• 作成日 : 2025年10月21日

2社目で創業融資を受けるには?審査や戦略、注意点を解説

1社目の経営が軌道に乗り、新たな事業として2社目の設立を考える経営者も多いのではないでしょうか。2社目であっても創業融資の対象となる場合がありますが、審査では1社目の時とは異なる場合があります。

この記事では、2社目の創業融資における審査の違いから、事業計画の作り方、考えておきたい戦略や注意点までをわかりやすく解説します。

2社目でも創業融資は受けられる?

2社目であっても、いくつかの条件を満たせば創業融資の対象となる場合があります。ただし、それはあくまで「新たな法人設立」であることが前提で、1社目の経営状況が安定していることが求められるでしょう。金融機関は、すでに事業を経営している実績を評価する一方、既存事業のリスクもあわせて判断するため、初回の融資申請とは異なる視点での準備が大切です。

「新たな法人設立」であれば対象になる

日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」や自治体の制度融資は、新たに事業を始める事業者を対象としています。2社目であっても、既存の法人とは別に「新たな法人」を設立して事業を始める場合は、この要件に合致します。法人を新設しても、実態が法人成り・事業承継等で“創業性”が弱い場合は対象外となることがあります。

参照:新規開業・スタートアップ支援資金|日本政策金融公庫

1社目の延長と見なされるケース

注意が必要なのは、1社目の事業の延長線上と見なされるケースです。たとえば、既存の会社が新たに事業部などを設けて別事業を開始するケースなどが該当します。これは既存会社の事業内容に新たな項目が加わっただけと判断されるため、創業融資の申し込みは難しいでしょう。

1社目の融資残高や返済状況が影響する

2社目の融資審査では、1社目の経営状況が大きく影響します。とくに、1社目で受けた融資をきちんと返済しているか、という実績は、経営者としての信用力を示す重要な指標になります。

逆に、返済に遅延があったり、業績が悪化していたりすると、2社目の審査に直接的なマイナス評価として響くことになりかねません。

1社目と2社目の創業融資の違いは?

1社目と2社目の創業融資の最も大きな違いは、審査で評価される基準です。1社目では未来の事業計画が中心ですが、2社目では過去の実績である既存事業の決算内容や返済履歴が加わります。この違いを理解することが、2社目の資金調達に向けた準備の第一歩です。

審査対象:事業計画から「経営実績」へ

審査の主眼点が、将来性から過去の実績へと広がります。1社目の審査では、まだ実績がないため、事業計画書に描かれた将来性や、準備してきた自己資金で熱意を評価します。一方、2社目では、すでに経営者としての「通知表」である決算書や返済実績が存在するため、そちらがより重視される傾向にあるでしょう。

1社目の創業融資2社目の創業融資
主な審査対象
  • 事業計画の実現性
  • 自己資金の準備状況
  • 個人の経歴
  • 既存事業の決算内容とキャッシュフロー
  • 既存融資の返済実績
  • 新規事業の計画と既存事業との関係性

与信枠:「一つの懐」としてまとめられる

融資を受けられる上限額(与信枠)は、法人ごとではなく経営者個人や関連法人に対して設定されるのが一般的です。金融機関は、たとえ法人が2つあっても、経営者が同じであれば「一つの懐(ふところ)」と見なします。そのため、2社目を作ることで、借入できる総額が2倍になるわけではありません。経営者やグループ全体の返済能力で審査されるため、融資の与信枠は広がらない前提で計画を立てるのが現実的です。

自己資金:返済実績が新たな評価材料に

2社目の審査でも自己資金は依然として重視されますが、1社目の返済実績が新たな評価材料として加わります。1社目の融資を、計画どおりに、一度も遅延なく返済してきたという事実は、何より雄弁に経営者としての誠実さや資金管理能力を証明します。この「返済実績」という信用があるため、自己資金の金額そのものに対する評価の比重は、1社目の時よりも相対的に変わってくることも考えられます。

2社目の創業融資でチェックされるポイント

2社目の創業融資では、主に「既存事業の財務状況」「代表者の経営実績」「新規事業の具体性」「融資額の制限」の4点が重点的にチェックされます。これらのポイントをどうクリアできるかが、融資の可否に影響するでしょう。

既存事業の財務状況

1社目の決算書の内容が、最も重要な評価ポイントといえるでしょう。最低でも債務超過(負債が資産を上回る状態)に陥っていないこと、そして安定した黒字経営でキャッシュフローが健全であることが求められます。もし赤字であっても、その理由や改善の見通しを合理的に説明できれば、一概に融資不可能というわけではありません。

代表者の経歴・経営実績

1社目を実際に経営し、事業を維持・成長させてきたという実績そのものが評価されます。金融機関は、経営者として困難な局面をどう乗り越え、どのような成果を出してきたのかというストーリーを見ています。

事業計画の具体性

2社目の事業計画では、1社目との関係性が問われます。1社目の事業で得たノウハウや顧客基盤を活かせるなど、事業間の相乗効果(シナジー)を具体的に説明できると、説得力が増すでしょう。全くの異業種に挑戦する場合は、なぜその事業なのか、という動機や勝算をより明確に示す必要があります。

融資額の制限

前述のとおり、基本的に融資枠は経営者単位で一つです。たとえば、ある経営者の与信枠が合計で2,000万円だとします。すでに1社目で1,500万円の借入残高がある場合、2社目で新たに借りられるのは、単純計算で残りの500万円が上限の目安となります。

2社目の創業融資で検討したい3つの戦略

2社目の創業融資は、1社目とは異なる難しさがありますが、経営者としての経験を活かした戦略的なアプローチで、話を進めやすくなる場合があります。ここでは、実務上考えられる3つの戦略と注意点を解説します。

戦略1:代表者を分ける場合の注意点

2社目の代表者を、1社目とは別の人物に立てる方法です。形式的には「別法人」として見なされやすいですが、1社目の経営者が大株主である場合や実質的な支配関係がある場合は、金融機関からグループとして合算評価される可能性が高いです。名義を分けるだけで与信枠が別建てになるとは限らないため、役員構成や株主構成を含めた実質的な独立性を示す必要があります。

戦略2:金融機関を分散する場合の効果と限界

1社目とは異なる金融機関に、2社目の融資を申し込む方法です。新規取引先としてゼロベースで見てもらえる期待はありますが、信用保証協会付きの融資では、最終的に保証協会が一括で審査するため効果は限定的です。

さらに、プロパー融資であっても金融機関は代表者や関連会社を合算して返済能力を評価するのが通常であり、完全に独立した枠として扱われることは少ないと考えておくべきです。

戦略3:既存の金融機関との交渉力を高める

1社目で築いた取引実績を活かし、メインバンクとの交渉力を高める戦略です。例えば、他行からの条件提示を引き合いに出しつつ、メインバンクとしての取引継続を前提に金利や融資額の改善を求めるといった方法です。

これは、1社目の経営が安定し、金融機関との信頼関係が強固な場合に特に有効です。無理な要求ではなく、実績と将来性を裏付けた交渉がポイントとなります。

2社目で創業融資を申請するときの注意点

2社目の創業融資申請には、特有の落とし穴が存在します。これらの注意点を事前に理解し、対策を講じておくことで、審査で不利になるのを防ぐことができます。

1社目の返済遅延・債務超過は致命的

1社目の融資で返済遅延があったり、債務超過に陥っていたりする場合、2社目の創業融資は極めて困難です。これは、経営者としての資金管理能力や事業運営能力に、深刻な懸念があると判断されるためです。まずは1社目の経営改善が最優先となります。

同一代表者なら「まとめて与信判断」される

繰り返しになりますが、代表者が同じであれば、2社は一体として評価されます。1社目の業績が好調であればプラスに働きますが、不調であればマイナスに働く、諸刃の剣であることを認識しておく必要があります。

融資額は1社目の残高によって減額される可能性

2社目で借入できる金額は、1社目の借入残高に影響を受けます。金融機関は経営者個人の総返済能力を評価するため、1社目の借入残高を差し引いた額が、2社目で新たに借入できる金額の上限の目安となります。

そのため、希望する融資額がこの残りの与信枠を上回る場合、満額の回答を得るのは難しいかもしれません。また、ある程度1社目の返済を払い込んでから2社目の融資を申し込むことで、利用できる与信枠がその分広がるため、より大きな資金調達を目指せる場合があります。2社目の事業計画を立てる際は、まず現在の借入状況を確認し、この残りの与信枠を意識した現実的な資金計画を立てることが大切です。

事業の独立性を示す株主構成が重要

金融機関は、2社目が本当に独立した事業なのか、それとも1社目のリスクを回避するための隠れ蓑(シェルター)ではないか、という点も見ています。そのため、株主構成や役員体制を整理し、それぞれの会社が独立して事業運営を行っていることを客観的に示すことが求められます。

2社目で創業融資の対象外となった場合の資金調達

既存の会社で別事業を始めるなど、創業融資の対象外と判断された場合でも、資金調達の方法はあります。創業融資はあくまで「創業者」を対象とした特別な制度であり、すでに事業を営んでいる企業には、別の融資制度が用意されています。

民間金融機関のプロパー融資

プロパー融資とは、信用保証協会の保証を付けずに、金融機関が直接リスクを負って行う融資のことです。1社目の事業で良好な取引実績と財務状況があれば、金融機関から直接、新規事業のための融資提案を受けられる可能性もあります。

日本政策金融公庫の追加融資

日本政策金融公庫からの追加融資は、初回の融資を計画どおりに返済し、事業が順調に成長している場合に受けられる可能性があります。創業融資は一度きりではなく、事業の成長段階に合わせて追加の資金調達を検討する場面も出てくるでしょう。一般的には、少なくとも1期目の決算を終え、事業実績を示せるようになってから相談するのが目安となります。

追加融資の際も、初回の融資と同様に審査は行われ、とくに既存の借入に対する返済履歴が重視されるでしょう。

2社目の創業融資は1社目の健全経営が重要

2社目で創業融資を受けるには、まず1社目の経営を安定させ、その健全な財務状況と返済実績を示すことが不可欠です。金融機関は、既存事業の実績を通じて経営者の信用力を見極めます。その上で、なぜ2社目を始めるのか、1社目とどう連携し成長していくのか、という説得力のある事業計画を提示することが求められるでしょう。初回とは異なる視点で入念な準備を進めることが重要です。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事