• 作成日 : 2025年4月25日

自己資本による資金調達の方法は?他人資本との違いや自己資本比率なども解説

自己資本」とは、企業が調達した資金のうち、株主からの出資や企業活動で得た利益など返済義務のないものを指します。

自己資本は企業の安定性や信用力に影響する重要な要素ですので、事業者としては理解しておくべき概念といえるでしょう。

本記事では、自己資本の内訳や資金調達方法などを詳しく解説していきますので、ぜひご一読ください。

自己資本とは

自己資本とは、企業が経営活動を行うために調達した資金のうち、返済する必要がないものを意味します。具体的には株主から集めた資金(出資金)や、会社が営業活動で得た利益のうち社内に蓄積された部分などが自己資本に該当します。

自己資本には「返済期限がない」「金利の支払いも発生しない」という特色があるため、自己資本が潤沢な企業だと、そうでない場合に比べて経営が安定しているといえるでしょう。

実際、企業の経営状態を評価する際に自己資本の額や総資産に占める割合(自己資本比率)は重要な指標として使われています。

貸借対照表上は純資産の部に該当する

企業の財政状態を示す貸借対照表(バランスシート)では、自己資本は「純資産の部」に記載されます。

純資産とは、会社の総資産から負債を差し引いた残りの部分であり、「自前で調達した返済義務のない資金源」と表現できるでしょう。

なお、自己資本は純資産の中核となる要素ですが、完全に一致するものではありません。純資産の部には自己資本以外にも含まれており、例えば、「土地や有価証券などを時価で評価したときの評価差額金」や「将来の株式発行に備えた新株予約権」なども純資産に計上されます。

自己資本と他人資本の違い

自己資本と対になるものに「他人資本」があります。他人資本とは銀行からの借入金や社債の発行などによって調達した資金であり、「返済義務のある資金」を意味します。

また、金利という形で資金調達のコストが発生するのも他人資本の特徴です。自己資本の場合は配当という形で利益の一部を株主に還元されますが、必ずしも毎期支払う義務はありません。

借入などでは業績が悪化しても予定通りの返済が求められますが、自己資本であれば配当を減らしたり見送ったりすることで財務状況の悪化にも対処が可能です。

自己資本の内訳

自己資本の主な内訳は、資本金資本剰余金利益剰余金の3つで構成されています。各内訳は発生の経緯が異なり、企業の財務状況を深く理解するためには、これらの相違点についても把握することが重要です。

資本金

資本金とは、企業の設立時や増資の際に株主から払い込まれた資金のことです。企業活動における最も基本的な原資であり、十分な売上が期待できない会社設立時には運転資金として資本金の額が重要な役割を果たします。

また、資本金は企業の信用力や規模を示す指標としても考えられており、取引先や金融機関によっては資本金の額から企業の安定性や事業への本気度を判断することもあります。

資本剰余金

資本剰余金とは、株主からの出資金のうち資本金以外に計上される部分(資本準備金)や自己株式の売却益などの資本取引により生じた剰余金(その他資本剰余金)のことです。

企業が株主からお金を集める際、その一部は資本金として計上されます。しかし、払い込まれた出資金のすべてを資本金にする必要はなく、一部を「資本準備金」として計上することが認められています。

さらに、自己株式を売却した際に得られる処分差益などは、資本剰余金を構成する「その他資本剰余金」として計上されます。

利益剰余金

利益剰余金とは、企業が事業活動から得た利益のうち、株主への配当や役員賞与などとして流出せず企業内部に留保した資金のことです。

営業活動を通じて稼いだお金という点で、株主から拠出された資本金や資本剰余金とは性質が異なります。

また、利益剰余金には「利益準備金」と「その他利益剰余金」があります。利益準備金は、債権者保護などのため会社法第445条第4項に基づいて一定割合を積み立てることが義務付けられていますが、これに対し、その他利益剰余金は比較的自由に使うことができる資金です。

自己資本による資金調達の方法

自己資本による資金調達として「株式発行」と「内部留保の活用」の2つを挙げることができます。これらそれぞれの特徴を説明します。

株式発行(エクイティ・ファイナンス)

株式発行とはエクイティ・ファイナンスとも呼ばれ、企業が新たに株式を発行して投資家から資金を集める方法を指します。

企業は集めた資金に対して返済する必要がなく、これが銀行からの借入(デット・ファイナンス)と大きく異なる点です。

また、株式発行には、新規株式公開(IPO)やすでに上場している企業が行う公募増資、第三者割当増資などがあります。

新規株式公開は未上場企業が初めて株式を公開すること、公募増資は既存の上場企業が広く一般投資家から資金を集めること、そして第三者割当増資は特定の投資家や取引先企業などに対して株式を発行する方法を意味しています。

内部留保の活用

内部留保とは、企業が事業活動で得た利益を社外に流出させず、企業内に蓄積した利益のことです。企業の営業活動によって得られた資金を蓄えるため、株式発行のように株主構成に変化をもたらさず、借入金のように返済する義務がない点が大きな特徴です。

ただし、継続的に利益を上げてきたことが内部留保の前提としてあるため、配当として株主に還元する金額とのバランスも適切に評価しなければなりません。

過度に内部留保を重視すると株主の不満を招く恐れがあり、反対に配当を重視し過ぎると将来の投資に必要な資金が不足する可能性があるでしょう。

自己資本による資金調達のメリット・デメリット

事業資金を調達する方法を選択する際には、自己資本による調達と他人資本による調達のそれぞれのメリット・デメリットを十分に理解し、自社の状況に最適な方法を選ぶことが重要です。

自己資本による資金調達のメリット

自己資本による資金調達には以下のメリットがあります。

  • 返済義務がない
    元本の返済義務もなく、事業が一時的に不振になっても資金繰りに追われるリスクが軽減される。
  • 金利負担がない
    借入などの他人資本と異なり、自己資本には金利コストが発生しない。株主への配当も利益に応じて行われるため、固定的なコストを抑えることができる。
  • 財務健全性の向上
    自己資本比率が高まると、財務の健全性や安定性を示す指標が向上する。これにより金融機関や取引先からの信用力が増す。
  • 資金使途の自由度が高い
    借入だと使途に制限がかけられることもあるが、自己資本にはそうした制約が少ない。
  • リスクの高い事業にも対応しやすい
    研究開発や新規事業など、成果が出るまでに時間がかかるようなプロジェクトには返済義務のない自己資本が適している。

自己資本による資金調達のデメリット

自己資本による資金調達にも課題や制約も存在する。他人資本と比較した場合の主なデメリットは以下の通りです。

  • 調達可能額に限界がある
    内部留保は過去から蓄積した利益であるため、タイミングよく必要な額を用意できない場合がある。また、株式発行による調達でも市場評価や投資家の反応次第では希望する額を調達できない可能性がある。
  • 株主からのプレッシャーがある
    自己資本に借入金のような金利負担はないが、株主は高いリターンを期待している。そのため実質的に他人資本よりもコストが高くなる可能性もある。
  • 株式の希薄化が起こる
    株式発行による資金調達だと既存株主の持分比率を低下させる恐れがある。また、新たな株主が増えることで企業の支配権に影響が及ぶ可能性もある。

企業の置かれた状況や経営方針によって各デメリットの重要度は異なります。他人資本か自己資本、どちらか一方のみで考えるのではなく、両者のメリットが活かせるバランスの取れた金調達方法を考えていきましょう。

自己資本比率を高めるためのポイント

自己資本比率の高さは企業の財務の安全性を表す指標の一つです。比率が極端に低いと銀行からの融資を受けにくくなる可能性があります。そのため、対外的な信用を獲得するうえでも、自己資本比率を向上させることは不可欠です。企業として、以下のポイントに意識を向けるとよいでしょう。

ポイント詳細
収益力の強化
  • 事業の収益力を強化することで利益が増加し、内部留保が進むため、結果として自己資本比率が向上する。
  • コスト削減や付加価値の向上、事業の効率化など多角的な取り組みが必要。
利益の内部留保
  • 事業活動で得た利益を配当や役員賞与として過度に外部流出させず、内部留保として蓄積することは、自己資本を増やすうえで基本かつ重要な方法。
  • 収益力があれば着実に自己資本を増やせるが、株主への還元とのバランスを考慮する必要がある。
増資の実施
  • 株式を発行して投資家から資金を集めることで、直接的に自己資本が増える。
  • 公募増資や第三者割当増資などの方法があるが、株式の希薄化や株主構成の変化に伴うリスクも慎重に検討しなければならない。
不採算事業の整理
  • 不採算事業を整理して収益性が向上すると利益の蓄積が進むため、間接的に自己資本比率の向上につながる。
  • 事業を整理する過程で一時的な損失やリストラが発生する可能性もあるため、慎重な判断を要する。
有利子負債の削減
  • 繰り上げ返済や借換えなどを実施し、借入金などの有利子負債を削減することができれば、自己資本比率が高まる。
  • 金利負担も軽減されるため財務の健全性が向上する。

これらの施策は相互に関連してます。複数の取り組みを適切に組み合わせることでより効果を高められるでしょう。

バランスの取れた資本構成を目指そう

自己資本による資金調達は、企業の財務基盤を強化し長期的な経営の安定性をもたらす重要な手段です。他人資本を適切に活用することも有効ですが、過度な借入に依存することがないよう注意しましょう。

自己資本比率の向上を意識した財務戦略を打ち立て、持続可能な企業経営の基盤を構築していくことが重要です。その際、経営者の方が前向きに取り組むことは大事ですが、専門家にも相談し、プロの意見を取り入れる姿勢も持つとよいでしょう。


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