- 作成日 : 2025年10月24日
家族信託で節税はできる?制度の仕組みと活用ポイントをわかりやすく解説
相続や贈与にかかる税負担をできるだけ抑えたいと考える中で、「家族信託」という言葉を耳にした方も多いのではないでしょうか。家族信託は、財産の管理や承継を円滑に行うための仕組みですが、使い方によっては節税にもつながる可能性があります。
本記事では、家族信託の基本から節税との関係、活用のポイントなどを解説します。
目次
家族信託で節税は可能?
家族信託は、財産管理や承継の円滑化を目的とした制度であり、相続税や贈与税の節税を直接的にもたらすものではありません。ただし、一定の条件を満たせば、結果的に税負担の軽減に役立つことがあります。
家族信託単体では節税効果は限定的
家族信託そのものには、相続税や贈与税を減らす直接的な効果はありません。
家族信託は、委託者が信頼できる家族(受託者)に財産の管理や処分を託し、特定の目的に沿って財産を運用する仕組みです。財産の名義が変わっても、経済的な所有者が変わらなければ課税関係は変わらず、信託設定によって自動的に税金が減るわけではありません。委託者が自身を受益者に指定する「自益信託」の場合、信託財産から生じる利益は引き続き本人の所得と見なされます。
また、相続時には信託された財産が実質的に相続人に承継されれば、相続税が課されることになります。
他の制度と組み合わせれば節税につながる場合もある
信託を上手に組み合わせることで、結果として税負担を抑えられる可能性があります。
たとえば、家族信託を活用して生前贈与を計画的に行えば、相続発生時の課税財産を減らす効果が期待できます。2023年の税制改正により2024年以後の贈与は、死亡前7年以内の贈与が原則相続財産に加算されます(従来3年→7年)。このうち死亡前4〜7年の贈与分については合計100万円まで加算から控除されることにとなったため、長期的な贈与と信託を組み合わせることが効果的です。また、教育資金や結婚資金の一括贈与特例を信託で管理すれば、非課税枠を活用しながら贈与財産の使途管理も可能になります。
このように、信託単体ではなく、税制上の特例や贈与計画と組み合わせて使うことが、節税における実践的なアプローチとなります。
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家族信託で節税できるケースは?
家族信託は、財産管理を目的とした制度ですが、特定の税制優遇措置や贈与制度と組み合わせることで、実質的に税負担の軽減につながることがあります。ここでは、代表的な節税の活用パターンをご紹介します。
早期贈与と家族信託の併用で相続税を減らす
計画的な生前贈与に信託を組み合わせることで、課税財産を抑えることができます。家族信託では、委託者が財産の名義を受託者に移しつつも、自身の意向に沿って管理・処分を任せられるため、贈与後も柔軟な資産運用が可能です。相続税の対象となる財産を減らす手段として「暦年贈与」を活用するケースが多く見られます。年間110万円以内の贈与であれば贈与税がかからず、この非課税枠を毎年利用することで相続財産を段階的に減らせます。
さらに税制改正によって、生前贈与の加算期間が「相続開始前3年以内」から「7年以内」に延長される一方で、各年110万円以下の贈与は加算対象から除外される新ルールが導入されました。これにより、長期間かけて少額ずつ贈与する方法が、より実質的な節税効果を持つようになりました。家族信託を用いれば、贈与後の財産も受託者の管理下で目的に沿った使途が可能なため、資産管理と節税の両立が図れます。
参考:令和6年分の贈与から贈与税・相続税の計算方法が変わります!|国税庁
教育・結婚資金の一括贈与特例と信託の活用
大きな非課税枠を利用できる制度と家族信託を併用することで、税負担を大きく抑えられる場合があります。国の非課税制度として、教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与特例が設けられており、一定の条件のもとで贈与税が非課税となります。教育資金については1,500万円、結婚・子育て資金については1,000万円までが非課税の対象です。これらの制度では、信託銀行などの専用口座に一括で資金を預け、領収書などに基づいて支出を管理する形で、贈与税の課税を免れます。
教育資金一括贈与は2023年度の改正で適用期間が延長され、現在は2026年3月31日まで有効とされています。ただし、制度の延長に伴い、使い残した資金が贈与者の死亡時に相続税の課税対象となるなど、条件も見直されています。家族信託を活用すれば、贈与資金の使途を契約で明確に定められるため、孫の進学費や結婚準備金といった目的に沿った確実な資金活用が可能です。制度の趣旨に即した使い方を担保できるという点で、信託は効果的な手段といえるでしょう。
参考:No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税|国税庁
No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税|国税庁
障害者扶養信託の活用による贈与税非課税
障害を持つ家族の将来に備えて資産を遺すための信託では、大きな贈与税の非課税枠が設けられています。
特定障害者扶養信託契約では、特別障害者の場合は信託財産最大6,000万円まで、その他の特定障害者の場合は最大3,000万円までが贈与税非課税となります。
これは、重度の障害を持つ子や孫などが将来も安心して生活できるよう、一定の条件を満たした信託契約によって資金を準備することを目的とした制度です。信託契約に基づいて受託者が資金を管理し、生活費・医療費・福祉サービス費用などに支出する仕組みで、実際の利用が明確であることが求められます。
この制度の利用には、受益者が障害者手帳を所持しており、特定障害者としての認定を受けている必要があります。また、税務署に信託契約書を提出する手続きも必要です。信託を使えば、親が元気なうちにしっかりと資金を確保し、本人の意思や状況に応じた生活支援を継続することができるため、制度の趣旨に適った利用が可能になります。
家族信託を利用する際の税務上の注意点は?
家族信託は財産の管理や承継をスムーズに行える優れた手法ですが、信託の設定や運用方法によっては、贈与税や相続税など思わぬ課税が発生する可能性があります。以下で注意点を解説します。
信託設定時には贈与税や登録免許税が発生する可能性がある
受益者が委託者以外の場合、信託設定時点で贈与税が発生します。家族信託を開始する際、委託者(例:親)と受益者(例:子)が異なる場合、その財産の移転は贈与とみなされます。たとえば親が所有する不動産を信託し、子を受益者とした場合、移転された財産は親から子への贈与と扱われ、基礎控除(年110万円)を超える部分には贈与税が課税されます。
一方で、委託者が自らを受益者とする「自益信託」の場合は、形式的な名義の変更があっても実質的所有者が変わらないため、贈与税は課されません。
さらに、不動産を信託する際には登録免許税が必要です。不動産登記法上の取り扱いにより、信託による所有権の移転登記には、原則として不動産評価額の0.4%の登録免許税がかかります(法務省登記手続・信託登記規則より)
不動産取得税は、原則として信託設定時には課税されないものの、信託内容や契約形態によって例外もあり、事前確認が重要です。
信託運用中の収益には所得税や固定資産税がかかる
信託で得た収益には、原則として受益者または委託者に対して課税されます。家族信託では、信託自体が独立した納税主体になるわけではなく、信託財産から得られた収益は受益者個人の所得として取り扱われます。たとえば、信託財産としてアパートを運用して賃料収入が得られる場合、その収入は受益者の不動産所得とされ、確定申告の対象になります。
また、株式など金融資産の配当や売却益についても、受益者の所得として課税されるため、信託契約で得た利益がどこに帰属するのかを明確にしておく必要があります。受益者が複数いる場合は、それぞれの持分に応じて分配され、同様に課税されます。
固定資産税についても同様に、信託によって名義が受託者に移っていても、経済的な負担者である受益者や委託者に納税義務が課されるのが一般的です。信託を導入しても、納税義務や課税関係が完全に変わるわけではない点に注意が必要です。
信託終了時や受益者死亡時には相続税が発生する
信託を通じて財産を承継しても、相続税の課税対象から除外されるわけではありません。たとえば委託者が自らを受益者として信託を設定し、その後に死亡した場合、その信託財産は受益権の終了とともに指定された受益者(通常は相続人)に移転されます。このとき、信託財産は被相続人の相続財産とみなされ、相続税の課税対象となります。
また、受益者が先に死亡した場合でも、その受益権の評価額は受益者の相続財産として課税対象になります。家族信託を使っても、相続税自体を免れることはできず、むしろ適切に設計しなければ課税リスクが増す可能性すらあります。
ただし、前述の通り、家族信託と暦年贈与や相続時精算課税制度、各種非課税枠(例:教育資金、障害者信託等)を組み合わせることで、相続発生時点での財産を意図的に減らし、結果的に税負担を抑えることは十分に可能です。信託は節税の万能薬ではありませんが、制度を適切に活用すれば相続や贈与の対策に有効な選択肢となり得ます。
近年の税制改正における相続税・贈与税の見直しは?
相続税・贈与税をめぐる制度は、令和5年度(2023年度)を中心に大きな見直しが行われており、生前贈与と相続のルールを統一的に整理する動きが進められています。
生前贈与の加算期間の延長(令和5年度改正)
令和5年度税制改正により、相続財産に加算される生前贈与の期間が、これまでの「死亡前3年以内」から「死亡前7年以内」へ延長されました。
ただし、贈与加算の対象となるのは各年110万円を超える部分に限定され、年間基礎控除の範囲内(110万円以下)の贈与は加算対象から除外されます。
この改正により、長期的な贈与計画を立てることで、相続時の課税対象を効果的に抑えられる制度設計となりました。2024年以降の贈与に順次適用されています。
参考:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁
相続時精算課税制度の緩和
これまで相続時精算課税制度の利用には、「贈与者が65歳以上、受贈者が20歳以上の子や孫」といった年齢要件がありましたが、令和5年度の税制改正により、基礎控除(110万円)が創設され、制度の柔軟性が拡大されました。
この結果、相続時精算課税を選択しても、年間110万円までは非課税で贈与が可能となり、暦年贈与と併用しやすくなっています。ただし、制度全体の年齢要件の撤廃は、2025年9月時点では法改正されていません。
成年後見制度との違いと家族信託の使い分けは?
家族信託と成年後見制度は、いずれも高齢者や認知症患者など判断能力が低下した人の財産を守る手段ですが、目的や使い方には明確な違いがあります。
判断能力があるうちに契約できる家族信託
家族信託は、本人に判断能力がある段階で契約しなければならない制度です。家族信託は、委託者(本人)が受託者(家族など)に財産の管理や処分を任せる制度であり、契約の締結には民法上の意思能力が必要です。つまり、認知症が進行した後では家族信託は原則として利用できません。そのため、将来的な判断能力の低下を見据えて、元気なうちに信託契約を締結しておくことが前提になります。
また、家族信託では財産の使い道や管理方法を細かく設計でき、柔軟性が高いのも特徴です。受託者が裁量を持って不動産を売却したり、収益を配分したりできるなど、本人の希望に沿った形で財産を活かすことが可能です。
判断能力を失ってからでも使える成年後見制度
成年後見制度は、本人がすでに判断能力を失った後でも利用できる法的保護制度です。家庭裁判所に申立てを行い、後見人が選任されることで制度が開始されます。後見人は財産管理や契約締結、施設入所手続きなど、本人に代わって法律行為を行います。法的に保護された制度であるため、金融機関や不動産取引においても強い効力を持ちます。
ただし、制度上、後見人の権限は厳格に制限されており、例えば本人の不動産を売却するには家庭裁判所の許可が必要です。また、報酬が発生するケースがあり、専門職が選任された場合には年間数万円〜十数万円の費用がかかることもあります。
併用や段階的な活用も有効
家族信託と成年後見制度は、状況によって併用することも可能です。家族信託によって財産管理を先に設計しておき、日常生活の法律行為については将来的に成年後見制度を利用するといった併用が考えられます。また、家族信託の中に「後見制度を利用する条件」を組み込む設計も可能です。
どちらの制度も万能ではないため、家族の事情や本人の財産内容、健康状態を踏まえて、信託と後見のバランスを取った設計を検討することが大切です。
家族信託を節税に活かすために賢く組み合わせよう
家族信託はそれ自体が節税の特効薬ではありませんが、近年の税制改正や非課税特例と組み合わせることで、相続税や贈与税の負担を軽減できる仕組みになります。暦年贈与や相続時精算課税の見直し、教育資金・結婚資金の一括贈与特例、障害者扶養信託などと連動させることで、計画的かつ柔軟な資産承継が可能になります。信託を正しく理解し、目的や家庭の状況に合わせて制度を活用することで、節税と安心の両立を図りましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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