- 作成日 : 2025年4月25日
社債発行による資金調達とは?メリット・デメリットや流れなどを解説
社債発行による資金調達とは、企業が債券を発行して投資家から直接資金を集める方法を意味します。融資が難しい場合の資金調達手段としても活用することができますが、社債の性質をよく理解したうえで発行することが重要です。
本記事では、社債発行による資金調達のメリットやデメリット、発行の流れなどを確認しておきましょう。
目次
社債発行による資金調達とは
社債発行による資金調達とは、企業が投資家から直接資金を調達するために債券を発行することです。資金調達には銀行融資や株式の発行などといったさまざまな手法がありますが、社債を発行するという手法もその一つとして含まれています。。
そもそも社債とは
社債とは、企業が事業資金を調達するために発行する「債券」のことです。一方、債券とは発行体が一定の利子をつけて、決められた期間後に元本を返済することを約束した有価証券を指します。国の発行であれば「国債」、地方自治体が発行であれば「地方債」、そして企業が発行する「社債」と呼ばれます。
発行された社債を持つ投資家は、企業に対する債権者です。約定された利息の受け取りと満期時の元本返済を受ける権利を持ちます。
株式と類似点はありますが、債権者は株主と異なり企業の社員にはならず債権者であるため、経営参加権はありません。債権者は業績に関係なく定められた利息を受け取ることが可能です。
こちらのページでも社債について詳しく解説しておりますので、ぜひ参考にしてください。
社債発行ができる企業とできない企業の違い
以前は社債の発行ができる会社は法律により限られていたのですが、2006年の会社法の施行により、会社法上のすべての会社(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社)において社債を発行できるようになりました。
とはいえ、社債発行はあらゆる企業が現実的に選択できる資金調達手段ではありません。例えば、設立間もないスタートアップ企業や業績不振の企業などは信用力や知名度が低いため、社債発行によって十分な資金を集めることが困難といえるでしょう。
一方で、安定した業績や健全な財務状況にある企業であれば、社債発行による資金調達も比較的進めやすいといわれています。
資金調達に利用できる社債の種類
社債には、発行方法や募集の対象によって複数の種類が存在します。まず大きな分類として「公募債」と「私募債」があり、私募債はさらに「銀行保証付私募債」「プロ私募債」「少人数私募債」に分類されます。
自社の規模や資金調達の目的に応じて適切な種類を選択しましょう。
公募債
公募債は、一般投資家を対象に広く募集する社債のことです。不特定多数の投資家から大規模な資金調達を実施できるため、企業の信用力や知名度を広くアピールする効果ももたらすでしょう。
ただし、発行にあたっては金融商品取引法に基づく有価証券届出書の提出が必要になるなど手続きが必要です。
<公募債の特徴>
- 大規模な資金調達が可能
数十億円、数百億円もの規模で調達が行われることもあり、大企業や大型プロジェクトを進める際の資金調達に適している。 - 高い信用力や知名度が必要
投資家から広く資金を集めるには企業の信用力や知名度が不可欠。上場企業や大企業以外の場合、資金調達の成功は難しい。 - 手続きが複雑で発行コストが高い
有価証券届出書の作成や審査、証券会社へ支払う手数料など、発行までの手続きが複雑であり、コストも発生する。 - 情報開示の義務がある
投資家保護の観点から、企業情報の詳細な開示が義務付けられている。
公募債を使った調達がスムーズに進めば大きな資金が得られますが、中小企業にとってはハードルが高い方法ともいえるでしょう。
銀行保証付私募債
銀行保証付私募債は、銀行が元利金支払いを保証する形で発行する私募債のことです(※信用保証協会が保証を行うケースもある)。
特定の投資家のみを対象としているため、公募債と比べて情報開示にかかる負担は少なく、中堅企業・中小企業でも比較的利用しやすい社債発行の方法といえるでしょう。
<銀行保証付私募債の特徴>
- 銀行が保証人となることが多い銀行が元利金の支払いを保証するため、投資家のリスクが低減される一方で企業側には保証料の負担が生じる。
- 発行手続きが比較的容易
銀行が発行手続きを代行して投資家への販売などを行い、公募債に比べて手続きが簡素化されており発行コストも抑えられる。 - 銀行による審査が必要
事前に審査が必要で、銀行独自に定められた審査基準をクリアしなければならない。
銀行によってサービスの運用実態が異なるため、利用にあたっては取引銀行にて詳細を確認しましょう。
プロ私募債
プロ私募債は、銀行や証券会社、信用金庫、保険会社といった適格機関投資家(※)を対象とした私募債のことです。
(※)適格機関投資家:金融商品取引法で定められた、いわゆる「プロ」の投資家
<プロ私募債の特徴>
- 柔軟な条件設定が可能
一般投資家には販売されず、募集人数や発行総額にも制限がない。発行条件の設定も柔軟に対応でき、企業と投資家のニーズに合わせた契約ができる。 - 機動的な資金調達が可能
プロの投資家相手であるため、投資判断が迅速かつ的確に行われる傾向。ただし、中堅企業や上場企業など高い信用力を持つ企業でなければ交渉に時間がかかる場合もある。
プロ私募債を利用するにも一定の知名度・信用力が求められます。そのため公募債を利用する前段階にある企業が利用することが考えられます。
少人数私募債
少人数私募債は、比較的少人数の取引先や縁故者を対象に社債を発行することを指します。
ほかの社債に比べると規模の小さな企業でも利用がしやすいため、中小企業が社債を使った資金調達を検討するときは主に少人数私募債について考えることになるでしょう。
<少人数私募債の特徴>
- 発行手続きが比較的簡単
手続きが比較的簡単であり、発行コストも他の社債と比較すると低く抑えられる。ただし、社債購入を勧誘する対象者の人数は50名未満でなければならない。 - 小規模の資金調達に適している
1億円未満で利用されることも多く、中小企業の資金調達手段として活用しやすい。 - 知名度がなくても利用できる
縁故者などを対象に発行できるため、世間一般に対し高い知名度を持っていなくても利用可能。
少人数私募債は比較的利用のハードルが低い社債といえますが、それでも資金調達を成功させるには発行企業にある程度の信用力が必要です。さらに、支払能力も示さないといけません。
社債発行による資金調達のメリット・デメリット
社債発行は企業の資金調達手段として有益な選択肢となり得ますが、他の調達方法と同様、メリットとデメリットがあります。社債発行を検討する際には、これらの特性も十分に理解したうえで判断しましょう。
社債による資金調達のメリット
社債を使った資金調達のメリットは、次の通りです。
- 返済条件の柔軟性が高い
銀行融資と比べて償還期間や利率、返済方法などを企業側の事情に合わせて設計しやすい。 - 担保設定が不要な場合がある
銀行融資のように不動産を担保として提供しなくても発行しやすい。ただし、信用力が高くない企業だと担保や保証人が必要になることもある。 - 銀行の借入枠を留保できる
銀行からの借入枠にも限度があるため、社債発行で資金を調達して借入枠を緊急時に備えて温存しておくこともできる。ただし、銀行は借入枠のみならず社債の発行状況なども審査時に考慮するため、社債発行が必ずしも次の借入に有利になるとは限らない。 - 株主構成に影響を与えない
株式発行と比べると、資金調達に伴う株主構成の変化がなく、経営権への影響が生じない。そのため、現在の経営体制を維持した状態で資金調達を行いたい企業にとって有効である。
社債による資金調達のデメリット
うえで紹介したメリットとは反対に、以下のようなデメリットもあります。社債発行による資金調達を考えるなら、これらのメリットとデメリットを総合的に評価しましょう。
- 返済義務を負う
株式発行とは異なり、社債を発行することで自社には元本償還および利息支払いの義務が課される。 - 発行コストや手続きの負担がある
特に公募債の場合は手数料など、さまざまな発行コストが発生する。また、情報開示や審査など煩雑な手続きも発生するため、発行までに一定の時間と労力を要する。 - 企業の信用力が強く問われる
融資同様に企業の信用力に基づいて発行される。そのため、信用面に課題があり借入審査に通過できなかった場合は、社債発行も難航する可能性がある。 - 社債権者への対応業務が発生する
銀行融資は一対一の対応で済むが、社債の場合は関係者が多数にのぼる。そのため、社債権者への対応業務が煩雑になり、条件変更が必要になった際には合意形成に時間や労力の負担がかかる可能性がある。
社債発行による資金調達の流れ
社債を使った資金調達は、一般的に次のような流れとなっています。
- 必要な資金や返済の計画を立てる
- 募集事項(総額や利率、償還の期限など)を決める
- 取締役会や株主総会で社債発行についての意思決定を行う
- 投資家に情報を開示して募集を行う
- 投資家への割り当てと払い込み
もし少人数私募債を発行するなら、「社債購入を勧誘する対象者が50名未満」「適格機関投資家がいない」「社債総額を最低券面額で割った数が50未満になる」などの条件を満たす必要があります。発行する社債に合わせて必要な手続きも変わってきますので注意してください。
社債発行による資金調達を成功させるポイント
社債発行による資金調達を実現させるため、そして発行後も約束通り支払いを実行するうえで押さえておくべきポイントは次の3点です。
- 投資家が納得できる適切な利率の設定
- 社債の償還に備えての計画的な資金繰り
- 社債権者との信頼関係構築
まずは社債を引き受ける先を確保しなければなりません。そのために、社債の購入を考えている方と自社がともに納得ができる利率の設定を行います。また、信頼関係を築くためにも財務諸表や事業計画の開示を行いましょう。
支払義務が履行できるよう、資金繰りは計画的に行い、社債の管理も入念に行いましょう。
社債は従業員が購入することもできる?
社債は外部の投資家だけでなく、発行企業に属する従業員が購入することも可能です。実際、少人数私募債では縁故者にあたる身内、従業員、取引先などを対象に発行するのが一般的です。
ただし、社債の発行対象が特定の従業員や関係者に偏る場合、税務上の問題や金融商品取引法上の規制が生じる場合があるため、慎重に判断する必要があります。
社債発行も視野に入れて資金調達の選択肢を広げよう
中小企業の資金調達といえば銀行融資が一般的ではありますが、場合によっては社債発行も有効な手段となります。銀行融資にこだわらず社債発行という選択肢の一つとして検討しましょう。
社債発行のデメリットや手続きの複雑さはありますが、返済条件の自由度が高いなどのメリットもあります。公募債から少人数私募債まで、企業規模や調達目的に合わせた発行方法もありますので、自社に適切な方法を選びましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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