- 作成日 : 2025年8月19日
会社設立時の資金調達まとめ|自己資金・融資・出資の特徴や選び方を解説
起業や会社設立を考える際、多くの方が最初に直面するのが「資金調達」の課題です。どれだけ優れたビジネスアイデアがあっても、必要な資金を確保できなければ事業の実現は困難です。
本記事では、資金調達の基本的な考え方から代表的な手段、調達後の管理などについて解説します。
目次
資金調達とは?開業時になぜ必要?
資金調達とは、事業を始めるためや事業を継続・拡大するために必要な資金を、自己資金以外の外部から調達することです。具体的には、銀行など金融機関からの融資や、投資家からの出資、国・自治体からの補助金、クラウドファンディングなどさまざまな方法があります。開業前には店舗設備や初期在庫の購入、開業後しばらくの運転資金など、想像以上に多くの資金が必要です。2024年11月に公表された日本政策金融公庫の調査によれば、新規開業時に必要となる開業資金の平均額は約985万円で、中央値で580万円にのぼります。半数の企業では約500万円以上の資金が必要となっています。この資金をどのように集めるかが、事業の成功の第一関門と言えるでしょう。
また、開業後も設備投資や運転資金の不足に備えて、継続的に資金調達を検討する場面があります。売上が軌道に乗るまでの間は赤字が続くことも多く、自己資金だけでは賄いきれない場合に外部から資金を調達して資金繰りを安定させる必要があります。資金調達を怠れば、手元資金が底をつき事業継続が困難になる恐れもあります。資金調達は起業前だけでなく事業継続の命綱でもあり、常に選択肢を把握しておくことが大切です。
起業家はどのように資金調達している?
起業家たちは、どのように資金を集めているのでしょうか。日本政策金融公庫が2024年11月に公表した2024年度新規開業実態調査によれば、平均で約1,197万円の資金を開業時に調達しており、その内訳の約9割近くが銀行などからの融資(約65%)と自己資金(約25%)で占められています。つまり、多くの新規企業は銀行融資と自己資金で大部分の資金ニーズを賄っているという現状があります。他にも親族や知人からの借り入れ、国や自治体の補助金、ベンチャーキャピタルなどからの出資が利用されるケースもありますが、その割合は全体の約1割程度にとどまります。
このデータからも、起業時の資金調達ではまず自己資金の確保と金融機関からの借り入れが基本となっていることがわかります。
代表的な資金調達方法5選と特徴
起業時の資金調達には複数の手段があり、事業内容や経営方針によって向き不向きがあります。ここでは、代表的な5つの手段をわかりやすく整理します。
自己資金
自己資金とは、起業者本人や共同創業者が保有する預貯金、退職金、保険の解約返戻金、または家族・親族からの支援など、外部に頼らずに用意する資金を指します。返済義務がなく、利息も発生しない点が最大の利点であり、資金調達のなかで最もリスクが小さい方法です。
また、金融機関に融資を申し込む際にも、自己資金が十分にあるかどうかは審査で重視されます。一般に、創業時の総資金のうち2割程度が自己資金として求められる傾向にあります。自己資金が不足する場合は、支出計画を見直したり、開業時期を調整して貯蓄期間を延ばしたりする といった工夫も有効です。親族からの支援を受ける場合は、金銭トラブルを防ぐためにも書面での契約書や返済条件の明確化が望まれます。
金融機関からの融資
銀行や信用金庫、日本政策金融公庫などからの借り入れは、起業時に多く利用される資金調達手段です。融資は返済義務のある「デットファイナンス」に分類されますが、一定の信用や計画性が認められれば、大口資金の調達も可能です。
特に注目されるのが日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年4月1日からは旧「新創業融資制度」に代わり、自己資金要件の撤廃や融資上限の引き上げが実施されました。最大で7,200万円(うち4,800万円が運転資金)まで借り入れが可能になり、所定の要件を満たせば無担保・無保証で利用でき、創業者にとって使いやすい制度です。
民間金融機関による制度融資も有効な選択肢です。信用保証協会の保証付きで自治体と連携した融資制度を活用すれば、創業直後でも低利かつ比較的借りやすい条件で融資を受けられます。ただし、いずれの融資でも事業計画の妥当性や返済能力の有無が問われるため、準備段階での情報整理と書類作成が欠かせません。
投資家からの出資
ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家からの出資を受ける方法は、成長性の高いビジネスモデルを持つスタートアップ企業に向いています。これは「エクイティファイナンス」と呼ばれ、株式を引き渡す代わりに資金を得る形式です。
出資の最大の特徴は、返済義務がない点です。資金繰りへの圧迫が少なく、必要に応じて大きな金額を一度に調達することが可能です。また、VCなどからは資金以外に経営支援や人脈の提供といった非資金的な価値も得られることがあります。
一方で、株式を外部に譲渡することで持ち株比率が下がり、意思決定に投資家の影響が及ぶことがあります。さらに、将来的に株主へのリターンを実現するための出口戦略(上場やM&Aなど)を意識して経営を進める必要があります。
共同創業者や知人など、身近な投資家からの出資を受けるケースでは、株主間の役割や取り決めを明文化することがトラブル防止につながります。出資による資金調達は、単なる資金の確保だけでなく、共に事業を成長させるパートナーとの関係構築でもあるという認識が求められます。
補助金・助成金の活用
国や自治体が提供する補助金・助成金は、返済不要である点が大きな魅力です。創業時に活用できる代表的な制度には、経済産業省や中小企業庁が実施する「小規模事業者持続化補助金」や「IT導入補助金」、「事業再構築補助金」など、多岐にわたる補助金・助成金があります。「創業補助金」については、特定の期間や目的で実施されるものや、地域独自の制度などが存在します。これらの補助金は、創業時だけでなく、事業の成長段階でも活用できるものが多いです。
補助金の利点は、自己負担を軽減しながら事業を展開できることです。採択されれば信用力の向上にもつながります。ただし、公的資金であるため審査が厳しく、採択までに時間がかかります。また、後払い方式が基本であり、事前に自己資金による支出が必要となる点に注意が必要です。
補助金の申請には、事業内容や予算計画、目的の明確化が求められます。申請書の作成には手間と時間がかかるため、支援機関や税理士に相談しながら進めるとスムーズです。募集時期や対象条件は毎年変動するため、常に最新の情報を確認しておきましょう。
クラウドファンディングによる資金調達
クラウドファンディングは、インターネットを活用して広く資金を募る新しい形の資金調達です。購入型、株式型、寄付型、融資型など複数のタイプがありますが、起業時にはリターン型の購入型が多く利用されています。
新商品やサービスの製造費用を募るプロジェクトを立ち上げ、支援者に完成品や限定特典などのリターンを用意して支援を募ります。市場からの反応を確認しながら資金を集められ るため、商品テストやマーケティングとしての役割も果たします。
ただし、プロジェクトの内容やストーリーが魅力的でなければ支援は集まりにくく、広報活動やSNS発信にも力を入れる必要があります。また、目標未達時に資金を受け取れない「オールオアナッシング方式」のプラットフォームも多く、入念な準備が不可欠です。
クラウドファンディングは、資金調達だけでなく、共感を得た支援者との関係構築や将来の顧客開拓にもつながる手法です。新規性や社会性のある事業を検討している起業家にとって、有効な選択肢となるでしょう。
融資を受ける際のポイント
金融機関から融資を受けるためには、創業の目的や事業の実現性を裏付ける計画が求められます。ここでは、融資審査を通過するために準備すべきポイントを解説します。
事業計画書の完成度を高める
銀行や日本政策金融公庫に融資を申し込む際には、事業計画書の提出が必須です。創業の背景や提供する商品・サービスの内容、競合との差別化、そして収益の見通しを論理的に説明できるかが重視されます。初期の売上が不安定な時期を想定し、数か月〜1年程度は無収入でも運営可能な運転資金の計画を立てておくと安心です。売上予測は過大にせず、費用とのバランスを考慮して現実的な収支計画を示すことで、融資担当者の信頼を得やすくなります。
返済計画と金利条件の確認が不可欠
借入金には返済義務があるため、金融機関はどのように返済していくのかを慎重に見極めます。そのため、返済原資となる利益の予測、毎月の返済額、キャッシュフローへの影響をあらかじめ試算し、無理のない借入額を設定することが重要です。万が一、希望額の融資が通らなかった場合の資金不足も別の手段で補えるよう、資金調達の柔軟性も準備しておきましょう。
加えて、契約時には金利や返済期間、元本の据置期間などの条件を必ず確認してください。日銀のマイナス金利解除により、将来的に融資金利が上昇する可能性もあるため、金利水準にも注意を払うことが求められます。据置期間を設けられる融資制度では、その間に収入基盤を固め、返済開始後に備える資金計画を立てておくと安心です。
出資を受ける際のポイント
出資は返済不要でまとまった資金を得られますが、経営権の分散や契約条件によって拘束を受ける場合もあるため、慎重な判断が求められます。ここでは出資を受ける際に押さえておきたい資本戦略と経営面での注意点を解説します。
出資比率と資本政策を戦略的に設計する
出資を受ける場合、資金と引き換えに株式を投資家に譲渡するため、自社の持ち株比率が下がる可能性があります。これを「希薄化」と呼び、創業者が経営権を維持できなくなるリスクにもつながります。どの段階でどれだけの株式を提供するのか、次の資金調達も見据えて計画的な資本政策を立てる必要があります。将来的に上場やM&Aを検討している場合は、創業者の影響力が残るよう慎重な設計が不可欠です。出資額に対して渡す株式の割合を冷静に評価し、妥当なバランスを模索しましょう。
契約条件と投資家の関与を把握する
出資を受ける際は、投資契約書の内容を詳細に確認することが欠かせません。優先株のように投資家が配当や残余財産の分配で優先される場合や、一定期間内にエグジットできなければ投資家に有利な条件が発動する条項が盛り込まれている場合もあります。これらの条項は将来の利益配分や経営権に大きな影響を及ぼす可能性があるため、必ず弁護士や専門家の助言を受けながら慎重に内容を確認しましょう。取締役会や経営判断への関与範囲も明確にしておくことが大切です。
出資後の関係性と資金活用に責任を持つ
出資を受けた後は、資金の使い道に対して一層の責任が求められます。「他人の資金」であるという意識を持ち、投資家の期待に応えられるよう透明性の高い経営を行う必要があります。定期的に進捗を報告し、経営上の課題についても誠実に共有することで、投資家との信頼関係が深まり、将来的な追加支援や事業成長の後押しにつながる可能性があります。資金調達はゴールではなくスタートであることを意識し、計画的で成果につながる活用を徹底しましょう。
資金調達後の資金繰り管理・追加調達
資金調達が完了した後は、得た資金をどのように管理し、将来の資金ニーズに備えるかが事業継続と成長のために大切です。ここでは資金繰り管理の基本と、次の資金調達に向けた考え方を解説します。
調達後の資金管理と支出コントロールを徹底する
調達した資金は、あくまで事業を前に進めるための手段です。手元にまとまった金額があるとつい気が緩みがちですが、使い道が曖昧なまま支出が膨らめば、成長どころか資金ショートのリスクが高まる可能性があります。融資を受けた場合は、返済が始まることを見越して運転資金を確保し、月々の支払いが事業に与える影響を常に把握しておく必要があります。万が一、売上が想定より遅れても対応できるよう、必要に応じて経費削減や支出の優先順位見直しを行い、資金繰りを柔軟に調整しましょう。
追加調達の準備と戦略を視野に入れる
資金調達は一度きりではなく、事業の成長段階ごとに必要な資金量も方法も変わってきます。初期は融資中心だった場合でも、成長フェーズでは補助金の活用や出資の導入など、目的やタイミングに応じて別の手段を検討することが重要です。調達した資金が減り始めてから動き出すのではなく、余裕のあるうちに次の資金調達の選択肢を考えておくことが、安定した経営の土台となります。
また、借入や出資に過度に依存せず、自己資金による成長も選択肢として意識しておくと、財務健全性の維持にもつながります。自社の事業モデルや市場動向を踏まえた柔軟な資金計画を持ち、それに基づいて行動する姿勢が長期的な成功を支えます。
資金調達の基本を理解し、計画的に準備を進めよう
資金調達は、会社設立時における最初の大きな関門です。自己資金・融資・出資・補助金・クラウドファンディングといった各手法には、それぞれ異なる特徴と活用の場面があります。自社のビジネスモデルや成長計画に照らし、適切な資金調達手段を選ぶことが重要です。また、調達後の資金管理や次の調達への備えも、事業を持続・成長させるうえで欠かせません。正しい知識を持ち、段階ごとに戦略的な資金調達を実践しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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