- 作成日 : 2025年2月27日
フリーランスエンジニアが法人化すべき目安は?メリット・デメリットも解説
フリーランスエンジニアが法人化すべきかどうかは、売上高や所得金額、おかれた状況などによって異なります。個人と法人では、そもそもどのような面が異なるのでしょうか。フリーランスエンジニアが法人化するメリットやデメリット、法人化の目安などについて解説します。
目次
フリーランスエンジニアが法人化を検討すべき目安
個人事業主であるフリーランスエンジニアと法人にはさまざまな違いがあります。主な違いは、下記の通りです。
フリーランス | 法人 | |
---|---|---|
社会的信用 | 低い | 高い |
責任の範囲 | 無限 | 有限 |
社会保険 | 国民健康保険・国民年金など | 健康保険・厚生年金保険 |
決算期 | 選べない (毎年1月1日から12月31日) | 選べる |
経費計上の範囲 | 法人より狭い | フリーランスより広い |
なお、フリーランスエンジニアが法人化を検討すべきタイミングは、状況によって異なります。以下の表は所得税と法人税を比較した表です。所得税と法人税を単純に比較した場合、中小企業であれば330万円を超えたあたりから所得税と法人税の税率が逆転することがわかります。
ただし、所得税と法人税の税率のみの比較であることに注意が必要です。実際には、ほかに発生する税金や社会保険の加入による負担の変化、会計処理が複雑化することによる専門家への報酬など、複数の観点から検討していく必要があります。詳しく計算したい場合は、税理士などの専門家に相談されることをおすすめします。
課税所得 | 所得税の税率 | 法人税の税率 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 普通法人(株式会社や合同会社など)は23.2% ※資本金1億円以下の中小企業などは年800万円以下の部分については15%または19% |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | |
9,000,000円から17,999,000円 | 33% | |
18,000,000円から39,999,000円 | 40% | |
40,000,000円以上 | 45% |
出典:「No.2260 所得税の税率|国税庁」をもとに作成
出典:「No.5759 法人税の税率|国税庁」をもとに作成
なお、個人事業主の法人化とは、個人事業主を廃業して法人になることです。詳しくは、以下の記事で解説しています。
「個人事業主の会社設立マニュアル!法人化するタイミングは?どっちが得?」
フリーランスエンジニアが法人化するメリット
フリーランスエンジニアが法人化することによる主なメリットを紹介します。
個人事業主よりも経費にできる費用が増える
個人事業主の場合、経費にできるのは、事業に必要な経費のみです。法人についても、事業に関連する経費を計上できることに変わりはありませんが、経費にできる範囲が異なります。
まず、法人の場合、会社の代表者やそのほかの役員に対する報酬は、給与や退職金として経費として適用可能です。出張する場合、会社の規定の範囲内、かつ通常必要と考えられる範囲内であれば、日当も経費として計上できます。経費に算入できるものが増えるため、法人化により節税することも可能です。
有限責任により損害のリスクを分散できる
取引相手に損害が生じたときのリスクを分散できるのも法人化のメリットです。個人事業主の場合は、責任が無限であることから、取引先に損害を与えた場合に多額の賠償金を請求されるリスクがあります。万一の備えとして提供されている民間のサービスが、個人向けの損害賠償保険です。しかし、保険料の負担が生じることになります。
一方、株式会社などの法人は基本的に有限責任です。取引先は、会社に対して損害を請求することはできますが、会社の代表者である個人にまで責任を追及することはできません。個人の資産が保護されることから、損害賠償責任を問われた際のリスク分散ができます。
社会的信用を獲得できる
フリーランスのエンジニアと法人のエンジニアは、社会的信用の面にも違いがあります。社会的信用は、フリーランスよりも法人の方が上です。理由は、法人は、会社設立時に法務局で登記を行うためです。登記事項として、商号(会社名)、事業の目的、会社の所在地、会社の代表者の氏名などが登録されます。登記された事項は、誰でも自由に請求して閲覧することが可能です。会社の存在を登記により確認できることから、個人で活動するよりも、法人で活動した方が社会的信用は得やすくなります。
フリーランスエンジニアが法人化するデメリット
フリーランスエンジニアが法人化することには、デメリットもあります。主な注意点を3つ紹介します。
赤字でも毎年7万円の住民税を納める義務がある
法人は、赤字でも税金を支払う義務があります。赤字でも納付が必要なのは、法人住民税です。個人と法人の住民税の仕組みは異なり、法人は所得にかかわらず、会社の資本金や従業員数に応じて課税される部分があります。赤字で所得がない場合でも、毎年7万円は法人住民税として納めなければなりません。赤字が続くと、税負担の面で、フリーランスよりも法人の方が不利になる可能性があります。
役員報酬を簡単に変更できない
法人は、役員への報酬を給与にできます。しかし、事業の良し悪しによって、役員報酬を頻繁に変更するのは難しくなります。月1回以上支給する役員報酬は、あらかじめ決められた金額でないと、法人の所得を計算する際に損金(法人税法上の経費)に計上できないためです。原則として、株主総会などの決議を念頭に、事業開始から3カ月以内において、年1回の変更は認められています。業績に伴う頻繁な変更や役員などの恣意的な役員報酬の変更は認められていません。
法人の経理や税金の知識が必要となる
個人事業主の場合、簡単な会計処理による記帳も認められていました。しかし、法人化すると、簡易的な記帳は認められなくなり、一般に公正妥当とされる会計手続きで記帳しなければなりません。また、決算業務や税務などの手続きも複雑化します。税理士などの専門家に依頼する場合であっても、会社の経営状況を知るためには、基本的な経理や税金に関する知識が必要です。
フリーランスエンジニアが法人化する方法・流れ
フリーランスエンジニアを法人化するには、以下の流れで行うのが一般的です。
- 会社の基本事項を決める
- 定款を作成し認証を受ける
- 法人設立登記を行う
- 個人の廃業届を行う
- 法人名義の銀行口座を開設する
- 社会保険の加入手続きを行う
法人化の手順は、基本的に会社を設立する手順と同じです。ただし、個人で所有していた資産を法人に移転する手続きや個人事業主の廃業届などの手続きが必要になります。個人事業主の廃業届は、法人設立の届出をすると同時に、税務署で行う手続きです。法人設立日などを廃業日に設定し、個人事業主の廃業を行います。
法人化による資産の移転は、新しく設立する会社に譲渡(売却)するのが一般的です。フリーランスエンジニアの場合、パソコンやパソコン周辺機器などの減価償却資産、そのほか事業に必要な資産などの移転を行います。
個人事業主が会社設立する手順について、詳しくは下記の記事で説明しています。
「個人事業主の会社設立マニュアル!法人化するタイミングは?どっちが得?」
フリーランスエンジニアは法人化でさまざまな面が変わる
フリーランスエンジニアの法人化には、メリットもあればデメリットもあります。例えば、社会的信用を得たいのであれば法人化した方が適切という場合もあります。一方、法人化すると赤字でも税負担が発生することから、売上や利益が少ないうちは、法人化しない方が得策かもしれません。法人化すべきかどうかは、事業者の置かれた状況などにもよるため、専門家に相談するし、適切な方法を見つけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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