- 作成日 : 2025年6月20日
決済代行に必要な許認可とは?登録要件や費用、関連する法律、収納代行との違いも解説
近年、オンラインショッピングやキャッシュレス決済の普及に伴い、決済代行サービスの重要性がますます高まっています。しかし、決済代行事業を開始・運営するにあたっては、関連する法律や必要な許認可について正しく理解しておくことが不可欠です。
知らずに事業を進めてしまうと、法律違反となり重い罰則を受けるリスクも否定できません。この記事では、決済代行の許認可について詳しく知りたい方に向けて、必要な許認可の種類、登録要件、関連法規、そして収納代行との違いなどを、専門的な観点から分かりやすく解説します。
目次
そもそも決済代行とは
決済代行サービスは、商品やサービスを提供する事業者(加盟店)に代わって、顧客からの代金回収や支払処理を行うサービスです。具体的には、クレジットカード決済、コンビニ決済、銀行振込、口座振替、電子マネー決済、キャリア決済など、多様な決済手段を一括で導入・管理できる仕組みを提供します。
事業者は、決済代行サービスを利用することで、個別の決済機関と直接契約する手間やコストを削減でき、顧客に対し幅広い支払方法を提供できるというメリットがあります。
決済代行の主なビジネスモデル
決済代行のビジネスモデルは多岐にわたりますが、主に以下のような形態があります。
- オンライン決済代行:ECサイトなど、インターネット上での商品・サービス販売における決済処理を代行します。
- 店舗決済代行:実店舗におけるクレジットカード決済端末の提供や、QRコード決済などの導入支援を行います。
- 継続課金決済代行:サブスクリプションサービスなど、定期的な支払いが発生するビジネスモデルに対応した決済処理を行います。
これらのビジネスモデルを問わず、事業者が顧客の資金を一時的にでも預かる形態や、為替取引に該当するような資金移動を行う場合には、法的な許認可が必要となるケースが出てきます。
決済代行事業に許認可が関わる理由
決済代行サービスは、消費者と事業者の間のお金の移動を仲介する役割を担います。この「お金の移動」や「お金を預かる」といった行為は、信用秩序の維持や利用者保護の観点から、法律によって厳しく規制されています。
主に「資金決済に関する法律(以下、資金決済法)」や「銀行法」といった法律が関わってきます。これらの法律は、事業者が適切な体制を整備し、利用者の財産を保護することを求めており、特定の事業モデルについては国(財務局長など)への登録や届出を義務付けています。
許認可を得ずにこれらの規制対象となる行為を行うと、罰則の対象となる可能性もあるため、事前の確認と準備が極めて重要です。
決済代行事業で検討すべき許認可と登録要件
決済代行事業を行う上で、特に重要となる許認可と登録要件について解説します。自社のビジネスモデルがどれに該当する可能性があるのか、慎重に検討しましょう。
資金移動業
資金移動業とは、銀行等以外の事業者が、顧客から預かったお金を別の顧客や事業者に移動させる「為替取引」を行う事業のことです。例えば、個人間の送金サービスや、ECサイトの売上金を加盟店に送金するサービスなどが該当する可能性があります。
資金移動業は、取り扱う金額の上限によって3つの類型に分けられています。
- 第一種資金移動業:送金額の上限なし。高い水準の資産保全義務などが課されます。
- 第二種資金移動業:100万円以下の送金。一般的な資金移動業はこちらに該当することが多いです。
- 第三種資金移動業:5万円以下の少額送金に特化。資産保全方法などが一部緩和されています。
資金移動業者として登録を受けるためには、主に以下のような要件を満たす必要があります。
- 財産的基礎:純資産額が一定額以上であること
- 体制整備:利用者資金の保全措置(供託、信託契約など)、情報セキュリティ対策、マネー・ローンダリング対策、苦情処理体制などが整備されていること
- 人的構成:業務を適正かつ確実に遂行するための知識及び経験を有する者がいること
登録申請は、本店所在地を管轄する財務局に対して行います。申請書類の準備や審査には相応の期間(数ヶ月)を要することが一般的です。
なお、登録されている資金移動業者の一覧は、金融庁のウェブサイトで公表されていますので、具体的な事業者を確認する際はそちらをご参照ください。
前払式支払手段発行業
前払式支払手段発行業とは、商品券、ギフトカード、プリペイドカード、ゲーム内通貨など、あらかじめ対価を得て発行され、商品やサービスの購入に使用できる証票や番号などを発行する事業です。
前払式支払手段は、利用できる範囲によって「自家型」と「第三者型」に分類されます。
- 自家型発行者:発行者自身の商品やサービスの購入にのみ利用できる前払式支払手段を発行する場合。基準日(毎年3月末と9月末)における未使用残高が1,000万円を超えた場合に財務局への届出が必要です。
- 第三者型発行者:発行者以外の第三者の店舗でも利用できる前払式支払手段を発行する場合。事業を開始する前に財務局への登録が必要です。
前払式支払手段発行業として登録を受けるためには、以下のようなポイントに注意する必要があります。
- 利用者資金の保全:第三者型発行者は、未使用残高の半額以上を発行保証金として供託するなどの保全措置が必要です。自家型発行者も、一定の条件で保全措置が求められる場合があります。
- 情報提供義務:利用者に対して、利用できる店舗の範囲、有効期限、苦情相談窓口などの情報を提供する義務があります。
決済代行サービスの中で、独自のポイントシステムや電子マネーを発行・管理する場合には、この前払式支払手段発行業に該当する可能性があります。
電子決済等代行業
電子決済等代行業とは、銀行から顧客の口座に関する情報を取得したり、銀行に振込指図を伝達したりするサービスを提供する事業者です。具体的には、銀行口座と連携して家計簿アプリで残高や利用履歴を表示するサービスや、複数の銀行口座からの振込を一元的に行えるサービスなどが該当します。
2018年の銀行法改正により創設された制度で、API(Application Programming Interface)連携を原則とし、利用者保護やセキュリティ確保のための体制整備が求められます。
電子決済等代行業として登録を受けるためには、以下のようなポイントに注意する必要があります。
- 財務局への登録:電子決済等代行業を営むには、財務局への登録が必要です。
- 銀行との契約締結:登録に加えて、連携する銀行との間で電子決済等代行業にかかる契約を締結する必要があります。この契約には、セキュリティ対策や利用者への補償、責任分担などに関する事項が含まれます。
- 体制整備:利用者情報の適切な管理、セキュリティ対策、苦情処理体制、利用者への情報提供体制などが求められます。
決済代行事業者が、利用者の銀行口座から他の銀行口座への振込等の指図を預金者利用者の代わりに銀行に対して伝達することや、銀行口座情報を利用したサービスを提供する際に、この電子決済等代行業の登録が必要となる場合があります。
なお、登録されている電子決済等代行業者の一覧は、金融庁のウェブサイトで公表されていますので、具体的な事業者を確認する際はそちらをご参照ください。
クレジットカード番号等取扱契約締結事業者
2018年施行の改正割賦販売法により、EC事業者など、クレジットカード情報を取得・保持する事業者に対して、クレジットカード情報の適切な管理や不正利用対策が強化されました。
決済代行事業者がクレジットカード情報を取り扱う場合、PCI DSS(クレジットカード業界の国際的なセキュリティ基準)への準拠などが求められます。
また、EC加盟店とアクワイアラー(カード会社や決済代行会社)との間でクレジットカード決済の契約を仲介・取次する事業者(いわゆる決済サービスプロバイダの一部)で、特定の条件下では「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」の登録が必要になる場合があります。自社のサービスモデルが該当するかどうか、確認が必要です。
銀行代理業
銀行の委託を受けて、預金の受入れ、資金の貸付け、為替取引などを内容とする契約の締結の代理または媒介を行う事業です。
決済代行事業者が銀行と提携し、銀行のサービスの一部を顧客に提供するような場合には、銀行代理業の許可が必要となることがあります。
少額短期保険業
決済サービスと組み合わせて、購入した商品に関する保険や、旅行に関する保険などを提供する場合、これらの保険商品を取り扱うには少額短期保険業の登録が必要となることがあります。
決済代行事業の許認可取得に向けた準備と注意点
決済代行事業に関する許認可を取得するには、周到な準備と専門的な知識が求められます。
事業計画の明確化と法的スキームの検討
まず、自社がどのような決済代行サービスを提供したいのか、具体的な事業計画を明確にする必要があります。その上で、そのビジネスモデルがどの法律に触れ、どの許認可が必要となるのか、法的なスキームを慎重に検討します。
安易な自己判断は避け、早い段階で専門家のアドバイスを受けることが賢明です。
専門家(弁護士・行政書士など)への相談
資金決済法や銀行法は非常に専門的かつ複雑な内容を含んでいます。許認可の要否判断、申請書類の作成、当局との折衝など、自社だけで対応するのは困難な場合が多いでしょう。
Fintech分野や資金決済法務に詳しい弁護士や行政書士などの専門家に相談し、適切なサポートを受けることが、スムーズな許認可取得とコンプライアンス体制の構築につながります。
決済代行事業の許認可申請から認可までの期間と費用
必要な許認可の種類や事業の複雑さにもよりますが、申請準備から実際に許認可が得られるまでには、数ヶ月から1年以上かかることも珍しくありません。
また、登録免許税や専門家への依頼費用なども発生します。事業計画を立てる際には、これらの期間やコストも十分に考慮しておく必要があります。
収納代行サービスも資金移動業に該当する?
決済代行と類似するサービスとして「収納代行」があります。収納代行は、商品やサービスの提供者の代わりに、顧客から代金を回収し、それを依頼元である事業者に引き渡すサービスです。例えば、コンビニでの公共料金の支払いや、家賃の集金代行などが典型例です。
収納代行サービスが「為替取引」に該当せず、資金移動業の登録が不要とされるのは、主に以下の要件を満たす場合と考えられています。
- 原因取引となる契約関係によって発生した債権債務関係が存在すること
- 債権者が、収納代行サービス事業者に対して代金の代理受領権限を付与すること
- 収納代行サービス事業者が代理受領権限に基づき、代金を受領。受け取った時点で、顧客の事業者に対する支払債務が消滅すること
これらの要件を満たす場合、収納代行業者の行為は「弁済の受領」や「集金代行」と解釈され、資金決済法上の「為替取引」には該当しないとされるのが一般的です。
しかし、収納代行のスキームであっても、以下のような場合には資金移動業に該当する可能性が出てきます。
- 受け取った資金を長期間滞留させる、または運用するような場合
- 受け取った資金を原資として、別の支払いに充当するような指図を顧客から受ける場合
- 収納代行サービス事業者が債務者となり、依頼元事業者に対して別途支払いを行うような場合
収納代行と資金移動業の境界線は、具体的なスキーム、契約内容やお金の流れ、資金の管理方法などによって個別に判断されます。「収納代行業者になるには、まずどのような仕組みでサービスが成り立ち、どのような場合に許認可が必要、不要とされるのか」を正確に理解することがスタートラインとなります。
許認可を取得し、信頼される決済代行ビジネスを
決済代行事業は、社会のキャッシュレス化を支える重要なインフラですが、その運営には法律に基づく厳格なルールが定められています。必要な許認可を正しく理解し、適切な手続きを踏むことは、単に法律を遵守するだけでなく、利用者からの信頼を得て事業を成長させるための大前提となります。
本記事で解説した内容を参考に、自社のビジネスモデルと関連法規について深く検討し、必要に応じて専門家の力も借りながら、安全で信頼性の高い決済代行サービスの構築を目指してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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