• 作成日 : 2025年9月16日

レンタルオフィスでの開業ガイド|個人事業主・士業向けに手続き・費用・許認可を解説

新たに事業を立ち上げる際、一般的な賃貸事務所は高額な保証金や内装工事費が発生し、特にスタートアップ期の事業者にとっては大きな負担となります。その解決策として、レンタルオフィスで開業する方法があります。

この記事では、個人事業主や士業の方がレンタルオフィスで開業する際の法人登記や許認可の可否、経費計上の具体的な方法などを解説します。

そもそもレンタルオフィスとは

まず、混同されがちなレンタルオフィスとシェアオフィスの違いを整理しましょう。どちらも事業用のスペースを借りるサービスですが、その形態は大きく異なります。

  • レンタルオフィス
    机や椅子、インターネット環境などが整備された個室空間を専有して利用する形態です。プライバシーが確保しやすく、セキュリティも高いため、集中して業務に取り組みたい方や、機密情報を取り扱う業種に向いています。
  • シェアオフィス
    オープンな執務スペースを、他の利用者と共有して利用する形態です。コワーキングスペースとも呼ばれます。レンタルオフィスよりも費用を抑えられますが、周囲の音や視線が気になる場合や、プライバシーの確保が難しい側面があります。

自分の業務内容や重視するポイントに合わせて、どちらが適しているかを見極めることが重要です。

レンタルオフィスで開業するメリット

レンタルオフィスは、従来の賃貸借契約とは異なり、事業開始時のハードルを大きく下げる仕組みを提供します。物理的なワークスペースだけでなく、ビジネスに必要な機能がパッケージ化されている点が、多くの起業家にとっての魅力です。

初期費用を抑えてすぐに事業を開始できる

一般的な事務所を借りる場合、敷金や礼金、仲介手数料、内装工事費など多額の初期費用が必要です。しかし、レンタルオフィスではこれらの費用が大幅に削減され、多くの場合、入会金と初月の利用料のみで事業を始められます。机や椅子、インターネット環境も整備されているため、契約後すぐに業務を開始できるスピード感は、ビジネスチャンスを逃さない上で大きな強みです。

一等地の住所でビジネスの信頼性を向上できる

東京の都心や大阪のビジネス街など、著名なエリアの住所を利用できる点も、レンタルオフィスの大きな特徴です。名刺やウェブサイトに信頼性の高い住所を記載できることは、特に設立間もない企業や個人事業主にとって、顧客や取引先からの信用獲得に繋がります。

個人事業主が自宅住所を公開せずに済む

個人事業主が開業する際、自宅住所を名刺やWeb上で公開することに抵抗を感じる方は少なくありません。レンタルオフィスの住所を利用することで、プライバシーを保護し、セキュリティ上のリスクを回避できます。自宅と仕事場を物理的に分けることは、公私の区別をつけ、業務に集中しやすい環境づくりにも役立ちます。

レンタルオフィスで開業する前に注意すべき点

レンタルオフィスは多くの魅力を持つ一方で、その特性を理解せずに契約すると、「こんなはずではなかった」という事態に陥りかねません。メリットだけでなく、デメリットや制約についてもしっかりと把握しておくことが重要です。

個室以外のスペースではプライバシーの確保が難しい

コワーキングスペースが併設されたプランや安価なプランでは、作業スペースがオープンスペースになる場合があります。周囲の話し声や物音が気になって集中できないことも考えられます。また、電話やWeb会議の会話が丸聞こえとなり、パソコンのモニター画面が他人に見られる可能性もあるなど、機密情報を取り扱う業務には向いていません。プライバシーや情報セキュリティを重視する場合は、完全個室プランの選択が賢明です。

独自のオフィス環境を構築しにくい

レンタルオフィスは、提供される家具や内装をそのまま利用するのが基本です。そのため、壁紙を変えたり、特別な什器を持ち込んだりといった、独自のオフィス環境を自由に構築することは通常できません。企業のブランディングや独自のワークスタイルをオフィス環境に反映させたい場合、レンタルオフィスの画一的な空間では満足できない可能性があります。

レンタルオフィスでの法人登記・許認可申請は可能か

レンタルオフィスを利用する上で、特に重要なのが法人登記と事業に必要な許認可の問題です。

法人登記の可否は必ず確認を

多くのレンタルオフィスでは法人登記が可能ですが、一部の施設やプランでは認められていないケースもあります。また、登記は可能でも、郵便物の受け取りや転送サービスが有料オプションになっていることも少なくありません。ウェブサイトの情報だけでなく、契約前に運営会社の担当者へ、法人登記が可能か、登記に必要な書類は何かを明確に確認することが必須です。

許認可が下りない可能性がある業種

事業を始めるにあたって、国や自治体の許認可が必要な業種があります。例えば、建設業、不動産業、人材派遣業、古物商、そして一部の士業などは、事業の実態を示す独立した事務所スペースが要件とされるため、レンタルオフィスでは許可が下りない可能性が高いです。これらの業種での開業を検討している場合、レンタルオフィスで開業するための許可条件を、事業を管轄する行政機関へ事前に問い合わせる必要があります。

許認可申請に求められるオフィスの条件

許認可を要する業種では、事務所の独立性やセキュリティが厳しく問われます。例えば、外部から隔離された専用の執務スペース、施錠可能なキャビネットや保管庫、事務所としての看板や表札の掲示などが条件となることがあります。これらの要件は業種や管轄の行政庁によって細かく異なるため、専門家である行政書士などに相談することも有効な手段です。

レンタルオフィスの開業に失敗しないための選び方

便利なレンタルオフィスですが、契約したからといって事業の成功が保証されるわけではありません。選び方を間違えると、かえって非効率になり儲からない状況に陥ることもあります。以下の点を参考に、後悔のない選択をしてください。

立地とアクセス

オフィスの立地は、取引先への訪問や従業員の通勤利便性に直結します。最寄り駅からの距離や路線の数は必ず確認しましょう。また、銀行や郵便局、飲食店などが周辺に充実していると、日々の業務効率が向上します。名刺に記載する住所として、ビジネスイメージに合っているかも考慮すべき点です。

料金体系の透明性

月額利用料の安さだけで判断するのは危険です。基本料金に含まれるサービスと、別途料金が発生するオプションサービス(会議室利用、複合機、法人登記など)の範囲を明確に確認しましょう。共益費や更新料の有無など、想定外の出費が発生しないか、契約前に料金体系の全体像を把握することが大切です。

必要な設備とサービスの充実度

高速インターネット回線(有線・Wi-Fi)の速度や安定性、24時間利用の可否、個別空調の有無など、業務の生産性に影響する設備は入念にチェックしましょう。また、郵便物の受取・転送サービス、電話応対サービス、来客対応の質なども、ビジネスの円滑な運営を支える要素です。内覧時には、実際に働く場面を想定して細部まで確認することをお勧めします。

個人事業主がレンタルオフィスを活用するポイント

個人事業主にとって、レンタルオフィスはコストを抑えながら事業を成長させるための強力なツールです。

経費計上の方法

個人事業主が事業のために支払うレンタルオフィスの月額利用料は、全額を地代家賃などの勘定科目で経費として計上できます。会議室の利用料や複合機の使用料なども同様です。自宅兼事務所のような家事按分が不要で、会計処理が明快になる点は大きなメリットです。領収書や契約書は確定申告に必要なので、必ず保管しましょう。

事業拡大への柔軟な対応

個人事業主としてスタートし、将来的にスタッフを雇用する可能性も考えられます。多くのレンタルオフィスは、事業の成長に合わせて1人用の個室から複数人用の広い部屋へ、柔軟にプランを変更できるシステムを備えています。

士業がレンタルオフィスを活用するポイント

行政書士をはじめとする士業は、顧客の重要な個人情報や機密情報を取り扱うため、事務所選びには特に慎重さが求められます。

事務所設置基準の確認

例えば、行政書士が開業する場合、各都道府県の行政書士会が定める事務所設置基準を満たす必要があります。具体的には、守秘義務を保持できる独立した執務空間の確保や、施錠できる書類保管設備が求められます。そのため、行政書士が開業でレンタルオフィスを検討する際は、完全に独立した個室タイプで、セキュリティが確保されている施設を選ぶことが絶対条件です。

東京・大阪の士業向けオフィスの動向

ビジネスの中心地である東京や大阪では、士業のニーズに応えるレンタルオフィスが増加しています。弁護士会館や司法書士会館の近くなど、業務に便利な立地の施設も見つかります。これらのオフィスは、士業特有の要件を理解した上で、郵便物の管理や専門的な電話代行など、特化したサービスを提供していることが多いです。

最適なレンタルオフィス選びで開業を成功させよう

レンタルオフィスは、開業時の初期投資を劇的に抑え、事業をスピーディーに軌道に乗せるための有効な選択肢です。一等地の住所を利用できる信頼性や、事業規模に応じた柔軟な拡張性は、特に個人事業主やスタートアップ期の士業にとって大きな力となるでしょう。

しかし、その一方で、全ての業種で法人登記や許認可が得られるわけではなく、プライバシーやセキュリティの面では慎重な見極めが求められます。特に、事業に許認可が必要な場合や、行政書士のように顧客の機密情報を扱う場合は、個室の独立性や施錠設備の有無など、物理的な要件を契約前に必ず確認しなくてはなりません。

この記事で解説した注意点を参考に、ご自身の事業内容と将来のビジョンに合致したオフィス環境を見つけ、ビジネスの成功に向けた確かな土台を築いてください。


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