• 作成日 : 2025年10月21日

法人登記の旧姓併記とは?メリットや手続き、旧姓のまま活動する方法を解説

法人登記では、役員の氏名に戸籍上の氏(現在の姓)と併せて旧姓を記載する「旧姓併記」が可能です。これにより、結婚などで姓が変わった後も、ビジネス上の名前を公的に証明し、キャリアの継続性を示すことができます。

この記事では、旧姓併記のメリットから、具体的な手続き、ケース別の必要書類までをわかりやすく解説します。

目次

法人登記の「旧姓併記」とは?

旧姓併記とは、会社の登記事項証明書に、役員の現在の氏名とともに婚姻前の氏(旧姓)などをカッコ書きで併記できる制度です。女性の活躍推進などを背景に導入され、ビジネス上の旧姓使用を法的に裏付けます。

登記簿にはどのように記載される?

旧姓併記を行うと、登記事項証明書の役員欄には、現在の姓と旧姓がカッコ書きで並べて記載されます。

記載例:

取締役 鈴木花子(高橋花子)

これにより、戸籍上「鈴木花子」である人物が、ビジネス上で「高橋花子」として活動してきたことを登記事項証明書により公的に証明でき、両者が同一人物であることが明確になります。

旧姓併記の対象となる役員

この制度の対象となるのは、株式会社では役員(取締役・監査役・執行役・会計参与・会計監査人)そして清算人であり、持分会社については業務執行社員・代表社員・代表社員が対象です。基本的には、会社の経営や法的な責任を負う役員が対象となると考えてよいでしょう。

参照:添付書面としての本人確認証明書及び旧氏の併記について|法務省

法人登記で旧姓併記をするメリットとは?

法人登記で旧姓を併記することは、ビジネス上の本人確認がスムーズになることやキャリアの維持、契約書などへの署名が旧姓で可能になるなどのメリットがあります。ここでは、主なメリットを、どのような場面で役立つかも含めて詳しく解説します。

ビジネス上の本人確認がスムーズになる

最大のメリットは、ビジネスシーンでの本人確認が格段にスムーズになる点です。旧姓で活動していると、契約時に会社の登記事項証明書や個人の印鑑証明書に記載された戸籍の氏名と異なるため、相手方に余計な確認の手間をかけてしまうことがあります。

旧姓併記をしておけば、登記事項証明書一枚で「鈴木花子(高橋花子)」のように法的に同一人物だと証明できるため、こうした混乱を避けられます。

築き上げてきたキャリアや信用を維持できる

旧姓で築き上げてきたキャリアや業界での知名度、人脈は、ビジネスにおける大切な無形資産です。とくに論文や出版物などで名前が知られている専門家や、フリーランス時代から旧姓で活動してきた起業家にとって、名前の継続性は事業の価値に直結します。旧姓併記は、こうしたビジネス上のアイデンティティを法的に裏付け、キャリアを途切れさせることなく活動を続けるための有効な手続きといえるでしょう。

契約書などへの署名が旧姓で可能になる

旧姓併記の登記が完了すると、「代表取締役 鈴木花子(高橋花子)」のように登記事項証明書に旧姓が記載されます。これにより、会社の代表者として契約書に署名する際にも、ビジネスの現場で使い慣れた旧姓が同一人物であることを公的に証明でき、法的に有効な契約行為をスムーズに行えるようになります。

法人登記で旧姓併記する手続きの基本的な流れ

旧姓併記の手続きは、旧姓を証明する公的な書類を準備し、登記申請書を作成して、法務局へ申請するという流れで進みます。

STEP1:旧姓を証明する書類を準備する

まず、その旧姓が法律上の氏であったことを証明する公的な書類が必要です。具体的には、現在の氏名と旧姓の両方が記載されている戸籍謄本(または抄本)や、旧姓が記載された住民票などがこれにあたります。

STEP2:登記申請書を作成する

次に、法務局に提出する登記申請書を作成します。申請書には、役員の氏名を「現氏名(旧氏名のフルネーム)」のように、戸籍上の氏名の後に旧姓をカッコで併記する形で記載します。

例:鈴木花子(高橋花子)

STEP3:法務局へ登記を申請する

必要書類が準備できたら、会社の本店所在地を管轄する法務局へ登記を申請します。申請後、1週間から2週間程度で登記が完了し、登記事項証明書に旧姓が併記されます。

法人登記で旧姓併記する際の必要書類とは?

旧姓併記の登記で必要となる書類は、どの登記手続きと同時に申請するかによって異なります。ただし、いずれの場合でも共通して求められるのは「旧姓を証明する書類」と「登記申請書」です。

共通して必要な書類

  • 登記申請書:役員の氏名を「現在の氏名(旧氏名)」の形式で記載します。
  • 旧姓を証明する書面:以下のいずれか一点が必要です。
    • 旧姓が記載された戸籍謄本・抄本
    • 旧姓が記載された住民票
    • その他(婚姻前の戸籍である除籍謄本など)
  • 委任状:司法書士などの代理人に登記申請を依頼する場合に必要です。

ケースに応じて必要となる書類

上記の共通書類に加えて、主となる登記手続きに応じた書類が必要になります。

  • 役員の就任・重任登記の場合
  • 氏名変更登記の場合
    • 氏名の変更経緯がわかる戸籍謄本
  • 会社設立登記の場合
    • 定款
    • 資本金の払込証明書
    • その他、設立登記に必要となる書類一式

参照:商業・法人登記の申請書様式|法務省

【ケース別】旧姓併記の登記申請方法

旧姓併記は、他の登記と同時に申請することができます。また、登記のタイミングに関わらず「旧氏併記の申出」として単独で行うことも可能です。ここでは、よくあるケースごとに、手続きのポイントを解説します。

会社設立・役員就任と同時に申請する場合

会社の設立登記や、新たに役員として就任する登記と同時に、旧姓併記を申請するケースです。設立登記申請書や変更登記申請書の役員氏名欄に、旧姓を併記した形で記載し、必要な添付書類をまとめて提出します。

役員の重任と同時に申請する場合

役員の任期が満了し、再任(重任)する登記と同時に、旧姓併記を申請するケースです。役員の重任登記の申請書に、氏名を旧姓併記の形で記載し、重任に必要な書類とあわせて提出します。

結婚などによる氏名変更と同時に申請する場合

在任中の役員が結婚などで姓が変わったため、その氏名変更登記と同時に、旧姓として婚姻前の氏を併記するケースです。この場合、「役員の氏名変更」と「旧姓の併記」を一つの申請書で同時に行います。

すでに役員として登記され、後から旧姓のみを追加する場合

すでに現在の氏名で役員として登記されている状態から、後から旧姓の併記のみを追加するケースです。これは「役員の氏名変更」の一種として扱われ、変更後の氏名を「現在の氏名(旧姓)」とする登記申請を行います。

字体や通称名など氏名の登記で注意すべきことは?

役員の氏名を登記する際には、旧姓併記以外にも、漢字の字体や通称名の使用など、いくつかの注意点があります。基本的には、戸籍に記載された法律上の氏名をそのまま登記するのが原則です。本人の希望や状況に応じて、一定の条件を満たしたうえで柔軟な対応が認められるケースもあります。

漢字の字体は俗字と正字のどちらで登記するか

取締役の氏名に使われる漢字に、いわゆる旧字や異体字(俗字)が含まれる場合、本人の意思で、戸籍どおりの正字でも、一般に通用する俗字でも登記できる場合があります。 たとえば、「髙橋」さんと「高橋」さんのように、株主総会議事録や就任承諾書などの添付書類の記載と一致していれば、どちらの表記でも登記は受理されるのが通常です。氏名の表記は本人にとって重要な事項であるため、どちらで登記するかは、事前に本人の希望を確認しておきましょう。

外国籍役員の氏名のミドルネームや表記方法

外国籍の役員が就任する場合、ミドルネームを登記に含めるか、また氏名の区切りをどうするかなどを事前に確認する必要があります。 ミドルネームを省略して登記することも、含めて登記することも可能です。また、ファーストネームとラストネームの間をスペースで空けるか、「・」(ナカグロ)で区切るかといった表記方法も、本人と確認の上、統一した記載を心がけます。とくに中国籍の方の場合など、登記に使用できない漢字が氏名に用いられていないかも、あわせて確認が必要です。

通称名の使用はできるか

戸籍上の氏名だけでなく、住民票に通称名が記載されている場合は、その通称名で役員登記を行うこともできます。 これは、とくに日本で活動する際に通称名を用いている外国籍の方などが該当します。重要なのは、その通称名が住民票などの公的な書類に裏づけられていることです。単なるビジネスネームやニックネームで登記することはできません。

旧姓併記の登記に関連する書類の氏名表記はどうする?

旧姓併記の登記を行う際、それに伴い作成する社内書類や、対外的な名刺などでの氏名の表記をどうすればよいか、迷うこともあるでしょう。ここでは、登記関連書類と、一般的なビジネスシーンでの氏名表記の考え方を解説します。

登記申請の添付書類も表記を統一する

旧姓併記の登記を申請する際は、添付書類となる議事録や就任承諾書なども、登記簿に記載する氏名、たとえば「鈴木花子(高橋花子)」のように、戸籍姓と旧姓を併記した表記に統一しておくと、手続きがスムーズに進みます。

登記申請の際に整合性をとっておくとよい主な書類は、以下のとおりです。

  • 会社設立時
    • 定款(設立時役員を定款で定める場合)
    • 設立時役員の就任承諾書
  • 設立後
    • 役員選任の株主総会議事録
    • 代表取締役選定の取締役会議事録や互選書
    • 役員の就任承諾書

名刺やウェブサイトでの氏名表記

登記簿に旧姓を併記した場合でも、名刺や会社のウェブサイト、パンフレットなどには、旧姓のみを記載して問題ありません。 法的な本人確認が必要な場面では、登記事項証明書によって「戸籍姓」と「旧姓」が同一人物であることが証明されます。そのため、日常的なビジネス活動においては、これまで通り旧姓を名乗ることも、これから旧姓を積極的に使用することも、どちらでも可能になります。むしろ、そのために旧姓併記の登記をしておく、という側面が強いといえるでしょう。

法人登記の旧姓併記でよくある質問Q&A

旧姓併記に関して、多くの人が抱くさらに細かい疑問について、Q&A形式で回答します。

旧姓のみで登記することはできる?

いいえ、旧姓のみで役員登記をすることはできません。日本の法律では、会社の役員として登記される氏名は、戸籍上の氏名であることが原則です。旧姓併記は、あくまでその戸籍上の氏名に、旧姓を「併記(付け加える)」する制度です。

旧姓併記の登記を削除(抹消)することはできる?

はい、併記した旧姓を、後から登記記録から削除することも可能です。「旧姓での活動をやめた」「やはり戸籍姓に統一したい」といった理由で、旧姓の併記が不要になった場合は、法務局に対して旧氏の記録を希望しない旨の申出を行うことで、登記簿上の氏名を戸籍上の氏名のみの記載に戻すことができます。

離婚して旧姓に戻った場合、併記はどうなる?

離婚などにより、戸籍上の氏が、登記簿に併記していた旧姓に戻った場合は、役員の氏名変更の登記申請を行います。この登記により、登記簿上の役員氏名は旧姓(新しい戸籍姓)のみのシンプルな表記に戻り、併記されていたカッコ書きの旧姓はなくなります。

旧姓併記と印鑑証明書の関係は?

個人の印鑑証明書は、市区町村に登録された戸籍上の氏名で発行されます。そのため、旧姓併記の登記をしても、個人の印鑑証明書の氏名が旧姓併記の形に変わるわけではありません。登記申請などで印鑑証明書を添付する際は、戸籍上の氏名が記載されたものを使用します。

不動産登記の旧姓併記とは違う?

不動産登記(土地や建物の登記)においても、所有者の氏名に旧姓を併記する制度があります。目的は似ていますが、法人登記とは根拠となる法律や手続きが異なります。

参照:所有権の登記名義人への旧氏(旧姓)の併記について(不動産登記関係)|法務省

費用はどれくらいかかる?

旧姓併記の登記そのものに追加の登録免許税はかかりません。旧姓併記は、会社設立、役員就任、重任、氏名変更といった、何らかの役員変更登記に付随して行います。そのため、必要となる費用は、その主となる登記の登録免許税(資本金1億円以下の会社で1万円)のみです。ただし、戸籍謄本などの取得費用は別途必要になります。

参照:No.7191 登録免許税の税額表|国税庁

法人登記の旧姓併記はキャリアの継続性を公的に示す手続き

法人登記の旧姓併記は、結婚などで姓が変わった後も、仕事で使い慣れた旧姓を公的な書類上で証明できる、働く人にとって心強い制度です。これにより、これまで築き上げてきたビジネス上の信用や実績を、途切れさせることなくアピールできます。

法人登記の旧姓併記の手続きに不安がある場合は、司法書士などの専門家に相談することも有効な選択肢です。


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