• 更新日 : 2023年8月29日

一族経営のメリットとデメリット。成功や事業拡大に近いって本当?

一族経営のメリットとデメリット。成功や事業拡大に近いって本当?

家族やその一族で経営している会社があります。その会社の多くは、法律に定められた「同族会社」に分類され、実際、日本の会社の多くを占めています。

この記事では、家族や一族で経営に携わる同族会社についてメリットやデメリットを解説し、親族経営の事業拡大の可能性を探ります。

一族経営の定義は?

家族経営や一族経営の会社とは、創業者の家族・親族などが所有し、かつ、経営している会社を指します。同族企業などといわれることもありますが、家族経営や一族経営について、法律で定義付けられているわけではありません。

一族経営では、株式会社のように所有と経営が分離されている形態であっても、一族が実質的な支配権を有しているのが特徴です。

法律の定義があるもの

株式会社の形態をとる会社において、「同族会社」であるかどうかは法人税に規定されています。株式会社が同族会社であるかどうかの判定について、法人税法第2条第10号には次のような旨が記載されています。

同族会社
株主等の3人以下ならびにこれらの株主等と特殊の関係にある個人および法人が、その会社の株式の総数または出資金額の合計額の50%超を保有している会社

出典:法人税法 | e-Gov法令検索

上記の「特殊の関係にある個人」には、株主の配偶者や6親等以内の血族、3親等以内の姻族が含まれます。婚姻関係によらない事実婚や私設秘書、家政婦などの使用人なども含まれます。したがって、親戚関係が株式や出資の半分超を有している場合には同族会社とされます。

さらに、これ以外にも同族会社と判定するために、法人税においては通達などにより細かな規定が設けられています。

参考:第3節 同族会社|国税庁

法律の定義がないもの

同族経営、ファミリービジネスなどについて特に定義がある訳ではありません。企業経営までいかない個人事業主で家族が手伝う形式も入れると、日本の事業経営の多くは同族的な経営者に委ねられていると言っても過言ではありません。

オーナー企業とは?

オーナー企業という呼び方もあります。オーナー(Owner)とは、その企業の資本金や出資金を所有(own)している人のことで、オーナー企業も特に定義されたものではありません。

一般にオーナー企業と言えば、経営者自身やその一族でその会社の株式や出資金の100%または大部分を保有しているような企業です。オーナー企業では所有と経営が一体となっており、分離はされていないのですが、株式会社でもあり得ます。特に中小企業や小規模な企業に、オーナー企業が多く見られます。

一族経営の特徴

実際、取引をしていてもパッと見て一族経営かそうでないかは、よくわかりません。しかし、一族経営は実態として非常に多いのです。一族経営の特徴について見ていきましょう。

一族経営の企業は意外と多い

実際、株式会社や持分会社のうち、同族会社の割合は非常に高いです。国税庁の会社標本調査結果(令和3年度分)によると単体法人では次のようになっており、標本ベースではありますが、同族会社の多さを物語っています。

単体法人割合(法人数)
同族会社*96.5%(2,747,257社)
非同族会社3.5%(99,425社)

出典:標本調査結果、会社標本調査結果|国税庁、「令和3年度分 会社標本調査」を加筆して作成

*同族会社には、特定同族会社を含みます。特定同族会社とは、親族ではなく一人の株主のみで株式等の過半数を保有する一定の会社などをいいます。

世界的な企業にも一族経営の企業はある

誰もが知っているような世界的な企業にも一族経営の形態から出発した企業はあります。

  • ウォルト・ディズニー・カンパニー
  • フォード・モーター・カンパニー
  • デル・テクノロジーズ

他にも、探せばいろいろ出てくると思われます。

一族経営のメリットは?

世界的にも成功している会社には同族会社が多いことから、一族で経営することのメリットは多く、同族ならではの利点を活用した経営ができます。

組織力が強くなる

実際の家族や親族が経営に参加するため、信頼性が高いと言えます。家族や親族間の情報の共有がスムーズに行われ、もともとの考え方の傾向も知っているため、相互の信頼性をもとに自分たちの利益を守るという意識が熟成されます。

一族経営での成功の結果を自分達で享受し、また、ビジネスにおける問題点は一族で解決しようという結束力が備わっているため、「強い組織」としての基礎ができていると言えます。

さらに一族経営は地域社会に根ざしていることが多いため、その地域になくてはならない産業として根付いているなどの強みもあります。

長期的な視点で経営できる

一族経営では、家族が代々その事業を継承していくことが多いため、長期的な視野に立った投資や設備の増強などが可能になります。

経営メンバーが一族の事業に対する長期的な愛着を持っているため、短期的な利益追及による失敗を防ぐ力が働きます。企業文化を醸成し、それを後継者に伝えようとするため安定した経営が続く傾向にあります。

スピード感をもって対応できる

経営者間の信頼関係に基づいて、経営方針の変更や新規案件などに対して、素早く柔軟に対応することができます。企業に求められている意思判断におけるスピード感の実現が可能です。

また、家族のコミュニケーションに基づく迅速な対応は、問題発生時にも威力を発揮します。

事業継承がスムーズ

一般に、経営者の交代がスムーズなのは一族経営の場合が多いようです。なかには、事業承継に失敗せずに「お家騒動」に発展する例もあるようですが、しっかりとした後継者教育に基づき、ビジネスの混乱を最小限に抑えた事業継承が実現できるのは一族経営ならではです。

なお、同族会社に該当すると、一般の会社と異なり法人税法の適用を受けることがありますので専門家などに相談して、規定への対応などを確認しておきましょう。

一族経営のデメリットは?

同族会社では家族、一族内での確執、派閥などに起因するトラブルが発生することが考えられます。トラブルが起こらないためには経営計画の周知や役割分担の明確化が重要なのですが、一族経営におけるデメリットにも目を向けてみましょう。

ワンマン経営に陥る危険性

経営陣が家族で構成されるため、意思決定が偏る可能性があります。いわゆるワンマン経営がまかり通ることも多いと言えます。

経営陣が同様な考え方ばかりだと、事業拡大や新規参入などリスク分散のための新たな戦略が打ち出せないケースも考えられます。外部環境の変化や法律の改正などに対応しきれず、さらに経営者の個人的な問題が会社の存続に影響を与えることも考えられます。

外部の有能な人材を排除してしまう危険性

外部に有能な人材がいても、家族を役員などの重要メンバーに登用することとなり、社内に有能な人材が残らない可能性があります。

家族や一族が経営を行うため、家族内の私情や感情が経営に影響を与えることもあり、従業員のパフォーマンス低下を招く要因にもなります。

会社の環境が悪くなる危険性

一族経営においては、家族メンバーが多忙であったり、業務知識が乏しかったりすることで業務上のトラブルを未然に防ぐことができないケースもあります。

また、人事や経営における透明性が損なわれ、経営の信頼性が損なわれる危険性もあります。

一族経営は成功する?

実際に、一族経営で成功しているところは非常にたくさんあります。一族経営のメリットを伸ばし、デメリットを克服するような経営方針が浸透すれば、やり方ひとつで大成功という構図も見えてきます。

一般に経営に必要な「ヒト・モノ・カネ」のうち、一族経営はその筆頭の「ヒト」の一部が固く結束されていると考えると、とても恵まれていると言えます。経営に必要な専門的な知識やスキルを常に磨くような体制を整え、現実を見据えた事業計画に基づく事業戦略を考え、健全な経営基盤を築こうとする意識が経営陣にあれば、一族経営は非常に有望な組織であると言えます。

そして、常に社外からの人材などの活用により、新しい視点を取り入れようとする体制が敷かれておれば、発展が期待できるでしょう。

経営拡大の際には一族の登用も考えてみよう

経営拡大を狙う場合の選択肢の1つとして、一族の登用を考えることは必ずしもワンマン経営と非難されるものではありません。経営者の子どもは、その経営者の苦労を肌で感じ取って育った場合も大いにあります。

その子どもの人生前半に裏打ちされた想いを、事業承継により新たな視点で実現できるなら、親も子もそして従業員も幸せではないでしょうか?決して無理強いはいけませんが、一族の登用も賢明な選択の1つだと言えます。

よくある質問

どの親族まで一族経営になる?

一族経営に定義はありません。ただし、法人税の同族会社の判定においては、株主等と特殊の関係にある個人には、株主の配偶者や6親等以内の血族、3親等以内の姻族が含まれます。詳しくはこちらをご覧ください。

起業する際に一族経営にできる?

もちろん可能です。株式会社でも、持分会社でも一族経営をすることは可能です。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談していただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事