- 作成日 : 2025年3月27日
人材派遣事業の許認可とは?要件や申請方法、個人の場合を解説
人材派遣事業を開業するには許可が必要です。許可を受けるためには、派遣元責任者講習を受講して派遣元責任者の資格を修得した上で、厚生労働省から労働者派遣事業許可を取得しなければいけません。
本記事では、人材派遣事業の許可要件や申請方法、個人事業主の申請可否等を解説します。
目次
人材派遣事業の許認可とは?
人材派遣事業を開業するには、事前に取得が必要な許可や資格があります。資格に関しては実務経験が必要なため、計画的に準備することが必要です。
ここでは、人材派遣事業の開業に必要な許可や資格の概要を確認していきましょう。
派遣元責任者の資格
人材派遣事業を開業するには、派遣元責任者講習を受講して派遣元責任者になる必要があります。
人材派遣事業者は、派遣労働者の適切な雇用管理や保護を図るために派遣元責任者を選任して配置しなければいけません。派遣労働者の具体的な業務内容には、派遣先との連絡調整や派遣社員からの苦情処理、派遣元管理台帳の作成等が挙げられます。
ただし、実際に派遣元責任者として働くには、3年以上の雇用管理経験が必須です。
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等
参考:日本人材派遣協会 派遣元責任者講習
労働者派遣事業の許可
人材派遣事業を開業するには、派遣元責任者の資格を得るだけでなく、「労働者派遣事業許可」と呼ばれる厚生労働省の許可が必要です。
2015年の労働者派遣法の改正により、すべての人材派遣事業者に許可の取得が義務化されました。労働者派遣事業許可を受けるには、資産や派遣元責任者、事務所の広さや立地、事業運営、個人情報の管理に関する要件を満たす必要があります。
初回は3年、それ以降は5年ごとに更新が必要で手続きをしないと事業を継続できません。
参考:厚生労働省 第2申請・届出等の手続
参考:厚生労働省 労働者派遣事業の許可制について
参考:厚生労働省 平成27年労働者派遣法の改正について
人材派遣業と人材紹介業の許認可の違い
人材派遣業は、実際に仕事をする企業と雇用契約を結ぶ企業が異なるサービスです。派遣社員は人材派遣会社に登録し、派遣先が決まると人材派遣会社と雇用契約を結んで就業します。派遣先企業は、派遣会社との間で労働者派遣契約を締結します。
人材紹介業は、仕事を探す求職者と人材を探す企業をマッチングするサービスです。求職者は企業と直接雇用契約を結ぶため、入社後の給与や勤怠は契約を結んだ企業が管理します。人材紹介業は、直接雇用による長期雇用を前提としているのが特徴です。
人材派遣業と人材紹介業はどちらも、本店所在地を管轄する都道府県の労働局に必要書類を提出して許可を得る必要があります。
人材派遣業の許可を取るための要件
人材派遣業の許可を得るには要件を満たす必要があります。それぞれの要件を確認していきましょう。
事務所の広さは20㎡以上
事務所の広さに関する要件として、20㎡以上の面積を確保する必要があります。
事業に関係ない部分は含まれないため、実際の事業所の総面積はもう少し大きくなることが多いです。事務所の広さは労働局による実地調査で確認されるため、確実に要件を満たす必要があります。また、事務所の広さに関する要件を満たしても、風俗営業や性風俗特殊営業等が密集する場所に位置する場合は不適当だと判断される可能性が高いです。
申請する前に、入居予定の周辺に該当する店舗がないか確認しましょう。
資産の基準は2,000万円以上
資産に関する要件として、基準資産額が2,000万円以上であることが明記されています。
基準資産額とは、資産総額から負債総額を差し引いた純資産です。事業の許可申請や登録要件として定められることが多く、企業の財務状況を評価する指標として使われています。正しい算出方法で基準資産額を求め、資産の基準を満たすことが必要です。
なお、複数の事業所を同時に設立する場合も、基準資産額は合算できません。事業所ごとに基準資産額が2,000万円以上の要件を満たす必要があります。
派遣元責任者の配置
人材派遣業の許可を得るには、事業所ごとに派遣元責任者を選任して配置しなければいけません。
派遣元責任者を選任するのは、適正な雇用管理を確保するためです。派遣元責任者数は、派遣労働者100人に対して1人以上を配置することが労働者派遣法で定められています。派遣労働者が150名の場合、2名の派遣元責任者の選任が必要です。
なお、選任する派遣元責任者は、以下の要件を満たす必要があります。
- 3年以上の労務管理経験がある
- 派遣元責任者の業務に専任できる
- 3年以内に派遣元責任者講習を受講している
派遣労働者のキャリア形成・教育の制度
人材派遣業の許可を得るには、派遣労働者のキャリア形成を支援する制度を有する必要があります。2015年の労働者派遣法の改正により、派遣労働者のキャリア形成支援制度を有することが、労働者派遣事業の新たな許可基準として定められました。
また、労働者派遣事業許可を申請する場合、キャリア形成支援制度だけでなく、キャリアアップに資する教育訓練の計画を策定する必要があります。キャリア形成支援制度の教育訓練は、キャリアアップに資する内容のものである必要があります。
参考:厚生労働省 派遣労働者のキャリア形成支援のために
参考:厚生労働省 労働者派遣事業を行うにあたっては、 派遣労働者のキャリアアップのため、 教育訓練計画を策定してください。
個人情報の管理
労働者派遣事業の許可を得るには、派遣労働者の個人情報を適正に管理する「個人情報適正管理規定」を作成して提出する必要があります。
具体的な措置内容は、以下のとおりです。
- 個人情報の紛失、破壊及び改ざんを防止する措置
- 個人情報は正確かつ最新の状態に保つための措置
- 個人情報へのアクセス権限を設定する措置
企業は、派遣労働者からの求めに応じて個人情報適正管理規定を開示し、その措置内容を説明する義務があります。
個人情報適正管理規定の詳細は、厚生労働省が発行している要件を確認してください。
相談窓口の設置
人材派遣業は、派遣労働者のキャリア形成を支援するための相談窓口の設置が義務付けられています。
相談窓口の担当者は特定の資格を取得する必要はありませんが、派遣労働者を適切に支援するには、キャリアコンサルティングに関する知見が必要です。
【相談窓口の設置事例】
本社に相談窓口を設置し、有資格者を配置してキャリアコンサルティングを実施します。地方在住の派遣労働者を考慮して電話相談にも対応しました。
「専ら派遣」を目的としない
「専ら派遣」を目的とした人材派遣業は、労働者派遣法で禁止されています。
専ら派遣とは、人材派遣業が自社と関わりが深い特定の企業やグループ企業のみに人材を派遣することを指します。専ら派遣が禁止されているのは、賃金が安い派遣社員ばかりを迎え入れて、正規社員の雇用機会が奪われることを阻止するためです。
専ら派遣を規制するため、2012年に改正された労働者派遣法では、グループ企業への派遣割合を8割以下に抑えることが義務付けられました。
参考:厚生労働省 労働者派遣事業の許可の要件
参考:厚生労働省 労働者派遣事業の許可制について
人材派遣業の許可が受けられない事由
以下の欠格事由に該当する場合は、労働者派遣事業の許可が受けられない可能性があります。
欠格事由には、以下のようなものがあります。
- 禁錮以上の刑、または労働者派遣法違反等により罰金刑に処せられ、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
- 許可取消し日から起算して5年を経過しない者
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
- 暴力団員等がその事業活動を支配する者など
労働者派遣事業の許可を受けた後でも、上記の欠格事由に該当することが判明した場合は許可が取り消されます。
欠格事由について詳しく知りたい方は、厚生労働省のサイトで確認してください。
参考:厚生労働省 2 欠格事由
参考:厚生労働省 労働者派遣事業の許可制について
人材派遣業の許可は個人事業主でも受けられるか
個人事業主でも人材派遣業の許可は受けられますが、一定の要件を満たす必要があります。
なお、人材派遣業を小規模に営む場合には、資産額の要件が大幅に緩和されています。人材派遣業は許可制でありながら、資金力が低い個人事業主や小規模事業者でも比較的参入しやすいといわれる所以です。
一方で、人材派遣業は事業者が多く飽和状態であることは間違いありません。人材市場のニーズを見極めて他社と差別化するなど戦略的に運営していくことが必要です。
人材派遣業の許可申請の手続き
ここからは、労働者派遣事業の許可申請の流れ・手続きについて詳しく解説します。
労働者派遣事業の許可に必要な書類
労働者派遣事業の許可を得るには、以下の申請書・計画書を作成する必要があります。
- 労働者派遣事業許可申請書
- 労働者派遣事業計画書
- キャリア形成支援制度に関する計画書
また、審査に必要な定款や登記簿謄本等の必要書類を添付し、各都道府県の労働局に提出します。この段階で、担当者による事業所の現地調査が実施されることが多いです。
労働局による調査が終わると、厚生労働省の審査、労働政策審議会の意見聴取が行われて最終的な可否が決定されます。申請書・計画書に関して不明点がある場合は、労働局の相談窓口で確認しておくと安心です。
労働者派遣事業の許可を確認する方法
労働者派遣事業の許可を得るには、厚生労働省の審査と労働政策審議会の意見聴取を通過しなければいけません。必要書類を各都道府県労働局に提出してから許可審査を通るまで2ヶ月程度で、許可が認められると厚生労働大臣名で許可証が交付されます。
労働者派遣事業の許可は厚生労働省職業安定局「人材サービス総合サイト」で確認できます。
人材派遣業の許可申請にかかる費用
労働者派遣事業の許可申請には、以下の申請手数料がかかります。
- 登録免許税:9万円
- 許可手数料:12万円
なお、2事業所目以降は1事業所につき5万5,000円が別途かかります。
2つの事業所がある場合、17万5,000円(12万円 + 5万5,000円)の支払いが必要です。また、手数料に相当する額の収入印紙を貼付する必要があります。なお、人材派遣業の開業時は資本金要件の2,000万円以外に定款認証や法人登記費用もかかります。
項目 | 費用 |
---|---|
資本金 | 2,000万円 |
定款認証 | 認証手数料:5万円 謄本の請求手数料:2,000円前後 収入印紙代:4万円 |
法人登記 | 登録免許税:資本金 × 0.7%(株式会社の場合) 登記簿謄本:600円(書面請求の場合) 印鑑証明書:300円 |
許可費用 | 登録免許税 9万円 許可手数料 12万円 |
人材派遣事業の許認可に関する注意点
ここからは、人材派遣事業の許可制に関する注意点について詳しく解説します。
労働者派遣事業許可は3年ごとに更新が必要
労働者派遣事業許可の有効期間は、初めて許可を受けた日から起算して3年です。
許可の有効期間満了後も引き続き労働者派遣事業を運営したい場合は、労働者派遣事業許可を更新しなければいけません。労働者派遣事業許可の更新に必要な各種書類は、有効期間が満了する日の3ヶ月前までに労働局に提出する必要があります。
なお、更新手続きを得て許可を受けた場合、有効期間は更新日から起算して5年に変更されます。以降継続して人材派遣事業を運営したい場合は、5年ごとに更新する必要があります。
参考:厚生労働省 労働者派遣事業の許可有効期間の更新の手続きについて(法人用)
労働者派遣事業許可が取り消されることも
労働者派遣事業許可の取り消しとは、労働者派遣法に基づいて適切に運営していないと判断された場合に行われる措置です。
許可の取り消しの主な理由は、虚偽の申請や法令違反、不正行為等が挙げられます。労働者派遣事業許可が取り消されると事業継続が難しくなり、派遣労働者の雇用に影響を与える可能性が高いです。労働者派遣法に基づいた運営と適切な労働環境の整備が求められます。
人材派遣事業の許認可は計画的に進めよう
人材派遣事業を開業するには、厚生労働省から労働者派遣事業許可を得なければいけません。ただし、労働者派遣事業許可を得るには、事業所の面積や資産基準、派遣元責任者の配置等の要件をすべて満たす必要があります。
とくに、派遣元責任者になるには3年以上の雇用管理経験が必要です。人材派遣事業の開業を円滑に進めるために、計画的に準備を進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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