- 作成日 : 2025年6月20日
創業融資はいくらまで借りられる?日本政策金融公庫や銀行融資などの借入限度額を解説
「創業融資っていくら借りられるんだろう?」という疑問を抱える起業家の皆さんへ。この記事では、あなたの夢を実現するための第一歩となる「創業融資」について、日本政策金融公庫や地方自治体、銀行の融資制度、自己資金の重要性、そして説得力のある事業計画書の書き方など、専門家の視点から分かりやすく解説します。
目次
そもそも創業融資とは
創業融資とは、これから事業を始める方や事業開始後間もない方を対象とした融資制度の総称です。国や地方自治体が積極的に支援しており、一般的な事業融資に比べて利用しやすいよう、条件設定されている点が大きな特徴です。創業融資の活用は、事業のスタートダッシュをスムーズにし、資金繰りの不安を軽減することで、経営者が事業戦略の実行に集中できる環境を整える助けとなります。
創業融資の代表的な種類と、それぞれの特徴は以下の通りです。
日本政策金融公庫の融資制度
創業者にとって最も身近で、利用される機会が多いのが、政府系金融機関である日本政策金融公庫の融資制度です。日本政策金融公庫は、民間金融機関の取り組みを補完し、中小企業・小規模事業者や農林水産業者の資金調達を支援する役割を担っており、特に創業者支援には非常に積極的です。代表的な制度として、以下のものがあります。
新規開業資金
新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方が対象です。
- 融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 特徴:幅広い業種で利用可能で、使いみちも設備資金・運転資金と柔軟です。返済期間も比較的長く設定しやすい点がメリットです。
地方自治体の制度融資
各都道府県や市区町村といった地方自治体が、地域の金融機関(銀行や信用金庫など)および信用保証協会と連携して提供しているのが「制度融資」です。地域経済の活性化や中小企業支援を目的としており、創業者向けのメニューも多く用意されています。
- 融資限度額:各自治体の制度によって大きく異なります。事業を行う予定の自治体のウェブサイトや窓口で、最新の情報を確認する必要があります。
- 特徴:自治体が利息の一部を負担してくれたり(利子補給)、信用保証協会に支払う保証料の一部を補助してくれたりする場合があります。これにより、実質的な借入コストを低く抑えられる可能性があります。
民間の金融機関(銀行、信用金庫など)の融資
都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合といった民間の金融機関も、創業融資の選択肢の一つです。ただし、創業初期においては、日本政策金融公庫や制度融資に比べてハードルが高い傾向にあります。
プロパー融資
金融機関が独自のリスク判断で行う融資です。創業期は事業実績がないため、金融機関にとってリスクが高いと判断されやすく、プロパー融資を受けるのは非常に困難です。融資が実行される場合でも、経営者の自己資金の状況、事業計画の卓越性、将来性、担保・保証人の有無などが厳しく審査され、融資額も限定的になることが多いでしょう。
保証協会付き融資
信用保証協会が公的な保証人となることにより、金融機関が融資を行いやすくするための制度です。地方自治体の制度融資も、この信用保証協会の保証を利用している場合がほとんどです。プロパー融資に比べれば格段に利用しやすくなります。
創業融資はいくらまで借りられる?
日本政策金融公庫総合研究所が毎年公表している「新規開業実態調査」では、2023年度の開業時の金融機関等からの平均借入額は768万円でした。過去の調査結果を遡ってみても、ここ数年はおおむね800万円前後で推移していることが多いようです。
これは、あくまで全ての業種や事業規模を含めた平均値です。小規模な個人事業から、ある程度の初期投資が必要な法人設立まで様々です。ご自身の事業に本当に必要な資金額を算出し、その妥当性を金融機関にしっかりと説明できるようにしましょう。
創業融資の借入金額に影響を与えるポイント
創業融資で希望する金額を調達できるかどうかは、様々な要素が複合的に絡み合って決定されます。ここでは、融資額に大きな影響を与える主要なポイントを詳しく解説します。
自己資金
自己資金は、創業融資の審査において最も重視される項目の一つです。
一般的には「創業資金総額の3分の1以上」、あるいは「希望融資額の2分の1程度」の自己資金があると理想的と言われます。なお、日本政策金融公庫の「新規開業資金」では自己資金の基準がありません。実際には、自己資金が多ければ多いほど審査は有利に進み、希望額に近い融資を受けられる可能性が高まります。
事業計画書
事業計画書は、融資担当者があなたの事業の将来性、収益性、そして返済能力を判断するための根幹となるものです。熱意はもちろん重要ですが、それ以上に客観的かつ論理的な内容が求められます。
事業計画書に記載すべき主要項目は、以下の通りです。
- 創業の動機・目的:なぜこの事業を始めたいのか、事業を通じて何を実現したいのか
- 経営者の略歴等:これまでの経験やスキルが、どのように事業に活かせるのか
- 取扱商品・サービス:内容、特徴、セールスポイント、競合との差別化
- 取引先・取引関係等:販売先、仕入先、外注先などの具体的な情報
- 従業員:採用計画、人員体制
- 借入状況:代表者個人の既存借入(住宅ローン、自動車ローン、カードローンなど)
- 必要な資金と調達方法:何にいくら必要で、それをどうやって調達するのか(自己資金、融資希望額など)
- 事業の見通し:創業当初及び軌道に乗った後の売上高、売上原価、経費、利益の見込み
収支計画
事業が将来どれくらいの売上を上げ、どれくらいの経費がかかり、最終的にどれくらいの利益(または損失)が出るのかを予測し、数字に落とし込みます。「売上高」「売上原価」「経費(人件費、家賃、広告宣伝費など)」「利益」といった項目を、月別、年別に作成します。売上予測の際には、「客単価 × 客数 × 営業日数」のように、具体的な算出根拠を明示することが重要です。
資金繰り計画
実際に現金の出入りがどうなるのかを示します。会計上の利益が出ていても、売掛金の回収が遅れたり、在庫が過剰になったりすると、手元の現金が不足して「黒字倒産」に陥ることもあります。金融機関は、この資金繰りの安定性を重視します。
経営者の経験や能力
創業融資では、経営者自身の経験、スキル、そして事業への情熱が、融資判断において大きなウェイトを占めます。
- 同業種での経験:創業する事業と同じ業界、あるいは関連性の高い業界での実務経験は非常に有利です。経験年数が長いほど、業界知識、技術力、人脈などを有していると評価され、事業成功の確率が高いと見なされます。
- マネジメント経験:過去に部下を指導した経験や、プロジェクトを管理した経験なども、組織運営能力を示すものとしてプラスに評価されます。
- 専門知識・スキル:事業に必要な専門知識や資格、技術力なども重要です。
- 事業への熱意とビジョン:面談などを通じて、なぜこの事業をやりたいのか、将来どのような姿を目指しているのかを、自分の言葉で情熱を持って伝えることが大切です。
担保・保証人の有無
かつては不動産などの担保や、経営者以外の第三者保証人が、融資審査において重視される傾向がありました。近年では、国の施策として「経営者保証に依存しない融資」が推進されています。
ただし、融資額が非常に大きい場合や、民間金融機関のプロパー融資、あるいは事業のリスクが高いと判断される場合には、依然として担保や保証人(多くは代表者自身による個人保証)を求められるケースもあります。
個人の信用情報
法人で融資を申し込む場合でも、代表者個人の信用情報は必ず確認されます。信用情報とは、クレジットカードの利用履歴、ローンの返済状況、過去の延滞・債務整理(自己破産、個人再生など)の履歴といった、個人の金融取引に関する情報のことです。ご自身の信用情報に不安がある場合は、融資を申し込む前に、信用情報機関(CIC、JICC、KSCなど)に開示請求をして確認しておくことをお勧めします。
創業融資の借入金額を増やすためのポイント
希望する融資額を確保するためには、ただ待つのではなく、積極的に行動し、準備を重ねることが不可欠です。ここでは、創業融資の借入額を増やす、あるいは希望額に近づけるための具体的なポイントを紹介します。
融資担当者との事前面談
正式な融資申込前に金融機関の担当者と事前面談を行うことは、借入額増加への重要な一歩です。この面談を通じて、自身の事業計画や熱意を直接伝え、担当者から融資制度の詳細や審査のポイント、必要な準備に関する具体的な助言を得られます。
事業概要資料や質問に対する回答を準備することで、計画の方向性が定まり、質の高い申請書類作成に繋がります。担当者に良い印象を与え、事前に懸念点を解消しておくことは、その後の審査を円滑に進め、希望額の融資獲得の可能性を高める効果が期待できるでしょう。
専門家(税理士、中小企業診断士など)の活用
事業計画書の精度向上や融資交渉に不安があるなら、創業支援に強い税理士や中小企業診断士といった専門家の活用が有効です。税理士は財務計画や数値計画の策定に長け、税務の観点からアドバイスを受けられます。一方、中小企業診断士は経営戦略全般や事業計画のブラッシュアップを得意としています。
専門家の支援により、客観的で説得力のある事業計画が作成でき、融資承認の可能性が格段に向上します。費用はかかりますが、融資額増加や事業成功への投資と捉え、積極的に検討すべきでしょう。
創業融資の借入金額は法人・個人事業主で変わる?
創業融資の審査において、「法人だからいくらまで」「個人事業主だからいくらまで」といった明確な線引きが融資額に直接的に設けられているわけではありません。日本政策金融公庫の「新規開業資金」では、法人・個人事業主のどちらも対象としています。
創業融資がいくらまで借りられるかは、法人か個人事業主かという形式そのものよりも、それぞれの事業内容、必要な資金額、事業計画の実現可能性、そして返済能力といった実質的な要素によって個別に判断されると理解しておくべきです。ご自身の事業形態の特性を踏まえ、説得力のある事業計画を提示することが重要です。
創業融資で希望額を調達するための準備を整えましょう
ここまで、創業融資の種類から、借入可能額の目安、融資額を左右する重要なポイント、そして借入額を増やすためのステップや注意点について詳しく解説してきました。創業融資で希望額を調達するためには、しっかりとした自己資金の準備、質の高い事業計画書の作成、そして経営者自身の経験と熱意を伝えることが不可欠です。事前の情報収集を進め、専門家の活用も検討しながら、ぜひ創業融資を成功させましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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