- 作成日 : 2025年7月3日
鍼灸院を開業するには?必要な費用や許認可、流れを解説
鍼灸院の開業は、多くの鍼灸師にとって夢の実現です。しかし、実際に開業するとなると、さまざまな準備や手続きが必要となり、何から手をつければよいか迷ってしまう方もいるのではないでしょうか。
この記事では、鍼灸院を開業するために必要な費用、許認可、そして具体的な流れについて、わかりやすく解説します。
目次
鍼灸院の開業に必要な費用
鍼灸院の開業には初期投資が伴います。費用は物件形態、立地、規模、設備へのこだわりで大きく変動しますが、一般的な目安を把握し計画的な資金準備が肝要です。
開業費用の内訳と相場
一般的に鍼灸院開業には300万円から600万円程度が必要とされますが、都心部で20坪程度のスケルトン物件の場合、600万円から1,200万円程度になることもあります。
主な費用の内訳と相場は以下の通りです。
- 物件取得費
敷金、礼金、前家賃、保証金など。賃料の3~5ヶ月分、開業費用全体の約10%程度が目安。20坪で月20万円なら60万円から120万円程度。 - 内装・改装費
最も大きな割合を占め、全体の約70%に達することも。坪単価20万円から50万円が相場。20坪のスケルトン物件なら400万円から1,000万円程度。 - 施術機器・備品費
施術ベッド、鍼、灸、消毒設備、タオル類から事務用品まで。自宅開業や出張専門なら50万円以内に収まることも。 - 広告宣伝費
ホームページ制作、チラシ、看板、オンライン広告など。初期費用として50万円、月次運転資金の例として広告費30万円。 - 運転資金
家賃、水道光熱費、消耗品費、人件費など。少なくとも100万円~200万円程度は必要だが、開業後6ヶ月程度は収入がなくても運営できる資金確保が望ましい。 - 諸経費
資格関連費用、許認可申請費用、研修参加費用など。開業費用全体の約10%程度。
これらの費用項目と相場を理解し、自身の開業プランに合わせて具体的な資金計画を立てることが重要です。
開業費用の概算比較
費用項目 | スケルトン物件・都心部・20坪程度の例 | 居抜き物件・郊外・10坪程度の例 (推計) | 自宅開業の例 |
---|---|---|---|
物件取得費 | 60万~120万円 | 30万~60万円 | ほぼ0円 |
内装・改装費 | 400万~1,000万円 | 50万~200万円 | 0円~数十万円(リフォーム時) |
施術機器・備品費 | 100万~200万円 | 50万~100万円 | 20万~50万円 |
広告宣伝費(初期) | 50万~100万円 | 20万~50万円 | 10万~30万円 |
運転資金(3ヶ月分) | 180万~360万円 (月60万~120万 × 3) | 60万~120万円 (月20万~40万 × 3) | 30万~60万円 (月10万~20万 × 3) |
諸経費 | 60万~120万円 | 10万~30万円 | 5万~10万円 |
合計 | 850万~1,700万円 | 220万~460万円 | 65万~150万円 |
活用できる可能性のある助成金・補助金
国や自治体が様々な支援制度を設けています。
主な助成金・補助金
- 小規模事業者持続化補助金
販路開拓や生産性向上(HP作成、チラシ、新機器導入等)を支援。上限50万~200万円程度。 - 事業再構築補助金
新分野展開、業態転換等を支援。従業員20人以下の場合の上限1,500万円程度。 - IT導入補助金
ITツール導入(電子カルテ、予約システム等)経費を補助。上限最大450万円程度。 - ものづくり補助金
革新的製品・サービス開発や生産プロセス改善の設備投資等を支援。上限最大750万円。 - 創業支援等事業者補助金
開業経費(店舗借入費、設備費等)を補助。各市区町村による創業補助。 - 地方自治体独自の助成金・補助金
家賃補助、設備投資補助等。
申請には「申請条件」「提出期限」があり、事業完了後に「実績報告書」が必要な場合が多いです。また、補助金の受給タイミングもよく確認しておきましょう。不正受給は返還や加算金が課されることも。専門家への相談も有効です。
鍼灸院の開業に必要な許認可
鍼灸院開業には、法的に定められた資格取得と行政機関への適切な届出が不可欠です。
必要な国家資格
鍼または灸の施術には、それぞれ「はり師」および「きゅう師」の国家資格が必要です。両方の施術を行う場合は両方の資格が必要です。
資格取得には、認定された学校または養成施設で3年以上専門知識と技能を修得し、国家試験に合格する必要があります。
施術所の開設手続きと保健所への届出
国家資格取得後、施術所開設には管轄保健所への届出と基準遵守が必要です。
- 事前相談
物件決定後、内装工事前に管轄保健所に「事前相談」を。構造設備基準、名称、必要書類等を確認。工事後の不適合リスクを回避。 - 構造設備基準の遵守
法令・条例で定められた基準(専用施術室6.6㎡以上、待合室3.3㎡以上、換気、消毒設備、清潔保持、採光・照明等)を満たす必要あり。 - 名称に関する規制
医療機関と誤解される名称(病院、診療所、クリニック、〇〇科、〇〇医等)は使用禁止。 - 開業届(施術所開設届)の提出
業務開始後10日以内に管轄保健所に提出。必要書類は施術所開設届、平面図、本人確認書類、はり師・きゅう師免許証(原本と写し)、印鑑、法人場合は登記事項証明書等。 - 立入検査と副本交付
届出受理後、保健所担当者が立入検査。問題なければ開設届副本が交付され正式運営可。 - 税務署への届出
個人事業主は事業開始後1ヶ月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出。青色申告の場合は「所得税の青色申告承認申請書」も。 - 都道府県税事務所への届出
税事務所に事業開始申告書を提出。
不明点は保健所、税務署、専門家へ相談を。
出張専門の場合の手続き
店舗を持たない出張専門の場合、「出張施術業務開始届」を施術者住所地の管轄保健所に提出します。業務開始後10日以内が一般的です。必要書類は出張施術業務開始届、はり師・きゅう師免許証(原本と写し)、本人確認書類等です。屋号での広告は不可で、保険診療の出張範囲は原則片道16km以内です。
保険診療の取り扱い
健康保険を使った施術(療養費支給)には追加要件と手続きが必要です。
- 施術管理者の登録
健康保険利用には、はり師・きゅう師国家資格に加え、「施術管理者」登録が地方厚生局に必要。要件は国家資格取得後1年以上の実務経験と指定研修修了。 - 医師の同意書
鍼灸の保険適用には原則、医師による「同意書」または「診断書」が必要。対象疾患は神経痛、リウマチ、腰痛症、五十肩、頸腕症候群、頸椎捻挫後遺症等。 - 保険請求の手続き
患者は同意書と保険証を提示。施術後、自己負担分を支払い、残りは鍼灸院が保険者に請求(受領委任払い)。保険者により償還払いの場合もあり。
保険診療導入は集客メリットがある一方、管理業務が増加。総合的に考慮し導入検討を。
鍼灸院の開業の流れ
鍼灸院開業は入念な準備と計画に基づいたステップが成功の鍵です。
開業準備のステップとタイムライン
一般的に開業予定日から逆算し、1年半(18ヶ月)程度の準備期間が目安です。
【開業18ヶ月前~】コンセプト設計
どのような鍼灸院を作りたいか「コンセプト」を明確に。全ての意思決定の軸となる。
【開業6~18ヶ月前】事業計画書作成、開業資金準備
コンセプトに基づき「事業計画書」を作成。市場分析、収支予測等を詳細に。融資や助成金申請にも不可欠。自己資金準備や融資情報収集も。
【開業6~12ヶ月前】物件探し
事業計画と予算に基づき物件選定。立地は集客に大きく影響。構造設備基準を満たせるか、契約前に保健所に事前確認を。
【開業4~6ヶ月前】内外装工事・備品準備
物件契約後、内装工事。コンセプトを体現しリラックスできる空間作りを。施術用品や備品も手配。
【開業1~4ヶ月前】ホームページ開設、各種届出、施術管理者登録
公式ホームページ制作・公開準備。保健所への「施術所開設届」、税務署への「開業届」等準備。保険診療行う場合は「施術管理者」登録も。
開業準備と最終チェック
広告宣伝活動を開始。プレオープン等も検討。運営オペレーション確認、スタッフ研修等。
開業許可の取得と開業
保健所の立入検査後、問題なければ開業許可。いよいよ開業。
以上を計画的に進めるべく、特に資金調達、物件探し、許認可手続きは早期着手を。
鍼灸院の開業メリット・デメリット
鍼灸院開業は理想追求の一方、経営者責任も伴います。
メリット
- 経営の自由度が高く、施術内容、料金、営業時間、経営方針全てを経営者自身で決定できる。
- 得意分野や追求したい治療法に専念できる。
- 地域住民の健康増進に直接貢献でき、やりがいを実感できる。
- 経営が軌道に乗れば高収入の可能性がある。
- (一人開業の場合)人件費がかからない: 固定費を抑え、利益確保しやすい。
- (一人開業の場合)スタッフ教育・管理の手間が省け、本質的業務に集中できる。
- (一人開業の場合)経営方針に一貫性を持つことができ、迅速な意思決定、自身のビジョンに忠実なサービスを提供できる。
- (出張専門等の場合)初期費用を大幅削減でき、撤退・再挑戦のハードルが低くなる。
デメリットとリスク
- 施術以外の全業務も自身で対応または管理する必要がある。
- 効果的な集客戦略が不可欠だが容易ではない。
- 初期投資回収に時間がかかり、運転資金も継続発生する。
- (一人開業の場合)病気やケガによる収入途絶リスクがある。
- (一人開業の場合)対応患者数に限界があるため、収益の上限が決まる。
- (一人開業の場合)長期的成長や多店舗展開が難しく、スタッフ雇用等の検討が必要である。
- (出張専門等の場合)理想的施術スペース確保困難で、大型機器の持ち運びが不可であったり、認知度向上や信頼獲得が難しく、屋号広告もできない。
鍼灸師会・団体への加入メリット
専門知識のアップデートや経営課題、トラブル対応等で鍼灸師会や関連団体への加入は多くのメリットをもたらす可能性があります。
情報収集とネットワーク構築
業界動向、法改正、保険制度等の最新情報を会報誌、研修会等で効率的に入手可能です。他の鍼灸師との情報交換、悩み相談、新たな知見を得るネットワーク構築の機会も大切です。
研修・スキルアップの機会
日常施術スキル向上の研修会や特定分野の専門知識・技術を深める講習会を定期開催しています。認定資格取得に繋がる研修もあります。生涯研修制度を活用し継続的学習を奨励します。
経営サポートと信頼性向上
各都道府県鍼灸師会や日本鍼灸師会などの会員となれば、経営サポートサービスや制度を享受できます。
例:賠償責任保険への団体割引加入、労災保険特別加入サポート、厚生労働大臣免許保有証交付申請サポート、「安心のマーク」活用、レセプトシステム等会員価格提供、保険診療に関する講習・指導、鍼灸院検索サイト登録など。
社会的活動への参加
業界全体の発展や国民の健康増進への貢献活動も重要です。
例:災害時ボランティア活動、鍼灸治療の啓発活動、地域健康イベント参加など。
加入は任意で会費も発生しますが、専門性向上、経営安定化、業界貢献の観点から検討の価値があります。
鍼灸院の開業には入念な準備が必要
鍼灸院の開業は、周到な準備と戦略的な経営手腕が求められます。この記事では、開業に必要な費用、許認可、流れ、そしてメリット・デメリット、成功のポイントについて解説しました。
市場は競争が激しいですが、明確なコンセプトとターゲット設定、効果的な集客、質の高い施術とサービスを提供することで、信頼され愛される鍼灸院を築くことは可能です。そのためには、事業計画を綿密に練り、経営の基本を押さえることが不可欠です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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