• 更新日 : 2025年11月25日

行政経営とは?意味や取り組み、自治体の事例をわかりやすく解説

行政経営とは、自治体(市役所・県庁)が民間の経営視点や手法を参考にしつつ、限られた人・物・お金・情報といった経営資源を最大限に活用して、市民サービスの価値を高めるための組織運営を指します。厳しい財政環境や多様化する住民ニーズのもと、「最少の経費で最大の効果」という地方自治法の原則に沿い、国や県に過度に依存せず、地域の実情に即した政策を自律的に進め、持続可能な地域社会を目指します。

企業の担当者が日々向き合うコスト削減や業務効率化といった課題は、そのまま現代の自治体が抱える課題とも共通しており、その解決策として行政経営の考え方が注目されています。本記事では、行政経営の基本的な意味から、具体的な取り組み、さらには企業経営にも応用できる視点まで、全国の自治体の事例を交えてわかりやすく解説します。

そもそも行政経営とは?

行政経営は、自治体(市役所・県庁)が保有する人材・施設・予算・情報といった「経営資源」を最大限に活用し、市民・地域社会に確かな成果をもたらすための組織運営を指します。これは法令上の厳密語ではなく自治体計画上の用語ですが、多くの自治体が共通してこの趣旨で用いています。

背景には、「最少の経費で最大の効果」という地方自治法の原則があり、厳しい財政環境や多様化するニーズに対応して、国や県に過度に依存せず自律的な運営を図る考え方です。

行政経営の定義と目的

行政経営の最大の目的は、安定した財政基盤の確立と、地域の実情に適した政策の自律的展開により、住民が誇れる魅力的な地域社会を継続的に実現することです。そのために、各部署が目指すべきビジョンや目標を明確にし、それを効率よく実現するための新しい経営の仕組みを構築することが求められます。具体的には、以下のような状態を目指します。

  • 仕事はムダなく、着実に成果を出す:
    目的共有と戦略的遂行により、業務の選択と集中を進める
  • 成果の最大化と市民からの信頼獲得:
    限られた人・資金・時間を最適配分し、測れる成果で説明責任を果たす
  • 財政的に自立する:
    国や県からの交付金などに頼り切るのではなく、自信をもって独自の政策を展開できる、安定した財政を確保
  • 職員一人ひとりの能力を最大化する:
    経営視点を持つ人材育成と組織風土改革で、継続的改善を促す

なぜ、行政経営が注目されるのか?

行政経営が注目される背景には、長引く経済の低成長や、「三位一体の改革」といった国の政策転換による、自治体の厳しい財政状況があります。国からの補助金や地方交付税が減らされる中で、自治体は自らの力で財源を確保し、行政サービスの水準を維持・向上させていく必要に迫られています。

また、少子高齢化の加速や人々の価値観の変化により、住民が行政に求めるニーズはますます複雑になっています。例えば、従来の子育て支援や高齢者福祉だけでなく、外国籍住民への多言語サポート、デジタルに不慣れな高齢者への支援など、画一的なサービスでは対応が難しい課題が増えています。こうした状況に対応するため、地域の実情に合わせてきめ細かく、かつ効率的にサービスを提供するための新しい運営モデルが不可欠となっているのです。

参照:三位一体の改革の全体像|総務省

「地域経営」との違いは?

地域経営は、市民・NPO・企業・学校など多様な主体の協働によって地域課題を解決し価値を高める広い枠組みを指します。

行政経営は、その舞台の上で自治体組織(市役所等)が自らの役割を果たすための運営であり、行政経営の充実は結果として地域経営の推進基盤となります。

つまり、行政経営を推進することは、より良い地域経営を実現するための重要な土台づくりといえるでしょう。

行政経営ではどのような取り組みが行われるのか?

自治体では、行政経営を実現するための羅針盤として「ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)」の考え方を取り入れています。NPMとは、成果志向・顧客志向・組織内分権・市場機構の活用といった民間の経営手法を行政に適用し、組織の効率化や活性化を図る枠組みです。

基本的な4つの方針

例えば、愛知県江南市では、行政経営を進めるうえで4つの基本方針を掲げています。これらは多くの自治体で共通する考え方です。

  1. トップマネジメントの政策立案機能の強化
    江南市の地域全体の戦略本部としての、経営層の機能強化に力を入れる
  2. 分権型の経営システムの確立
    市役所の各組織が、明確な目標をもって、与えられた経営資源を活用して、最大の成果をあげる経営を行うことができるしくみの構築に力を入れる
  3. 経営のできる人材の育成
    経営能力とリーダーシップを兼ね備えた人材の育成に力を入れる
  4. 意識と風土の改革
    従来のすがたにとらわれず、職員があらゆる視点から改革に挑戦する意識づくり・風土づくりに力を入れる

参照:第6章 行政経営のあり方 – 江南市|江南市公式ホームページ

市民生活に関わる8つの重点戦略

例えば、愛知県江南市では、限られた経営資源で最大の成果を出すため、自治体は特に力を入れるべき政策分野を「重点戦略」として定めています。これらは、市民の暮らしに直結する重要なテーマばかりです。

分野具体的な取り組み内容
安心・安全災害や犯罪、交通事故を未然に防ぐため、予防や危機管理を重視した対策を実施し、地域全体で安全を守る連携体制を整備する
福祉(支え合い)高齢者や障がい者など、誰もが安心して暮らせるよう、最低限の生活が保障され、地域全体で支え合う仕組みを構築する
都市基盤整備公園・下水道などの都市基盤を整備し、快適で利便性の高い市街地環境を形成することで、市民生活の質を高める
経済・雇用地域の課題解決を担うNPOや企業などを支援し、地域の特性を活かした産業振興や新事業創出、起業支援を行う
福祉(自立支援)介護予防や自立支援型福祉への転換を進め、市民や職員が地域で活躍できるような場や仕組みを整える
教育・人づくり子どもたちの潜在能力を引き出し、地域社会で活躍できる人材を育成するため、特色ある教育と学習環境を推進する
子育て支援地域全体で子育てを支える仕組みをつくり、安心して子どもを産み・育てられる環境を整備する
環境保全ごみ減量やリサイクルの推進、自然環境の保全など、環境と暮らしの調和を図る仕組みを整える

【事例紹介】全国の自治体はどのように行政経営を進めているのか?

全国の自治体が、それぞれの地域課題に対応するため、特色ある行政経営に取り組んでいます。ここでは5つの自治体の事例を紹介しましょう。

町田市の事例:市民と共に創る行政経営

東京都町田市では、市民目線と客観的データにもとづく行政経営改革を多角的に推進しています。外部の視点を取り入れつつ、公共施設マネジメントや外部監査、ベンチマーキング等の仕組みを通じて、市民サービス向上と業務効率化を進めています。

参照:行政経営改革|町田市公式ウェブサイト

富士見市の事例:未来へつなぐ行財政改革

埼玉県富士見市は、持続可能なまちづくりをめざし、「第7次行財政改革大綱」の6本柱(人材育成/財政運営/公共施設マネジメント/行政運営/官民連携/ICT)にもとづき、行財政運営を計画的に推進しています。公共施設マネジメントやDXの取組を通じ、将来世代への負担軽減とサービス向上を図っています。

参照:行政経営|富士見市

静岡県の事例:「県民幸福度の最大化」を目指す行政経営革新

静岡県は、総合計画(新ビジョン)を踏まえ、「静岡県行政経営革新プログラム2025」を策定しています。具体的には、①現場に立脚した施策構築・推進 ②デジタル技術を活用した業務革新 ③生産性の高い持続可能な行財政運営の3本柱で、県民・民間・市町との連携や業務デジタル化、健全な財政運営を推進しています。

参照:行政経営の具体的取組と目標|静岡県公式ホームページ、静岡県行政経営革新プログラム 2025

横浜市の事例:「3つの市政方針」で未来へ責任ある行政運営を

横浜市は、「財政ビジョン」「中期計画」「行政運営の基本方針」を『3つの市政方針』として一体的に位置付け、持続可能な市政をめざしています。職員の意識改革、DX・データ活用、公民連携を基本姿勢とし、組織の最適化/行政サービスの最適化/住民自治の充実と協働・共創を重点に据えています。

参照:行政運営の基本方針|横浜市行政運営の基本方針|横浜市

会津若松市の事例:「3つの視点」で未来へつなぐ自治体経営

会津若松市は、「行財政改革の取組 ~未来へつなぐ自治体経営に向けて~」を策定し、令和4年度から令和8年度までの中期期間で、行政サービスの質向上と持続可能な財政基盤の確立を目指しています。

国の「経済財政運営と改革の基本方針」などを踏まえ、市の現状と将来課題を分析したうえで、①財政基盤の持続可能性、②行政資源の最適化、③市民サービスの質向上と地域貢献 の「3つの視点」を柱に改革を推進しています。

具体的には、歳入確保や人件費の適正化による財政健全化、公共施設の長寿命化・再編による効率的な資源運用、そして地域課題に即した行政サービス提供体制の再構築などに計画的に取り組んでいます。

参照:行財政改革の取組|会津若松市公式サイト

行政経営システムとはどのようなものか?

行政経営システムは、自治体の内部情報系(例:予算編成・執行、財務会計、人事給与、文書管理など)を統合的に管理し、行政運営全体の効率化と高度化を支える情報基盤を指します。法令上の厳密語ではなく一般呼称ですが、自治体版のERPに相当する統合基幹業務の土台として位置づけられます。近年は、国の方針に沿って標準化・共通化が進んでおり、各自治体での更新・更改の際にこの考え方が採用されています。

行政経営システムが担う機能

このシステムは、これまで部署ごとにバラバラに管理されていた情報を一元化し、組織横断的なデータ活用を可能にします。主な機能は以下のとおりです。

  • 財務会計システム:予算の編成/執行、決算作成までを一体で管理し、お金の流れを可視化
  • 人事給与システム:職員情報・配置・評価・給与計算を一元管理し、適材適所を支援
  • 文書管理システム:稟議・決裁・保管・廃棄のライフサイクル管理を電子化し、ペーパーレスを推進
  • 政策評価システム:各施策の目標達成度(KPI)などを管理し、勘や経験だけでなく、データに基づいた政策立案(EBPM)を下支え

システム導入のメリットと課題

行政経営システムを導入することで、業務の標準化による効率アップ、ペーパーレス化によるコスト削減、データの可視化による迅速で的確な意思決定といったメリットが期待できます。職員は単純な事務作業から解放され、政策の企画立案や市民との対話といった、より付加価値の高い業務に時間を割けるようになるでしょう。

一方で、導入には多額の初期コストがかかるほか、長年慣れ親しんだ業務プロセスを大幅に見直す必要があります。また、全ての職員がシステムを使いこなせるようになるための研修の実施や、個人情報などを守るための高度な情報セキュリティ対策の徹底も重要な課題となります。

中小企業が行政経営から学べることはある?

一見すると縁遠く思える行政経営ですが、実はその考え方は中小企業の経営にも応用できるヒントに満ちあふれています。自治体も企業も、「限られたリソースで最大の成果を出す」という点では同じだからです。

限られたリソースの最適化

多くの自治体は、厳しい財政状況の中で、人・物・金といった経営資源をいかに効率的に配分するかに知恵を絞っています。これは、経営資源が潤沢とはいえない中小企業にとっても、まさに日々向き合っている課題ではないでしょうか。

行政が行う事業評価のように、自社の事業や業務の「選択と集中」を進め、本当に価値を生み出している部分、これから伸びる部分にリソースを重点的に投下する視点は、企業の持続的成長に不可欠です。

明確なビジョンと目標設定の重要性

行政経営では、組織が目指すべき展望や目標、使命を明確にすることが全ての出発点とされています。ビジョンを全職員で共有し、それに基づいた具体的な戦略を立てることで、組織全体の力が一つの方向に向かいます。

中小企業においても、経営者が「私たちは何のために存在するのか」「どこへ向かうのか」という明確なビジョンを示し、従業員一人ひとりが自分の仕事と会社の目標とのつながりを理解できる仕組みを整えることは、組織の一体感を高め、生産性を向上させるうえで大きな力となるでしょう。

外部との連携による価値創出

現代の行政経営は、行政だけで完結するものではありません。NPOや地域企業、市民など、多様な主体と連携(パートナーシップ)することで、新たな価値を創出しようとしています。

この考え方は、中小企業のオープンイノベーションにも通じます。自社だけで全ての課題を解決しようとするのではなく、他社や大学、地域コミュニティなど、外部の知識や技術、ネットワークを積極的に活用することで、自社だけでは生み出せなかった新たな事業機会やイノベーションが生まれる可能性があります。

行政経営の推進が、これからの地域社会の未来を創る

行政経営は、単なるコスト削減や業務効率化の手法ではありません。それは、変化の激しい時代に対応し、国や他の自治体に依存しない自立した運営基盤を確立することで、持続可能で魅力的な地域社会を未来へつないでいくための重要な挑戦なのです。

民間企業の優れた経営手法を取り入れつつ、職員一人ひとりが経営感覚を持って能力を最大限に発揮することが、これからの自治体には求められます。そして、その考え方は、同じく変化の時代を生き抜く私たち企業の経営にとっても、多くの示唆を与えてくれるのではないでしょうか。


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