- 作成日 : 2024年11月29日
事業承継税制のデメリットは?考慮すべきポイントや活用すべきケースを解説
事業承継税制のデメリットとしては、免税になるまで時間がかかる、利子税発生のリスクなどが挙げられます。中小企業の円滑な事業承継を支援する税制措置ですが、デメリットを考慮し自社の状況に適しているかを慎重に検討する必要があります。
本記事では、事業承継税制のデメリットを中心に、活用すべきケースなどについても解説します。
そもそも事業承継税制とは?
事業承継税制は、中小企業の事業承継時に発生する贈与税や相続税の納税を猶予・免除する制度です。中小企業の事業継続を支援し、雇用の維持や地域経済の活性化を図ることを目的としています。
2018年度の税制改正により、従来の一般措置に加えて特例措置が創設され、より多くの中小企業が制度を利用しやすくなりました。特例措置では、猶予される税額の割合が100%に拡大され、対象となる株式数の上限も撤廃されるなど、大幅な拡充が行われています。
事業承継税制の改正内容
特例措置の主な改正内容は以下のとおりです。
- 猶予される税額の割合が80%から100%に拡大
- 対象となる株式数の上限(発行済株式総数の2/3)が撤廃
- 雇用確保要件が実質的に撤廃(5年間平均で8割維持から、毎年1人以上の雇用)
- 複数の後継者への承継も対象に
これらの改正により、より多くの中小企業が事業承継税制を活用できるようになりました。
事業承継税制の適用を受けるための要件
事業承継税制の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 中小企業基本法に定める中小企業であること
- 先代経営者が会社の代表者であり、筆頭株主である(またはあった)こと
- (贈与の場合)後継者が18歳以上で、贈与の日まで引き続き3年以上役員であり、かつ親族外を含む代表者であること
- (相続の場合)後継者が相続開始の直前において役員であり、相続開始から5ヶ月後に代表者であること
- 認定経営革新等支援機関の指導および助言を受けた特例承継計画を作成し、都道府県に提出して確認を受けること
- 相続・贈与後、5年間の事業継続や雇用維持などの要件を満たすこと
これらの要件を満たすことで、事業承継税制の適用を受けられます。多くの要件がありますが、東京商工会議所によると特例承継計画作成・提出時点では1と2の要件を満たしていればよく、そのほかの要件は実際の事業承継適用時に満たせれば問題ないとされています。
参考:中小企業庁 事業承継ガイドライン(第3版)、東京商工会議所 中小企業経営者が知っておくべき事業承継税制のポイント ③特例承継計画
事業承継税制のデメリットは?
事業承継税制には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。以下では、主なデメリットについて詳しく解説します。
免除になるまでには時間がかかる
事業承継税制を利用して納税が猶予されても、すぐに免除されるわけではありません。猶予された税額が免除されるのは、後継者がさらに次の後継者に株式を承継した場合や、会社が倒産した場合などに限られます。
つまり、免除までに長期間を要する可能性があり、その間は常に納税の可能性を意識しながら経営を行う必要があります。
廃業すると利子税が発生する
事業承継税制を適用した後に廃業した場合、猶予されていた税額に加えて利子税も支払う必要があります。申請から長期間が経過しているなど、廃業の時期によっては多額の負担となるリスクが否定できません。
そのため、将来的な事業継続の見通しが不透明な場合は制度の適用を慎重に検討する必要があります。
猶予が取り消される場合がある
事業承継税制の適用後、一定の要件を満たさなくなると納税猶予が取り消されます。例を挙げると、後継者が代表者を退任した場合や、同族関係者の議決権数が過半数を下回った場合などです。
また、納税猶予対象株式を譲渡した場合や、総収入金額がゼロになった場合なども猶予が取り消されます。猶予取り消し時には廃業時と同様に猶予されていた税額と利子税を合わせて納税しなければなりません。
特例承継計画の提出と認定申請に手間がかかる
事業承継税制の特例措置を利用するためには、特例承継計画を都道府県に提出し認定を受けなければなりません。提出の際には、認定経営革新等支援機関(税理士、金融機関、商工会議所など)の所見が必要になります。
書類1つの提出においても専門家に依頼し手続きしなければならず、計画の作成や申請手続きには一定の時間と労力がかかるため、事前の準備が重要です。
特例措置の適用期限がある
事業承継税制の特例措置は、2027年12月31日までに行われる贈与・相続が対象になります。この期限を過ぎると一般措置のみが適用可能となり、猶予される税額の割合や対象になる株式数に制限が生じます。
そのため、特例措置の利用を検討している企業は期限を意識して計画的に事業承継を進める必要があるでしょう。
認定後も税務署や都道府県への報告が必要
事業承継税制の適用を受けたら、自動的に免税になるわけではありません。適用後も定期的に税務署や都道府県への報告などが必要です。手続きは長期間にわたって継続的に行う必要があり、企業にとって一定の事務負担となるでしょう。
なお、報告などを期限までに行わなかった場合は、猶予されている税に加え利子税の納付が求められます。
M&Aによる売却が難しくなる
事業承継税制を適用した場合、納税猶予対象株式を譲渡すると猶予が取り消されるため、M&Aによる会社売却が難しくなります。
将来的にM&Aの可能性がある場合は、事業承継税制の適用を慎重に検討する必要があるでしょう。
事業承継税制のメリットは?
ここまでデメリットについて見てきましたが、事業承継税制には複数のメリットも存在します。メリットとデメリットの双方を把握し、検討することが大切です。
以下では、主なメリットについて解説します。
相続税と贈与税の納税が猶予される
事業承継税制のメリットとして、相続税や贈与税の納税が猶予されることが挙げられます。特に特例措置では、対象となる自社株式のすべてについて100%の納税猶予を受けられるため、多額の税金を一度に支払う必要がなくなります。
事業承継時の資金負担が大幅に軽減され、円滑な事業継続が可能になるでしょう。なお、一定の条件を満たせば将来的に免税になります。
個人事業者も制度を利用できる
2019年度の税制改正により、個人事業者向けの事業承継税制も創設されました。
個人事業者が所有する事業用資産(土地、建物、機械など)についても、贈与税・相続税の納税猶予制度が適用可能となり、個人事業者の事業承継もより円滑に行えるようになりました。これは、事業承継時の税負担の重さに悩む個人事業者には、かなり大きなメリットといえるでしょう。
事業継続が困難な場合の特例措置がある
事業承継税制の適用後、経営環境の悪化などにより事業の継続が困難になった場合でも、一定の条件を満たせば猶予税額が免除される特例措置があります。
民事再生や会社更生の際には、その時点での株式評価額で税額を再計算し、超過分の猶予税額が免除されます。経営環境は常に一定ではないため、こうした特例措置があると変化に対応しやすいでしょう。
事業承継税制を活用すべきケースは?
事業承継税制のメリットとデメリットを踏まえ、制度の活用を積極的に検討すべきケースを紹介します。
高額な自社株式の承継が必要な場合
自社株式の評価額が高く、通常の相続や贈与では多額の税金が発生する場合、事業承継税制の活用が有効です。業績が好調で株価が上昇している会社では、事業承継税制により大幅な税負担の軽減が期待できるでしょう。ただし、将来的な納税の可能性も考慮し、慎重に検討する必要があります。
事業の成長と拡大を見込む場合
事業の継続・拡大に意欲的で、将来的な成長が見込める企業は事業承継税制の活用を積極的に検討すべきです。贈与税や相続税の納税が猶予されることで、その資金を事業投資に回すことができ、さらなる成長につながる可能性があります。
また、事業が順調に成長すれば将来的に猶予税額が免除される可能性も高まります。
複数の後継者への承継を検討する場合
事業承継税制の特例措置では、複数の後継者への株式承継も対象になります。兄弟で会社を継ぐ場合や、親族外の複数の幹部社員に承継する場合など、様々なケースに対応が可能です。
複数の後継者への分散承継を検討している企業にとっては、この制度の活用が有効な選択肢となるでしょう。
デメリットを理解したうえで利用を検討しよう
事業承継税制は、中小企業の円滑な事業承継を支援する重要な制度です。しかし、メリットだけでなくデメリットも存在するため、自社の状況に適しているかを慎重に検討する必要があります。
制度の適用を検討する際は、自社の財務状況や将来の事業計画を詳細に分析し、長期的な視点で制度利用のメリットとデメリットを比較しましょう。また、税理士や弁護士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることも欠かせません。
事業承継税制は、適切に活用すれば企業の持続的な成長と発展に寄与する可能性がある一方、慎重な検討なしに利用すると将来的なリスクにもなり得ます。デメリットを十分に理解したうえで、自社に適した事業承継方法を選択することが円滑な事業承継の実現につながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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