- 作成日 : 2025年4月25日
シンガポールで法人登記(会社設立)するには?費用や税金の違いを解説
シンガポールで法人登記をするときは、事業所の形態にかかわらず、会計企業規制庁(ACRA)を通じた手続きが必要です。本記事では、形態ごとの法人登記の方法や流れ、法人に課せられる税金について解説します。また、法人登記にかかる費用相場や会社設立後の手続きについても紹介するので、ぜひご覧ください。
目次
シンガポールで法人登記する方法
シンガポールで法人登記するときは、シンガポールの会計企業規制庁(ACRA)を通じて手続きをします。ただし、法人形態によって登記手続きの方法が異なるため、注意が必要です。
主な法人形態には、次のものが挙げられます。
- 現地法人
- 日本法人の支店
- 駐在員事務所
- パートナーシップ連携
法人形態ごとの違いや特徴を解説します。
現地法人を設立する
シンガポールで現地法人を設立する場合は、次の法人形態を検討できます。
- 私的会社(株主50人以下。株式譲渡に制限有)
- 私的免除会社(株主は20人以下かつ個人のみ、あるいは政府系企業)
- 公開会社
- その他
現地法人なら、シンガポール企業としてシンガポールの優遇税制が適用されます。日本企業がシンガポールに進出する際、もっとも一般的な法人形態が私的会社です。
私的会社のうち、株主が20人以下でなおかつ個人のみの会社、もしくは政府系企業は私的免除会社として設立されることがあります。個人がシンガポールで法人設立する場合は、私的免除会社を選択することが多い傾向にあります。
また、公開会社として設立すれば、株主を公募でき、条件を満たせばシンガポール証券取引所に上場することも可能です。他にも無限責任株式会社などの法人形態もありますが、私的会社や公開会社と比べるとあまり一般的ではありません。
日本法人の支店とする
日本法人をすでに設立している場合なら、日本法人の海外支店として設立する方法も検討できます。登記時に本店の情報が必要になるだけでなく、設立後にも本店情報を求められることがあります。
ただし、海外法人の支店は、シンガポール内では独立した法人としてみなされません。そのため、現地法人として設立する場合と比べると取引先を広げにくい傾向にあります。
事前調査として駐在員事務所を設置する
通常は現地法人か日本法人の支店として法人を設立しますが、本格的に法人を設立する前や特定の業務の前に駐在員事務所を設置することがあります。駐在員事務所は、特定業種を除いてEnterpriseSG(シンガポール企業庁)の管轄です。
業務範囲は市場調査や展示会への出展などに限られますが、就労ビザの取得や、事務所・社宅の契約も可能なため、現地法人設立の足掛かりとして駐在員事務所を設置することも多いです。
ただし、本社で投資業や法務関係、人材紹介業に携わっている場合は、シンガポールで駐在員事務所を設置できません。また、駐在員事務所の活動として、販売契約の締結や事業活動、本社の代理として請求書・領収書を発行することなどは禁じられています。
パートナーシップ連携
パートナーシップとは、2名以上の個人または法人によって登録された業態のことです。以下の種類があります。
- パートナーシップ(Partnership)
- 有限パートナーシップ(Limited Partnership:LP)
- 有限責任パートナーシップ(Limited Liability Partnership:LLP)
個人の場合は個人所得税が課せられるため、法人税は発生しません。ただし、パートナーシップ連携を選択した場合でも、法人パートナーについては法人税が課せられることもあります。
シンガポールで法人登記するメリット
シンガポールで法人として活動することには、次のメリットがあります。
- 比較的容易に法人設立できる
- 法人税率が低い
- ビジネスに必要なインフラが整備されている
- 犯罪・災害のリスクが低い
それぞれのメリットについて解説します。
比較的容易に法人設立できる
シンガポールでは国際競争力を高めるために、法人設立の手続きを簡便化しています。そのため、他国で法人を設立するよりも、比較的容易に手続きが完了します。海外進出やアジアでの拠点確保を検討しているなら、シンガポールを視野に入れてみてはいかがでしょうか。
法人税率が低い
シンガポールの現地法人として設立すれば、シンガポールの法人税が適用されます。シンガポールの法人税率は最高17%と低め(日本の法人税率は最高23.2%)です。税負担が減れば、収益の効率化が進み、より積極的な事業展開が可能になります。
ビジネスに必要なインフラが整備されている
シンガポールには、ビジネスに必要なインフラがすでに整備されています。どんなに法人税率が低い国でも、通信や電気、交通といったインフラが整っていない場合はビジネスに適しているとはいえません。シンガポールなら世界でもトップクラスにインフラが整っているため、不便を感じることなくビジネスにまい進できます。
また、シンガポールはアジアの中でも中心的な位置にあり、わずかな時間でアジア諸国やインド、オセアニアへの移動が可能です。国内の移動も簡便で、国際空港から市内中心部へも数十分でアクセスできます。
犯罪・災害のリスクが低い
治安が良い点も、シンガポールで法人を設立するメリットです。政情も安定しているため、企業活動に支障が生じにくいでしょう。
シンガポールは、自然災害のリスクも低い傾向です。活火山がある地帯から離れているため、地震や津波の発生リスクは極めて低いとされます。また、台風が発生しにくく、飛行機の運行に影響を及ぼすことはほとんどありません。
シンガポールの税金や法人税の申告方法
シンガポールの法人税率は、最高17%です。新設会社で次の要件すべてを満たす場合には、設立以降3年間は課税所得のうち10万シンガポールドル(以下、Sドル)については75%、次の20万Sドルの50%は免税とされています。
- シンガポールで設立され、税務上シンガポール居住法人である
- 株主が20人以下
- すべての株主が個人、もしくは個人株主が10%以上の株式を保有している
- 主な事業内容が投資会社もしくは売買・投資用不動産の開発ではない
その他にも、法人が利用できる節税制度は多数あります。主な税制度と申告方法について見ていきましょう。
法人税額控除・外国税額控除
2024賦課年度からは、法人税額控除制度が始まりました。法人税額の50%に相当する金額が法人税額から控除され、法人税額の大幅な節税が可能になります。
また、2023年1月~12月の間に1人以上のシンガポール現地従業員を雇用していた場合には、法人税リベート現金支給として2,000Sドルが支給されます。ただし、法人税額控除と法人税リベート現金支給の合計上限金額は4万Sドルです。
二重課税排除の目的で、外国税額控除制度も実施されています。シンガポール国外で課税された所得がシンガポールでも課税対象になる場合には、外国税額控除が適用されます。
ただし、外国税額控除の適用を受けられるのは、税務上シンガポールの居住法人のみです。また、控除額は、国外で課税された税額とシンガポールの法人税額のいずれか低い方が限度となります。
確定申告
休眠会社以外のすべての法人は、原則として各会計年度終了日の属する年の翌年11月末までに、確定申告書をIRAS(内国歳入庁)に提出しなくてはいけません。期限に遅れることがないよう、逆算して資料の準備や書類作成に着手する必要があります。
また、通常、確定申告にはForm Cを用います。しかし、年間売上高500万Sドル以下の中小企業向けのForm C-S、同20万Sドル以下の小規模企業向けのForm C-S Liteを利用することが一般的です。Form C-SとForm C-S Liteは通常の確定申告書より記入欄が少なく、簡便に作成できます。
シンガポールで法人登記する流れ
シンガポールで法人登記する一般的な流れと所要時間は、以下をご覧ください。
- 事前準備(1週間前後)
- 代行業者決定(1週間前後)
- 会社設立必要情報の決定(1週間前後)
- 設立必要書類の準備(1週間前後)
- 法人登記(1日)
- 銀行口座の開設(1~3ヶ月)
- 資本金入金と増資手続き(1週間前後)
- 就労ビザ取得(3週間前後)
- 現地法人稼働
登記手続きは、オンラインで実施できます。登記に必要なEP eServiceとmyMOMPortalを開設するのに1週間ほどかかるため、法人活動を始める日から逆算して開設手続きを始め、アクセス権限を取得しておきましょう。
また、就労ビザの手続きにも時間がかかります。提出する書類も多いため、早めに手続きを開始するようにしてください。
従業員数が10人以上の法人は、政府系求人募集サイトへの広告義務があり、さらに手続きが増えます。シンガポールは法人設立の手続きが簡便な方とされていますが、それでも数ヶ月は必要になるため、計画的に進めていくようにしましょう。
シンガポールでの法人登記に必要な書類
シンガポールでの法人登記に必要な書類は、法人形態によって異なります。主な書類は以下をご覧ください。
現地法人 | 支店 | 駐在員事務所 |
---|---|---|
|
なお、上記以外の書類の提出が必要になるケースもあります。提出を求められたときは、速やかに準備してください。
シンガポール法人登記の費用と相場
シンガポールで法人登記をするときに必要な費用と相場は、以下をご覧ください。
- 会社名確保の行政手数料:15Sドル
- 会社設立のオンライン申請手数料:300Sドル
- 設立確認証明書発行手数料:50Sドル
法人登記の手続きは、代行業者に依頼することも可能です。依頼する業務や事業者によっても異なりますが、3,000~1万Sドル程度の手数料を請求されることもあります。
シンガポールでの法人登記後に必要な手続き
法人登記後もさまざまな手続きがあります。主な手続きは以下の3つです。
- 口座開設
- 資本金の入金と増資
- 就労ビザの取得
各手続きの注意点を紹介します。
口座開設
資本金の入金や納税には銀行口座が必要となるため、早めに開設しておきましょう。主な銀行と特徴は以下をご覧ください。
銀行の種類 | 特徴 |
---|---|
日系銀行 | 日本のメガバンクや地方銀行のシンガポール支店。日本語対応が可能。ビジネス上のアドバイスなども得られることがある |
シンガポール現地銀行 | シンガポール国内に支店やATMが多く、便利。シンガポールの地元企業や政府系企業とのつながりも深い |
グローバル銀行 | 世界各国に支店や対応ATMがある。マルチカレンシー口座の開設や金融商品取引を得意とする |
資本金の入金と増資
資本金の入金手続きも必要です。なお、増資する際には、原則として株主総会の普通決議が必要となります。株主総会の招集は取締役会で決議、総会開催の14日前までに通知を株主に送らなくてはいけません。
就労ビザの取得
シンガポール国内で働くには、就労ビザが必要です。主な種類は、以下をご覧ください。
- Employment Pass(EP)
- S Pass
- Letter of Consent(LOC)
- Training Employment Pass(TEP)
- Personalized Employment Pass(PEP)
シンガポールで法人登記する際の注意点
法人登記の際に注意したいポイントとしては、以下のものが挙げられます。
- 事務所を準備する
- 従業員の給与を設定する
各ポイントを解説します。
事務所を準備する
法人登記の際にはシンガポール国内の住所が必要となりますが、実際には法人を設立していないと事務所を借りられません。登記手続きサポート業者の利用も検討し、登記前に事務所の準備をしておきましょう。
従業員の給与を設定する
シンガポール国内の人件費は上昇しています。優秀な人材はさらに高額です。人材確保のためにも、適切に給与を設定しましょう。
法人登記の流れを確認しておこう
法人登記の流れや方法は、国や地域によって異なります。シンガポールで法人設立を検討している方は、まずは法人形態を決めることから始めましょう。
また、事業活動をスムーズに進めるためにも、法人設立や登記の流れを把握しておくことも重要です。特に銀行口座開設や就労ビザの取得には時間がかかります。開業日から逆算し、早めに準備を開始しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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