• 作成日 : 2025年2月20日

法律事務所は法人ではない!弁護士法人として法人登記する方法は?

法律事務所は、法人登記された「法人」ではありません。弁護士が法人として活動するためには、「弁護士法人」として法人設立手続きを行う必要があります。

この記事では、法律事務所と弁護士法人の違いについて、また弁護士の法人登記や弁護士法人のメリット・デメリットなどについて解説します。

法律事務所は法人ではない?

法律事務所は、弁護士個人が経営する個人事業または民法上の組合であり、法人格を持ちません。弁護士法第20条によれば、弁護士の事務所は事務所名に「法律事務所」を含めなければならないと定められています。

法律事務所と弁護士法人の違い

法律事務所と弁護士法人では、法人格の有無が異なります。前者は先述のとおり法人格を持ちませんが、弁護士法人は法人格を有します。

弁護士法人は、2002年4月から設立が可能となった法人形態です。弁護士法人では、名称に「弁護士法人」という文字の使用が義務付けられています。また、弁護士法人は支店を設置できますが、法律事務所は複数の事務所を持てない、という違いもあります。

法律事務所の法人登記を確認するには?

法律事務所が「弁護士法人」として法人格を有しているかどうかを確かめたい場合は、商業登記簿の閲覧を検討することになります。

もし、事務所が弁護士法人として登記されていれば、法務局で「法人の登記事項証明書(履歴事項全部証明書など)」の交付が受けられます。法律事務所のままの場合、そもそも法人登記は行われていません。

弁護士法人として法人登記するメリット

弁護士法人の設立は、法律事務所にはないいくつかのメリットをもたらします。ただし、それに伴うコストや制度上の制約もあるため、メリットとデメリットの両方を理解したうえで判断することが重要です。

以下では、メリットを大きく3つに分けて説明します。

支店展開が可能になる

法律事務所の場合は、支店展開ができません。しかし弁護士法人であれば法人名義で各地域に支店を設立できるため、地域をまたいだ活動が行いやすくなります。

また、法人という組織形態であれば、支店全体の事業管理が法人全体で統一されるため、経理・労務管理などを集約できます。拠点ごとに独立した運営になると管理コストが大きくなりがちですが、法人格を有している場合は代表社員が一括してコントロールが可能です。

こうした点は、事業規模の拡大を視野に入れる法律事務所にとって大きなメリットといえるでしょう。

事業承継の円滑化

弁護士法人を設立していると、所属弁護士が退職する場合でも法人としての事業そのものは継続されます。

法律事務所であれば、該当弁護士が死亡・引退したときに事務所を引き継ぐ手続きが極めて煩雑となるうえ、業務が停止してしまうリスクが高まります。弁護士法人にしておけば、法人の存続を前提として新たな社員弁護士が加入し、旧社員が退社するという形で引き継ぎが可能です。

法律事務所に限ったことではありませんが、事業承継に伴うトラブルとして営業権や事務所名義、従業員の雇用契約などが問題になることがあります。しかし法人化しておくと法人が継続して存在し、契約の主体も変わらないため、法的な引き継ぎが個人事業ほど複雑になりにくいという特徴があります。

将来的に社員弁護士などに継がせる計画がある場合は、法人化が有用な手段となりえます。

社会保険制度が活用できる

弁護士法人では、従業員(弁護士やスタッフ)を含めて社会保険への加入義務が生じます。個人経営の法律事務所の場合、事業主本人の社会保険は国民健康保険や国民年金などをベースに構成され、スタッフも法律上は一部の要件を満たさないと社会保険加入が難しい場合があります。

しかし法人として組織を整備すれば、健康保険や厚生年金などの法人向け社会保険制度を活用でき、従業員はもちろん、経営者本人の福利厚生面を充実させることが可能です。

特に優秀なスタッフや若手弁護士を採用する際、社会保険制度が整っているかどうかは重要な要素となります。法人形態の事務所のほうが一定の福利厚生の安定度が見込まれるため、求人活動におけるアピールにもつながるでしょう。結果として、人材確保や組織の拡大を図るうえでプラスに働く可能性が高いといえます。

弁護士法人として法人登記するデメリット

法人化にはメリットがある一方、追加の負担や制度的な制約も存在します。ここでは代表的なデメリットを挙げて解説します。

弁護士会費の二重負担

弁護士法人を設立すると、所属する個人弁護士としての会費に加えて、法人自体にも弁護士会費が課されます。弁護士法人として支払う会費は、弁護士会ごとに定められるため一律ではありませんが、ある程度の金額負担が生じることは確かです。

個人事務所の場合は、あくまで個人弁護士のみが会費を負担しますが、法人化によって事務所単位の会費が追加される点は注意が必要です。

会費の二重負担が、事務所の運営コストに大きく影響する場合もあります。特に小規模の法律事務所が法人化を検討する際には、毎月・毎年の会費をどの程度支払う必要があるかを事前に調べ、十分に資金繰りの面を検討することが望ましいでしょう。

税務上の制約

弁護士法人は、一般の法人と同様に法人税の申告が必要であり、決算手続きが煩雑になりがちです。個人事務所の場合は所得税・消費税確定申告のみで済むところ、弁護士法人としては法人税、地方法人特別税、消費税などの申告が必要になります。

また、弁護士報酬は基本的には源泉徴収の対象となる場合が多く、個人事務所であれば比較的シンプルに行っていた処理が、法人化後には給与や役員報酬の支払い・源泉徴収を含めて管理をしなければなりません。税理士などの専門家を活用するとしても、一定の手間とコストがかかる点はデメリットといえます。

無限責任の継続

株式会社や合同会社であれば、原則として有限責任の考え方が適用されます。しかし弁護士法人の場合は弁護士法第30条の5第1項に基づき、その業務に関しては社員が無限連帯責任を負い続ける形なっています。つまり、弁護士法人を設立しても、弁護士として依頼者に損害を与えた際に発生する賠償責任などは、社員が最終的には連帯して負担するリスクがあるのです。

この制度は、弁護士業務の公共性および専門性に基づいた独自の仕組みであり、一般的な企業のように責任を限定できない点が特徴です。有限責任の恩恵を受けられないため、リスク管理の面でも十分に配慮しておく必要があります。

法律事務所を法人登記する手続き

弁護士法人を設立するには、まず日本弁護士連合会および各弁護士会の許可を得たうえで、法務局で法人登記を行います。一般企業の設立と異なり、弁護士法や各弁護士会の規則に基づく厳格な手続きが必要です。以下では、社員数や手続きの流れについて解説します。

社員は1人でも登記できる

弁護士法人は、社員1名のみでも設立は可能です。弁護士が1名しかいない場合でも弁護士法人として活動することは法律上可能ですが、設立にかかるコストや維持費がかさむ傾向にあることは念頭に置くべきです。

単独で法人化を目指すケースとしては、将来的に社員を増やす意向がある場合や、支店展開や事業承継を見据えて早めに法人格を取得しておきたい場合などが考えられます。いずれにせよ、設立時点で必要な書類や許可手続きは、複数名の場合と基本的には同様に進めなければなりません。

一般的な手続きの流れ

弁護士法人設立にあたっては、まず設立の趣旨や法人の基本情報を定款に定め、それをもとに弁護士会と日本弁護士連合会の審査を受ける必要があります。許可が下りると、法務局で登記申請を行い、登記が完了すると正式に弁護士法人としての活動が認められます。

設立の際に提出する書類は、定款のほか、各社員弁護士の弁護士資格証明書、登記申請に必要な委任状などが必要です。これらを整備して申請するだけでなく、日本弁護士連合会からの許可通知書なども必要となるため、事前に必要書類を洗い出し、スケジュールを立てて進行することが求められます。

特に、代表社員の印鑑証明書や実印届出などの実務手続きも並行して行わなければならないため、細部まで確認を怠らないようにしましょう

会社設立の流れや必要書類について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

法律事務所の法人登記に必要な書類

弁護士法人を設立する際には、多数の書類を用意しなければなりません。ここでは、基本的な書類を挙げてその概要を説明します。実際の手続きに当たっては、所属弁護士会や日本弁護士連合会の案内書類を併せて確認することが重要です。

定款

弁護士法人の定款は、法人の基本的な組織形態や運営ルールなどを定めた根本規程です。一般の会社とは異なり、弁護士法人は弁護士法や弁護士職務基本規程などに縛られているため、定款には固有の規定を入れる必要がある場合もあります。主な記載事項としては、目的、名称、本店所在地、社員の資格、利益配分に関する規定などが挙げられます。

定款は、公証役場で認証を受けなければなりません。

社員の弁護士資格証明書

弁護士法人の社員は弁護士のみと定められているため、社員となる弁護士がきちんと弁護士登録をしている証明が必要です。日本弁護士連合会や所属弁護士会で資格証明書を発行してもらい、それを提出します。

この書類は、弁護士としての登録が有効であることを証明する大切な書類で、設立時における社員全員分の提出が必須です。仮に弁護士資格が停止中や抹消されている状態であれば、社員に加わることはできません。

代表社員の選定を証する同意書

弁護士法人は、代表社員を少なくとも1名選定しなければなりません。そのため、社員の合議により代表社員を決定した事実を証明する書面が求められます。これは定款に代表社員の選定方法を定め、その規程に従って選任したということを裏付ける手続きです。

この同意書は通常、すべての社員が署名押印する形となります。代表社員の職務権限や任期などを定款と合わせて明確にしておくことが望ましく、法人内部における責任所在を明らかにする意味もあります。

社員の決定書

本店所在地の指定について、定款で最小の行政区までしか定めていない場合に必要となる。社員の同意書として作成する。

社員の決定書とは、設立に際して社員が何を決定したのかを記録する文書です。弁護士法人設立のときは、主に定款の承認や代表社員の選定、出資金額の確定など、法人設立に必要な項目が網羅されることになります。

出資金の額や、出資方法なども重要な項目です。資本金という概念は会社法上の会社ほど重視されませんが、法人税法上の取り扱いなども考慮し、きちんと決定書に盛り込む必要があります。ここでの決定は、後に登記申請や弁護士会への提出書類にも反映されるため、正確な記載が求められます。

登記委任状

通常、登記申請は代表社員が自ら行うか、あるいは司法書士などの代理人に委任して行います。委任状を提出することで、代理人による登記手続きが法務局に受理されます。

委任状には、法人名や依頼者の氏名、代理人の氏名、委任内容などを明確に記載します。

印鑑届書

法人名義の実印を、法務局に届け出るための書類です。会社の実印に相当するものであり、以後の登記申請や各種契約を締結する際に用いられます。弁護士法人として社会的に活動するうえで、押印は重要な法的意義を持つため、きちんと届け出ておく必要があります。

代表社員個人の実印の印鑑証明書

弁護士法人の登記には、代表社員個人の実印の印鑑証明書も必要になります。これは、法人としての登録印鑑だけでなく、代表社員本人の真正な印鑑であることを確認するための手続きです。

代表社員の個人印鑑証明書の有効期限は発行日から3ヶ月以内などと定められており(商業登記規則上の要件)、期限切れの証明書では受理されません。必要に応じて再度取得しなければならないため、スケジュール管理が重要です。

法律事務所を法人登記する際の注意点

弁護士法人の設立手続きには、書類や手続きのほかに満たすべき法的要件がいくつか存在します。以下では、代表的な注意点を取り上げ、設立を進める際に留意すべき事項を解説します。

社員は全員弁護士でなければならない

会社形態における出資者や役員のように、弁護士以外の者を社員に含めることはできません。弁護士法第30条の2などに基づき、弁護士法人の社員となる資格を厳格に限定しているためです。

弁護士が自ら出資して法人を支え、かつ業務の責任も負うという制度設計になっていることを理解しておきましょう。

弁護士会への事前許可を取得する必要がある

弁護士法人を設立する際は、開設しようとする地域の弁護士会の許可を得る必要がある。また、支店を設置する場合も、その地域の弁護士会の許可が必要となる。

弁護士法人として活動するには、所在地を管轄する弁護士会に対して設立許可の申請が必要です。日本弁護士連合会による最終的な許認可が下りてからでないと、法務局での法人登記申請も受理されません。この審査段階で、定款や運営体制に問題がないか、社員の資格や職務経歴に不備がないかなどが厳密にチェックされます。

個人事務所を既に開設している弁護士が法人化する場合は、転換手続きの一環として新たに許可申請を行うことになります。移行時に必要となる書類や手続きもあるため、事前に所属弁護士会へ相談し、指示に従う形で進めるといいでしょう。

登記後の届出義務について

弁護士法人の設立登記が完了した後も、関係機関への届出義務があります。所属の弁護士会や日本弁護士連合会に対して、「法人登記が完了したこと」と「登記事項の詳細」などを所定の様式で報告しなければなりません。

また、税務署・都道府県税事務所・市町村役場などへの法人設立届、社会保険加入手続き等も忘れてはならないポイントです。これらの手続きを怠ると、罰則や後々の手続きでの不都合が生じるおそれがあります。

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支店を出すなら法律事務所の法人化は必須

複数拠点での展開や将来的な事業承継を視野に入れる場合、弁護士法人として法人化するメリットは大きいといえます。法律事務所のままでは拠点の拡大に制限が生じやすく、個人が開設者として責任を負う形になるため、万一の際のトラブルリスクも高くなりがちです。法人化によって、支店展開や事業承継がスムーズになり、社会保険の充実など人材採用にもプラスに働く面が期待できます。

支店展開や組織拡大を計画する弁護士にとっては、法人化への一歩を踏み出す意義が十分にあるといえるでしょう。

弁護士の独立開業にあたっては、こちらの記事もご覧ください。


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