• 更新日 : 2025年8月1日

資本金の増資とは?方法やメリット・デメリットを解説!

資本金の増資とは、資本金の額を増やすことです。資金調達方法の1つで、第三者割当増資などの方法があります。本記事では、資金調達としてそのほかにどのような方法を利用できるのかをはじめ、資本金を増やすメリットやデメリット、具体的な手続きについて紹介します。

資本金の増資とは?

増資とは、資本金を増やすことです。資本金は、自由に増やせるため、資金調達が必要なときや、会社の信用を高めたいときなどには増資を検討しましょう。

融資との違いは?

融資とは、本来はお金を貸し出すことを言います。資金調達をする事業主は「融資を受ける」側です。金融機関などから融資を受けると、負債が増えます。

貸借対照表では、融資の増加は負債の増加、増資は資本金(純資産)の増加として表示されます。

資本金を増資するメリットは?

増資をすることには、次のメリットがあります。

  • 返済不要の資金調達ができる
  • 会社の信用が高まる

それぞれどのようなメリットか説明します。

返済不要の資金調達ができる

資本金は負債ではないため、返済不要です。

例えば、株式を新たに発行して出資を募り、増資したとします。この場合、資金を借りたわけではないため返済の必要はありません。資本金を増やし、かつ、資金調達ができます。

会社の信用が高まる

資本金が多いと、取引先から信用を得やすくなります。金融機関からも信用を得やすくなるため、融資を受けやすくなります。

資本金を増資するデメリットは?

資本金を増やすことにはデメリットもあるため、注意が必要です。主なデメリットとしては、次の2つが挙げられます。

  • 法人税などの税金が増える場合がある
  • 増資の手続き費用がかかる

それぞれのデメリットについて説明します。

法人税などの税金が増える場合がある

会社設立時の資本金が1,000万円未満のときは、最大2年間消費税の申告・納税が免除されます。しかし、資本金が1,000万円以上になると、消費税の納税義務が発生します。消費税の節約を目指すなら、設立から一定期間は資本金が1,000万円以上にならないように調整しておきましょう。

法人住民税(都道府県民税、市町村税)の均等割は、資本金額などに応じて高くなります。増資をする前に、増資がどの程度の増税につながるのか計算しておきましょう。

なお、住民税の均等割などは資本金そのものではなく「資本金等の額」を元に課税されます。資本金等の額とは、資本金の額に資本準備金等の額を加えたものです。

増資の手続き費用がかかる

増資をすると、法人登記の書き換えを行わなくてはいけません。このとき、増資額×0.7%と3万円の多いほうの金額を、登録免許税として納付する必要が生じます。

登記手続きを専門家に依頼する場合は、専門家報酬も必要です。増資の手続きにかかる費用も考慮したうえで、資本金を増やすようにしましょう。

資本金を増資したほうがよいケースとは?

資本金の増資は、会社にとって自己資本を強化する有効な手段ですが、やみくもに行えば税務上の不利益や手続きの手間を招くこともあります。ここでは、資本金を増資することで事業運営や財務戦略上のメリットが得られるケースについて解説します。

金融機関や取引先からの信用力を高めたいとき

資本金は、対外的な信用力を示すひとつの目安になります。特に創業初期で資本金が100万円未満などの少額である場合、取引先や金融機関から「経営体力に不安がある」「倒産リスクがある」などと見なされることもあります。
例えば、公共事業や大手企業との取引では、資本金が○○万円以上などの条件が設定されている場合もあるため、審査時に不利になるケースもあります。

このような状況の場合、増資を行って登記簿謄本(登記事項証明書)上の資本金額を引き上げることで、資本の厚みをアピールでき、対外的な信頼感や与信枠の拡大にもつながります。

融資や補助金の審査要件を満たす必要があるとき

銀行や政府系金融機関の融資、あるいは自治体や国の補助金制度に応募する際、「資本金〇〇万円以上であること」といった応募条件が設けられているケースがあります。特にスタートアップ向け支援や研究開発型補助金などでは、一定の財務基盤を条件とする制度が多く、増資によって応募資格が得られる場合もあります。

また、増資によって自己資本比率の改善を図ることで、金融機関からの融資審査が通りやすくなったり、借入利率が下がったりするなどの副次的効果も期待できます。

事業拡大や新規投資のために資金を調達したいとき

第三者割当増資*などによって外部から出資を受ける場合、増資はそのまま会社の資本金と資本準備金になり、返済義務のない自己資本として計上されます。これは、将来の売上増加や資産取得、新規事業への参入などにあたって、借入ではなく「純資産」で事業基盤を拡張できる点で大きなメリットです。

*既存株主以外の「第三者」に新株を割り当てる増資のこと

例えば、スタートアップがベンチャーキャピタル(VC)からの出資を受ける際には、資本金の増加を伴うことが多く、株主構成と引き換えに資金調達を実現することになります。資本政策とのバランスを取りつつ、適切なタイミングで増資を実行することが、成長戦略において鍵となります。

消費税の免税制度の適用を終える意図があるとき

資本金1,000万円未満の会社は、原則として設立後2年間は消費税の免税事業者として扱われます。しかし、資本金を1,000万円以上に増資した場合、増資した翌年度以降の事業年度から消費税の課税事業者になります。このため仕入控除の適用や大企業との取引条件の適合がしやすくなる場合もあります。

免税の恩恵よりも「課税事業者としての正当性」や「インボイスの発行」が重視される取引関係では、資本金の引き上げが信頼性の向上に直結する場面もあるため、目的に応じた判断が必要です。

資本金を増資する方法は?

増資をするという点も重要ですが、どのように増資をするかという点も重要です。増資の主な方法としては、次のものが挙げられます。

それぞれの方法の特徴や手順を説明します。

第三者割当増資

第三者割当増資とは、特定の第三者に株式を発行し、その対価として出資を受ける方法です。一般的には取引先や取引金融機関、役員などが第三者にあたります。

第三者割当増資は、次の手順で実施します。

  1. 株主募集条件を決める
  2. 株主総会・取締役会で募集事項の決定・通知
  3. 株式の申し込みを受ける
  4. 株式の割当に関する決議を取る
  5. 出資の受け入れ

第三者割当増資は、会社側が出資者を指定できる点が特徴です。例えば、偏りなく株式を発行することで、特定の取引先や役員などが会社に対して発言権を持ちすぎないように調整できます。計画的に増資をしたいときなどに、第三者割当増資を検討しましょう。

公募増資

公募増資とは、不特定多数の投資家に対して新株を発行し、資金を調達する方法です。証券会社を通じて出資を募るため、非上場企業は利用できません。

公募増資は、次の手順で実施します。

  1. 株主総会・取締役会で増資の決議を取る
  2. 有価証券届出書の作成・提出
  3. 公募条件の決定・公表
  4. 出資の受け入れ

公募増資では割安な価格に株価を設定するため、広く出資者を募ることが可能です。

株主割当増資

株主割当増資とは、既存株主に対して、持ち株比率に応じて新株を発行し、出資を受ける方法です。出資割合が変わらないため、支配関係に変化が起こらないという特徴があります。

株主割当増資は、次の手順で実施します。

  1. 株主総会・取締役会で募集株式の内容決定
  2. 募集株式と株主総会を通知する
  3. 株主から出資申し込みを受ける
  4. 出資の受け入れ

ただし株主が多い場合、すべての株主から出資の同意を得られない可能性があります。その場合は、出資割合が変わったり、増資自体が実現できなくなったりすることがあります。

利益を組み入れる(無償増資)

過去に蓄積した利益を資本金に振り替える方法でも、増資を実現できます。株式を発行せずに増資できるため、手順もシンプルです。

  1. 株主総会で利益の資本組み入れの決議を取る
  2. 利益から資本金への振り替え

資本金の増資を活用できる場面とは?

資本金の増資は単なる資金調達手段ではなく、経営目的や資本政策に応じて多様な活用が可能です。ここでは、実務上よく見られる3つの増資ケースを解説します。

新規設備投資・開発費用

事業拡大や生産性向上、新サービス開発にあたっては、多額の初期投資が必要となる場合があります。このようなケースでは、金融機関からの借入ではなく、自己資本で調達することが望ましいと判断されることもあります。
特にIT開発、製造業、医療・福祉施設などでは、設備機器やシステム構築に1,000万円単位の資金がかかることも珍しくありません。

この場合、既存株主からの出資や新株発行によって資本金を増やすことで、財務基盤を強化しながら安定した資金を確保できます。借入金に比べて返済義務がないため、将来のキャッシュフローへの負担を抑え、健全な資本構成で投資判断ができるのがメリットです。

設備投資資金を増資で調達することは、安定した資金調達としてよく活用されますが、資本金が1,000万円以上になった場合(消費税等)と1億円を超えた場合(法人税、住民税、事業税、外形標準課税等)には課税上の変化があるので注意しましょう。

資本提携やベンチャー支援

スタートアップ企業や成長中の中小企業が、外部の企業や投資家と資本関係を築くために行うのが、第三者割当増資です。これは、特定の投資家や取引先に対して新株を発行し、出資を受ける方法です。単に資金を得るだけでなく、出資者の持つ経営資源(人材・ノウハウ・ネットワーク)を活用できる点が大きな利点です。

ベンチャーキャピタル(VC)や事業会社との提携では、増資と同時に業務提携や役員派遣などがセットで行われることがあり、成長加速のきっかけとなることもあります。ただし、株主構成の変化によって経営権に影響が出ることもあるため、慎重な検討が必要です。

資本構成調整

企業が長年にわたり内部留保を蓄積してきた場合、その一部を資本金に振り替える「無償増資」という方法も検討されます。無償増資は、実際に外部からの資金流入は伴いませんが、純資産内での資本項目の付け替えにより、形式的に資本金を増やすことができます。

この方法は、対外的な信用力の強化や自己資本比率の改善などの目的で利用されます。株主構成や資金負担が変わらないため、スムーズに実施しやすい点がメリットです。ただし、登記手続きや官報公告など、形式的な処理は必要になるため、事前準備が重要です。

資本金を増資する手続きは?

会社が資本金を増加させるには、会社法に基づいた適切な手続きが必要です。手続きには会社内部での決議から登記申請まで、複数の段階があります。「誰に対して」「どのような形で」新株を発行するかによって手続きの内容が変わるため、事前に流れを把握しておくことが重要です。

ここでは、一般的な「有償増資(第三者割当・株主割当など)」を例に、手続きの基本的な流れを解説します。

1. 増資の基本事項を決定する

まずは、増資の目的・金額・割当方法(誰に新株を発行するか)を明確にします。例えば、事業拡大に伴う資金調達、資本提携を目的とする第三者割当、あるいは既存株主への割当など、目的に応じてスキームを設計します。この段階で、発行する株式数・払込金額・払込期日などを確定させます。

2. 株主総会または取締役会の決議

株式の発行は、会社の設立形態や定款の定め等によって、決定機関が異なります。原則として株主総会の特別決議が必要ですが、定款にその旨の定めがある場合や、取締役会設置会社であれば、一定の範囲内で取締役会決議のみで実行可能なケースもあります。また、発行可能株式総数の制限もありますし、特に有利発行の場合は、公開会社でも株主総会の特別決議が必要となります。増資内容が株主の利益に大きな影響を与える場合は、慎重に手続きを行う必要があります。

3. 払込の実施と証明資料の取得

決議内容に基づき、出資の希望者に募集事項を通知します。新株引受人は、定められた払込期日までに会社指定の口座に資金を振り込みます。会社側では、通帳のコピーや金融機関発行の払込証明書をもとに、払込が完了したことを証明する書類を準備します。払込金額のうち、資本金と資本準備金への振分けも適切に行います。

4. 登記申請

払込が完了したら、原則として2週間以内に法務局で登記申請を行う必要があります。申請書には、増資を証明するための添付書類(払込証明書、株主総会議事録、取締役会議事録、新株発行の引受契約書など)を添えて提出します。また、登録免許税は、増加した資本金の額に0.7%を乗じた金額(最低3万円)です。

5. 関係官庁への届出

登記が完了したら、税務署・都道府県税事務所・市区町村役場に対して資本金増加の届出を行います。法人住民税の均等割や消費税の課税事業者判定などに影響が出る可能性があるため、正確な金額と日付で届出することが重要です。

増資の手続きにかかる費用は?

増資」には、実際の出資金額以外にも各種手続きに関わる費用が発生します。代表的な費用項目は以下のとおりです。

まず、必ず発生するのが登録免許税です。これは、資本金の増加額に対して0.7%を乗じた金額が課税されます。ただし、最低税額は3万円と定められているため、例えば増資額が100万円の場合は3万円、1,000万円の増資であれば7万円が課税されます。

次に、専門家への報酬が発生します。登記手続きは司法書士、税務的な処理や資本振替については税理士が関与するケースが多く、それぞれの報酬としてスポットでは5万程度を見込むのが一般的です。第三者割当など複雑なスキームを採用する場合は、さらに高額になることもあります。加えて、発行可能株式総数の変更が必要なケースもよくあり、登記と同程度の費用がかかります。

また、増資後の届出書類作成にあたり、印紙代(定款変更が伴う場合)や公証人費用がかかる場合もありますが、これは発行内容や会社形態によって異なります。

全体として、増資手続きには登録免許税+専門家報酬を合わせて5万〜20万円前後がかかるのが一般的な目安です。費用対効果を意識しつつ、増資目的に適した方法を選ぶことが大切です。

資本金を増資した後に必要な手続きは?

増資の手続きを行い、法務局で株式会社変更登記を実施した後、株主資本等変動計算書を作成します。株主資本等変動計算書とは、特定の事業年度における純資産の変動を明らかにするための書類です。増資により、純資産が増えたことを記載しておきます。同時に、新たに株主となった者や株数などを株主名簿に記載します。

株主資本等変動計算書を作成する

株主資本等変動計算書は、株主資本がどのように変動しているかを示す書類です。資本金と資本余剰金、利益余剰金に分けて記載します。

ただし、増資にあたって新株予約権の発行・取得・失効等があった場合には、新株予約権の欄にも記載が必要です。

  • 資本金:株主から受けた出資金
  • 新株予約権:一定の条件で株式を取得する権利
  • 資本余剰金:株主から受けた出資金のうち、資本金として計上していない資金
  • 利益余剰金:利益の累積によって生まれた資金

利益余剰金は「利益準備金」と「その他の利益余剰金」で構成されます。「その他の利益余剰金」は、「任意積立金」と「繰越利益剰余金」に分けることが可能です。

なお、株主資本等変動計算書は、英語では「Statements of Shareholders’ Equity」と記載します。そのため「S/S」と表記したり、「エスエス」と読んだりすることもあります。

メリット・デメリットを把握し計画的に増資をしよう

増資には信用度が高まるなどのメリットがありますが、税金が増える可能性があるだけでなく、手続きに手間がかかる点を理解しておくことが必要です。

メリットが多いと思われるときは、適切な方法を選び、計画的に増資を実施していきましょう。また増資後は速やかに株主資本等変動計算書を作成することも、大切なポイントです。

よくある質問

資本金の増資とは?

資本金を増やすことを指します。資本金が増えると取引先や金融機関から信用を得やすくなります。また、資金調達方法の1つとして、増資を行うこともあります。詳しくはこちらをご覧ください。

増資にはどのような方法がある?

株式を発行する方法としては、第三者割当増資や公募増資、株主割当増資があります。また、株式を発行しない方法としては、利益を資本金に組み入れる方法があります。詳しくはこちらをご覧ください。


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