- 更新日 : 2025年11月25日
創業融資のメリットとは?限度額や金額の決め方を解説
創業融資は、自己資金が少なくても事業を速やかに開始でき、将来の資金調達に向けた金融機関との実績も作れる、起業家にとって心強い制度です。無担保・無保証人で利用できるケースや、比較的低金利で借りられる制度も存在し、返済負担を抑えながら事業に集中できる点も大きなメリットでしょう。しかしながら、融資には返済義務を伴うため、慎重な判断が求められる資金調達でもあります。
「自己資金なしでも借りられるの?」「融資はいつまでに申し込むべき?」といった創業期の資金に関する悩みを抱える経営者の方は多いのではないでしょうか。
本記事では、創業融資の具体的なメリットや注意点をわかりやすく解説します。
目次
創業融資を利用する5つのメリットとは?
創業融資の利用には、単なる資金調達にとどまらず、事業の安定と成長につながる多くのメリットがあります。自己資金を補いスピーディーに事業を開始できることはもちろん、株式や経営権を手放さずに資金を確保できるため、会社の所有権を維持したまま経営の自由度を保てる点も大きな利点です。
1. 自己資金の不足を補い、事業を速やかに開始できる
創業融資を活用することで、自己資金だけでは不足しがちな開業資金や運転資金を確保し、事業を円滑にスタートさせられます。
事業を始めるには、事務所の契約費用、設備の購入費、人件費、マーケティング費用など、まとまった資金が求められます。自己資金が十分に貯まるのを待っていると、その間にビジネスチャンスを逃す可能性もあります。融資によって必要な資金を早期に調達できれば、計画どおりに事業を展開し、早期の収益化を目指せるでしょう。
2. 会社の所有権を維持できる
融資は「借入」であるため、株式を発行して資金を調達する「出資」とは異なり、会社の所有権(株式)を第三者に譲渡する必要がありません。
出資を受けると、出資者の意向が経営に反映されることがあり、経営の自由度が制限される場合があります。一方、融資であれば、経営者は会社のコントロールを完全に維持したまま、自らのビジョンに沿って事業を運営することが可能です。
3. 金融機関との取引実績が作れる
創業期に融資を受け、毎月遅延なく返済を続けることで、金融機関との良好な取引実績を築けます。この実績は、将来的に追加の融資を申し込む際や、新たな取引を行う際に、企業の信用力を示す重要な要素として評価されます。
一度信頼関係が構築されると、金融機関からの信用が高まり、より有利な条件での融資やスムーズな資金調達につながる可能性が高くなります。創業期の段階から誠実な返済を続けることが、長期的な資金調達力の向上につながるといえるでしょう。
4. 低金利で借入できる可能性がある
特に、日本政策金融公庫が提供する創業融資制度では、民間の金融機関と比較して低めの金利(特別利率など)で借入できる傾向にあります。
たとえば、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、創業者を支援することを目的とした公的融資制度です。一定の条件を満たす場合には、低金利に加えて担保や保証人が不要となるケースもあり、起業家の資金調達における負担を軽減する仕組みが整えられています。
5. 事業計画の客観的な評価を受けられる
融資の審査過程では、作成した事業計画書を金融機関に提出し、その内容が専門的な視点から評価されます。これは、自身の計画を第三者の立場から見直し、事業の実現可能性や収益性を客観的に検証する貴重な機会となります。
審査担当者からの質問や指摘を通じて、計画の甘さや想定していなかったリスクに気づくこともあり、事業の完成度を高める機会にもなります。また、審査を通過するということは、事業計画が一定の客観的な基準を満たしている証明にもなり、創業者にとって自信を持って事業を推進する助けとなります。
創業融資は借りられるだけ借りた方がいいの?
創業融資は「事業計画に基づいた必要額」を借りるのが適切であり、融資可能な上限額まで借りることが必ずしも良いとは限りません。
手元資金が潤沢にあると安心感はありますが、借入金には返済義務と利息負担が伴います。過剰な借入は、毎月の返済額を増やし、資金繰りを圧迫する原因になりかねません。
特に事業が軌道に乗るまでの創業初期は売上が不安定になりやすいため、必要最小限の借入で堅実に運転資金を確保することが望ましいでしょう。
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 必要最低限の借入 | 返済負担が軽い | 不測の事態に対応しにくい |
| 余裕を持った借入 | 資金繰りに余裕が生まれる | 返済負担が重くなる |
不測の事態に備えるための予備資金は必要ですが、その金額も事業計画に盛り込み、なぜその金額が必要なのかを合理的に説明できるようにしておくことが大切です。
創業融資はいくらまで借りられる?
融資で借りられる金額は、利用する制度や申請者の状況によって大きく異なります。一つの目安としては、自己資金の額が参考になります。
融資限度額は制度によってさまざま
創業融資の限度額は、制度によって大きく異なります。国の機関である日本政策金融公庫の制度のほか、各自治体が信用保証協会や金融機関と連携して実施する「制度融資」など、様々な選択肢があります。
<国の機関の例>
日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
全国どこで創業する場合でも利用できる代表的な公的融資制度です。
- 融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
<自治体の制度融資の例>
自治体が実施する制度融資は、その地域内で創業する事業者を支援しています。信用保証協会や金融機関と連携して実施されることが多く、金利や保証料の一部補助を受けられる場合があります。
東京都中小企業制度融資『「創業」
東京都・東京信用保証協会・金融機関の三者が連携して実施する協調融資制度です。。都内で創業する個人事業主や、創業後5年未満の中小企業が対象。
- 融資限度額:3,500万円
横浜市「創業おうえん資金」
横浜市内で創業する方向けの制度。市が金利や保証料の一部を助成する場合がある点が特徴。
- 融資限度額:3,500万円
参照:創業おうえん資金|横浜市
大阪府「開業・スタートアップ応援資金」
大阪府内で開業する方向け。大阪信用保証協会の保証を付けて金融機関から融資を受ける。女性・若者・シニアなどを対象に金利優遇が設けられています。
- 融資限度額:3,500万円
参照:開業・スタートアップ応援資金(地域支援ネットワーク型)|大阪府
ここに挙げた金額はあくまで各制度の上限額であり、誰もがこの金額を借りられるわけではありません。実際の融資額は、事業計画の内容、自己資金の額、創業者個人の経歴などをふまえて総合的に判断されます。
自己資金の額が融資額に影響する
創業融資の審査では、自己資金の額が融資額を左右する重要な要素になります。一般的には、創業に必要な資金のうち2〜3割程度を自己資金で用意しておくのが目安とされています。
金融機関は、自己資金を「創業者の覚悟」や「資金管理能力」の指標として重視します。そのため、自己資金が多いほど融資審査で有利になりやすい傾向があります。事業計画の内容や創業者の経歴、業種の特性によっては、自己資金が少なくても融資が認められる場合もありますが、自己資金なしで融資を受けるのは特別な事情がない限り難しいのが実情です。
創業融資はいつまでに申し込むべき?
創業融資は、制度にもよりますが、基本的に「事業を開始する前」または「事業開始後で税務申告を2期終えていない」期間に申し込みます。この期間は、日本政策金融公庫をはじめとする多くの融資制度で「創業者」または「創業間もない事業者」として扱われる基準となっています。
創業してから時間が経過し、税務申告を2期以上終えている場合は、創業融資ではなく一般の事業者向け融資となる場合があります。そのため、創業期ならではの有利な条件で融資を受けたいのであれば、タイミングを逃さず早めに申し込むことが求められます。
申し込みから審査、そして実際に入金されるまでには、1か月から2か月程度かかるのが一般的です。開業希望日から逆算し、余裕を持ったスケジュールで準備を進めましょう。もちろん、創業1年目であっても、条件を満たしていれば申し込みは可能です。
創業融資と他の資金調達方法のメリット比較
創業期の資金調達には、融資以外にもいくつかの選択肢があります。それぞれの方法のメリットを理解し、自社の状況に合った最適な手段を選ぶことが事業成功の鍵です。
ベンチャーキャピタル(VC)からの出資との違い
ベンチャーキャピタルからの出資は、株式を対価として資金を得る方法です。返済義務がない点が最大のメリットですが、経営権の一部を譲渡し、経営への関与を受ける可能性があります。
- 融資:返済義務はあるが、経営の自由度は維持される。
- 出資:返済義務はないが、経営権や意思決定への影響を受ける可能性がある。
急成長を目指すスタートアップには出資が向いている一方、経営の独立性を保ちながら着実に事業を成長させたい場合は、融資が適しているといえるでしょう。
補助金・助成金との違い
国や地方自治体が提供する補助金や助成金は、原則として返済不要の資金です。これは大きなメリットですが、いくつかの注意点があります。
- 後払いが基本:
補助金や助成金は、対象となる事業経費を支払った後に支給される「後払い」が一般的です。そのため、創業直後の資金繰りを支えるための即時資金には使いにくいでしょう。 - 公募期間と用途の制限:
募集期間が限られており、資金の使い道も特定の経費に限定されます。
創業融資は、運転資金や設備投資など幅広い用途に利用できるため、補助金と組み合わせて活用するのが効果的です。補助金が支給されるまでの資金を融資でまかないつつ、後日補助金によって費用の一部を回収できれば、資金繰りを安定させながら事業を進められます。
創業融資を受ける際のデメリットや注意点
創業融資の主なデメリットは、①元利金の返済義務があること、②審査に時間と手間がかかること、そして③経営者個人が連帯保証を求められる場合があることなどです。
これらを十分に理解し、返済計画や資金繰りを慎重に立てておかないと、かえって経営の足かせになるおそれがあります。
返済義務が生じる
最も基本的な注意点は、融資はあくまで「借入金」であり、利息を含めて全額を返済する義務があるということです。
事業が計画どおりに進まず、売上が想定よりも伸び悩んだ場合でも、返済は待ってくれません。返済が滞れば、遅延損害金が発生し、信用情報にも傷がつきます。そのため、無理のない返済計画を立て、収支の見通しを慎重にシミュレーションしておく必要があります。
審査に時間と手間がかかる
創業融資を受けるには、事業計画書の作成や面談など、多くの準備が必要です。申し込みから入金までには、数週間から場合によっては数か月かかることもあるため、資金が必要になるタイミングから逆算して早めに動き出す必要があります。必要書類も多岐にわたるため、手続きには相応の時間と手間がかかります。融資実行までスムーズに進めるためにも、事前に必要書類を確認し、余裕を持って準備を進めておきましょう。
代表者が連帯保証人になる場合がある
法人として融資を申し込む場合でも、経営者個人が連帯保証人になることを求められるケースがあります。制度によっては、代表者が連帯保証人になる必要がない場合もありますが、利用する制度の要件をよく確認しなければなりません。連帯保証人になると、万が一会社が返済不能となった際に、経営者個人が返済義務を負うことになります。
創業融資のメリットを活かし、事業成長の基盤を築く
創業融資の最大のメリットは、自己資金を補いながらスピーディーに事業を開始できる点にあります。さらに、低金利で利用できるうえ、金融機関との取引実績作りにもつながるため、多くの起業家にとって有効な資金調達手段といえるでしょう。
ただし、融資である以上、返済義務が伴うことを忘れてはなりません。事業計画を綿密に練り、自社に必要な金額を見極めたうえで、計画的に活用することが大切です。創業融資のメリットを最大限に引き出し、安定した事業運営の土台を築いていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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