこに設置するか、いつ設置するかといった具体的な内容は、会社の機関設計によって決定する機関が異なります。

  • 取締役会設置会社:取締役会の決議によります。
  • 取締役会非設置会社:取締役の過半数の一致、または定款の定めによります。

登記手続きの一般的な流れ

  1. 営業所(支店)設置の決定
    上記の通り、取締役会または取締役の過半数の一致等により、営業所の設置場所、設置日などを決定します。
  2. 必要書類の準備
    後述する登記申請に必要な書類を準備します。
  3. 登記申請書の作成
    法務局のウェブサイト等で入手できる様式に基づき、支店設置登記申請書を作成します。
  4. 法務局への登記申請
    本店所在地を管轄する法務局に登記申請します。申請期限は、営業所を設置した日から2週間以内です(会社法第915条1項)。なお、会社法において、2022年9月1日から支店所在地における登記は廃止されました。
  5. 登記完了
    申請後、法務局による審査が行われ、不備がなければ1週間~2週間程度で登記が完了します。登記完了後、登記事項証明書を取得して内容を確認しましょう。

登記申請の必要書類

一般的な株式会社の場合の主な必要書類です。

  • 支店設置登記申請書
  • 取締役会議事録(取締役会設置会社)または取締役の過半数の一致を証する書面(取締役会非設置会社)
  • 委任状(代理人に依頼する場合)
  • 登録免許税納付用収入印紙(6万円/1営業所)

添付書類や押印については事前に法務局や司法書士にご確認ください。

営業所の法人登記を自分で行う場合の注意点

営業所の設置登記は、司法書士に依頼せず、ご自身で行うことも可能です。その場合のポイントと注意点は以下の通りです。

事前の情報収集と準備

法務局のウェブサイトで、最新の申請書様式や記載例、必要書類リストを必ず確認しましょう。管轄法務局に事前に相談窓口があれば利用し、不明な点を解消しておくとスムーズです。

書類作成の正確性

登記申請書や議事録などの書類は、記載事項に漏れや誤りがないよう細心の注意を払って作成します。軽微なミスでも補正指示を受け、手続きが遅れる原因となります。

時間の確保

書類の準備、作成、法務局への提出、不備があった場合の対応など、思った以上に時間がかかることがあります。特に初めての場合は、余裕を持ったスケジュールで進めましょう。

登録免許税の納付

収入印紙を事前に購入し、申請書に貼付して納付します。金額に誤りがないように注意してください。

専門家への依頼との比較検討

自分で手続きを行うことで司法書士への報酬は節約できますが、時間と手間がかかります。また、書類作成の専門知識も必要です。本業が忙しい場合や、手続きの正確性・迅速性を重視する場合は、専門家である司法書士に依頼するメリットも大きいです。費用対効果を考慮して判断しましょう。

登記完了後の確認

登記が完了したら、必ず登記事項証明書を取得し、登記内容に誤りがないか確認してください。ご自身で手続きを行う際は、正確性と期限遵守を特に意識することが重要です。

営業所の法人登記にかかる費用

営業所の法人登記には、主に登録免許税と専門家への依頼費用が発生します。事前に予算を把握しておくことが大切です。

登録免許税

営業所(支店)設置登記の登録免許税は、1営業所につき6万円です。

司法書士への依頼費用

司法書士報酬は、一般的に数万円から10万円程度が相場です。登記相談、書類作成、申請代行などが含まれます。

その他発生しうる費用

登記事項証明書取得費(1通数百円)、印鑑証明書取得費(1通数百円)、交通費・郵送費など。

総費用は、自身で行う場合は6万円+α、司法書士依頼の場合は10万円~20万円程度が目安です。

営業所の法人登記で事業を成長させよう

営業所の法人登記は事業拡大の重要な一手です。登記による社会的信用の向上、地域密着型営業の展開といったメリットが期待できます。登記不要となるケースや登記しないリスクの理解も肝心です。

一方でコスト増、管理負担増についても考慮が必要でしょう。手続きには期限があり、登記後の税務署等への届出も必須です。不安な場合は、司法書士等の専門家への相談も有効です。営業所の法人登記を適切に行うことで、更なる事業成長の可能性が広がります。


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