- 作成日 : 2025年8月19日
日本政策金融公庫の融資を踏み倒すリスクとは?返済困難時の正しい対処法を解説
日本政策金融公庫の融資は、創業支援や経営安定のために心強い存在です。しかし一方で、「踏み倒し」という行為は軽視できるものではありません。返済の放置や延滞は、法的措置や信用失墜といった深刻な事態を招き、今後の資金調達に大きな障害となります。
本記事では、日本政策金融公庫の役割や融資の特徴、踏み倒しによるリスクや返済困難時の対処、信用情報への影響などを解説します。
目次
日本政策金融公庫の役割と融資の特徴
日本政策金融公庫は、創業や中小企業の経営支援を目的として設立された政府系の金融機関であり、国の政策に基づき、民間の金融機関では対応が難しい分野への資金供給を通じて、日本経済の活性化に貢献しています。創業企業や事業再生に取り組む企業に対し、リスクマネーの供給やセーフティネット機能の役割を担っています。その特徴は、創業者にとって利用しやすい条件や、困ったときに頼れる柔軟な返済制度にあります。
創業支援としての役割
日本政策金融公庫の最大の役割のひとつが、創業時の資金調達を支援することです。「新創業融資制度」では、担保や保証人がなくても融資を受けられる仕組みが整えられており、創業直後で信用実績が十分でない企業でも利用可能です。さらに金利は民間よりも比較的低く、据置期間を設けることで事業が軌道に乗るまでの時間的猶予を確保できます。この制度を活用して、多くの企業が初期投資や運転資金を調達しています。
社会的危機に対応ができる
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者への支援として実施された「ゼロゼロ融資(日本政策金融公庫の新型コロナウイルス感染症特別貸付や、民間金融機関による実質無利子・無担保融資等)」も、日本政策金融公庫の柔軟な対応力の例です。この制度では、日本政策金融公庫による貸付は実質的に無利子であり、また民間金融機関による融資は信用保証協会の保証を前提に実質無利子・無担保という異例の条件で、幅広い業種に対して迅速な融資が行われました。
緊急時に中小企業の資金繰りを支える仕組みを備えている点は、政府系金融機関ならではの特徴です。
返済が困難なときの対応策が柔軟
公庫の融資は借入金であるため、返済の義務がありますが、状況に応じて柔軟な見直しが可能です。経営が厳しくなった場合には、返済猶予や返済額の減額といったリスケジュールに応じてもらえるケースがあります。これにより、事業を継続しながら返済していける仕組みが整っており、多くの中小企業が再起に向けた時間を確保しています。ただし、原則として債務の免除は行われず、返済不能な状態でも公庫と協議の上で方針を決める必要があります。公的融資であるがゆえに、返済を放棄する選択肢は基本的に存在しないのです。
金融における「踏み倒し」の意味とは
「踏み倒し」という言葉は日常的に使われますが、金融の文脈では返済を履行しない「債務不履行」に該当します。日本政策金融公庫との融資契約において返済が遅延すると、契約上「期限の利益」を失い、分割で返す権利がなくなります。結果として、残りの借入金全額と未払い利息、さらには遅延損害金が一括で請求されることになります。公庫では返済期日を1日でも過ぎると、借入の種類や契約内容に応じた所定の利率(原則として年8.7%)で遅延損害金が発生し、日割りで加算されていきます。延滞を放置すればするほど負担は増し、やがて法的措置に発展するおそれもあります。「踏み倒す」ことは法的・経済的に非常に大きなリスクを伴う行為であり、返済が困難な場合は、早期に相談して対策を講じることが求められます。
日本政策金融公庫からの借入は踏み倒し可能?
「公的な融資だから返済しなくても大丈夫」と考える方がいますが、日本政策金融公庫からの借入において、返済免除という選択肢はほとんど存在しません。返済が困難な場合には、適切な対応を取ることで支援を受けられる可能性がありますが、債務自体が帳消しになることは原則ありません。
返済免除・債務帳消しは原則認められていない
日本政策金融公庫の融資は、国の予算を原資としており、貸付金の回収は厳格に求められています。そのため、民間のローンと同様、借りた資金は必ず返済しなければなりません。経営が悪化して返済ができなくなった場合であっても、返済免除が認められることは基本的にありません。
ただし、返済困難な利用者に対しては一定の配慮があります。たとえば返済期限を延長する「リスケジュール」や、毎月の元金返済額を一時的に減額する措置などが制度として用意されています。これにより、経営の立て直しに必要な時間を確保しつつ、少しずつ返済を継続する道を選ぶことが可能です。とはいえ、これらの措置はあくまで「返済前提」のものであり、元本自体が減額されたり免除されたりするわけではありません。
さらに、極めて深刻な場合には、法人の破産や個人保証人の自己破産という選択を余儀なくされることもあります。破産手続きを経れば、法人の債務は消滅しますが、個人が連帯保証をしている場合には、別途その債務が個人に残る可能性があります。最終的に個人も破産すれば免責を得られる可能性はあるものの、その代償として信用や財産を大きく失うことになります。また、破産後は新たな事業活動に制限がかかることもあるため、経営者にとっては重い決断です。公庫も倒産や破産は避けるべき結果と捉えており、できる限り返済条件の変更などを通じて支援を行う姿勢を示しています。
日本政策金融公庫からの融資を踏み倒すリスク
融資を踏み倒すという行為は、返済を行わないことにとどまらず、さまざまな法的・経済的な不利益を引き起こします。日本政策金融公庫からの借入金を返済しないまま放置した場合、どのような結末に至るのかを解説します。
返済遅延時の督促と延滞利息の発生
日本政策金融公庫では、返済期日を過ぎた場合、比較的早期に支払いの督促が行われます。初期段階では、電話や郵送による連絡が中心で、担当者から現状の確認と、返済計画の再調整についての提案がなされます。この段階で真摯に対応すれば、返済猶予や分割額の見直しといったリスケジュール対応に応じてもらえる可能性があります。
しかし、この督促を無視したまま滞納を続ければ、事態は次第に悪化していきます。返済期日を過ぎた時点からは、契約で定められた遅延損害金が発生します。日本政策金融公庫の場合、遅延損害金は年8.7%とされており、返済予定日の翌日から日割りで加算されます。この利息は元本とは別に発生し、返済が遅れるほど総返済額が膨らんでいくことになります。たとえ一時的な資金不足であっても、できるだけ早く公庫に相談し、条件変更を申し出ることが重要です。
長期延滞による代位弁済や訴訟への発展
延滞が長期にわたり、督促にも応じない場合、日本政策金融公庫は債権回収のために法的措置を講じることになります。多くのケースでは、融資に信用保証協会などの保証人が付いており、債務者が返済不能となった場合、代わりに保証人が支払いを行う「代位弁済」が実行されます。
代位弁済が行われた場合、公庫への返済義務は消滅しますが、債務そのものがなくなるわけではありません。その後は、保証協会などの保証人から、立替えた債務全額を一括で返済するよう求められることになります。これは、支払いの逃れ道ではなく、債権者が変わるだけに過ぎないのです。
保証人のいない融資の場合でも、一定期間延滞が続くと、日本政策金融公庫は「期限の利益喪失」を宣言し、残債の一括返済を求めてきます。これに応じられない場合、訴訟が提起され、裁判所を通じて支払命令(債務名義)を取得されます。最終的には、この債務名義に基づいて強制執行、すなわち財産の差押えが行われることになります。
差押えや信用失墜といった最終的な影響
裁判を経て強制執行の許可が出されると、債務者の資産に対して差押えが実行されます。差押えの対象は預金口座の残高や給与、不動産、自動車といった現金化できる資産全般です。これは法人に限らず、個人保証を行っていた経営者にも及ぶもので、保証人が債務者に対して訴訟を起こし、執行に至ることもあります。
強制執行によって財産が処分されれば、事業の継続はほぼ不可能になります。さらに、こうした事態に至れば、金融機関から「信用不能」と見なされるのは避けられません。日本政策金融公庫は信用情報機関と連携しており、融資における延滞履歴や代位弁済の事実は記録されます。その結果、次回の融資審査の際には「リスクが高い債務者」として判断され、新たな融資が極めて難しくなるのです。
過去に公庫融資で踏み倒しや代位弁済が発生した場合、新たに別法人を設立して申し込んだとしても、同一人物であることが確認されれば、その信用情報が審査に大きく影響し、新たな融資の実行が極めて困難になる可能性が高いです。つまり、踏み倒しを選ぶことで得られるものはなく、失うものばかりが増えていくという現実が待っています。
信用情報への傷は事業の継続や再起にも大きな壁となります。今後新たに資金調達を試みても、その履歴が足かせとなってしまい、金融機関からの支援を受けることは非常に困難になります。信用を失えば、事業そのものが成り立たなくなる可能性もあるのです。したがって、返済に困ったときには「踏み倒す」選択ではなく、早期に公庫や専門家に相談し、再建の道を探るべきです。
日本政策金融公庫からの融資を返済困難な場合の対処方法
返済が難しくなったとき、最も避けるべきなのは「無視」や「放置」です。日本政策金融公庫では、返済が困難な借り手に対して、支店ごとに返済相談窓口を設けています。ここでは、現在の資金状況を伝えることで、返済計画の見直しや条件緩和などについて具体的な提案を受けられます。
たとえば、コロナ禍で返済が滞った事業者に対しては、「セーフティネット貸付(特定の経営悪化に対応)」の拡充や、「新型コロナウイルス感染症特別貸付」、そして「コロナ借換保証」などの制度が整備されています。これらは、既存の債務を新たな融資で再構成することによって、返済期間の延長や月々の返済額の軽減を実現する制度です。
相談の際には、公庫の担当者に対して現状を正直に説明することが重要です。隠し事をしたり、連絡を避けたりすることで信用を損ねれば、適切な支援が受けられなくなる可能性もあります。日本政策金融公庫は営利企業ではなく、社会的使命として中小企業の支援を行っているため、誠意を持って相談すれば柔軟な対応を受けられることが少なくありません。
また、公庫の担当者ができるのは主に融資条件の調整に限られるため、経営改善については中小企業診断士や税理士などの専門家にアドバイスを求めることが望ましいです。専門家の力を借りて収支改善の計画を立てれば、猶予期間中に実効性のある対策を講じて、最終的な完済へと近づけます。
日本政策金融公庫からの融資トラブルは信用情報へ影響する?
融資トラブルを放置すると信用情報に悪影響が及び、将来の資金調達が困難になります。このセクションでは、信用情報に記録される内容とその影響、さらに信用を回復するための対策について説明します。
信用情報に登録される内容
日本政策金融公庫からの融資において、返済遅延や代位弁済が発生すると、信用情報機関にその事実が登録されます。信用保証協会が代位弁済を行った場合、その立替記録が公的な債務履歴として残ります。こうした情報は、公庫だけでなく民間金融機関の審査にも反映され、結果として新たな融資申請の際に大きな不利となります。
融資審査に影響を与える
信用情報にネガティブな情報が記載されていると、金融機関は申込者に対して慎重な姿勢を取ります。たとえ法人名義を変えて再申請したとしても、代表者が同じであれば審査時に過去の履歴が参照される可能性があります。延滞や代位弁済などがある場合には、「返済能力に問題がある」と判断され、新規融資はほぼ通らなくなると考えた方が良いでしょう。
信用の回復には努力が必要
一度損なわれた信用を回復するためには、まず未払い債務に対して誠実に対応することが欠かせません。公庫や保証協会に相談し、返済計画の再設定やリスケジュールを申し出た上で、その計画を確実に履行していく必要があります。完済までの継続的な返済実績が積み重なれば、一定期間の経過後に信用情報が更新・削除され、徐々に評価が改善されていきます。
また、外部の専門家(中小企業診断士や税理士など)と連携して経営改善計画を策定し、その内容をもとに将来的な融資希望時に説明責任を果たす体制を整えておくことも、信用回復に向けた大切な取り組みです。
踏み倒しではなく、正しい対処こそが信用と事業を守る
日本政策金融公庫の融資は、創業支援や経営改善を支える大きな制度的支柱である一方、借入である以上、返済義務は免れません。踏み倒しを選べば、法的措置や信用情報への悪影響、さらには再起不能となる深刻なリスクが伴います。返済が困難になった場合こそ、公庫との誠実な対話と、専門家の支援による経営再建が重要です。将来の信用を守り、事業を継続するためにも、適切な判断と行動が不可欠です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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