- 更新日 : 2025年3月21日
調剤薬局の開業に資金調達は必要?資金の目安や融資、節約方法を解説
薬局を開業するには、多額の資金が必要です。調剤設備や内装費、薬剤の仕入れなど初期費用はもちろん、運転費も含めた資金計画が不可欠です。また、資金調達方法を検討し、融資審査の成功に向けた準備をすることが、経営の安定に大きく影響します。
本記事では、薬局開業に必要な資金の目安や調達方法、コスト削減のコツについて解説します。
目次
調剤薬局の開業に必要な資金額と内訳
薬局を開業するには、多額の初期投資が必要です。事業を安定して運営するためには、開業費や設備資金、運転費などの具体的な内訳を把握し、事前にしっかりと資金計画を立てることが重要となっています。ここでは開業に必要な資金にまつわることを解説しましょう。
土地・建物
まずは調剤薬局を開業するための土地や建物を用意しましょう。自宅を改装するほか、居抜き物件を購入する、新しく建物を建てるといった方法が挙げられます。いずれにしても数千万円単位の初期費用が必要となります。
開業費
調剤薬局の開業には、事業登録や届出費用、広告宣伝費、開業手数料などが含まれ、一般的に100万~200万円程度がかかります。具体的には、薬局として営業を行うためには都道府県保健所に薬局開設許可申請が必要です。これに伴う手数料や申請書類の作成費用が発生します。また、地元の地域新聞などの広告やWebサイト制作にかかる集客目的とした宣伝費も念頭に入れておきましょう。
設備資金
開業手続きの費用のほか、調剤台や薬棚、レジシステム、薬剤師のためのITシステムなどの設備資金が必要であり、総額で300万~500万円ほどの費用が見込まれます。近年の薬局には調剤機器やコンピュータシステムなどの専門設備が不可欠であり、設備の新旧や性能によってコストが変動します。さらに、調剤報酬請求や薬歴管理に必要なシステムを導入する場合、初期投資額が増えることも考えられます。
運転費
薬局の開業後には、薬剤の仕入れや人件費、家賃、光熱費などが運転費として発生します。運転費には、通常であれば3カ月の費用を見積もり、500万~700万円程度を用意することが推奨されます。
特に調剤薬局では、調剤報酬の支払いにタイムラグが発生するため、営業開始後すぐに売上が回収されないことを考慮して、運転費の確保が重要です。例えば、調剤報酬の請求から受領までには1カ月以上の期間を要する場合が多いため、事前に余裕を持った資金計画を立て、安定した運営が可能な体制を整えることが求められます。
新規開業と承継開業で異なる点
では、開業費、設備資金、運転費の3つについて、新規開業と承継開業の場合では、どのような違いがあるのでしょうか。
開業費
新規開業の場合、ゼロからの登録や広告活動が必要となり、100万~200万円程度の費用がかかります。一方、承継開業では既存の薬局を引き継ぐため、広告費が抑えられることが多く、その分新規開業よりもコストを抑えられることが一般的です。
設備資金
新規開業では、調剤機器や薬棚、システムをすべて新規に購入する必要があるため、300万~500万円程度の設備投資が必要です。承継開業の場合、既存設備をそのまま使用できる場合が多いため、機器の補修や更新が必要な部分のみを投資対象とし、設備資金を抑えることが可能です。ただし、法改正で設備基準が変更された場合、承継時にも一定の設備投資が必要になることがあります。
運転費
新規開業の場合、調剤報酬のタイムラグに対応するため、前述のように3カ月分程度の運転費が求められます。一方、承継開業の場合、既存の顧客基盤があるため、新規開業よりも早く収益が安定することが期待できるでしょう。運転費の負担は比較的軽減されますが、既存顧客との関係維持や新たな集客のための資金も考慮する必要があります。
調剤薬局を開業するための資金調達先
薬局を開業するための資金調達にはさまざまな方法があり、適切な調達先を選ぶことが開業後の安定経営につながります。資金調達先について、その特徴やメリット・デメリットを解説します。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、中小企業や個人事業主向けに資金を貸し付ける政府系金融機関です。開業資金の調達先として特に人気があり、無担保・無保証人で融資を受けられる「新規開業資金」が特徴です。金利も比較的低く、返済期間が長いため、初めて薬局を開業する人や安定した返済計画を立てたい方に向いています。
デメリットとして、融資を受けるまでに審査や面談が必要であり、書類準備が多く、手間がかかる点が挙げられます。また、政策の変更や金利の見直しがあるため、常に最新の情報を確認しながら手続きを進めることが重要です。
上記でご紹介した「新規開業資金」では、新たに事業を始める方もしくは事業開始後おおむね7年以内の方を対象に、事業を始めるもしくは事業開始後に必要となる設備資金や運転資金として最大7,200万円(※このうち運転資金は4,800万円まで)の融資が受けられます。
信用保証協会
信用保証協会は、中小企業や個人事業主の資金調達を支援する公的機関であり、金融機関からの融資に対して保証を提供します。信用保証協会を利用することで、金融機関からの融資を受けやすくなり、特に信用力がまだ確立していない新規開業者向けです。
メリットとしては、通常の銀行融資に比べて低金利での借入が可能である点です。ただし、保証料が必要で、返済途中で保証料が追加されることもあるため、総額での返済額を事前に計算しておく必要があります。地域ごとに制度内容が異なる場合もあるため、地元の信用保証協会の最新情報を確認しましょう。
例えば、従業員数5人以下の調剤薬局であれば「小口零細企業保証制度」を活用することで、最大2,000万円までの保証を受けることができます。
ビジネスローン
ビジネスローンは、主にノンバンクが提供する事業者向けのローンで、審査が比較的早く、無担保・無保証で資金を調達できる点が特徴です。急ぎで資金が必要な場合や、銀行や公庫での融資が難しい場合に向いています。しかし、金利が高めに設定されているため、長期間の借入には不向きです。また、返済遅延などが発生した場合のペナルティが厳しいことがあるため、計画的な返済が求められます。ビジネスローンは短期間で資金を確保したい場合に適していますが、リスクとメリットをよく検討したうえで利用することが重要です。
例えば、ある金融会社のビジネスローンプランでは最高300万円まで、最短即日で借入れることが可能で、貸付金利は12~18%、返済期間は最長8年7カ月です。また、別の金融会社には最大500万円が借入れられ、利率は3~18%、返済期間は最長10年というプランがあります。
このように金融会社によって限度額や利率、返済期間などが異なりますので、慎重に比較検討してみましょう。
銀行
銀行からの融資は、薬局開業の資金調達先として一般的です。特に大手銀行や地方銀行では、安定した事業計画を提示できれば、低金利での長期借入が可能です。メリットは、金利が他の調達手段と比較して低く、信頼性の高い資金調達ができることです。
ただし、審査が厳しく、事業計画の細かな部分まで確認されるため、信用力のない新規開業者にとってはハードルが高い場合もあります。銀行によって、あるいは同じ銀行内であってもプランによって限度額や利率、返済期間が大きく異なるため、まずは相談されることをおすすめします。
補助金・助成金
補助金や助成金は、政府や地方自治体が提供する資金援助制度であり、返済不要なため、初期費用を抑えることができます。薬局開業に関連する補助金としては、地域医療支援や小規模事業者支援の一環で提供されるものがあり、特に地域密着型の薬局開業に向いています。
メリットとしては返済不要で経済的負担が少ない点が挙げられますが、申請手続きが複雑で、採択基準も厳しいため、計画的な申請と書類の準備が不可欠です。また、補助金制度は予算や法改正により内容が変更されることが多いため、最新の支援情報をチェックし、適切なタイミングでの申請を心がけましょう。
例えば小規模事業者(※商業・サービス業であれば常時使用する従業員数5人以下)全国商工会連合会が実施している「小規模事業者持続化補助金」を活用すれば、インボイスなどの制度変更に対応するための経費や販路拡大などの取り組みに必要な経費について、最大50万円の補助が受けられます。
厚生労働省が実施している「キャリアアップ助成金」を活用すれば、非正規雇用の従業員の処遇改善や正社員化の助成を受けられます。賃金規定などといった共通化コースの場合、1事業所あたり60万円の助成金を受給できます。
資金調達の融資に自己資金はいくら必要か
融資を受ける際にはある程度自己資金を用意しておく必要があります。利用する金融機関やプランにもよりますが、おおむね20~30%程度が目安です。例えば1,000万円を融資という場合は、200万~300万円ということになります。特に創業直後は経営が軌道に乗りにくい傾向があるため、自己資金が多いに越したことはありません。
資金調達の融資を成功させるポイント
調剤薬局の開業資金を調達するためには、融資審査を通過することが前提です。審査成功の鍵は、計画の実現性や従業員の確保、情報収集、入念な準備と計画にあります。
実現性のある事業計画書
融資審査において、実現性の高い事業計画書は最も重要です。事業計画書には、開業の目的や目標、提供するサービス、収支計画、リスク対策などを具体的に記載します。計画が現実的で、かつ明確な収益目標が示されているほど審査通過の可能性が高まるでしょう。さらに、事業計画書には市場の競争状況やターゲット顧客層、営業戦略を詳述することで、実現可能性を高めた内容にすることが推奨されます。
従業員の確保
調剤薬局の開業において、薬剤師やスタッフの確保も審査における重要なポイントです。従業員が確保されていることで、事業の安定性や運営の実現性が高いと判断され、審査通過に有利となります。特に薬剤師は国家資格が必要なため、計画段階で雇用を確保し、具体的な採用計画や人件費の見通しを示すと信頼性が増すでしょう。
十分な情報収集と市場調査
十分な情報収集と市場調査は、融資審査での信用力向上に寄与します。市場調査により、地域のニーズや競合薬局の状況、ターゲット顧客の需要を把握し、開業予定地の市場性を具体的に示すことが重要です。これにより、審査担当者は開業後の収益見込みや安定性を評価しやすくなります。情報収集の際には法改正が地域医療や薬局業界に及ぼす影響も確認し、薬局としてどのように地域社会に貢献できるかを強調することで、審査を有利に進めることができます。
家族の同意
融資審査では、家族の同意も重要なポイントです。家族の支援や同意があると、審査において開業後の経営が安定すると判断されるでしょう。特に家族が連帯保証人としてサポートする場合、審査担当者にとって開業の信用度がさらに増します。家族の理解が得られることで、予期せぬトラブルにも協力して対処しやすくなるでしょう。家族の同意を得る際には、事業計画の内容やリスク、法改正による影響などについても十分に説明することが必要であるとともに、共通認識を深めることが大切です。
資金調達において開業コストを抑える方法
薬局開業時の資金調達では、初期コストを抑える対策が必要です。無駄な支出を抑えながら資金を効率よく管理することで、運転費の確保や事業の安定が図れます。ここでは具体的なコスト削減方法について見ていきましょう。
リースや中古設備の活用
薬局の設備には調剤台やレジシステム、薬棚など高額なものが多く、新品でそろえると初期投資が膨れ上がります。コストを抑えるためには、リースや中古設備の活用が有効です。リースを利用すると月額費用の支払いで済むため、資金繰りの柔軟性が増します。
また、中古の調剤台や薬棚などは、専門のリサイクル業者やインターネットの取引サイトで手頃な価格で入手可能です。ただし、中古設備を導入する際には、安全基準や品質を確認し、医薬品や医療機器などの品質、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の基準に適合しているかを確認しましょう。
内装工事の簡素化
薬局の内装は、デザイン性よりも機能性が重要です。開業コストを抑えるためには、必要最低限の内装工事で済ませ、不要なデザイン性を排除することが効果的です。特に、待合室や調剤室のレイアウトは効率よく設計することで、使いやすい空間を考えながら費用を抑えることができます。
また、法改正によって衛生基準やバリアフリー対応が求められる場合もあるため、最新の法規を確認したうえで基準にのっとったシンプル、かつコストパフォーマンスがよい内装に仕上げることが大切です。
地域の助成金・補助金の活用
調剤薬局の開業に際し、地域の助成金や補助金を活用することで、自己資金の負担を軽減することが可能です。自治体によっては、地域医療や地域密着型の薬局に対して支援を行う助成金制度が用意されている場合があります。
制度を活用することにより、内装工事費用や設備投資の一部を賄うことが可能です。助成金は返済不要な資金であるため、事前に自治体の支援制度を確認し、計画的に申請することが推奨されます。補助金制度は法改正や予算に応じて内容が変動するため、最新情報を厚生労働省や自治体の公式ホームページでチェックしましょう。
小規模から始める
開業時のリスクを軽減し、コストを抑えるためには、まずは小規模から始めるという方法も効果的です。必要最低限のスペースと設備でスタートし、経営が軌道に乗ったタイミングで規模を拡大することで、初期投資を抑えられます。調剤機器や在庫も最小限にとどめ、売上に応じて追加購入することで、資金の無駄遣いを避けられるでしょう。また、法改正により薬局の面積や設備の最低基準が変わる可能性もあります。そのため、最新の規制を確認しつつ、計画的に事業を拡大する方針が望ましいでしょう。
調剤薬局を開業する手続き
個人事業主あるいは法人として調剤薬局を開業する場合は以下のような手続きを行う必要があります。
個人事業主として開業するなら「開業届」の提出
個人事業主として調剤薬局を開業する場合、登記手続きは不要です。事業の開始日から1カ月以内に開業届を所管する税務署に提出します。開業届のフォーマットは国税庁の公式ホームページの個人事業の開業・廃業等届出書(PDF)からダウンロードでき、納税地や事業所の住所、事業者の氏名、事業の概要を記載します。
また、青色申告を行う場合は、青色申告書による申告をする年の3月15日までに所管の税務署に対して所得税の青色申告承認申請書を提出します。
いずれもご自身で手続きができ、必要書類を提出したら完了です。費用もかかりません。
法人を設立するなら「法人登記」
株式会社や合同会社などの法人として調剤薬局を開業する場合は法人登記手続きを行わなければなりません。定款を作成して公証人役場で認証を受け、資本金を払い込んだあとに、定款や登記申請書類などの必要書類を用意して所管する法務局で手続きを行います。
個人事業主の場合と比較して手続きも複雑で、場合によっては司法書士などに依頼する必要もあるかもしれません。また、数週間~1カ月程度の期間がかかり、費用も10~20万円程度必要です。
法人設立の詳しい流れは、以下のページでご紹介しています。
調剤薬局の会社設立に役立つひな形・テンプレート
マネーフォワード クラウドでは、法人化や法人登記に役立つひな形・テンプレートを提供しています。下記リンクから無料でダウンロードできますので、カスタマイズしながらご活用ください。
効果的な資金調達とコスト管理で薬局開業を成功させよう!
薬局の開業には、初期費用から運転費に至るまで、多方面で資金が必要です。計画的な資金調達や融資審査に向けた準備を進め、必要な資金を効率よく確保することが重要です。さらに、リースや助成金の活用、内装費の工夫など、コストを抑える工夫をすることで資金繰りが安定し、開業後の経営をスムーズに進めることができます。適切な準備を整え、成功に向けて一歩を踏み出しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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