- 更新日 : 2025年9月11日
新規開業・スタートアップ支援資金(新規開業資金)とは?日本政策金融公庫の融資制度を解説
新しく事業を始めたい、あるいは事業を始めたばかりで資金調達に悩んでいる。そんな起業家や経営者の方々にとって、日本政策金融公庫の融資制度は力強い味方です。
中でも代表的な「新規開業・スタートアップ支援資金」は、これから起業する方や、事業開始後間もない方を支えるために設計された制度です。以前は「新規開業資金」という名称でしたが、2025年3月から名称が変更され、内容もさらに充実しました。
この記事では、「新規開業・スタートアップ支援資金」の概要から、申し込み方法、審査で重視される点まで詳しく説明します。個人事業主や女性起業家の方も対象となる制度ですので、融資を考えている方はぜひ参考にしてください。
目次
新規開業・スタートアップ支援資金とは
日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、新たに事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした融資制度です。
2025年3月に新規開業資金から名称変更
2024年3月末に「新創業融資制度」が終了し、その機能が「新規開業資金」に統合されました。そして2025年3月、その「新規開業資金」が「新規開業・スタートアップ支援資金」へと名称を変更し、現在の形に至ります。これにより、創業者向けの窓口が一本化され、よりシンプルで分かりやすい制度体系となりました。
新規開業・スタートアップ支援資金の概要
日本政策金融公庫の融資は、幅広い事業者が利用できる「一般貸付」と、国策として重要なテーマに取り組む事業者を支援する「特別貸付」に大別されます。
「新規開業・スタートアップ支援資金」は「特別貸付」に該当し、通常の融資に比べて金利や返済期間などで優遇された条件が設定されています。
- 対象となる方
新たに事業を始める方、または事業を開始しておおむね7年以内の方 - 資金使途
事業を始めるため、または事業開始後に必要となる設備資金や運転資金 - 融資限度額
7,200万円(うち運転資金4,800万円) - 返済期間
- 設備資金:20年以内(うち据置期間5年以内)
- 運転資金:10年以内(うち据置期間5年以内)
- 利率(年)
基準利率が適用されますが、特例の対象となる場合は、さらに低い利率で借入れできる可能性があります。 - 担保・保証人
申込み者の状況に応じて相談の上決定されます。
旧制度(新創業融資制度)からの変更点
「新規開業・スタートアップ支援資金」は、廃止された「新創業融資制度」と比べて、融資の上限額が拡充されています。
融資の上限額が3,000万円から7,200万円(うち運転資金4,800万円)へと大幅に引き上げられ、多様な資金需要に応えられるようになっています。
新規開業・スタートアップ支援資金の利率が下がる特例措置
「新規開業・スタートアップ支援資金」の中でも、特定の要件を満たす方は、基準利率からさらに引き下げられた特別利率で融資を受けられる可能性があります。
1. 女性、若者/シニア起業家支援関連
女性、35歳未満の若者、または55歳以上のシニアが起業する場合、特別利率が適用される優遇措置があります。
新たに事業を始める方、または事業を開始しておおむね7年以内の方で、次のいずれかに該当する方が対象です。
- 女性の方(年齢制限なし)
- 35歳未満の男性の方
- 55歳以上の男性の方
- 基本的な融資限度額や返済期間は、通常の「新規開業・スタートアップ支援資金」と同じです。
- この条件に合致する方は、特別利率Aが適用されます。
- ただし、事業計画の策定と、その計画を遂行する能力が十分にあると認められる必要があります。
参考:新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)|日本政策金融公庫
2. 再挑戦支援関連
過去に事業に失敗した経験があっても、再び起業に挑戦する方を支援するための制度です。
新たに事業を始める方、または事業を開始しておおむね7年以内の方で、次のすべてに該当する必要があります。
- 廃業した経験を持つ個人、またはそうした経営者が運営する法人であること
- 廃業時の負債が、これから始める新しい事業に影響を与えない程度に整理される見込みであること
- 廃業の理由や事情が、やむを得ないものであると認められること
- 過去の事業に関わる債務を返済するための資金も融資の対象に含めることができます。
- 運転資金の返済期間が、他の特例(最長10年以内)よりも長い「15年以内」に設定されている点も特徴です。
参考:新規開業・スタートアップ支援資金(再挑戦支援関連)|日本政策金融公庫
3. 中小企業経営力強化関連
認定経営革新等支援機関と呼ばれる専門家のサポートを受けて事業計画を策定した場合なども、特別利率の対象となることがあります。
新たに事業を始める方、または事業を開始しておおむね7年以内の方で、次の両方に該当する必要があります。
- 「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」に沿った会計を行う、または行う予定であること
- 事業計画書を自ら策定し、その計画について認定経営革新等支援機関から指導および助言を受けていること
- 「認定経営革新等支援機関」には、商工会・商工会議所のほか、金融機関、税理士、公認会計士、行政書士、弁護士などが含まれます。
- 専門家による客観的な視点を取り入れた、実現性の高い事業計画が求められます。
- この条件を満たすと、特別利率Aが適用されます。
参考:新規開業・スタートアップ支援資金(中小企業経営力強化関連)|日本政策金融公庫
新規開業・スタートアップ支援資金の申し込みの流れ
「新規開業・スタートアップ支援資金」の申し込み手続きは、一般的に以下の流れで進みます。
- 申し込み
日本政策金融公庫のウェブサイトからインターネットで申し込むのが手軽です。 - 面談
担当者と面談し、事業計画の詳細や経歴について説明します。通常、申し込みから1〜2週間後に行われます。 - 審査
提出した書類と面談での内容を基に審査が実施され、期間はおおむね2〜3週間ほどかかります。 - 契約
審査に通ると、融資契約の手続きを行います。 - 融資実行
契約完了後、指定の口座に資金が振り込まれます。
新規開業・スタートアップ支援資金の必要書類
「新規開業・スタートアップ支援資金」の申し込みに必要な書類は、以下の通りです。
- 創業計画書
- 履歴事項全部証明書(法人の場合)
- 見積書(設備投資がある場合)
- 許認可証の写し(許認可が必要な事業の場合)など
その他、状況に応じて追加の書類を求められることがあります。最新の情報やご自身の状況に応じた必要書類は、必ず日本政策金融公庫のウェブサイトで確認してください。
新規開業・スタートアップ支援資金の審査を通過するポイント
融資の審査では、提出された書類や面談の内容から、事業の成功可能性や返済能力が総合的に判断されます。ここでは、特に審査担当者が注目する3つのポイントを解説します。
1. 事業計画の具体性と実現性
審査で最も重視されるのが、創業計画書に描かれた事業計画です。事業の動機、商品やサービスの強み、市場分析、販売戦略、そして収支計画などを具体的に示す必要があります。夢を語るだけでなく、客観的なデータや分析に裏付けられた、実現可能な計画であることが求められます。
2. 経営者の経歴と信用情報
事業の成功は、経営者の能力や経験に大きく左右されます。そのため、審査ではこれから始める事業に関連する職務経歴や実績が確認されます。また、経営者個人の信用情報も重要な判断材料です。過去にローンの支払いで延滞などがあると、審査に影響を与える可能性があります。誠実な対応が信頼につながります。
3. 資金計画の妥当性
「何に、いくら必要なのか」という資金使途の明確さ、そして自己資金と借入金のバランスが適切であるかも審査の対象です。必要な運転資金や設備資金が正確に見積もられているか、自己資金はどのように準備したかなどを、きちんと説明できるようにしておく必要があります。どんぶり勘定ではなく、根拠のある資金計画を提示しましょう。
新規開業・スタートアップ支援資金についてよくある質問
最後に、「新規開業・スタートアップ支援資金」についてよくある質問とその回答をまとめました。
新規開業・スタートアップ支援資金は自己資金なしでも申し込めますか?
はい。制度上、自己資金なしでも申し込むことは可能です。
以前の制度には「創業資金総額の10分の1以上」といった自己資金要件がありましたが、現在は撤廃されています。そのため、優れたアイデアや技術がありながら自己資金の準備に課題を抱える方でも、申し込みは可能です。
ただし、審査において自己資金がまったく見られないわけではない点には注意が必要です。事業のために計画的に準備してきた資金は、事業に対する熱意や計画性を示す客観的な証拠として評価されます。金額の多さだけでなく、こつこつと貯めてきた姿勢そのものが、担当者の信頼を得るための材料となります。
新規開業・スタートアップ支援資金は個人事業主でも利用できますか?
はい。個人事業主の方でも問題なく利用できます。
株式会社などの法人だけでなく、これから個人事業主として開業する方や、すでに事業を始めている個人事業主の方も対象です。日本政策金融公庫の国民生活事業が、主に個人企業や小規模事業者の相談窓口となっていますので、事業の形態にかかわらず相談が可能です。
新規開業・スタートアップ支援資金の成功の可否は創業計画書で決まる
日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、創業者にとって非常に心強い制度です。自己資金要件の撤廃などにより、以前よりも制度の利用しやすさが向上しました。
融資を成功させるには、事業計画の具体性、経営者自身の信頼性、そして資金計画の妥当性が欠かせません。中でも、自身の事業への情熱とビジョンを論理的に示した創業計画書の完成度が、結果を大きく左右します。
必要であれば専門家のアドバイスも受けながら入念な準備を進め、事業の成功に向けた着実な一歩を踏み出しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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