- 作成日 : 2023年5月26日
法人口座開設が難しいのはなぜ?必要なものやすぐ作れない理由を解説
法人口座を開設しようとした時、金融機関から求められる書類の多さに驚いたことがある方もいるでしょう。テロ資金供与を防止するために金融庁が「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を公表して以降、法人口座の開設は難しくなっています。
今回は、法人口座開設が難しくなった背景や、スムーズに口座開設を行うために必要な準備などについて解説します。
目次
法人化したら法人口座開設は必須か?
法人として事業を行う場合、法人名義の口座が最低でも一つは欲しいところです。なぜ法人口座の開設が必要であるかについて解説します。
法人口座があると社会的信用が上がる
例えば法人として商取引をするにあたって、代表者個人の口座を使っていたとしたら、取引先に対する印象はあまり良くないでしょう。「口座を開設することもできない会社なのか?」「そもそも法人として登記されているのだろうか?」といったように、マイナスのイメージを持たれる可能性があります。
その点、法人名義の口座があるということは、銀行等の金融機関の審査を通ったということです。すなわち、その法人に「信用」があることを意味します。
会社のお金の流れがわかりやすい
個人名義の口座内で法人としての入出金を行ってしまうと、その入出金が法人としてなのか個人としてなのかを区別しなければなりません。
取引の都度、通帳にメモ書きをしていくという方法もありますが、非常に手間のかかる作業です。また、メモすることを忘れてしまい取引内容が分からなくなるといったことも起こり得ます。口座を法人・個人に分けることでこういった区分の手間が省け、お金の流れを把握しやすくなります。
個人口座で代替することのデメリット
法人が個人名義の口座を使うことは、法律上禁止されていません。しかし、次のようなデメリットがありますので注意してください。
請求書の名称と振込先の名称が一致しない
売上の請求書を発行するときは法人名義で作成しますが、振込先の口座が個人名義となってしまいますので、請求と入金の不一致が起こります。得意先は振込先が個人名ですから、どの法人に振り込んだのかをいちいち紐づけしなければなりません。
そもそも法人との関係が分からない個人の口座に振り込むことに違和感を覚えるでしょう。
金融機関からの融資が受けられない
銀行から運転資金等を借入した場合、金融機関はその法人が所有する法人名義の口座に振込をします。もし法人名義の口座がなければ、金融機関は貸し付けたお金を振り込むことができないのです。
将来的に金融機関から借り入れを行わないのであれば別ですが、法人として借入を検討しているのであれば法人口座の開設は必須です。
法人口座がすぐに作れない理由
以前は比較的簡単に開設することができた法人口座も、現在では審査が非常に厳しくなっており簡単に開設することができなくなっています。次に、口座開設が難しくなった理由について解説します。
犯罪対策として
法人名義の口座開設が難しくなった理由としては、口座がテロ等の犯罪資金のロンダリングに利用される恐れがあることが原因の一つです。テロ資金供与を防止するための国際間合意であるFATF(Financial Action Task Force)をはじめ、世界規模で犯罪資金に対する規制が強化されています。
このような流れを受けて法人名義の口座を作る際には、開設する法人に対する審査が厳重かつ慎重に行われるようになったのです。
口座を悪用されないために審査も厳しい
テロや麻薬取引により作られた資金は、そのままでは足がついてしまいますので表のお金として使うことはできません。そこで、犯罪組織は架空の商取引などを装って作った資金をキレイなものにしようとします。これが「マネーロンダリング」です。
マネーロンダリングを行う際に利用されやすいのが法人名義の口座です。実在する個人の口座を使うより、架空の法人名義を使えば特定されるリスクを減らすことができるからです。現在では、法人口座を開設するために、実在する法人であることを証明する書類として「履歴事項全部証明書」の提出を求められます。また、事業目的や本店所在地なども厳しく審査されることになります。
法人口座開設を断られる例
では、どういったケースで口座開設を断られるのか具体的に列挙してみましょう。
資本金が少ない
「資本金」はその法人がどれくらいの自己資金を有しているかを示すバロメーターのようなものです。現在の会社法では「資本金0円」の法人設立も可能となってはいますが、資本金が少ない法人は、犯罪のために作った法人との印象を与えてしまいかねません。
登記場所がわかりづらい
口座開設をする金融機関の住所と、法人の本店所在地が理由もなく遠く離れているようなケースです。バーチャルオフィスが普及しつつある現在、本店所在地の住所を借りて事業を行っている企業も存在します。このような企業が口座開設をする際には審査が通りにくくなる可能性があります。
事業目的がよくわからない
金融機関の審査基準の一つに「何のために設立した法人なのか」というのがあります。事業目的がはっきりしていないと、資本金が少ない法人と同様、犯罪のために作った法人と判断される可能性があります。
許認可が済んでいない
建設業や運送業、産業廃棄物処理業など、国や都道府県、市区町村の許認可が必要な業種があります。このような業種は許認可がなければ事業を行うことが難しくなりますので、許認可がない=ペーパーカンパニーとの印象を与えかねません。また、許認可できない理由がある訳ありの企業と判断されることもあります。
固定電話やホームページが必要な場合も
一般的に、開業して事業を継続していく意思があれば、固定電話を引いたりHPを開設したりするでしょう。口座開設の審査で「固定電話の有無」「HPの有無」などを審査基準とする金融機関もあります。
法人口座の開設をスムーズに進めるために
最後に、法人口座をスムーズに開設するために必要な準備について解説します。
会社設立を決めたらすぐに準備を始める
会社を設立する際には、法務局で法人設立登記をしなければなりません。法人設立が完了すれば実在する法人であることを証明する「履歴事項全部証明書」を取得することができます。
また、登記する際には法人の実印も併せて登記しなければなりません。口座開設時には金融機関に法人の実印を登録しますので、それを証明する「印鑑証明書」も取得することができるようになります。設立登記が完了すると同時に、これらの証明書を取得できるように準備しましょう。
提出書類を漏れなく揃える
金融機関によって口座開設時に用意する書類は異なりますが、一般的には次のような書類の提出を求められることが多いようです。
- 履歴事項全部証明書
- 印鑑証明書
- 法人の定款
- 代表者の身分証明書
口座開設をスピーディに行うために、これらの各種証明書を漏れなく揃えられるよう、手続きの段取りや手続きに必要な書類の準備も事前に行っておきましょう。
複数の銀行を候補にする
口座は、書類を提出すれば必ず開設できるものではありません。金融機関の審査の結果、口座開設に至らず法人名義の口座取引ができないという事態は避けたいものです。
口座開設の審査は金融機関によって異なります。確実に法人口座を開設しなければならない場合には、複数の銀行で口座開設を進めるべきでしょう。
時間がない場合はWebで完結できる銀行を利用する、という方法も
例えば、事業主一人で法人を設立したため口座開設に必要な書類の準備や営業時間内での金融機関への書類提出が難しいという方もいるかもしれません。このような場合には、Webを使った口座開設をおすすめします。
口座開設に必要な情報を入力し、書類をWebでアップロードするだけで申請手続きが完了します。時間のない経営者の方はWeb申請を利用してみてはいかがでしょうか。
法人口座開設は時間がかかる!計画的に進めよう
犯罪目的に利用される恐れがあることから、法人口座の開設は以前より時間がかかるようになっています。法人を新規設立し、口座取引を早く軌道に乗せたいようなケースでは計画的な準備が不可欠です。事前に口座開設に必要な情報を揃えておきましょう。
よくある質問
法人口座を作ったら融資額は大きくなりますか?
事業内容や規模などによりますが、信用が高まり融資額が大きくなる可能性はあります。詳しくはこちらをご覧ください。
独立したばかりですが、おすすめの銀行はどこですか?
みずほフィナンシャルグループなどのメガバンクや、楽天銀行などのWebバンクがおすすめです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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