- 更新日 : 2025年11月6日
暗号資産取引で法人化すべきタイミングは?メリット・デメリットや必要な手続きを解説
ビットコインをはじめとした暗号資産(仮想通貨)取引で、利益が順調に出ているのであれば法人化を検討してみてもよいでしょう。
この記事では暗号資産取引で法人化を検討すべき基準や法人化するメリット・デメリット、暗号資産取引で法人化する際に必要な手続きや注意点についてご紹介します。
目次
暗号資産(仮想通貨)取引で法人化すべき基準は?
暗号資産取引で、ある程度の利益を得られているのであれば、株式会社を設立するなどの法人化を視野に入れてみましょう。ここでは、法人化する際の基準と基本的は知識について解説しします。
個人事業主と法人の主な違い
個人事業主と法人では開業手続き、支払う税金、加入する年金、欠損金の繰越期間で大きな違いがあります。
個人事業主の場合は税務署に開業届を提出すれば開業することができます。比較的簡素な書類で、特に費用もかかりません。一方、法人化する場合、法務局で法人登記を行う必要があり、登記費用がかかります。
支払う税金については個人事業主の場合は所得税となりますが、法人の場合は法人税を支払うことになり、それぞれ税率も異なります。また、加入する年金も個人事業主なら国民年金、法人の場合は厚生年金という違いがあるのです。
両者とも青色申告をしていれば税務申告時に欠損金の繰延ができますが、個人事業主では繰越期間は3年、法人の場合は10年です。
| 個人事業主 | 法人 | |
|---|---|---|
| 開業に必要な手続き | 税務署へ開業届を提出する | 法務局で法人登記が必要 |
| 支払う税金 | 所得税(税率5%~45%) | 法人税(税率23.2%) |
| 加入手続きが必要な年金 | 国民年金 | 厚生年金 |
| 欠損金の繰越 (青色申告に限る) | 3年 | 10年 |
法人化を検討すべきタイミング
まず法人化を検討すべきタイミングとして挙げられるのは利益が増えたときです。前述のとおり個人事業主は所得税を支払います。
所得税は累進課税となっており、所得に応じて5%~45%の税金を支払わなければなりません。一方、法人税の場合、資本金1億円以下の法人の場合、所得の年800万円以下部分の税率は15%、800万円超部分の税率は23.2%の定率とされています。つまり、ある一定のラインを超えると法人税の方が安くなります。そのため、課税所得が800万円を超えるタイミングになったら法人化も検討してみてもいいかもしれません。
他にも年金支給額が多い厚生年金に加入したいという場合、従業員を雇ったり融資を受けたりするために社会的信用を向上させたい場合に法人化を検討される方が多い傾向です。
暗号資産取引で法人化するメリット
暗号資産取引で法人化することで、以下のようなさまざまなメリットを得られます。
税負担を軽減できる
まず法人化のメリットの一つとして、税負担を軽減できることが挙げられます。前述のとおり、課税所得が増えれば所得税よりも法人税を払う方が節税できるでしょう。欠損金の繰延期間も10年になるので、仮に赤字になった場合にも長期間にわたって控除を受けることも可能です。
また、個人事業主の場合は役員報酬や社宅の家賃、出張費用などは経費に計上できませんが、法人であればそれが可能になるなど、計上できる経費の領域がさらに拡がります。
厚生年金に加入できる
厚生年金に加入できるのも法人化の大きなメリットです。個人事業主は国民年金だけに加入します。法人の従業員は1階部分の国民年金に加え、2階部分は厚生年金に加入することになり、将来は両方の年金を受給することができるでしょう。
社会的信用が上がる
個人事業主よりも法人の方が社会的信用は高くなります。そのため人材を採用する、金融機関から融資を受ける、新規取引先を開拓するなど、さまざまなビジネスシーンで有利になるでしょう。
暗号資産取引で法人化するデメリット
以上のように個人事業主が法人化するメリットはさまざまありますが、一方でデメリットもあります。以下の点を念頭に置いて法人化すべきかどうかを検討しましょう。
開業手続きの手間と費用がかかる
先述のとおり、個人事業主の場合は開業届を税務署に提出すればすぐに開業できます。書類も比較的簡素であり、手続きにかかる費用も不要です。一方、法人の場合は法務局で法人登記をしなければなりません。定款や登記申請書、登録免許納付用台紙など、さまざまな書類を用意しなければならず、費用もかかります。
税金や社会保険料の負担が大きくなる可能性がある
前述のとおり、利益がある程度出ているのであれば所得税よりも法人税の方が納税額を抑えられる可能性はあります。しかし、課税所得が800万円以下であればむしろ所得税の方が納税額は低くなります。法人化した翌年以降取引に失敗して利益が減ってしまった場合、そのまま個人事業主でいた方が節税できたという結果になるでしょう。
また、法人の場合、厚生年金保険の強制適用事業所であり、従業員を雇用していれば支払う報酬に応じて事業主と従業員双方が保険料を折半しなければなりません。
法人口座を開設しなければならない
法人化した場合、法人用銀行口座をつくらなければなりません。法人口座を持つことで社会的信用が上がり、会社のお金の管理もしやすくなります。一方で手続きを行って審査を受けなければならず、口座開設まで時間もかかります。
また、仮想通貨取引を行っている場合、その取引所の法人口座を新たに開設しなければなりません。
法人化する際の会社形態はどう判断すべき?
暗号資産取引で法人化する場合、合同会社か株式会社のいずれかの形態を選ぶのが一般的です。取引所でも合同会社や株式会社であれば法人口座を開設することができます。
| 合同会社 | 株式会社 | |
|---|---|---|
| メリット | ・設立費用とランニングコストが安い ・素早く意思決定ができる ・決算公告の手間が省ける | ・社会的信用が高い ・株式上場できる ・資金調達方法の選択肢が多い |
| デメリット | ・株式会社と比較して会社形態の認知度が低い ・株式上場ができない | ・設立費用が高い ・決算公告の義務がある ・法律の規制が多い |
合同会社は比較的安い費用で開業でき、かつ運営に手間がかからないといったメリットがある一方で、認知度が低い、株式上場できないといったデメリットもあります。
また、株式会社は社会的信用が高くて資金調達もしやすく、株式上場できるのがメリットです。その一方で、守るべき法律の規制が多く、かつ設立費用やランニングコストがかかるといったデメリットもあります。
暗号資産取引で法人化する際に必要な手続き
暗号資産取引で法人化する際には主に以下の6つの手順を踏む必要があります。すべて完了するまで2週~3週間ほどの期間が必要です。
- 会社概要の決定
- 【任意】会社用の実印作成
- 定款の作成・認証
- 資本金の払い込み
- 登記申請書類の作成
- 会社設立登記
法人化の流れについては以下の記事でさらに詳しくご説明しています。
暗号資産取引で法人化する際の注意点
暗号資産取引で法人化する際には役員報酬の額に注意しましょう。役員報酬の額は、事業年度開始の日から3ヶ月以内に決定します。法人税と役員個人の所得税のバランスを考え、適切な金額を設定することが大切です。
また、個人事業主の場合は事業の利益を自由に使うことができますが、法人となるとそうはいきません。会社のお金とプライベートなお金は分けなければならず、経営者のプライベートな支出を勝手に会社の経費で賄った場合、横領に相当します。
法人化すると、個人事業主と比較して税金が抑えられ、計上できる経費の幅が拡がる一方で、お金を自由に使いにくくなるという点も留意しておきましょう。
暗号資産取引における法人化の傾向データ
暗号資産取引で法人化を検討する際、実際の法人設立者がどのような経路で法人化しているのか、参考となるデータを見ていきましょう。
多くの経営者が段階的な法人化を選択
マネーフォワード クラウドで実施した調査によると、会社設立者1,040名のうち57.8%が会社設立前に個人事業主として事業を行っており、法人成りの形で会社を設立していることが明らかになりました。
特に注目すべきは、設立間もない企業ほどこの傾向が強いことです。設立1年以内の企業では68.5%、設立2~3年以内の企業では75.2%と、近年では個人事業主からのステップアップとして法人化を選ぶ人が多くなっています。
出典:マネーフォワード クラウド、先輩起業家が一番困ったことは?【会社設立の意思決定調査】(回答者:会社設立の経験がある方1,040名、集計期間:2024年1月)
暗号資産取引での段階的アプローチの利点
このデータは、暗号資産取引での法人化を考える上でも参考になります。多くの経営者が個人事業主として事業基盤を固めてから法人成りを選択しているという事実は、暗号資産取引においても有効なアプローチといえるでしょう。
暗号資産取引は収益の変動が大きいという特性があるため、まず個人事業主として取引を始め、安定した利益を確保できるようになってから法人化を検討することが賢明です。特に課税所得が800万円を超えるタイミングで法人化を検討することで、税制上のメリットを最大限に活用できます。また、個人事業主として実績を積むことで、法人口座開設時の審査もスムーズに進む可能性が高くなるでしょう。
暗号資産取引で法人化するなら慎重にタイミングを検討しよう
暗号資産取引で利益が多く出ているのであれば法人化することで税負担の軽減や社会的信用を高めることができます。
しかし、暗号資産取引は収益が安定しにくい傾向があり、その時の相場によって大きな利益が出ることもあれば、逆に多大な損害を被る場合もあります。そうした事態を想定しながら法人化するかどうかを慎重に検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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