- 作成日 : 2025年8月19日
飲食店の資金調達を成功させるには?開業資金の目安や調達方法を解説
飲食店を開業するには、業態や店舗の規模によって必要となる資金が大きく異なります。創業時の資金調達について共通して大切なのは、初期費用だけでなく運転資金も含めた資金計画をしっかり立てることです。
本記事では、形態別に見た飲食店の開業資金の目安、資金調達の方法と、開業後に備えるべき資金などについて解説します。
目次
飲食店の形態ごとに見る開業資金の相場
飲食店の開業資金は、店舗の立地や規模、物件の状態(新装・居抜き)などによって変動しますが、店舗形態ごとのおおよその目安は次の通りです。
居酒屋の開業資金目安:1,000万円~3,000万円程度
居酒屋は厨房機器や食材の仕入れが多く、座席数もある程度必要なため、比較的高額な初期費用がかかります。とくにテーブル席・座敷・カウンターをバランス良く配置する場合、内装工事費や厨房設備の充実にコストがかかりやすい傾向があります。また、アルコールを多く扱うため、酒類提供の許可申請費用や仕入コストも初期段階で必要です。
カフェの開業資金目安:500万円~1,500万円程度
カフェは比較的小規模な店舗が多く、シンプルな厨房設備やメニュー構成で始められるため、他業態と比べて初期費用を抑えやすいのが特徴です。おしゃれな内装や家具にこだわると費用がかさみますが、居抜き物件を活用すればコスト削減も可能です。コーヒーマシンや製菓用オーブンなど、専門設備の有無が費用に大きく影響します。
レストランの開業資金目安:2,000万円~4,000万円程度
本格的なレストランは、厨房設備・客席数・内装への投資が最も大きくなりがちです。キッチンが広くなることに伴う高品質な設備をはじめ、水道・ガス工事の負担も大きいです。また、コース料理などを提供する場合は、食材の仕入コストも比較的高めです。ワインセラーなどの備品も追加要素となることがあります。高級店、大規模店になると相場はもっと上がります。
バーの開業資金目安:400万円~1,000万円程度
バーは厨房スペースが小さく、簡素な設備で開業できる点が強みです。座席数も少なく、カウンター中心の店舗構成が一般的であるため、テーブルや客席備品の費用も抑えられます。ただし、内装にこだわると高額になる傾向があるため、雰囲気づくりに重点を置く場合は照明・音響・カウンター材のグレードにより費用がさらに増加します。また酒類の在庫を揃えるための仕入資金が多く必要です。
飲食店の初期費用の内訳
飲食店を開業する際には、多くの初期費用が発生します。物件取得から内装工事、備品購入、広告、仕入れまで幅広く、項目ごとに適切な資金配分を考えることが資金計画の要になります。
物件取得費
開業資金の中でも比重が大きいのが物件取得費です。これは保証金(敷金)、礼金、仲介手数料、前家賃、火災保険料などを含みます。賃貸物件を契約する際には、一般的に家賃の3~6ヶ月分の敷金、0~2ヶ月分の礼金が必要とされ、手数料や前家賃も加えると、たとえば月額家賃10万円の物件であっても、合計で100万~150万円程度の初期費用がかかる場合があります。
内外装工事費・設備費
店舗の内装や厨房設備の設置にかかる費用も大きな割合を占めます。床や壁の仕上げ、照明設置、ガスや水道の配管工事、厨房ダクトの設置のための費用などが該当します。新装の場合は高額になりがちですが、居抜き物件で前の店舗の内装や設備を流用できる場合は、費用を大きく抑えることが可能です。
厨房機器・備品費
厨房で使う冷蔵庫、調理台、フライヤー、シンクなどの機器類のほか、客席のテーブルや椅子、カトラリー、食器類も必要になります。新品を一式揃えると高額になりますが、中古品の活用や必要最低限からスタートすることでコスト削減ができます。
広告宣伝費・初期仕入費
開業時には集客のための広告も欠かせません。チラシの作成、ウェブサイトやSNSの開設、店舗看板などに費用がかかります。一般的には売上見込みの5~10%以内に広告費を収めるのが妥当とされます。また、メニューの試作に必要な材料や、オープン当初の食材・ドリンクの仕入れなどの「初期仕入費」も初期費用の一部に含まれます。
飲食店の運転資金の重要性と目安
飲食店の開業準備では、初期費用だけでなく開店後の運転資金まで含めて計画を立てることが重要です。開業直後は売上が安定せず、赤字の状態が数ヶ月続く可能性があるため、その間に必要となる経費を自己資金でまかなえるだけの余裕が求められます。
売上が安定するまでの資金を確保
運転資金には、家賃や人件費、光熱費、食材などの仕入代金といった毎月の固定費・変動費が含まれます。たとえば、従業員を2名雇用し、月10万円の物件を借りて営業する小規模店舗では、月々の運営コストが約135万円にのぼることもあります。(例:家賃10万円、人件費65万円、水道光熱費10万円、仕入費40万円、その他経費10万円など)これに対応するには、最低でも3~6か月分、理想的には半年以上の運転資金を用意しておくのが安全とされています。
資金繰りが開業後の安定を左右する
日本政策金融公庫の「2024年度新規開業実態調査」によると、開業資金の調達額に占める金融機関等からの借入は平均65.2%にのぼります。また、同調査で開業時に苦労したこととして「資金繰り・資金調達」を挙げた回答者は59.2%と、依然として最も多い課題となっています。
こうしたリスクに備えるためにも、開業前から月次の収支予測を立て、運転資金として何か月分の経費が必要かをシミュレーションすることが大切です。安定経営のためには、利益が出るまでの期間を支えられる資金的な土台を用意しておく必要があります。
飲食店開業の資金調達方法
飲食店を開業するにあたって、初期費用と運転資金の両方を準備する必要があります。自己資金だけで不足する場合には、複数の資金調達手段を組み合わせることが現実的です。ここでは主な資金調達方法と特徴を解説します。
自己資金と家族・知人からの支援
資金調達の基礎となるのは自己資金です。多くの金融機関では、自己資金が全体の3割以上あると評価が高くなり、融資審査にも有利に働きます。自己資金には預貯金のほか、退職金や生命保険の解約返戻金を活用する場合もあります。また、親や親戚からの借入や贈与によって開業資金を補うケースも多く見られます。この方法は返済条件が柔軟で利息の負担も少ない一方、後々のトラブルを避けるためにも、金銭の授受には借用書や贈与契約書を用意しておくことが望ましいです。
金融機関からの融資
飲食店の開業資金として最も多く利用されているのが、政府系金融機関や民間銀行からの融資です。なかでも「新規開業・スタートアップ支援資金」は、新たに開業する場合等において無担保・無保証人で利用できる点が創業者に支持されており、金利も比較的低めに設定されています。また、地方自治体が実施する制度融資も選択肢の一つで、信用保証協会の保証付きで銀行から融資を受ける形式が一般的です。自治体によっては利子補給制度や保証料の補助などの支援もあります。銀行融資の場合は審査が厳しく、担保や過去の信用情報、返済能力が評価対象となるため、事業計画書をしっかり整えることが大切です。創業に強い税理士や創業支援機関の助言を受けながら申請を進めると安心です。
補助金・助成金の活用
国や自治体が提供する補助金・助成金は、返済の必要がないため魅力的な制度です。代表的なものには「小規模事業者持続化補助金」があり、店舗の内外装工事費や設備導入費、広告費、販路開拓費用の一部を支援対象としています。ただし、補助金は事前申請と採択が必要で、対象経費はすべて立て替えたうえで、後日精算という流れになります。そのため、ある程度の資金的余力がなければ活用しにくいという面もあります。採択件数には限りがあるため、申請書の質や事業計画の実現性が問われます。申請期間や要件は制度によって異なるため、事前に公募要領を十分に確認し、申請スケジュールを逆算して準備を進めることが求められます。
投資家からの出資・クラウドファンディング
返済義務のない資金を得る方法として、外部出資を受けるという選択肢もあります。これは、事業に賛同した個人投資家(エンジェル投資家)や知人、ビジネスパートナーが出資する形式で、資金と引き換えに株式や経営への関与権を与えるものです。出資を受けることで自己資金が強化され、金融機関からの融資も受けやすくなりますが、経営方針に意見を持たれるリスクもあるため、契約内容は慎重に詰める必要があります。
もう一つ注目されているのがクラウドファンディングの活用です。インターネット上で一般の支援者から小口の資金を集める方法で、飲食店の開業支援プロジェクトも年々増加しています。多くの場合、支援者には食事券や限定メニューといったリターンを提供する「購入型」が採用されており、店舗の開業前から認知度向上やファンづくりができる点が魅力です。ただし、全体の開業資金(例:1,000万円)のうちクラウドファンディングで集まる金額は100万~300万円程度に留まることが一般的であり、主たる資金源とするのは難しいのが現実です。魅力的なストーリーやビジョンを明確にし、広報活動にも注力することで成功確率を高められます。
飲食店の形態によって有利な資金調達方法に差はある?
飲食店の形態によって、資金調達のしやすさや相性の良い手段には違いがあります。たとえば、レストランや居酒屋など大規模で設備投資が大きい業態では、日本政策金融公庫や銀行からの融資が主力となります。理由としては、必要資金が高額になるため、まとまった資金を長期で借りられる制度融資との相性が良いためです。
一方、カフェやバーなど比較的小規模な業態では、自己資金の比率を高めに設定したうえで、クラウドファンディングを併用する例もあります。これらの形態はコンセプト性や個人の想いが打ち出しやすく、SNSを活用した集客とも相性が良いため、支援者からの共感を得やすいという特徴があります。
このように、必要資金の額や事業の規模、コンセプトの打ち出し方に応じて、活用しやすい資金調達手段には差が出てきます。自分の業態に合った方法を選びましょう。
飲食店の開業後に追加で資金調達が必要になるケース
飲食店の開業時に十分な資金を用意していても、開業後の経営環境によっては追加の資金が必要になることがあります。想定外の支出や事業拡大の機会など、さまざまな場面で資金調達を検討する必要があります。
売上不振による資金繰りの悪化
開業直後に売上が伸び悩むと、日々の支払いに必要な資金が不足することがあります。家賃や人件費などの固定費は売上が少なくても発生するため、運転資金の不足に陥るケースも少なくありません。このような状況では、日本政策金融公庫や銀行の「つなぎ融資制度*」を利用することが考えられます。早めに金融機関や専門家に相談し、返済猶予や追加融資などによる立て直し策を検討することが重要です。同時に、メニューやサービス、集客手法の見直しも進めることで収支の改善を図る必要があります。
*つなぎ融資制度:本来の融資が実行されるまでの「つなぎ」として借りる短期的な資金調達制度
事業拡大・設備投資にともなう資金需要
飲食店経営が軌道に乗った後に、店舗の拡大や2号店出店、厨房設備の入れ替えなど、新たな投資を行う場面が出てきます。これらにはまとまった資金が必要となるため、再度融資を受けることが一般的です。事業実績があることで金融機関からの信頼も高まり、創業時よりも好条件での融資が期待できる場合もあります。ただし、固定費の増加や返済負担が経営を圧迫しないよう、収支シミュレーションと回収計画を入念に立てることが求められます。
不測の事態への対応
設備の故障や災害、感染症などの予期せぬ出来事が発生した際にも資金が必要になります。こうしたケースに備えて内部留保を持つことが理想ですが、資金が不足する場合は、公的機関の特別貸付制度や緊急支援制度の活用が有効です。無利子融資や返済猶予、自治体の助成金制度などもあるため、早めの情報収集と相談がポイントとなります。
参考:挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)|日本政策金融公庫、
経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)|日本政策金融公庫
飲食店の資金調達方法を選ぶ際のポイント
飲食店の資金調達では、どの方法をどの程度利用するかが経営の安定性を左右します。ここでは、資金調達手段を選ぶ際に押さえておきたいポイントを整理します。
無理のない返済計画を立てる
借入を行う際は、事業の収益予測に対して無理のない返済計画を立てる必要があります。返済が売上を圧迫しないよう、事前に損益シミュレーションやキャッシュフロー計画を用意し、借入金額を安全圏内に設定することが基本です。安全圏内とは、無理なく返済ができる範囲のことで、例えば月商の3カ月分などとされます。とくに開業初期は売上が不安定になりやすいため、必要に応じて「据え置き期間(元金返済の猶予期間)」を設けることも有効です。融資期間と月々の返済額とのバランスを調整し、経営に過度な負担がかからないよう慎重に設計しましょう。
調達手段ごとの特徴を比較する
資金調達にはそれぞれメリットとデメリットがあります。自己資金は返済の必要がなく安心ですが、準備には時間がかかることが多いです。金融機関からの融資はまとまった資金を得られますが、利息負担と審査のハードルがあります。補助金や助成金は返済不要で魅力的ですが、申請や採択のハードルが高く、使い道に制約があるケースも少なくありません。クラウドファンディングは資金調達と同時に宣伝効果が得られますが、共感を得られるストーリーづくりや発信力が求められます。出資は返済不要という利点がある反面、将来の利益配分や経営権の共有という課題が発生します。これらの特性を正しく理解し、自分の事業スタイルや資金計画に合った方法を選ぶことが大切です。
複数の手段を組み合わせて活用する
一つの資金調達手段に依存せず、複数の資金源を組み合わせて活用することが効果的です。たとえば「自己資金300万円+政策金融公庫からの融資500万円+クラウドファンディング200万円」といった構成にすることで、資金不足のリスクを分散できます。また、調達手段ごとに手続きの期間や資金受取までの時間が異なるため、事前にスケジュールを立てておくことが重要です。補助金は申請タイミングが限られ、融資は審査に時間がかかる場合もあります。クラウドファンディングも募集から資金受取までの流れを逆算して設計する必要があります。資金繰りを見通したうえで、必要なときに必要な資金が確保できるよう準備を整えておきましょう。
業態と資金計画に応じた柔軟な調達設計が経営を支える
飲食店を開業する際は、業態や店舗形態ごとに異なる費用構造を理解し、それに合わせた資金調達の設計が求められます。自己資金に加え、融資や補助金、クラウドファンディングなどの制度を的確に組み合わせることで、無理のない資金計画を立てることが可能です。また、開業後に売上が不安定になることや、成長・トラブル対応に備えるためにも、資金繰りを見据えた準備が欠かせません。事業内容に合った調達方法を選び、継続的な運営が見込める体制を整えていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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