- 作成日 : 2024年10月18日
イノベーションとは?経営に必要な理由や具体的な方法、成功事例を解説
イノベーションとは、革新的なアイデアや技術によって新たな価値を生み出し、課題解決に貢献することです。経営においてイノベーションは、企業が成長し競争力を維持・向上するために不可欠であり、経済発展にも関わります。
この記事では、経営におけるイノベーションの捉え方や必要性などについて紹介します。
目次
イノベーションとは?
経営における「イノベーション」とは、従来の枠にとらわれず新しい発想で価値を生み出す行動です。より具体的には、次の3要素を含む一連の活動であると考えられています。
- 社会や顧客の課題解決に寄与する革新的な手法で新たな価値を生み出すこと
- ここでいう「手法」とは、技術やアイデアのことを指す
- ここでいう「価値」とは、製品やサービスなどを指す
- 革新的な新たな手法のみならず、既存手法との組み合わせにより価値を創造する場合も含む
- 社会や顧客に普及すること
- ビジネスとして対価を得る、あるいは社会課題の解決に貢献すること
わかりやすい例だと、今では当たり前のように使われているスマートフォンも、登場した当初は大きなイノベーションでした。電話やメールができる携帯電話、アプリケーションが使えるパソコンなどはそれ以前も存在していましたが、これらを統合したスマートフォンが普及したことで社会全体は大きく変革したのです。
サブスク形式のサービスも増えてきましたが、これも一種のイノベーションと考えられるでしょう。従来までの一回限りの販売方法ではなく、定額制でサービスを利用できるようにすることで顧客に新しい価値を提供しています。
なぜイノベーションが企業経営で必要なのか
企業にとってのイノベーションは単に新しい技術を導入するだけではなく、事業を大きく成長させ、競争力を維持・強化するために欠かせない大事な要素です。現代の急速に変化する市場では既存のビジネスモデルに頼るだけで生き残るのは難しいため、企業規模の大小関わらず各社がイノベーションに向けて取り組みを行うべきでしょう。
ここではイノベーションの必要性について具体的に解説します。
企業の経済成長を促進するため
イノベーションは企業の成長に直結します。新しい製品やサービスの開発によって市場のシェアを拡大できますし、新たな市場を創出する可能性も秘めているのです。
例えば、電気自動車や再生可能エネルギー関連の技術の発展によって、従来の自動車産業やエネルギー市場は大きな影響を受けています。この変化を追随できるかが今後の成長に大きく関わってくるでしょう。
また、デジタル技術を応用したイノベーションを起こせば、グローバル市場における成長を加速させることも期待できます。
業務効率化や生産性向上のため
イノベーションは、業務の効率化や生産性の向上に大きく貢献すること可能です。例えば、自動化技術やAI(人工知能)が導入されることで従来人手に頼っていた業務が大幅に効率化され、人的資源の活用をより最適な形に変えることができます。
製造業などではロボット技術をうまく取り入れることで生産ラインのスピードや正確さが向上し、結果的にコスト削減や品質向上にもつながるでしょう。
また、データ分析を活用したマーケティングや営業戦略は、より効率的・効果的なターゲティングに寄与し、事業活動のパフォーマンスを向上させます。
市場競争に打ち勝つため
競争が激化する現代の市場において企業が勝ち抜くうえで、イノベーションが特に重要です。新たなアイデアや技術を取り入れた製品・サービスを迅速に市場へ投入することが、競争優位性を保つ鍵となるでしょう。イノベーションを自ら起こす、あるいはイノベーションを起こし、新たな手法を取り入れる姿勢が重要です。
また、この観点からはスピード感も重要といえます。素早く社会や顧客に届けられるかどうかが市場における競争力にもつながってくるためです。
労働人口が減少しているため
日本を含む多くの先進国では少子高齢化による労働人口の減少が大きな問題となっています。こうした状況下では限られた人材で効率的に事業を回すことが重要となり、イノベーションによる技術革新が欠かせません。
特にサービス業や製造業などの労働集約型の産業では、イノベーションを通じた業務効率の向上が重要といえるでしょう。
日本の企業におけるイノベーションの現状
過去、日本は世界的に見ても多くの革新的技術や製品を生み出して世界を席巻してきましたが、近年においてはイノベーションが停滞気味で国際的な競争力の低下が懸念されています。
特に技術力の基礎となる「研究開発」は長期的な視点で特に重要といえる分野ですが、世界をリードする国々と比べると投資規模が問題視されることもあります。
なお、個々の日本企業としては、研究開発に関して以下の点を重要な課題と感じていることが多いようです。
- 経営戦略や事業戦略と研究開発テーマの一貫性
- AIやビッグデータ、IoTなどのデジタル技術の活用
- 研究開発に関わる人材の獲得や育成
- オープンイノベーションの推進
- 研究開発による成果の製品化や事業化率の向上 など
革新的な経営戦略でイノベーションが成功した企業事例
イノベーションにも、さまざまな規模があります。世界全体に影響して社会を大きく変えるようなケースもあれば、特定の市場内にのみ新たな価値をもたらすケースなどです。
具体的にどのような取り組みで価値が創出されてきたのか、日本企業におけるイノベーションの事例をいくつか紹介していきます。
事例①富士フィルムホールディングス株式会社
富士フィルムホールディングス株式会社は、ヘルスケアや電子映像、フォトイメージングなどに関わる事業を行っている企業です。
同社は新たなイノベーションを生み出すため、社外のパートナーと協力して新たな価値を生み出す「Open Innovation Hub」という施設を立ち上げました。他にも、高級ミラーレスカメラ事業の強化、インスタントカメラ『チェキ』をヒットさせるなど、付加価値向上に向けた取り組みを積極的に行ったことで安定的な経営基盤の構築に成功しています。
事例②オムロン株式会社
オムロン株式会社は、制御機器やヘルスケア分野の事業を行っている企業です。同社は2018年にイノベーションプラットフォームを新設し、そこで社外の研究機関や大学などとの共同開発を実施しました。
ここではイノベーションに必要なスキルタイプ別に人財を集めてチームが編成される仕組みになっており、さらに戦略に長けたメンターなどとともに価値を高める能動的な議論が行われます。このように社内外からアイデアや技術を持ち寄ってイノベーションを促進しているのです。
事例③株式会社JCU
株式会社JCUは、電子部品や防錆分野におけるめっき薬品(金属などの表面に皮膜を作るための薬品)を製造販売している企業です。
同社はめっき薬品向けの添加剤について他社に先駆けて開発を進めていたこと、そしてスマートフォン向けに使用する薬品の需要が増したこともあって大きなシェア獲得に成功しています。
さらに「良品率向上に向けた技術的サポートの提供」にも取り組んだことで、製品提供との相乗効果を得ることで、より高い収益性を実現しています。
事例④塩野義製薬株式会社
塩野義製薬株式会社は、医療用医薬品の製造や販売、研究開発を行っている企業です。同社は「自社創薬比率を高く維持すること」と「型にとらわれない販売戦略の実践」により高い営業利益率を実現しています。
自社品は利益率が高い傾向にあることから自社創薬比率の向上が図られており、自社創薬比率の目標50%を超え、2018年度においては約70%という高い水準を達成し、営業利益率も40%近くと高い値を記録しました。
また、販売戦略においては、海外展開の一部を他社に委託することで、セールスにかかるコストを抑制しました。これにより、グローバル展開に必要な大きなリソースを削減し、営業利益率の向上に貢献しています。
事例⑤株式会社小松製作所
株式会社小松製作所は、建設機械・産業機械事業を行っている企業です。同社は環境変化に適応して生き残るため、ICTなど先進技術を取り込んでいくオープンイノベーションを推進しています。
ICT技術を活かしたイノベーションの発信基地として「Shonan Innovation Lab」を設けています。それ以前も研究開発の拠点はいくつか存在していたのですが、部門を超えさまざまな技術を集約し、知識を共有したりひらめきを生み出したりするため、イノベーション拠点としてこの開発棟が誕生したのです。
5種類のイノベーションと経営戦略の具体例
ヨーゼフ・シュンペーター(Joseph A. Schumpeter)は、経済発展の原動力となるイノベーションを以下の5つで分類して考えていました。一つひとつが斬新で、真新しい考え方というわけではありませんが、経営戦略を考える際はその内容に立ち返ってみてもよいでしょう。
プロダクト・イノベーション(新製品の開発)
1つ目は「プロダクト・イノベーション(新製品の開発)」です。「introduction of a new good」「新しい財貨の生産」などと表現することもできます。
その名の通り、これは消費者間で現在はまだ知られていない製品やサービスを生み出すことを指しています。スマートフォンがまだ普及していなかった時代においては、スマートフォンを新たな財貨とするイノベーションが起こったと考えられるでしょう。
プロセス・イノベーション(新しい生産工程)
2つ目は「プロセス・イノベーション(新しい生産工程)」です。「introduction of a new method of production」「新しい生産方法の導入」などと表現することもできます。これはある産業部門において未知な生産方法を生み出すことを指しており、必ずしも科学的な新発見である必要はありません。
マーケット・イノベーション(マーケットの新開拓)
3つ目は「マーケット・イノベーション(マーケットの新開拓)」です。「opening of a new market」「新販路の開拓」などと表現することもできます。これはある産業部門がこれまで参加してこなかった市場を開拓すること、あるいは新たな顧客層を獲得することなども指しています。例えば宇宙旅行に関するサービスが提供できるようになれば、新たな観光市場を開拓できたことになるでしょう。
サプライチェーン・イノベーション(新たな資源の獲得)
4つ目は「サプライチェーン・イノベーション(新たな資源の獲得)」です。「conquest of a new source of supply of raw materials or half-manufactured goods」「原材料・半製品の新しい獲得資源の占拠」などと表現することもできます。これは部品などの供給源を新たに確保することを意味し、例えば従来利用することが技術的に困難であった物質を資源として活用することであったり、新たに海外からの調達を実現可能としたり、といった行為が該当します。
オーガニゼーション・イノベーション(組織の改革)
5つ目は「オーガニゼーション・イノベーション(組織の改革)」です。「carrying out of the new organization of any industry」「新組織の実現」などと表現することもできます。これは企業組織や産業構造の再編により競争力を強化することを意味しており、例えばある市場で独占的地位を形成すること、逆に他社による独占を打破すること、などもここに該当します。
巨大IT企業群であるGAFAM(Google・Amazon・Facebook(現Meta Platforms, Inc)・Apple・Microsoftのこと)が従来の産業構造を大きく変革させたこともこのイノベーションに該当する例といえるでしょう。
イノベーションを経営戦略に取り入れる具体的な方法
イノベーションを成功させるためには、企業内の文化や戦略への意識を変えること、そして外部との連携も重要です。以下では、イノベーションを経営戦略に効果的に取り入れるための具体的な方法について説明します。
挑戦する文化を育む
イノベーションを促進するには、まず企業内部で「挑戦する文化」を育む必要があります。
従業員が新しいアイデアを自由に提案できる環境を整え、失敗を恐れずに挑戦できる雰囲気を醸成することがイノベーションを引き起こす土台となるためです。
そのためにも上層部が積極的にリーダーシップを発揮し、リスクを許容する姿勢を示すことが必要でしょう。
具体的には、社内で生まれる新しいアイデアやプロジェクトに対してインセンティブを提供するなど、従業員のモチベーションを高めるための工夫が求められます。
外部との連携を強化する
イノベーションを促進するには、社内のみならず外部との連携を強化することも大切です。
連携を図ることで、自社が持っていない技術やノウハウ、新たな視点を取り入れることができ、経営陣も従業員もよい刺激を受けることができるでしょう。
取引先企業との共同開発も大事ですが、研究開発の分野においては外部研究機関や大学との接点を持つことも有効です。
顧客中心のアプローチ
イノベーションを経営に取り入れる際は、顧客のニーズを的確に捉え、それを起点として製品開発・サービス開発に取り組むことが特に重要です。
企業側の視点、技術的な可能性を優先するだけでなく、ビジネスとしてイノベーションを成立させるために顧客の声を反映させなくてはなりません。
そこで顧客の声を収集するためにアンケートやソーシャルメディアなどを利用するなど、顧客とのコミュニケーションを積極的に行うようにしてください。
そしてその声を分析し、顧客が抱える潜在的な課題や問題点を解決する新しいものを生み出そうとする姿勢が大事です。
多様な人材が活躍できる環境作り
異なるバックグラウンドや視点を持つ人材が集まることで、より革新的で創造的なアイデアは生まれやすくなります。
そのためにも多様な人材が活躍できる環境を整えることが大事で、幅広い視点を持つチームを形成して互いに協力し合える仕組みを作りましょう。
リモートワークの導入など柔軟な働き方を取り入れて、それらを推進することも多様な人材の獲得につながります。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用することで企業のビジネスモデルや業務プロセスなどを抜本的に変革して新たな価値創造や競争優位性の確立を目指す取り組みを意味します。従来のIT化は業務効率化やコスト削減を主な目的としていたのに対し、DXではデジタル技術を駆使して「顧客体験の向上」「新たなビジネスモデルの創出」「組織全体の変革」など、より広範な変革を目指すのが大きな差です。
そのためDX化それ自体がイノベーションに直結することもありますし、DX化を実現した環境下であればよりイノベーションも起こりやすくなるでしょう。
まずはイノベーションが生まれる環境を整えよう
これまで革新的な取り組みに積極的ではなかった企業や、これから事業の立ち上げを行う場合、漠然と「イノベーションを起こそう」と啓発するだけでは不十分です。
各々がアイデアを出しやすい環境を整え、常に業務の効率化を目指す文化を醸成し、そのための具体的な制度を整備することが大事です。
現状は従来のやり方が通用しなくなることもあります。そのような大きな変化にも耐えられる、あるいはその変化を起こす立場となるために、イノベーションを推進していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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