• 更新日 : 2025年11月25日

学生の資金調達方法は?融資や助成金の活用法、社会人起業との違いを解説

学生が起業する際の資金調達には、公的融資や助成金、投資家からの出資など様々な方法があります。社会人経験や自己資金が少ない学生特有の課題がある一方で、若者を対象とした支援制度を活用しやすいというメリットもあるでしょう。

この記事では、学生ならではの状況をふまえ、具体的な資金調達の方法から、それぞれのメリット・デメリット、成功への手順までを詳しく解説します。

目次

学生の資金調達、社会人起業と何が違う?

学生の資金調達は、社会人が起業する場合と比べて、社会的な信用力や自己資金が不足しがちです。ただし、若者向けの公的支援もありますので、適切な資金調達方法を選びましょう。

学生起業の壁:信用力・自己資金・経験の不足

社会人経験がない学生は、一般的にビジネス上の信用力が低いと見なされがちです。また、アルバイトなどで貯められる自己資金にも限りがあり、事業経験や人脈も乏しいため、金融機関からの融資審査などで不利になる側面は否めません。

事業計画を作成する際も、社会経験の不足から市場理解が浅く、計画が甘くなってしまう可能性も考えられます。

学生起業の強み:支援制度・柔軟性・大学のリソース

一方で、学生や若者であることを対象とした公的な融資制度や補助金・助成金が数多くあります。これらは、社会人経験豊富な起業家よりも有利な条件で利用できる場合があります。

また、失敗してもやり直しやすい環境や、学業と両立しながら柔軟に時間を使いやすい点も学生ならではの強みです。大学によっては、インキュベーション施設(起業支援施設)や、教授からの専門的なアドバイス、学内ビジネスコンテストなど、活用できるリソースが身近にあることも大きな利点といえるでしょう。

学生起業に必要な資金はどれくらい?

学生が起業する際に必要となる資金額は、事業の規模や業種によって異なります。まずは、具体的な事業計画を立て、必要な初期投資(イニシャルコスト)と運転資金(ランニングコスト)を正確に算出することが大切です。

まずは事業計画から必要な自己資金を把握する

事業を始めるために必要な資金額は、詳細な事業計画書を作成することで明確になります。事業計画書には、設備投資や事務所の賃料といった初期費用だけでなく、仕入れ費用、人件費、広告宣伝費など、事業開始後数ヶ月分の運転資金も盛り込む必要があります。

この計画を通じて、自己資金でまかなえる範囲と、外部から調達すべき金額が明確になるでしょう。

参照:創業計画の書き方|日本政策金融公庫

業種別の開業資金の目安

開業に必要な資金は、ビジネスモデルによって数万円から数百万円まで大きな幅があります。

日本政策金融公庫の「2024年度新規開業実態調査」によると、開業費用の平均値は985万円ですが、より実態に近い中央値は580万円です。また、開業者のうち20.1%が「250万円未満」で事業を始めています。

これは、特に自己資金が限られる学生にとって、事業内容を工夫すれば起業のハードルは決して高くないことを示しています。

以下に、学生が取り組みやすい業種を含めた開業資金の目安をまとめました。

業種開業資金の目安主な資金使途
IT・Webサービス10万~100万円PC購入費、サーバー代、ソフトウェア利用料
Webライター・デザイナー5万~50万円PC購入費、デザインソフト代、ポートフォリオサイト制作費
飲食店・カフェ300万~1,000万円店舗取得費、内外装工事費、厨房設備費、仕入れ費

これらの金額はあくまで一般的な目安であり、工夫次第で費用を抑えることは可能です。例えば、ITサービスであれば高価なオフィスを借りずに自宅で始める、飲食店であれば間借りスペースやキッチンカーを活用するなど、初期投資を抑える方法も検討してみてはいかがでしょうか。

参照:2024年度新規開業実態調査|日本政策金融公庫

学生が利用できる主な資金調達方法とは?

学生が利用できる資金調達方法には、自己資金、公的融資、補助金・助成金、クラウドファンディングなどがあります。公的な融資から投資家からの出資まで、それぞれの特徴を理解し、自身の事業フェーズや計画に合わせて最適な方法を組み合わせることが、資金調達の成功につながります。

自己資金:最も基本的な調達源

自己資金は、事業を始める上での基盤となるお金です。アルバイトで貯めた資金や、これまでの貯蓄などが該当します。自己資金があることは、融資審査などで信用力を補う要素にもなります。事業計画で算出した必要資金のうち、少なくとも3分の1程度は自己資金で用意することが望ましいでしょう。

公的融資:日本政策金融公庫の活用

日本政策金融公庫は、政府が100%出資する金融機関であり、民間の金融機関から融資を受けにくい創業者を支援しています。特に、学生を含む若者向けの融資制度は、実績のない創業者を後押しする目的があるため、多くの学生起業家にとって有力な選択肢となるでしょう。

参照:新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)|日本政策金融公庫

補助金・助成金:返済不要の大きな支援

国や地方自治体、民間団体などが提供する補助金や助成金は、原則として返済が不要な資金です。若者や学生の挑戦を後押しする目的で設けられた制度も多く、事業計画が要件に合致すれば大きな支援となります。ただし、補助金の多くは事業実施後に経費を精算する「後払い方式」で支給される点には注意が必要です。

ベンチャーキャピタル(VC)・エンジェル投資家からの出資

革新的なアイデアや高い成長性を持つビジネスモデルであれば、ベンチャーキャピタル(Venture Capital、略称:VC)やエンジェル投資家から出資を受ける方法があります。学生ならではの斬新な発想や若さそのものが、将来性への期待として評価されることもあります。資金提供だけでなく、経営に関する助言やネットワークの紹介といった支援(ハンズオン支援)を受けられることも利点の一つです。

クラウドファンディング:共感を集めて資金を得る

インターネットを通じて不特定多数の人から少額ずつ資金を集める方法がクラウドファンディングです。特に、製品やサービスの先行販売という形をとる「購入型」は、事業開始前のテストマーケティングやファン獲得にもつながり、学生の独創的なアイデアと相性が良い資金調達方法といえるでしょう。

各資金調達方法のメリット・デメリット比較

ここまで紹介した資金調達方法には、それぞれ利点と注意点があります。自身の状況に合わせて最適な手段を選ぶために、以下の表で比較検討してみましょう。

調達方法メリットデメリット
公的融資低金利、長期返済が可能、若者向け制度が充実審査に時間がかかる、事業計画書の作り込みが必須
補助金・助成金返済が不要、学生向けの制度も多い公募期間が限定的、申請手続きが煩雑、原則後払い
VC・投資家まとまった資金調達が可能、経営支援を受けられる経営の自由度が低下する可能性、厳格な事業計画が求められる
クラウドファンディング実績がなくても資金調達が可能、PR効果やファン獲得につながる目標額未達のリスク、リターン(返礼品)の準備が必要

学生が日本政策金融公庫から融資を受ける手順は?

学生起業家にとって最も現実的で有力な選択肢の一つが、日本政策金融公庫の創業融資制度です。ここでは、特に学生(35歳未満の若者)が利用しやすい「新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)」を例に、具体的な申込手順を解説します。この制度は、実務経験よりも事業への情熱や計画の実現可能性を重視する傾向があり、学生にとって追い風となります。

参照:新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)|日本政策金融公庫

STEP1:事業計画書の作成

融資審査で最も重要となるのが事業計画書(創業計画書)です。なぜこの事業を始めるのか、どのような商品・サービスを提供するのか、市場の将来性、収益の見込みなどを具体的に記述します。社会経験の不足を補うためにも、信頼できるデータや調査に基づいて客観的な視点で作成することが求められます。

STEP2:担当者との面談予約と相談

事業計画書がまとまったら、最寄りの日本政策金融公庫の支店に連絡し、融資相談の予約を取ります。相談時には、事業計画書を持参し、事業内容や必要な資金額について担当者に説明します。この段階で、計画の甘さや不足している点を指摘してもらえることもあり、計画を練り直す良い機会になります。

STEP3:必要書類の提出

相談を経て、正式に融資を申し込む段階に進みます。創業計画書のほか、借入申込書、見積書(設備資金の場合)、履歴事項全部証明書(法人の場合)、本人確認書類など、指定された書類を提出します。漏れがないように、事前にリストアップして準備を進めましょう。

STEP4:審査と融資実行

書類提出後、担当者との面談が実施されます。事業への熱意や計画の実現性、人柄など、書類だけではわからない部分を総合的に見て判断されます。面談は通常1回で、1時間程度です。審査には通常3週間から1ヶ月程度かかり、無事に審査を通過すれば、指定した口座に融資金が振り込まれます。

学生が応募できる助成金や補助金はある?

返済不要の助成金や補助金は、自己資金が限られる学生起業家にとって魅力的な資金源です。国や自治体、さらには民間企業や大学が、若者の挑戦を後押しするための多様な制度を用意しています。

国や自治体が提供する若者向け起業支援制度

各自治体では、地域経済の活性化を目的として、若者や学生の起業を支援する独自の補助金制度を設けている場合があります。例えば、東京都の「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」のように、年齢などの要件を満たす創業者を対象としたものが存在します。社会人経験を問わない制度も多いため、学生であっても条件を満たせば応募できる可能性があります。自身の事業に合った制度を探してみましょう。

参照:若手・女性リーダー応援プログラム助成事業|公益財団法人東京都中小企業振興公社

民間団体や大学によるビジネスコンテスト

民間企業や大学が主催するビジネスプランコンテストは、学生が参加しやすい資金調達の機会です。優秀なプランには賞金が授与されるほか、副賞としてオフィス利用権や専門家によるメンタリングが提供されることも少なくありません。また、コンテストを通じて事業計画が磨かれ、投資家や協力者との出会いにつながる可能性もあります。

助成金・補助金探しのポイント

助成金や補助金は、公募期間が短かったり、要件が複雑だったりすることが多いです。中小企業庁が運営する支援情報検索サイト「ミラサポplus」や、各自治体のウェブサイトを定期的にチェックし、情報を見逃さないようにしましょう。また、申請書類の作成には時間がかかるため、公募開始前から事業計画を練っておくことが採択の確率を高めます。

学生が投資家から資金調達を成功させるコツは?

ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの出資は、事業の成長を加速させる手段となります。ただし、融資とは異なり、事業の将来性が厳しく評価されるため、魅力的かつ説得力のある事業計画を準備し、投資家が集まるイベントなどで積極的にアピールすることです。

投資家は事業の将来性に着目するため、革新性のあるビジネスモデルを客観的なデータと共に示す必要があります。

魅力的な事業計画とピッチ資料の準備

投資家は、市場の規模、競合との差別化、明確な収益モデル、そして「なぜあなた(あるいはチーム)がそれを実現できるのか」という点を重視します。これらの要素を盛り込み、短時間で事業の魅力を伝えるためのピッチ資料(プレゼンテーション資料)を作成しましょう。数値的な根拠に基づいた成長戦略を示すことが、投資家の関心を引く上で欠かせません。

投資家とのマッチングイベントやプラットフォームの活用

投資家と出会うためには、スタートアップ向けのピッチイベントやカンファレンスに積極的に参加することが有効です。こうした場では投資家と直接対話でき、事業内容をアピールする貴重な機会となります。また、近年では、起業家と投資家をつなぐオンラインプラットフォームも数多く登場しています。これらを活用することで、自社の事業に関心を持ちそうな投資家との接点を増やし、資金調達のチャンスを広げることができます。

出資を受ける際の注意点

出資を受けるということは、会社の株主として経営パートナーを迎えることを意味します。そのため、出資比率(株式の割合)には細心の注意を払いましょう。過半数の株式を渡してしまうと、経営の意思決定権を失うリスクがあります。契約を締結する前には、必ず弁護士などの専門家に相談し、契約内容を正しく理解してから合意することが重要です。

学生起業家が見落としがちな税務・法務のポイント

資金調達に成功しても、それで終わりではありません。事業を継続していくためには、税金や法律に関する知識も必要です。学生起業家が特に注意したいポイントを解説します。

調達した資金と税金の関係

調達したお金がすべて売上になるわけではありません。資金調達の方法によって、会計上・税務上の扱いは異なります。

  • 融資借入金は「負債」として計上されます。返済義務があり、利益(課税対象)にはなりません。
  • 出資:投資家などからの出資金は「資本金」として扱われます。返済義務はなく、これも課税対象ではありません。
  • 補助金・助成金:原則として「収益」に計上され、課税対象となります。

これらの違いを理解しておかないと、補助金や助成金を受け取った際に納税資金が不足する、といった事態に陥る可能性があります。

開業届の提出を忘れずに

個人事業主として事業を始める場合、事業開始から1ヶ月以内に税務署へ「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」を提出する義務があります。この届出を出すことで、節税効果の高い青色申告が選択できるようになったり、屋号での銀行口座が開設できたりといったメリットがあります。

参照:A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁

契約書は必ず作成・確認する

友人との共同事業や業務委託など、口約束だけで進めるのは、将来的なトラブルの原因になりかねません。どんなに親しい間柄であっても、業務範囲や報酬、知的財産権などの権利関係を明記した契約書を交わしましょう。また、取引先から提示された契約書に安易に署名するのではなく、内容をしっかり確認し、不利な条項が含まれていないかチェックする姿勢が大切です。

学生の資金調達で陥りがちな失敗と対策は?

学生の起業には情熱と斬新なアイデアという強みがありますが、社会経験の不足から資金調達でつまずくケースも見られます。ここでは、よくある失敗例とその対策をふまえ、成功への道筋を探ります。

失敗例1:事業計画の甘さと資金ショート

「これくらいあれば足りるだろう」という見込みで事業を始め、想定外の出費がかさんで運転資金が尽きてしまうのは典型的な失敗パターンです。これを防ぐには、事業計画の段階で可能な限り詳細な資金計画を立て、少なくとも3〜6ヶ月分の運転資金を確保しておくことが重要です。

失敗例2:自己資金ゼロでの無謀な挑戦

自己資金が全くない状態で融資を申し込んでも、審査を通過するのは簡単ではありません。自己資金は、事業に対する本気度を示す指標の一つと見なされます。たとえ少額でも、アルバイトなどでコツコツと貯めた自己資金を用意することで、金融機関や投資家からの信頼を得やすくなるでしょう。

失敗例3:契約内容を理解せずに出資や融資を受ける

親族からの借入れや投資家からの出資において、口約束だけで済ませたり、契約内容を十分に確認せずに署名したりすると、後々大きなトラブルに発展しかねません。お金に関わる契約は、相手が誰であっても必ず書面で交わし、専門家の助言も受けながら内容を精査するようにしてください。

学生の資金調達は周到な準備で成功に近づく

学生が起業するための資金調達は、日本政策金融公庫の融資や返済不要の助成金など、多様な選択肢の中から最適な方法を組み合わせることで、十分に実現可能です。重要なのは、学生ならではの強みと弱みを理解した上で、説得力のある事業計画書を準備することにあります。

自己資金の準備、公的制度の情報収集、専門家への相談といった地道な取り組みが、資金調達の成功確率を高めることにつながるでしょう。情熱だけでなく、しっかりとした計画と知識が必要です。


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