• 作成日 : 2025年9月16日

通所介護(デイサービス)の創業融資を成功に導くためのポイントを徹底解説

高齢化が進行する日本において、地域社会を支える通所介護(デイサービス)の役割はますます重要になっています。しかし、質の高い介護サービスを提供するための施設準備や人材確保には、多額の開業資金が不可欠です。多くの方が「創業融資の審査は厳しいのではないか」「自己資金はどれくらい準備すれば良いのか」といった資金調達に関する悩みを抱えています。

この記事では、通所介護事業の立ち上げを検討している方へ向けて、創業融資を成功させるための具体的な知識と、各種融資制度の仕組みを分かりやすく解説します。

通所介護の創業融資が厳しいと言われる理由

通所介護の創業融資は、他業種と比べて事業計画の具体性や実現可能性がより重視される傾向があります。その背景には、介護事業特有の事業構造が関係しています。

初期の運転資金が必要

介護事業の主な収入源は、サービス提供から約2ヶ月後に入金される介護報酬です。このため、開業直後はまとまった収入がない期間が発生します。人件費や家賃などの経費は毎月発生するため、この期間を乗り切るための十分な運転資金を確保しているかが、審査で厳しく見られる点です。

多額の設備投資が必要

デイサービスの開業には、バリアフリー対応の物件改修費、送迎用車両、入浴設備、機能訓練機器など、多額の初期投資が必要です。これらの投資を回収し、安定した経営を続けられるかどうかの事業計画の具体性が問われます。特に、介護施設の設立には相応の資金力が求められます。

介護業界での経験や知識が求められる

融資担当者は、経営者に介護業界での経験や知識があるかを重視します。未経験者の場合、なぜこの事業を立ち上げるのか、どのようにして専門性を補うのかを明確に説明できなければなりません。利用者獲得の見込みや人員配置計画など、絵に描いた餅ではない、実現可能性の高い事業計画が求められます。

通所介護事業の収益の仕組み

融資審査では「どの前提でいくら売上になるか」を数式で示すことが重要です。

主な収益は介護保険の介護報酬(基本報酬+加算-減算)で、介護報酬は単位制(1単位=10円が基本)をベースに、地域区分とサービス別の人件費割合で単価が補正されます。

したがって売上は、概ね以下で構成されます。

売上=延べ利用回数×{基本単位+各種加算-減算}×(1単位の地域補正後単価)+利用者自己負担(1~3割)+保険給付外収入(例:食費・日常生活費・任意の自費サービス)

地域補正と人件費割合は単価に直結するため、所在地ごとの単価前提を計画に明示します。

通所介護事業の立ち上げで活用できる主な融資制度

通所介護の開業資金を調達する方法は一つではありません。それぞれの融資制度には特徴があり、ご自身の事業規模や状況に合わせて最適なものを選択することが重要です。ここでは代表的な3つの制度を紹介します。

日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金

政府系金融機関である日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、創業者への支援に積極的な融資制度です。2024年4月の制度改定により、これまで求められた自己資金の要件が撤廃され、新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方は、原則として無担保・無保証人で利用できるようになりました。

日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、民間金融機関に比べて有利な条件での資金調達が期待できるため、多くの事業者が最初に検討する選択肢です。

参考:新規開業・スタートアップ支援資金|日本政策金融公庫

地方自治体の制度融資

都道府県や市区町村が、地域の金融機関や信用保証協会と連携して提供している融資制度です。自治体が利子の一部を負担(利子補給)してくれる場合があるため、低金利での借入が期待できます。お住まいの地域の自治体でどのような制度があるか、事前に確認しておくと良いでしょう。

福祉医療機構の福祉貸付事業

独立行政法人福祉医療機構が実施する「福祉貸付事業」も選択肢の一つです。社会福祉法人が運営する介護施設などを対象とした長期・固定の低利な融資で、大規模な施設整備に適しています。ただし、融資対象となる要件が細かく定められているため、小規模デイサービスの立ち上げには該当しないケースもあります。

参考:福祉貸付事業|福祉医療機構

通所介護の融資審査を通過する事業計画書のポイント

融資審査において、事業計画書はあなたの事業への熱意と実現可能性を伝えるための設計図です。説得力のある計画書を作成するために、以下の点を明確にしましょう。

明確なコンセプト

「どのようなデイサービスを作りたいのか」を具体的に示すことが大切です。例えば、リハビリに特化した「リハビリ特化型デイサービス」や、定員10名程度の家庭的な雰囲気の「小規模デイサービス」など、コンセプトを明確にすることで、ターゲット層や提供するサービスの独自性が伝わりやすくなります。

現実的な収支計画

開業に必要な資金(設備資金・運転資金)を正確に算出し、それをどのように調達し、返済していくのかを数字で示します。特に、利用者の見込み人数や稼働率を段階的に設定し、現実味のある売上予測を立てることが重要です。資金繰り表を作成し、開業後のキャッシュフローをシミュレーションしておきましょう。

自己資金の準備

自己資金は、事業に対する本気度を示す指標の一つと見なされます。一般的に、創業資金の10%以上の自己資金を準備していることが目安とされています。計画的に資金を準備してきた姿勢は、金融機関からの信頼を得る上でプラスに働きます。

競合分析と差別化戦略

事業所の開設予定地周辺にある競合の介護施設を調査し、その強みと弱みを分析します。その上で、自社のデイサービスが提供できる独自の価値は何かを明確に打ち出します。サービスの質、料金設定、雰囲気づくりなど、他にはない魅力をアピールすることで、事業の成功確率が高いと判断されやすくなります。

通所介護事業で使える返済不要の助成金・補助金

国や地方自治体は、介護事業の立ち上げや運営を支援するための助成金や補助金制度を設けています。例えば、従業員の雇用に関するキャリアアップ助成金や、介護労働者の労働環境改善を目的としたものなど様々です。これらの資金は原則返済不要であり、経営上の大きな支えとなります。

確実な準備で、通所介護の創業融資を実現しよう

通所介護、すなわちデイサービスの創業融資は、介護事業特有の収益構造や初期投資の大きさから、確かに簡単な道ではありません。しかし、厳しいとされる審査も、その理由を正しく理解し、ポイントを押さえた対策を講じることで乗り越えることは十分に可能です。

日本政策金融公庫や制度融資といった融資制度を比較検討し、ご自身の事業に最適なものを選択してください。そして、差別化されたコンセプトと、数字に裏付けされた現実的な事業計画書を作成することが、融資担当者の信頼を得るための第一歩です。助成金の活用も視野に入れながら堅実な資金計画を立て、地域に必要とされる介護事業の開業を実現させてください。


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