- 作成日 : 2025年10月21日
新設分割で許認可は引き継がれる?手続きの流れと業種別の注意点
企業の成長戦略や事業再編で用いられるM&Aには、事業譲渡や吸収分割、そして新設分割などの手法があります。新設分割とは、会社の一部門を切り出して新しい会社を設立する手法ですが、この手続きを進める際、とくに見落とされがちなのが既存事業の許認可の扱いです。
結論からいうと、新設分割では許認可は原則として自動承継されず、新会社で改めて取得し直すのが基本です。もっとも、各業法に承継認可・免許換え・名義変更等の手続きが用意されている場合があり、要件を満たせば一定範囲で承継が認められる例外があります。
この点を見落として手続きを進めると、想定外の事業停止期間や無許可状態に陥るおそれがあるため、所管庁への事前相談とスケジュールの逆算が不可欠です。
この記事では、新設分割の基本的な考え方から、許認可が原則承継できない理由、そして建設業など業種別の注意点までを、実務の流れに沿ってわかりやすく解説します。
目次
新設分割で許認可は承継される?
新設分割は、会社の事業部門を切り出して新会社を設立する手法であり、許認可は原則として自動承継されません(合併のような包括承継とは異なります)。したがって、新会社で同一事業を継続するには新規取得が基本になります。
なぜなら、許認可は特定の法人(人格)に対して与えられるものであり、新設分割で設立される会社は法的にまったく別の法人格とみなされるためです。よって、新設会社で同じ事業を継続するには、原則として当該許認可を新規取得し直す手続きが不可欠となります。
許認可が原則承継されない理由
許認可は、その事業を行うための能力・設備・財産的基礎などを審査したうえで、個別の申請者(法人・個人)に与えられる「一身専属性」を前提としています。
新設分割で生まれる会社は元の会社とは別法人であるため、たとえ事業内容や従業員が同じでも自動承継はされず、所管庁による新たな審査が必要になります。
承継と新規取得の基本的な考え方
新設分割における許認可の扱いは「承継」ではなく「新規取得」が原則です。元会社が当該事業を継続しない場合は、許認可ごとに定められた廃止・廃業等の届出が必要です。元会社が事業を一部継続する場合も、変更届等が必要となることがあります。
一方、新設会社は事業開始前に必要な許認可の申請・取得を済ませる必要があります。ここにタイムラグが生じると事業の停止期間につながる可能性があるため、効力発生日から逆算したスケジュール設計が不可欠です。
例外的に承継が認められるケースはあるのか
原則として新規取得が必要ですが、法律で特別な手続きが定められている場合があります。
たとえば、後述する建設業許可の「認可」制度は代表例で、所定の要件を満たし、効力発生日“前”に認可を得ることで、元会社の許可や実績の一部を引き継げることがあります。
適用可否や必要書類・審査期間は所管庁や自治体実務で差異があるため、計画段階で所管庁へ事前相談し、自社事業に該当する特例の有無と手続き期限を必ず確認しましょう。
新設分割で許認可の承継ができない理由は?
許認可の承継が原則としてできない背景には、許認可制度そのものの趣旨があります。許認可は、特定の事業を行うための能力・設備・財産的基礎・人的要件などを申請者(法人・個人)ごとに審査し、その申請者が要件を満たしていることを前提に付与されます。
新設分割によって設立される会社は、たとえ事業内容や人員が同じでも、法的には別法人です。このため、所管庁としては新会社が要件を満たすか改めて審査する必要があります。
許認可の「一身専属性」という考え方
許認可は申請者単位で付与される一身専属性が基本で、私法上の譲渡・売買等による移転は原則できません。たとえば運転免許は個人の適格性に紐づくため他人に譲れません。
もっとも、各業法に特別の承継スキーム(承継認可・名義書換・免許換え・地位承継届 等)が定められている場合があります。これらの個別法上の特例が適用されるときに限り、連続性の確保が可能です。
また、合併など会社法上の包括承継が予定される場面でも、公法上の許認可は個別法の規律に従う点に留意が必要です。
会社法と各業法の関係性
新設分割の手続き自体は、会社法という法律に沿って進められます。しかし、事業を行うために必要な許認可については、建設業法、宅地建物取引業法、古物営業法といった、それぞれの事業を規制する法律(業法)のルールが適用されます。
会社法の手続きが完了しても、各業法で定められた許認可の要件を満たさなければ、事業を始めることはできません。この二つの法律の関係を理解しておくことが重要です。
無許可営業となるリスク
新設会社で必要な許認可の新規取得(または各業法の承継手続)を完了せずに事業を開始すると、無許可営業に該当します。無許可営業には、各法令の定めに応じて罰金・懲役等の刑事罰や行政処分が科され得るほか、取引先からの信用失墜にも直結します。
こうしたリスクを避けるため、分割計画の初期段階から所管庁への事前相談とスケジュールの逆算管理を行い、必要に応じて承継認可等の特例適用可否を確認することが賢明でしょう。
新設分割での建設業許可の扱いは?
建設業は、新設分割における許認可の取り扱いでとくに注意が必要な業種です。建設業許可も他の許認可と同様、原則として新設会社へ自動承継されません。
ただし建設業法には、一定の要件を満たす場合に事前に所管庁の「認可」を受けるスキームがあり、分割により事業を承継する新設会社に対し、許可を継続的に確保できるよう配慮された特例的な付与が認められます。
これにより、手続き負担や事業の継続性に大きな差が生じます。
建設業法における「認可」制度とは
建設業法における「認可」とは、新設分割の効力発生前に所管庁の審査を受ける手続きです。
認可を受けることで、承継先(新設会社)に対し許可が切れ目なく付与され、加えて経営事項審査(経審)の実績の一部(例:完成工事高 等)を所定の取扱いに基づき承継・按分できます。
実務上、許可番号そのものの“番号”を引き継ぐのではなく、新設会社には新たな番号が付与される運用が一般的です。
認可を受けるための主な要件
認可を受けるためには、分割計画が相当であること、および承継先(新設会社)が建設業許可要件(専任技術者の配置、財産的基礎、誠実性、欠格要件非該当、社会保険の適正加入 等)を満たすこと、分割元についても、分割前から適正に建設業を営んでいることなど、複数の要件を満たす必要があります。
申請時期は所管庁の審査期間を踏まえて効力発生日から十分に逆算して行うのが原則です。目安として1〜2か月程度前から準備・申請に入るケースが多いものの、具体の締切は所管庁に事前確認しましょう。
経営事項審査(経審)結果の引き継ぎについて
建設業の認可制度の大きな利点は、経審の一部実績(例:完成工事高等)を所定の計算・按分ルールで新設会社に反映できる点です。
これにより、設立直後でも一定の評価を確保でき、公共工事の入札参加などにおける不利を緩和できます。ただし、承継できるのは全項目のフル引継ぎではなく、定められた範囲・方法に限られます。
もし認可を受けずに新規で許可を取得した場合、実績はゼロからのスタートとなってしまいます。
認可を受けられない場合の手続き
認可の要件を満たさない、もしくは申請が間に合わない場合、新設会社は通常の「新規」手続きで建設業許可を取得することになります。この間は請負代金500万円(税込)以上の工事の請負ができず、事業の空白期間が生じ得るため、分割計画段階での逆算スケジュールと所管庁への事前協議が不可欠です。
参考:建設業者の会社分割に係る建設業法上の事務取扱いについて|国土交通省
参考:建設会社の会社分割に係る建設業法上の事務取扱いの円滑化等について|国土交通省
新設分割と事業譲渡や吸収分割との違いは?
組織再編には新設分割のほか、吸収分割や事業譲渡などの手法があります。ここで重要なのは、会社法上の再編効果(包括承継)と、各業法における許認可の承継可否・手続は別枠で判断されるという点です。許認可の扱いは業法ごとに異なるため、所管庁への事前相談が前提になります。
吸収分割における許認可の扱い
吸収分割は、事業を「既存の別会社」に承継させる手法です。もっとも、許認可については自動で使い続けられるわけではなく、業法ごとに定められた専用の承継手続(例:承継認可・免許換え・承継届)又は新規取得が必要です。
承継会社が同種の許認可をすでに保有している場合に手続きが簡略化されることはあるものの、変更届だけで完了するかはケースバイケースです。名称・要件・期限は業法で異なるため、必ず所管庁で個別確認しましょう。
事業譲渡における許認可の扱い
事業譲渡は、会社の一部または全部の事業を他の会社に売却する手法で、組織再編行為とは異なります。許認可は原則として承継できず、譲受側は新規取得が基本です。もっとも、業法によっては地位承継・承継届等の特例が設けられている場合もあるため、計画段階で要件・可否・スケジュールを所管庁に確認しましょう。
新設分割での許認可の再取得手続きは?
新設分割に伴い新会社で許認可を新規取得する場合、効力発生日から逆算した工程設計が不可欠です。登記前からの事前協議・図面事前確認は有効ですが、申請(受理)は原則として登記後、当該新法人名義で行います。業法・自治体により運用が異なるため、必ず所管庁に事前確認するほうが良いでしょう。
ステップ1:行政庁への事前相談
最初に、許認可を管轄する所管庁(例:保健所/都道府県薬務課/消防・環境部局 等)へ事前相談しましょう。新設分割のスケジュール・体制・事業内容・施設計画を説明し、必要手続き・様式・必要資格者・標準処理期間・現地調査の有無を確認します。図面や設備仕様の事前確認を依頼すると後戻りを防げます。
ステップ2:必要書類の準備
事前相談での指示に基づき、定款(目的適合)・役員関係書類・誓約書・人的要件(資格者)・物的要件(面積・設備)・財産的要件・施設図面・賃貸借契約書・近隣見取図・各種管理規程や衛生管理計画等など準備しましょう。
許認可によって求められる書類はさまざまです。漏れなく効率的に収集を進めましょう。
ステップ3:新設会社の設立登記
法務局で設立登記を完了し、履歴事項全部証明書・印鑑証明書等が取得できる状態にしましょう。許認可の申請者は新法人となるのが原則です。
ステップ4:許認可の申請
登記完了後、新法人名義で申請書一式を提出し、手数料を納付します。並行して、旧会社側は事業廃止届・許可返納・名義変更不可分の整理などの手続きの対応も進めましょう。
ステップ5:審査と許可証の交付
申請後、行政庁による審査が行われます。事務所の現地調査などが行われることもあります。審査期間は許認可の種類や自治体によって異なりますが、数週間から数ヶ月かかることもあります。
原則、許可(通知・交付)前の操業は不可です。許可後は、標識掲示/帳簿・記録の整備/営業開始届(必要な分野)等の許可後手続きを忘れずに行いましょう。
許認可手続きは専門家に相談すべき?
新設分割における許認可手続きは、会社法の再編スケジュールと各業法の許認可要件が重なり合う専門領域です。工程設計や様式運用の見落としは、最悪の場合一時的な事業停止につながり得ます。
行政書士は、所管庁との事前協議、図面・申請書類の作成、提出・補正対応に精通しており、依頼により社内負担を軽減しつつ手続きリスクを低減できます。
もっとも、法的助言は弁護士、税務は税理士、社会保険・労働保険は社労士の領域であるため、案件に応じた複数士業の連携が前提になります。
書類作成などの手間を省ける
許認可申請は人的要件・物的要件・規程類の整備など専門知識を要します。専門家に委任すれば、担当者は本業の立上げ・移管業務に集中しやすくなり、補正・差戻しの回数削減も期待できます。
各業法に合ったアドバイスを受けられる
介護・運送・飲食・建設・薬機等、分野ごとに要求水準や審査実務が異なるため、当該分野の実績がある専門家は所管庁の運用や標準処理期間の目安、必要な先行工事・設備仕様の勘所を踏まえた助言が可能です。
専門家(行政書士など)の選び方
専門家を選ぶ際は、報酬の安さだけで決めるのではなく、自社が営む事業の許認可申請実績が豊富かどうかを確認しましょう。とくに、会社分割のような組織再編案件の経験がある専門家であれば、より安心して任せることができるでしょう。
新設分割における許認可は計画的に進めよう
新設分割における許認可の扱いは、原則として新会社での新規取得が必要です。この手続きを円滑に進め、事業の継続性を保つことが新設分割を成功させるうえで欠かせません。
とくに建設業のように特別な認可制度がある業種では、その要件を正確に理解しておく必要があります。また、事業譲渡や吸収分割といった他の手法との違いをふまえ、自社の状況に最も合った組織再編を選択することも大切です。
手続きには専門的な知識と時間を要するため、計画段階から行政書士などの専門家と連携し、綿密なスケジュールを立てて進めることが、確実な事業承継につながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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