• 作成日 : 2025年3月7日

産業医は法人化できる?産業医が法人設立するメリット・デメリットや手順を解説

産業医は、常勤医を維持したまま法人化することが可能です。法人化には設立費用の負担や行政手続きが増える等の懸念はありますが、税制上の負担軽減や世間からの信用力向上など得られるメリットは多いです。

本記事では、産業医を法人化するメリット・デメリット、必要な手続きについて解説します。

産業医は法人化が可能?

産業医は、法人化することが可能です。

法人化とは、個人事業主が会社を設立して事業を継続することを指します。法人の種類には、株式会社や合同会社、一般社団法人等があります。

産業医が法人設立を検討すべき最適なタイミングを確認していきましょう。

法人化を検討すべきタイミング

産業医の法人化を検討する場合、所得額が800万円を超えるタイミングが目安です。

個人事業主は、所得額が増えるごとに税率が上がる「累進課税制度」が適用されています。法人の場合は、所得額800万円を基準にほぼ変わりません。所得額が800万円より大幅に超える場合には、法人化することで節税の面でかなり有利です。

なお、一定の条件を満たしている場合、法人化により役員報酬は経費として計上できます。課税対象額が下がり、法人税の総支払額を軽減することが可能です。節税効果を得たいなら、所得額が800万円を超えたタイミングで法人設立を検討しましょう。

法人化した産業医の働き方

産業医の勤務形態には、「専属産業医」と「嘱託産業医」があります。

専属産業医は、常勤として企業と直接雇用契約を結ぶのが原則です。雇用形態には、正社員や契約社員、アルバイトなどがあります。また、人材紹介会社が産業医を企業に紹介し、企業と産業医間で直接雇用契約を結ぶケースもあります。

嘱託産業医は非常勤で、開業医や勤務医として働きながら企業の産業医を兼任するケースが多いです。正社員として雇用されるのは非常に稀で、多くの場合は業務委託契約を結びます。ただし、業務委託契約は、原則として労働法は適用されません。

産業医が法人を設立した場合、企業と直接雇用契約を結ぶ専属産業医や、非常勤で勤務する嘱託産業医としての働き方が想定されます。

産業医が法人化するメリット・デメリット

産業医の法人化により信用力の向上や節税対策など多くのメリットがある一方、考慮すべきデメリットがあるのも事実です。

ここでは、産業医が法人化するメリットとデメリットを見ていきましょう。

メリット

産業医の法人化により、信用力の向上や節税対策などが期待できます。ここでは、産業医を法人設立するメリットについて見ていきましょう。

信用力が向上する

産業医を法人化することで、世間からの信用力が格段に高まります。

法人は法律上の存在として、財務情報の開示や定款による運営等を果たす義務があります。産業医の法人化により社会的な信用が高まり、新規取引先の獲得が容易になることが多いです。銀行からの融資も受けやすく、資金調達を円滑に進められます。

節税対策になる

産業医を法人化することで、税制上の負担を軽減できます。

事業が発展して所得金額が増えると、個人事業主に課税される所得税は、法人に課税される法人税よりも税額が高くなります。個人事業主として経営を続けるより、法人化したほうが節税効果は高いです。

ほかにも、役員の報酬や退職金を損金として扱えたり、消費税の納税義務が最大2年間免除されたりなど高い節税効果を得られるのもメリットです。

経費を計上できる

法人化することで、経費として計上できる範囲を広げられるのもメリットのひとつです。

個人事業主では、経費計上できない役員報酬や退職金等を経費として損金に算入できるため、課税所得の負担を大幅に減らせます。役員報酬や退職金以外で法人のみに認められている経費には、以下のようなものがあります。

  • 出張手当
  • 健康診断の費用
  • 社会保険
  • 生命保険料(法人が契約者の場合に限る)
  • 自宅の家賃(法人契約の社宅に限る)

デメリット

産業医を法人化するメリットは多くありますが、考慮すべきデメリットがあるのも事実です。ここからは、法人化のデメリットを見ていきましょう。

設立費用がかかる

法人化する際は、定款費用や登記費用等の設立費用がかかります。

  • 定款費用:定款を作成・保管するための費用
  • 登記費用:株式会社を登記するための費用

設立費用は会社形態によりますが、株式会社は約22万円、合同会社は約10万円が相場です。設立費用に資本金を加えると、数百万円の資金が必要になる場合があります。

運営コストがかかる

産業医を法人化する場合、会計関連の処理を依頼する税理士や会計士への顧問料や社会保険料、福利厚生など法人ならではの運営コストがかかります。

ほかにも、法人税や消費税、法人事業税など法人を対象にした税金の支払いも必要です。これらは売上・利益にかかわらず、法人化したことによって継続的に支払い義務が生じる固定費です。法人化する際は、運営コストを考慮して資金を用意しましょう。

行政手続きが増える

法人化することで、登記の手続きや確定申告など法人ならではの行政手続きが増えます。

法人化すると個人事業より経理や決算も複雑化するため、会計処理の手続きや事務作業の手間がかかることも多いです。行政手続きをひとりで進めるのは困難になるため、法人化した段階で税理士や公認会計士など専門家の採用を検討する必要があります。

産業医が法人化する際に必要な手続き

産業医を法人化する際は定款の作成や登記申請などさまざまな手続きが必要です。法人化に必要な手続きや具体的な流れを確認していきましょう。

1. 会社形態を決める

法人化するには、会社を設立する必要があります。

会社形態はさまざまな種類がありますが、一般的なのは「株式会社」と「合同会社」です。株式会社は、株式を発行して資金を集めて設立します。出資者と経営者が異なるのが特徴で、出資者の株主が経営者を選んで実際に事業を運営します。

合同会社は、2006年の新会社法で新設された会社形態です。出資者が経営者になるため、出資したすべての社員が会社の決定権を持ちます。株式会社のような株主総会も不要で、株式会社に比べると意思決定のスピードや経営の自由度が高いのが特徴です。

2. 会社の基本事項を決める

会社の基本事項とは、会社を設立する際に決める、今後の経営の根幹となる事項です。具体的には、以下のような事項が含まれます。

商号商号とは、企業や個人事業主が営業活動を行う際に使用する会社名のことです。商号は法人を設立する際に、定款や法人登記等で使用します。
会社の目的と事業内容法人化する際は、会社の目的と事業内容を明確にする必要があります。定款に記載する項目でもあるため、簡潔にまとめておくと申請がスムーズです。
本社所在地本社所在地とは、登記簿における会社の本拠地のことです。起業当初は、自宅や賃貸事務所等を本社所在地に設定するケースが多いです。
資本金資本金は、会社設立時に必要な最低限の出資額を指します。金額は自由に決められますが、税金や融資のことを考慮して設定することが重要です。
決算日法人化から1年以内であれば、決算日を自由に決められます。消費税の免除期間を考慮すると、会社設立月の前月に設定するのが有利といわれています。
役員構成と報酬額会社設立時は、役員構成と報酬額を決める必要があります。役員報酬は従業員の給与と異なり、経費として計上できません。税制面を考慮して報酬額を決めることが重要です。

3. 会社用の印鑑を用意する

法人化する際は、会社用の印鑑を購入する必要があります。

  • 代表者印
  • 銀行印
  • 角印
  • ゴム印

代表者印は法人化する際に最も重要な役割を果たす印鑑で、登記申請の際に必要です。代表者印は手続きに必ず必要なため、法人化を検討している方は早めに準備しましょう。

銀行印は法人口座開設時、角印は請求書発注書作成時に必要です。法人化の手続きにゴム印は必要ありませんが、会社の社名を簡易的に捺印したい時などに便利です。

4. 定款を作成する

定款(ていかん)とは、会社設立時に作成する法定文書です。

定款には、事業の目的や商号、資本金など会社の基本情報で決定した情報を記載します。また、定款の記載事項には、必ず記載が必要な「絶対的記載事項」のほか、記載しなくても問題はない「相対的記載事項」「任意的記載事項」があります。

絶対的記載事項が未記載の場合、定款自体が無効となるため、記載事項や書き方に関して疑問がある方は行政書士や司法書士、公証役場等の専門家に相談しましょう。

5. 定款の認証を受ける

株式会社の場合は、作成した定款は公証役場で公証人からの認証を受ける必要があります。

認証を行うことで、定款が公的に証明されるため、紛失や改ざん、社内紛争等のリスク防止につながります。なお、定款の認証が必要なのは、「株式会社」「一般社団法人」「一般財団法人」のみで、持分会社である「合同会社」では必要ありません。

定款の認証手続きには、以下の書類が必要です。

  • 定款(公証役場用、法務局用、会社保管用)3通
  • 発起人全員の印鑑登録証明書
  • 委任状(代理人が申請する場合)

公証役場の認証手続きは予約制であるため、事前に連絡して公証人と認証日時を決めなければいけません。予約当日は、上記の必要書類を持参して公証役場で公証人の認証を受けましょう。定款認証には、基本的に発起人全員で参加します。

6. 資本金を払い込む

定款の認証を受けたら、発起人の個人口座に資本金を払い込みます。

個人口座に振り込むのは、この時点では法人口座を開設できないためです。払い込みは銀行振込が一般的であるため、手数料が発生します。また、登記申請の際に必要になるため、以下のページをコピーして大切に保管しておきましょう。

  • 通帳の表紙と1ページ目
  • 資本金の振込内容が記載されたページ

7. 法務局で登記申請を行う

資本金の払い込みが完了したら、必要書類を持参して法務局で登記申請を行います。

登記申請に必要な書類は設立する企業形態で異なりますが、一般的に以下のものです。

  • 登記申請書
  • 登録免許税納付用台紙
  • 定款
  • 印鑑届出書
  • 発起人の決定書
  • 設立時取締役の就任承諾書
  • 設立時代表取締役の就任承諾書
  • 設立時取締役の印鑑証明書
  • 資本金の払い込みを証する書面

申請受付が終われば、手続きは完了です。登記申請に不備がある場合は、法務局から連絡が来るため見逃さないように注意してください。

産業医と勤務医の法人化に違いはある?

業医と勤務医のどちらも法人設立が可能です。ただし、産業医と勤務医では業務内容や医療行為の可否、求められる立場等が異なります。

産業医勤務医
法令労働安全衛生法医師法
勤務先企業(事業法人)病院(医療法人)
業務内容職場巡視

労働者の健康管理

労働者の職場管理

労働者の作業管理など

患者の治療
医療行為の可否医療行為できない医療行為できる
求められる立場事業主と労働者の中立患者の味方

産業医には、衛生委員会への参加も求められています。衛生委員会とは、労働者の健康障害や労働災害を防止するための対策を調査・審議する委員会のことです。労働者の実態と現状を知ることで、産業医は労働者に対する適切な健康管理を行えます。

産業医が法人化する際の注意点

法人化すると法人税や役員報酬の処理、消費税の申告など税務処理が複雑になるため、司法書士や税理士、会計士等のサポートを受けるのが一般的です。

司法書士には、定款作成や定款認証、設立登記申請等を相談できます。一方、税理士には税金に関する相談が可能です。税務関連の書類作成や節税対策等のサポートを得られます。会計士は税理士を兼務できるため、税金に関する相談先として適しています。

また、会計士は会計実務や会社実務の現場にいるため、金融機関との関わりが深く資金調達についても詳しいです。法人化すると個人事業主と比べて資金調達しやすい傾向にありますが、不安や疑問がある場合は、会計士に相談してみましょう。

節税対策なら産業医の法人化はメリットが多い

産業医の法人化は、信用力の向上や節税対策などさまざまなメリットがあります。ただ一方で、法人を設立するには、会社用印鑑の準備、定款作成や登記申請等の手続きが必要です。また、設立費用や運用コストも考えなければいけません。

産業医の法人化を円滑に進めたいなら、税理士や司法書士など専門家に相談しましょう。


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