• 更新日 : 2025年11月25日

シリーズEの資金調達とは?各ラウンドの違いや成功事例を解説

スタートアップの資金調達におけるシリーズEは、事業が成熟期に入り、IPO(新規株式公開)やM&A(合併・買収)を目前に控えたレイターステージで行われる大規模な資金調達ラウンドです。そのため、調達後の明確なイグジット戦略と持続的な成長性が投資家から評価されます。

多くの経営者や担当者は「シリーズごとの違いがわからない」「どのタイミングでどのくらいの資金調達を目指すべきか」といった課題に直面します。

この記事では、まずシリーズEの資金調達がどのようなものかを解説します。

シリーズEの資金調達とはどのような段階か?

シリーズEは、レイターステージの中でも特に成熟した企業が行う資金調達で、IPOや大型M&Aの実現を見据えた段階と位置づけられます。この段階に到達するスタートアップは限られており、一定の事業実績や成長性が認められているため、市場からの注目度も高くなります。

シリーズEの目的:IPOやM&Aに向けた最終的な価値向上

シリーズEの主な目的は、IPOや大型M&Aを見据えた事業価値のさらなる向上です。具体的には、大きな市場シェアの獲得、グローバル市場での競争力強化、あるいは複数の事業を買収して企業グループ全体の価値を高めるために資金が活用されます。

このラウンドでの資金調達の成功は、その後のイグジット時における企業価値評価に直接的な影響を与えます。

シリーズEの調達額と投資家からの評価

調達額は数百億円規模になることも珍しくありません。投資家は、事業の成長性や収益性に加えて、「どれだけ大きなリターンを生むか」という視点で評価します。そのため、企業側は具体的な数値に基づいた成長戦略と、明確なイグジットまでの道筋を示す必要があります。

投資家は、これまでの実績だけでなく、将来にわたる持続的な収益性と市場でのポジションを厳しく見極めるでしょう。

シリーズEに到達する企業の特徴

シリーズEの段階まで到達する企業には、市場での優位な地位、確立されたビジネスモデル、実行力の高い経営チーム、予測可能な財務状況といった共通の特徴が見られます。これらの特徴を備えることで、大規模な資金を託すに値する企業として投資家から高く評価されます。

  • 市場での優位な地位:
    特定の市場で高いシェアを誇るか、業界で主導的なポジションを確立している。
  • 確立されたビジネスモデル:
    高い収益性と拡張性が証明された、安定したビジネスモデルを持つ。
  • 実行力の高い経営チーム:
    明確なビジョンを持ち、大規模な組織を運営し、イグジットを見据えた戦略を実行できる経営陣がいる。
  • 予測可能な財務状況:
    売上や利益の成長が安定しており、将来のキャッシュフローを高い精度で予測できる。

資金調達のシリーズとラウンドはどう違うのか?

「ラウンド」は資金調達の機会そのものを指すのに対し、「シリーズ」は企業の成長段階を示す名称です。ラウンドは「第1回」「第2回」といった資金調達の実施タイミングを意味し、シリーズは「シリーズA」「シリーズB」といった形で企業の成熟度や資金調達の位置づけを表すラベルとして用いられます。

ラウンドとシリーズの関係

「ラウンド」とは、資金調達を行う一つひとつの機会やイベントそのものを指します。例えば、会社を設立して初めての資金調達が「第1ラウンド」、その次が「第2ラウンド」といった具合です。

一方で「シリーズ」は、そのラウンドに付けられる名称で、特にベンチャーキャピタル(VC:高い成長が見込まれる未上場企業に投資する組織)から出資を受ける際に使われます。事業の成長段階に応じて「シリーズA」「シリーズB」とアルファベットが進んでいくため、どのシリーズに位置するかを見れば、その会社のおおよその成熟度を把握することができます。そのため、実務では「シリーズAラウンド」のように、シリーズ名とラウンドを併せて表現するのが一般的です(例:「シリーズAラウンドで◯億円を調達」)。

スタートアップの成長フェーズと資金調達

企業の成長は、アイデア段階から上場直前まで、大きく「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」という4つのフェーズに分けられます。各フェーズで企業が直面する課題や目標が異なるため、それに合わせて資金調達のシリーズも進んでいきます。

成長フェーズ主な資金調達シリーズ企業の状況
シードエンジェル、プレシード、シードアイデアやプロトタイプの段階。市場調査や製品開発を行う。
アーリーシリーズA製品・サービスを正式にリリース。PMF(プロダクトマーケットフィット)の達成を目指す。
ミドルシリーズB事業が軌道に乗り、ユーザー数や売上が拡大。黒字化に向けた成長が加速。
レイターシリーズC、D、E以降安定的な黒字化を達成。IPOやM&Aなど、イグジットを具体的に検討する。

シリーズAからEまでの各ラウンドの特徴は?

シリーズAからEまでの資金調達は、企業の成長段階に応じて目的や調達額、主な投資家が異なります。シリーズが進むにつれて、事業の成長性や将来の収益性がより具体的に問われ、投資家からの評価基準も厳格になります。

シリーズAからEまでの特徴一覧表

シリーズ
(成長フェーズ)
主な目的調達額の目安
シリーズA
(アーリー)
製品・サービスの市場投入(PMF達成)、事業基盤の構築数億円〜10億円
シリーズB
(ミドル)
事業規模の拡大、シェア獲得、収益モデルの確立10億円〜数十億円
シリーズC
(レイター)
経営の安定化、新規事業や海外展開、IPO準備数十億円〜100億円超
シリーズD
(レイター)
IPO直前の大規模調達、M&Aによる成長加速数十億円〜数百億円
シリーズE
(レイター)
IPOや大型M&Aの実行を見据えた企業価値の最大化数百億円規模

シリーズA:事業化と市場フィットを証明するステージ

シリーズAは、プロトタイプやベータ版のサービスが完成し、初期顧客を獲得した企業が対象となる、最初の本格的な資金調達ラウンドです。この段階で最も重視されるのは、提供する製品やサービスが市場に受け入れられるか、すなわちPMF(プロダクトマーケットフィット)を達成できるかを証明することです。

調達した資金は、本格的なマーケティング活動、優秀な人材の採用、製品開発の強化などに充てられ、事業を軌道に乗せるための基盤づくりに活用されます。投資家であるベンチャーキャピタルは、事業モデルの将来性や経営チームの実行力を重点的に評価します。

シリーズB:事業を拡大し収益基盤を確立するステージ

シリーズBは、PMFを達成し、事業が軌道に乗り始めた企業が、さらなるスケール拡大を図るためのラウンドです。ユーザー数や売上といった実績がすでに出ており、ビジネスモデルの有効性が一定程度証明されています。この段階での主な目的は、市場シェアを拡大し、安定的な収益基盤を確立して黒字化への道筋を示すことです。

調達資金は、販売チャネルの拡大、新たな地域への展開、顧客基盤の強化などに投資されます。シリーズAからの投資家に加え、事業シナジーを期待する事業会社(CVC)などが新たに参加するケースも増えています。

シリーズC:安定成長と市場での地位を確立するステージ

シリーズCの段階では、多くの企業が収益モデルを確立し、安定的な成長を遂げつつあります。業界内でも一定の地位を築いているケースが多く、このラウンドの目的は、さらなる成長の加速です。具体的には、海外市場への本格展開、M&Aによる事業領域の拡大、そしてIPO(新規株式公開)に向けた体制整備などが挙げられます。

調達額は数十億円から100億円を超える規模になることもあり、企業の評価額(バリュエーション)も大幅に高まります。投資家も、ベンチャーキャピタルに加えて、事業会社(CVC)やグロース投資ファンド、さらには銀行や証券会社などの機関投資家が参加することがあり、事業の成長性やガバナンス体制はより厳しく精査されます。

シリーズD:IPO直前の最終調整ステージ

シリーズDは、一般的に「レイターステージ」の後半に位置づけられ、IPOを目前に控えた最終的な資金調達ラウンドとなることが多いです。この段階では、すでに上場準備が本格化しており、調達した資金は上場時の企業価値をさらに高めるための戦略的投資(例:大規模なプロモーション、大型M&Aなど)に充てられます。

この時期の企業経営は成熟度が高く、投資家の関心は「事業が成功するかどうか」よりも、「上場後にどの程度の株価評価やリターンが期待できるか」という視点に移ります。そのため、これまでの成長実績に加え、将来にわたる持続的な成長ストーリーを明確に示すことが重要です。

シリーズE:イグジットに向けた企業価値を最大化するステージ

シリーズEは、レイターステージの中でも特に成熟した企業が行う資金調達です。この段階まで進む企業は限られており、IPOや大型M&Aといったイグジット(投資回収)を見据え、その実現可能性を高めつつ企業価値を最大化することが目的となります。

調達額は数百億円規模に達することもあり、グローバル市場での圧倒的なシェア獲得や、業界再編を主導するような戦略的な動きのために資金が投じられます。

投資家も、従来からのVCやCVCに加えて、プライベート・エクイティ・ファンドなど、より大規模な資金を動かすプレイヤーが中心となります。事業計画の実現可能性やイグジットまでの明確な道筋が、これまで以上に厳しく問われるラウンドです。

シリーズE以降の資金調達とは?

シリーズEを完了したからといって、必ずしもすぐにIPOするわけではありません。さらなる成長を目指して、シリーズFやシリーズGといった追加のラウンドを行う企業も存在します。この段階では、IPOだけでなくM&Aや戦略的提携など、より多角的な出口戦略が求められます。

シリーズF以降の展開

シリーズF以降の資金調達は、主に以下のような目的で行われます。

  • 超大型M&Aの実行:
    業界再編につながるような、大規模な企業買収を実施する。
  • 新規市場への大規模投資:
    新たな事業分野への進出や、未開拓の海外市場への本格参入を加速させる。
  • 上場タイミングの調整:
    株式市場の状況を見極め、最適なタイミングでIPOを実施するための待機資金として活用する。

このステージでは、プライベート・エクイティ・ファンドや政府系ファンド、さらにはソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)など、これまでとは異なる、より大規模かつ戦略性の高い投資家が関与するケースも見られます。

多様なイグジット戦略の検討

IPOは最も代表的なイグジット戦略ですが、唯一の選択肢ではありません。それ以外にも複数の選択肢があります。

  • M&A(合併・買収):
    大手企業の傘下に入ることで、安定した経営基盤とさらなる事業拡大のリソースを獲得できる。
  • SPAC(特別買収目的会社)との合併:
    従来型のIPOよりも迅速に上場を果たす手法として注目されているが、規制強化や市場動向の影響を受けやすい。
  • ダイレクトリスティング(直接上場):
    新株を発行せず、既存の株式を直接市場に上場させる方法で、資金調達よりも流動性の確保や企業の知名度向上が主な目的となる。

企業の特性や市場環境をふまえ、どのイグジット戦略が自社の価値を最大化できるか、多角的に検討することが重要です。

日本国内におけるシリーズE以上の資金調達事例

近年、日本国内でもシリーズEのラウンドで大型の資金調達を実施するスタートアップの事例が見られます。

アストロスケールホールディングス

宇宙ごみ(スペースデブリ)除去サービスの開発に取り組むアストロスケールホールディングスは、レイターステージで複数回にわたり大規模な資金調達を実施しています。

2020年にはシリーズEラウンドを完了し、この時点で累計調達額は約210億円に達しました。その後も成長を続け、2023年にはシリーズGラウンドで合計約111億円の資金調達を成功させています。これらの資金は、技術開発やグローバルな事業拡大に充てられ、同社は2024年6月に東京証券取引所グロース市場への上場を果たしました。宇宙という新しい領域で、着実に資金を調達し成長を続けた代表例です。

参照:スペースデブリ問題に取組むアストロスケール シリーズEで累計調達額210億円を達成|PR TIMESアストロスケール、シリーズGで約101億円を調達|Astroscale
アストロスケール、シリーズGで10億円を追加調達|PR TIMES

株式会社SmartHR

クラウド人事労務ソフトを提供する株式会社SmartHRは、2024年7月にシリーズEラウンドで、海外の大手投資家などを中心に約214億円という大規模な資金調達を実施しました。

この資金調達は、労務管理に加えてタレントマネジメント機能の拡充を進め、採用管理や学習管理など複数のプロダクトを展開する「マルチプロダクト化」を推進することが目的です。調達した資金は、HR領域における新たなプロダクト開発や、M&A、AIなど新技術への投資にも活用されるとしています。

参照:約214億円のシリーズEラウンドを実施|株式会社SmartHR

シリーズEの資金調達の成功は事業計画が重要

シリーズEの資金調達を成功させるには、これまで以上に精緻な事業計画と、投資家との強固な信頼関係が不可欠です。まず、事業計画には、具体的な数値目標とそれを達成するための詳細なアクションプランを盛り込みましょう。

市場分析、競合との差別化、リスク要因とその対策まで網羅することで、計画の実現可能性が高まります。

投資家に対しては、単なる資金提供者としてではなく、事業を共に成長させるパートナーとしての関係を築く姿勢が重要です。定期的な報告を通じて経営の透明性を確保し、オープンなコミュニケーションを心がけることで、長期的な信頼関係が構築されるでしょう。


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