- 更新日 : 2025年9月16日
運送業の許認可を取得するには?種類や要件、個人での取得方法まで解説
運送業を開業し、事業を成功させるためには、国の許認可取得が不可欠です。しかし、許可には複数の種類があり、それぞれに細かい要件が定められているため、何から準備すればよいか迷う方も少なくありません。特に、人員や資金、車両の確保など、準備すべき項目は多岐にわたります。
この記事では、運送業の許可について、国土交通省が定める基本的なルールから、具体的な要件、申請の流れまでを分かりやすく解説します。
目次
運送業の許認可とは
運送業の許可とは、他人の求めに応じて、有償で自動車を使い貨物を運ぶ事業を行うために、国から受ける許可を指します。これは、貨物自動車運送事業法という法律で定められており、事業の安全と利用者の利益を守ることを目的としています。
この許可なく事業を行うと法律違反となり、罰則の対象となるため、運送業を始める上で必ず向き合う必要があります。許可の審査は、事業を安定的かつ継続して運営できる体制が整っているかを確認するために行われます。
運送業の許認可が必要な事業・不要な事業
すべての貨物輸送に許可が必要というわけではありません。許可が必要かどうかは、他人の荷物を運賃をもらって運ぶかどうかで判断されます。自社の事業がどちらに当てはまるのか、正確に把握しましょう。
許可が必要なケース
特定の荷主の荷物を有償で運ぶ、あるいは不特定多数の荷主から依頼を受けて有償で運ぶといった、第三者の貨物を運賃を受け取って運送する事業は、原則として許可が必要です。例えば、A社からB社へ製品を運び、その対価として運賃を受け取る場合は、典型的な許可対象事業です。これは一般貨物自動車運送事業に該当し、多くの運送会社がこの許可を取得しています。
許可が不要なケース
一方で、自社の製品や商品を自社のトラックで運ぶ、いわゆる白ナンバーでの運送に許可は要りません。これは、運賃が発生しない自分自身の荷物の輸送だからです。また、引越しの際に発生する荷造りや不用品処分といった作業も、輸送に付随するサービスと見なされ、それ自体に運送業の許可は求められません。ただし、無償であっても繰り返し継続して他人の荷物を運ぶ場合は、事業性があると判断され、行政指導の対象となる可能性があるので注意が必要です。
運送業の許認可の種類と事業内容
運送業の許可は、事業の形によっていくつかの種類に分かれています。どの許可を取得すべきかは、どのような荷主の、どのような貨物を運ぶかによって決まります。
一般貨物自動車運送事業
一般貨物自動車運送事業は、不特定多数の荷主からの依頼に応じ、トラックを使用して貨物を運送する事業です。一般的な運送会社はこちらに該当します。事業を始めるには、各地方の運輸局から許可を得る必要があります。車両台数や営業所の確保、資金計画など、クリアすべき要件は複数ありますが、最も汎用性の高い許可と言えます。
特定貨物自動車運送事業
特定貨物自動車運送事業とは、特定の一つの荷主からの依頼に基づいて貨物を輸送する事業のことを指します。例えば、親会社の製品だけを専門に輸送する子会社などがこれに当たります。荷主が限定されているため、一般貨物自動車運送事業に比べて要件が一部緩和される場合がありますが、契約している荷主以外の貨物を運ぶことはできません。
貨物軽自動車運送事業
貨物軽自動車運送事業は、軽トラックやバイクを使用して貨物を運送する事業です。一般貨物自動車運送事業のような「許可制」ではなく、運輸支局への「届出制」である点が大きな違いです。比較的簡単に開業できるため、個人事業主として運送業を始める際の選択肢として人気があります。ただし、使用できるのは軽自動車または125㏄超のバイクのみという制約があります。
運送業の許認可を取得するための要件
運送業の許可を取得するためには、人・モノ・金に関する厳しい要件をクリアしなくてはなりません。これらは事業の健全な運営と安全確保のために設けられています。ここでは、特に重要な5つの運送業許可の要件について、具体的な内容を掘り下げていきます。
1. 営業所に関する要件
事業の拠点となる営業所は、使用する権限が明確であり、都市計画法などの関係法令に違反しないことが求められます。特に、市街化調整区域では原則として設置が認められないため、立地には注意が必要です。また、事業を運営するために十分な広さを持ち、事務作業や点呼を行える設備が整っていることも確認されます。自宅を営業所として申請することも可能ですが、その場合は居住スペースと事業スペースが明確に分かれている必要があります。
2. 車両に関する要件
事業に使用する車両は、原則として5台以上確保する必要があります。車両の大きさや構造が輸送する貨物に対して適切であり、使用権限を有していることが前提です。自己所有である必要はなく、リース契約でも問題ありませんが、1年以上の長期契約が求められます。また、これらの車両をすべて駐車できるだけの広さを持つ車庫を、営業所から原則10km(地域によっては変動あり)以内に確保することも要件の一つです。
3. 人員に関する要件(運行管理者・整備管理者)
安全な運行を確保するため、適切な人員配置が求められます。事業用自動車の運行管理を行う運行管理者の資格を持つ者を、法律で定められた人数確保しなくてはなりません。また、車両の点検や整備を行う整備管理者も必要です。ドライバーについても、適切な運転免許を持ち、健康状態に問題がないことが前提です。これらの人員計画は、申請時に具体的に示す必要があります。
4. 資金に関する要件
事業開始に必要な資金を自己資金で十分に確保できているかどうかも、重要な審査項目です。具体的には、車両費や保険料、人件費、営業所の賃料など、事業開始から当面の運転資金として見積もられる金額の全額を、申請日時点の預金残高で証明しなくてはなりません。これは、資金不足による事業運営の破綻を防ぎ、安定した経営を担保するための要件です。
5. 法令遵守と欠格事由
申請者やその役員が、貨物自動車運送事業法などの法令を遵守する意識を持っていることが大前提です。過去に運送事業に関する重大な違反で許可取消処分を受けたり、禁錮以上の刑に処せられたりした場合は、一定期間許可が受けられない欠格事由に該当します。法令遵守の体制が整っているかどうかも、審査において見られるポイントです。
運送業の許認可を申請する流れ
運送業許可の申請は、計画的に進める必要があります。一般的な手順は以下の通りです。
- 申請書類の作成
事業計画に沿って申請書類を作成します。事業計画書や資金計画書、各種設備の図面などが含まれ、多くの添付書類が必要となります。 - 運輸局へ申請
書類が完成したら、営業所を管轄する運輸局へ提出します。 - 法令試験
奇数月に実施される法令試験を受験し、合格する必要があります。 - 書類審査
運輸局による書類審査が行われます。標準処理期間は3〜5ヶ月程度です。 - 許可証の交付
晴れて許可証が交付されます。 - 登録免許税の納付と事業開始
許可証交付後、登録免許税(12万円)を納付し、運輸開始前の確認届などを提出すれば、事業を開始できます。
運送業の許認可に関してよくある質問
ここでは、運送業の許認可に関して、特に多く寄せられる質問にお答えします。個人事業主としての開業や、情報の探し方など、具体的な疑問を解消していきましょう。
個人事業主でも許可は取得できますか?
はい、運送業の許可は個人でも取得可能です。法人であるか個人であるかは、許可の要件に影響しません。個人事業主の場合でも、法人と同様に営業所や車両、資金、人員に関する5つの要件をすべて満たす必要があります。特に、事業主自身が運行管理者や整備管理者の資格を取得したり、適切な資格者を探したりする準備が求められます。事業用の資金と個人の生活費を明確に分けた資金計画を立てることが大切です。
許可の情報はどこで検索すれば良いですか?
最も信頼できる情報源は、国土交通省のウェブサイトです。各地方運輸局のページには、申請手続きの案内や様式のダウンロードコーナーがあります。また、運送業の許可について検索すると、行政書士事務所などの専門家サイトも多数見つかります。これらは具体的な事例や解説が豊富なため参考になりますが、最終的な確認は必ず運輸局の公式サイトで行うようにしてください。
軽貨物運送との違いは何ですか?
一般貨物自動車運送事業が許可制であるのに対し、貨物軽自動車運送事業は届出制である点が最も大きな違いです。軽貨物運送は、軽自動車または125cc超のバイクを使う事業で、車両1台から始められ、運行管理者や整備管理者の選任義務もありません。手軽に始められる反面、大きな荷物や大量の貨物は運べないという制約があります。事業規模や運びたい貨物の種類によって、どちらを選ぶべきかが決まります。
運用業の許認可を取得し、安全な事業を
運送業の許可取得は、事業を始めるためのスタートラインです。本記事で解説したように、許可には一般貨物や特定貨物といった種類があり、それぞれに厳しい要件が定められています。特に、営業所、車両、人員、資金、法令遵守という5つの要件は、安全で安定した事業運営の土台となるものであり、一つも欠かすことはできません。
申請手続きは管轄の運輸局で行いますが、提出書類も多く、審査には数ヶ月の期間が必要です。個人事業主であっても、これらの要件をクリアすれば許可の取得はできます。複雑な手続きを正確に進め、社会から信頼される運送事業者として、確かな一歩を踏み出しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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