- 作成日 : 2025年8月19日
日本政策金融公庫は不動産投資に使える?賃貸業で融資を受けるための流れを解説
日本政策金融公庫は、創業間もない事業者や小規模企業を支援する政府系金融機関です。不動産投資全般を対象とするわけではありませんが、明確な事業性がある不動産賃貸業であれば、融資対象となる可能性があります。
本記事では、日本政策金融公庫の融資制度が不動産賃貸業にどのように活用できるのかを解説します。
目次
日本政策金融公庫と融資の基本
日本政策金融公庫は、中小企業や創業者、個人事業主など、民間金融機関からの資金調達が難しい層を支援する目的で設立された政府系金融機関です。以下では、公庫の組織概要と、融資に対する基本的なスタンスについてご紹介します。
日本政策金融公庫の概要
日本政策金融公庫(略称:日本公庫)は、2008年に設立された政府全額出資の金融機関です。中小企業の育成や地域経済の活性化、雇用の創出といった政策的役割を担うことを目的として、旧国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫の機能を統合して発足しました。主に「国民生活事業」「中小企業事業」「農林水産事業」の3分野を展開しており、創業期や小規模事業者に対しては「国民生活事業」を通じて融資を行っています。民間金融機関との競争を避け、あくまで補完的役割に徹することが前提であるため、融資においては地域経済や社会への波及効果が重視されます。
融資に対する基本的なスタンス
日本政策金融公庫が提供する融資は、営利目的ではなく、あくまで事業の持続性や社会的貢献を評価基準としています。そのため、融資対象となるのは、一定の収益性が見込まれる「事業資金」に限られます。個人的な生活費や投資、資産形成を目的とした資金需要には応じていません。株式投資や値上がり益を狙った不動産購入などは対象外です。一方で、事業としての賃貸経営や、地域に根差した店舗開業など、地域経済の活性化に寄与する計画には積極的に融資する姿勢を示しています。
また、創業や事業承継といったタイミングには、金利優遇や保証人不要などの制度も整備されており、起業や事業再構築に対して柔軟に対応する体制が整えられています。これにより、日本政策金融公庫は民間金融機関では対応が難しいケースでも、公共的な視点から資金支援を行っています。
日本政策金融公庫の融資を不動産投資に利用できる?
日本政策金融公庫の融資が不動産投資に使えるかどうかは、多くの起業家や会社設立希望者にとって関心の高いテーマです。実際には「投資目的」か「事業目的」かによって対応が異なります。ここでは、日本公庫のスタンスと利用可能なケースを具体的に解説します。
投資目的の資金は融資対象外
日本政策金融公庫は、事業以外の用途への資金提供を行っていません。公式ホームページにおいても、「投資目的(投機目的)の資産取得にかかる資金」は融資対象外であることが明記されています。これには不動産・株式・仮想通貨などの取得資金も含まれます。たとえば、将来的な値上がり益を見込んだマンション購入、または自己の資産形成を目的とした土地取得といったケースでは、融資の対象外となります。
この方針は、公的資金を原資とする日本公庫の使命に基づいており、社会的・公共的な価値の創出につながる事業支援に限定するという立場にあります。そのため、個人が副収入や節税対策として取り組むような、いわゆる“サラリーマン大家”のための投資用アパート購入資金なども原則対象外です。仮に物件運用によって収益が生じるとしても、それが明確な事業性に裏打ちされたものでなければ、日本公庫の融資を受けることはできません。
不動産賃貸業としての事業なら融資対象に含まれる
一方で、法人や個人事業主が「不動産賃貸業」として明確な事業計画を立てたうえで物件を取得する場合には、融資対象となる可能性があります。たとえば、法人を設立し、集合住宅の一棟経営を行うケース、あるいは既存物件を改修して賃貸に供するなど、収益を得るための“事業”として不動産を活用する形であれば、日本公庫はその資金ニーズに応える余地を持っています。
ただし、融資申込時には、申請書やヒアリングにおいて「資産運用」ではなく「事業運営」としての意図を明確に伝える必要があります。たとえば「不動産投資で利回りを得たい」という表現ではなく、「地域の賃貸ニーズに応える形で安定収益を目指す」といった事業視点での説明が求められます。
加えて、事業としての不動産賃貸を成立させるためには、収益予測や空室率、管理体制などを含めた詳細な計画書の提出は欠かせません。日本公庫は家賃収入の見通しや返済計画の現実性、地域での賃貸需要といった具体的な根拠を重視するため、「家賃収入があるから大丈夫」といった漠然とした説明では不十分です。しっかりとした経営意識と持続可能なビジネスモデルを提示できるかどうかがポイントです。
日本政策金融公庫の融資を不動産賃貸業で利用するメリット
日本政策金融公庫は、創業者や中小企業にとって利用価値の高い融資制度を整えています。不動産賃貸業を新たに始める場合においても、制度の特徴が資金調達面で大きな後押しとなります。以下では、代表的なメリットについて解説します。
固定・低金利で借入できる安心感
日本政策金融公庫の最大の強みは、民間金融機関と比べて低金利での融資が可能である点にあります。2024年6月時点の金利水準は、適用される融資制度や担保の有無によって異なりますが、特別利率が適用されれば年1%台から、基準利率では年2%~3%台となる場合もあります。都市銀行や地方銀行の事業ローンと比べてもかなり有利な条件です。
また、借入時に金利が確定する「固定金利型」を選択できるため、将来的な金利上昇に備えることができ、長期にわたり安定した資金計画が立てやすくなります。不動産賃貸業は収支が長期に渡る事業であるため、こうした安定的な融資条件は、運営者にとって大きなメリットです。
創業直後でも融資を受けられる可能性
日本公庫は創業支援を重視する金融機関であり、事業の立ち上げ段階にある法人や個人事業主に対しても積極的に融資を行っています。民間銀行の場合、最低でも2〜3期の決算書が求められることが多く、創業直後の融資は難しい傾向がありますが、日本公庫では創業計画書や本人の事業経験などを総合的に評価し、実績がなくても融資が検討されます。
たとえば、会社設立後まもなく不動産賃貸事業を始めたいと考える方でも、明確な事業計画と必要な自己資金を用意すれば、融資が実現するケースも少なくありません。この柔軟性は、初期段階の資金確保において魅力的です。
担保・保証人が不要なケースもある
さらに、日本政策金融公庫では、一定の条件を満たすことで担保や保証人を必要としない融資制度も用意されています。たとえば小規模事業者向けの無担保融資制度や、代表者の個人保証を免除できる特例措置などがあります。通常、民間の不動産ローンでは不動産担保が必須であり、かつ保証人の提出も求められることが一般的ですが、日本公庫では制度に応じた柔軟な対応が可能です。また、女性や若者、シニア創業者を対象に金利優遇措置が講じられており、条件に合致すれば通常より低い金利で借入ができる可能性もあります。
これらの制度を活用することで、資金調達のハードルが大きく下がる点も、日本公庫を利用する際の大きな利点と言えるでしょう。
日本政策金融公庫の融資を不動産賃貸業で利用する際の注意点
日本政策金融公庫の融資は魅力的な条件を備えていますが、すべての事業者にとって万能とは限りません。以下では、主な注意点を解説します。
融資額と返済期間には上限がある
日本政策金融公庫の融資は、あくまで中小企業や小規模事業者向けであり、融資額には上限があります。たとえば、創業融資の限度額は7,200万円程度で、これは不動産取得を含む事業資金全体に対する上限として設定されています。そのため、1億円を超えるような大型物件や複数物件の同時購入には対応が難しく、自己資金での補完が必要となるケースもあります。また、返済期間も最長20年が基本であり、実務上は10〜15年で設定されることが多く見られます。
これにより、月々の返済負担が相対的に大きくなり、物件のキャッシュフローに余裕がないと運転資金を圧迫する恐れがあります。特に長期のレバレッジを効かせた投資を考えている場合には、公庫融資の条件が計画に適合しているか慎重に見極める必要があります。
高い自己資金比率が求められることがある
民間金融機関では、物件評価次第でフルローンや頭金ゼロといった融資が実現することもありますが、日本公庫では異なります。原則として、一定割合の自己資金を確保しておく必要があります。2割以上、場合によっては物件価格の半分近くを求められることもあります。公庫では融資の安全性と事業者の責任感を重視しており、資金準備が不十分な場合、希望額通りの融資が受けられない可能性があります。
したがって、資金計画の初期段階から自己資金の蓄積と投下比率を明確に想定し、必要に応じてスケジュールの見直しも視野に入れることが重要です。
審査の時間と書類準備に手間がかかる
日本公庫の融資は、公的機関ならではの丁寧な審査体制をとっていますが、その分、融資までに要する時間や準備負担が大きい傾向にあります。申し込みから融資実行までには、数週間から1ヶ月以上を要することが多く、その間に不動産取引の契約スケジュールを調整する必要もでてきます。また、申請には詳細な創業計画書、収支予測、自己資金証明など多くの書類が必要となり、さらに担当者との面談では、事業の具体性・継続性・収益性について細かく説明することが求められます。
不動産賃貸業で融資を申し込む際の審査のポイント
日本政策金融公庫において不動産賃貸業での融資を申し込む場合、審査では物件の価値だけでなく、事業全体の収益性や継続性が重視されます。以下では、融資審査を通過するために押さえておくべきポイントを解説します。
事業計画の具体性と収支の妥当性
日本政策金融公庫では、融資の判断において事業計画書の中身が非常に重視されます。特に不動産賃貸業においては、家賃収入や空室率、維持管理費、修繕費といった経費をどのように見積もっているかが審査のポイントとなります。想定家賃が相場より高すぎる、または空室リスクを考慮していないなど、収支の甘さが見られると、計画の信頼性を損ねてしまいます。地域の賃貸需要や競合状況、入居者ターゲットなど、客観的な根拠に基づいた事業戦略を記載することで、計画の説得力が高まります。
物件の収益性と担保評価
審査では取得予定の物件が安定した賃貸収入を生むかどうかも厳しくチェックされます。表面利回りだけでなく、管理費や空室リスクを加味した実質利回りで事業性を評価されるため、物件選定の段階からキャッシュフローの確実性を意識しておくことが必要です。また、日本公庫では物件を担保とする融資の場合、評価額が保守的に見積もられる傾向があり、物件価格に対して思ったよりも融資額が伸びないこともあります。
そのため、自己資金を含めた資金計画が現実的であるかどうかが重要視されます。
申込者本人の人物評価と実行力
日本公庫の審査では、申込者自身の経験や熱意、経営への姿勢も重視されます。たとえば過去に不動産業に携わった経験があるか、経理や管理体制に関する知識があるかといった点は、融資の可否に大きく影響します。創業者で実績がない場合でも、学習意欲や誠実な姿勢、リスク認識と対応策を説明できれば、前向きに評価されることがあります。また、面談では担当者からの質問に一貫性ある回答ができるかどうかも見られます。
単に「不動産を持ちたい」という抽象的な動機ではなく、「なぜその物件で、どのように収益化するか」というビジョンを具体的に語れることが求められます。
不動産賃貸業の融資の申し込みから実行までの流れ
日本政策金融公庫で不動産賃貸業の融資を受けるには、いくつかの段階を経る必要があります。手続きは民間銀行と異なり、創業支援を前提とした丁寧な審査プロセスが特徴です。ここでは、申し込みから融資実行までの流れを解説します。
(1) 事前相談と申請書類の準備
まずは日本政策金融公庫の最寄り支店へ融資相談の予約を行い、担当者との事前面談に臨みます。この段階では、融資の目的や対象物件、自己資金の有無、法人の有無など、基本的な情報を共有します。相談の結果、申込可能と判断されれば、申請に必要な書類を準備することになります。必要書類には、創業計画書、収支計画、物件概要資料、見積書、資金使途内訳、本人確認書類、決算書(法人の場合)などがあり、内容の正確性と整合性が求められます。
不動産に関する資料も重要で、登記簿謄本や販売図面、賃料想定の根拠となる情報も添付するとスムーズです。
(2) 面談と審査
書類提出後、日本公庫の担当者との面談が行われます。この面談では、事業計画や返済能力、物件の収益性、申込者の事業経験などを口頭で確認されます。計画通りの説明をするだけでなく、リスク要因やその対応策についても質問されるため、事前に準備しておくことが重要です。審査では、家賃収入による返済能力、自己資金の割合、物件の価値、入居見込みなどが総合的に評価されます。
また、法人で申し込む場合は代表者の信用情報や事業経歴も考慮され、場合によっては追加資料を提出する必要があります。審査期間はおおよそ2〜4週間程度が目安です。
(3) 融資内定後の契約・実行
審査を通過すると、融資内定の連絡があり、金利・融資額・返済期間などの条件が提示されます。条件に同意すると、正式な契約手続きに入ります。契約時には、金銭消費貸借契約書の締結、担保設定(必要な場合)、保証人契約などを行い、印鑑証明書や登記関連書類なども提出します。
これらの手続きが完了すると、指定口座に融資金が振り込まれ、融資実行となります。なお、物件購入資金の場合、決済日と融資実行日を一致させる必要があるため、売買スケジュールとの調整も大切です。
日本政策金融公庫の制度を理解し、不動産賃貸業の資金調達に活用しよう
日本政策金融公庫は、不動産賃貸業を事業として展開する際に、有利な条件で融資を受けられる可能性のある公的金融機関です。対象となるのは投資目的ではなく、明確な収益計画を持った事業運営であり、計画の実現性や継続性が審査の核となります。制度の特徴や制限をしっかりと理解し、自社に合った融資制度を選ぶことが成功への近道です。創業段階でも柔軟に対応してもらえるため、事前準備を整えたうえで、資金計画に活かしていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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