• 作成日 : 2025年2月27日

イラストレーターは法人化すべき?メリット・デメリットや方法を解説

個人事業主(フリーランス)のイラストレーターが法人化すべきかどうかは、所得などの状況によります。どのようなタイミングで法人化を検討すべきなのでしょうか。法人化のタイミングやイラストレーターが法人化するメリット・デメリットなどについて解説します。

イラストレーターは法人化すべき?

個人事業主のイラストレーターは法人化した方がよいのでしょうか。法人と個人事業主の違いと法人化を検討するタイミングについて解説します。

法人化とは、個人事業主から法人に切り替えることです。詳細は、こちらの記事で説明しています。

個人事業主の会社設立マニュアル!法人化するタイミングは?どっちが得?

個人事業主のイラストレーターと法人の違い

個人事業主と法人のイラストレーターでは、制度の面などでさまざまな違いがあります。以下の表は、主な違いをまとめたものです。

個人事業主法人
開業開業届の提出会社の設立登記が必要
社会的信用信用を得るのが難しい個人事業主より信用を得やすい
給与の扱い給与の概念がない

売上から必要経費を差し引いた金額すべては、所得として所得税の対象になる

役員報酬給与所得

給与を設定できる

社会保険市町村の国民健康保険や国民年金などに加入会社員などが加入する社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入
会計処理簡易的な記帳が認められる一般的に公正妥当と認められる企業の会計処理が求められる
税務所得税の確定申告など法人税申告など

詳細は、法人化のメリットやデメリットで解説します。

個人事業主のイラストレーターが法人化を検討すべきタイミング

個人事業主が法人化を検討するとよいのは、売上や利益が伸びてきたタイミングです。例えば、個人事業主の所得に課される所得税と法人の所得に課される法人税では仕組みが異なります。以下の表は、所得税と法人税率を比較したものです。

課税所得所得税の税率法人税の税率
1,000円から1,949,000円まで5%

普通法人(株式会社や合同会社など)は23.2%

資本金1億円以下の中小企業などは年800万円以下の部分については15%または19%

1,950,000円から3,299,000円まで10%
3,300,000円から6,949,000円まで20%
6,950,000円から8,999,000円まで23%
9,000,000円から17,999,000円まで33%
18,000,000円から39,999,000円まで40%
40,000,000円以上45%

出典元:「No.2260 所得税の税率|国税庁」をもとに作成

出典元:「No.5759 法人税の税率|国税庁」をもとに作成

所得税と法人税を単純に比較すると、所得900万円を超えたあたりから(中小企業などの場合は330万円を超えたあたりから)所得税と法人税の税率が逆転することがわかります。

所得税と法人税の比較は、一つの目安になります。しかし、ほかにも所得などにかかる税金などがあるため、詳細に計算したい場合は、総合的な視点で判断するのが望ましいでしょう。具体的に試算したい場合は、税理士などに相談されることをおすすめします。

ほかに、イラストレーターが事業拡大により大手企業と契約しようとした場合、法人間の契約が前提になるケースもあります。重要な取引先が法人間の契約を推奨している場合は、法人化を検討すべきタイミングと言えるでしょう。

フリーランスイラストレーターが法人化するメリット

個人事業主のイラストレーターが法人化することによる主なメリットを紹介します。

法人と直接取引しやすくなる

企業によっては、個人のイラストレーターと直接取引をしない場合もあります。直接取引が行われない場合、発注元の企業と個人のイラストレーターの間に仲介業者が入って仕事をあっせんすることになります。

大手企業などと直接取引できないデメリットは、やり取りが複雑化したり、仲介手数料などで報酬が減少したりすることです。法人化すれば、法人でないと取引をしない企業とも直接的に取引できるようになります。仕事の安定化が図れるほか、収入の面でもメリットがあるでしょう。

社会的信用を得やすくなる

個人事業主と法人の大きな違いの一つは、登記の有無です。法人は、会社設立時に法務局で登記を行います。登記することで、会社の商号(会社名)や住所、事業の目的、代表取締役やそのほかの役員の氏名などを誰でも照会できるようになります。

法人になるということは、たとえ事業主1人で事業をする場合であっても、組織としてみられるようになるということです。個人事業主と比べると、社会的信用を獲得しやすくなります。信用を得ることで、案件を獲得しやすくなったり、銀行からの融資を受けやすくなったりするメリットもあります。

規模の大きい案件が期待できる

法人化することで、規模の大きい案件への参入が期待できるのもメリットと言えます。個人事業主よりも信用を得やすくなるため、大きな案件を獲得できるチャンスが増えるためです。規模の大きい案件に携わることによって、仕事の幅を広げることや新たな経験を積み重ねることができます。

社会保険に加入できる

個人事業主は法人化するにあたって、公的医療保険については市町村の国民健康保険から全国健康保険協会の健康保険に、また、公的年金については、全国民共通の国民年金に加えて厚生年金に加入することになります。

社会保険は自己負担分(従業員や役員の負担分)と会社負担分があるため、設定する役員報酬の額によっては支払額が増加する可能性があります。しかし、国民健康保険や国民年金と比較すると、よりよい保障が受けられるようになるのは魅力的です。例えば、健康保険には、国民健康保険にはない傷病手当出産手当金の保障があります。

扶養制度を利用できるのもメリットです。個人事業主も所得が一定以下であれば配偶者などの扶養に入れますが、一方で家族を健康保険などの扶養に入れることはできません。社会保険であれば、一定以下の所得の配偶者や親族を扶養にできるため、追加の負担なく、被保険者と同じように保険給付を受けられるようになります。

公的年金に関しては、社会保険に加入することで、国民年金よりも手厚い老齢年金などの保障を受けられます。

役員報酬を設定できる

法人であれば、役員報酬を設定できるのもメリットと言えます。個人事業主には、役員報酬の考えはありません。本業で得た収入については事業所得などとして計上されることになります。事業所得の計算方法は、以下の通りです。

事業所得の金額=総収入金額-必要経費

事業所得では、事業者個人の取り分を給与として経費に計上できません。収入から事業に必要な経費を差し引いた金額すべてが個人の所得とみなされます。一方、法人は、役員報酬として会社の経費に事業主の給与を計上することができ、金額の設定も可能です。会社と個人に所得を分散させることができます。

フリーランスイラストレーターが法人化するデメリット

個人事業主のイラストレーターが法人化する場合の主なデメリットを紹介します。

ペンネームだけでの活動が難しくなる

覚えてもらいやすいなど、さまざまな理由により、イラストレーターはペンネームで活動することがあります。クラウドソーシングサイトなどを利用した取引では、個人の場合、ペンネームのみで活動することも可能です。

しかし、法人化するとペンネームのみでの活動は難しくなります。会社設立により、代表取締役の氏名や住所は登記事項として公開されるためです。登記後は、誰でも登記された事項を確認できるようになります。

文芸美術国民健康保険組合(文美国保)に加入できなくなる

個人事業主は、基本的に市町村の国民健康保険に加入します。ただし、国民健康保険法に基づき、国民健康保険に代えて、公法人である健康保険組合に加入することも可能です。

イラストレーターなどのクリエイターが加入できる代表的な健康保険組合には、「文芸美術国民健康保険組合」があります。文美国保に加盟する団体の会員で、かつ文芸・美術・著作活動に従事していることが認められる場合に加入できる健康保険組合です。

市町村の国民健康保険の場合、所得に応じて保険料が決まることから、所得が多いほど納めるべき保険料は多くなります。一方、文美国保は、月々の保険料は所得に関わらず一定です。2024年度については、組合員1人あたりの月額は、医療保険分が19,900円、後期高齢者支援金分が5,800円になります。所得が多い会員ほど保険料の負担を抑えられる仕組みです。

文芸美術国民健康保険組合に加入できるのは、個人のクリエイターに限られます。法人は対象に含まれないため、法人化する場合は、文美国保を抜けて、会社員などが加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険に加入しなければなりません。

他のクリエイターと協業するときに源泉徴収の負担が増える

デザインの報酬や著作権の使用料など、クリエイター関連の報酬の多くは源泉徴収の対象となっています。報酬を支払う際に、源泉徴収分を天引きして支払いを行い、クリエイターに代わって源泉徴収分を納付する仕組みです。

イラストレーターのようなクリエイター職は協業も多いため、法人化すると源泉徴収事務の負担が重くなる可能性があります。まず、法人化することで、個人事業主では難しかった大きな案件を受けられるようになり、協業の機会が増えるためです。複数のクリエイターとの協業で、源泉徴収が必要な協業者への報酬の支払い頻度や額が増える可能性があります。

また、法人化することで、個人事業主には認められていた源泉徴収の納期の特例が認められなくなります。特例を適用すると、源泉徴収した所得税を半年に1回納めることが可能です。しかし、法人は特例を適用できないため、毎月、源泉徴収の納付手続きを行う必要があります。

フリーランスイラストレーターが法人化する方法・流れ

個人事業主のイラストレーターが法人化する流れを紹介します。

会社の基本事項を決める

会社を設立するにあたり、最低限決めておかなければならない事項があります。例えば、以下の事項です。

  • 商号(会社名)
  • 所在地
  • 事業目的
  • 資本金または出資金の額
  • 役員の構成

など

定款に記載する基本事項を洗い出し、会社の基本事項として決めていきます。

定款を作成し認証を受ける

定款とは、会社の基本的な事項がまとまった書類です。会社法に定められた事項を記載します。基本事項をもとに定款を作成し、公証役場で認証を受けます。なお、株式会社は定款の認証を必要としますが、合同会社などについては定款の認証は不要です。

法人設立登記を行う

発起人の金融機関の口座に出資を行い、法務局で会社設立のための登記申請を行います。登記にあたり、登記申請書や定款、資本金の払い込みを証明する書類などの準備が必要です。法務局で登記申請書を提出した日が会社の設立日になります。

法人名義の銀行口座を開設する

会社設立後は、会社の資産と個人の資産は明確に分けなければなりません。金融機関で法人の口座を開設するために申請手続きを行います。

必要書類を提出する

法人化に伴い、個人事業の廃業に関する書類の提出、法人の設立に関する書類の提出が必要です。個人の廃業届や法人設立届などの書類を作成し、税務署や各都道府県などに提出します。

社会保険の加入手続きを行う

法人の場合、事業主のみであっても、社会保険の加入義務が生じます。健康保険や厚生年金、必要に応じて介護保険への加入が必要です。また、従業員を1人以上雇用する場合は、労災保険や雇用保険の加入義務も生じます。

法人化の手順について、詳しくはこちらの記事で紹介しています。

個人事業主の会社設立マニュアル!法人化するタイミングは?どっちが得?

イラストレーターの法人化はタイミングや目的が大事

イラストレーターの法人化は、社会的信用の向上や規模の大きい案件の獲得などにおいてメリットがあります。今後、大手企業との取引が増えると予想される場合や、事業規模を拡大したい場合は、法人化を検討しましょう。個人事業主から法人になると、税負担や加入する社会保険も変更になるため、法人化するタイミングも慎重に考えることをおすすめします。


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